「コートールド美術館展 魅惑の印象派 」 2019年9月~  フォリー・ベルジェールのバー

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実業家サミュエル・コートールドが収集したコレクションを核に1932年ロンドンに設立されたコートールド美術館。
美術史や保存修復において世界有数の研究機関であるコートールド美術研究所の展示施設です。
コートールド美術館の改装工事に合わせて、印象派・ポスト印象派の逸品が来日しました。

さて、マネ、最晩年の傑作「フォリー・ベルジェールのバー」
フォリー・ベルジェールとはパリにあるミュージックホール(4,5,6の画像)
パリ黄金時代といわれる1890年代から1920年代には絶大な人気を誇りました。
内容は歌劇やパントマイムから始まり、次第にサーカスやカンガルーのボクシングなど過激なショーが行われるようになり、1895年には日本の大道芸の公演も行っていたそうです。
マネが元気だった頃、足しげく通っていた場所でもありました。
ホール内にはバーも併設されており、マネはこのバーを描いた。

病気療養中だったマネは手足のマヒや痛みに苦しむ状況で、現地でデッサンした後は家を出ることができず、アトリエにバーカウンターを造り、
フォリー・ベルジェールのバーメイドの「シュゾン」をアトリエへ呼んで描かいた。
シュゾンは流行の黒色のドレスとチョーカーを身に付けている。

この絵を見ていると、背景が消え女性の表情に意識が集中していく。
騒々しい場面にも関わらず音は消え失せ、静寂の中で虚ろなシュゾンの表情だけが印象に残り、ひときわ存在感を放つ。
バーの背後は大きな鏡で、フォリー・ベルジェールの広さが伺えます。
ひげを生やした男性と話をしているシュゾンの目は上の空といった様子。
しかし、この絵画の背景をじっくりとみていくと、なんとなくモノや人の配置に違和感を覚える。
正面に描かれたシュゾンが鏡の右に寄っていたり、遠近感がいびつに感じる。
鏡の男性は普通ならシュゾンのほぼ後ろに来るのでは?とか、
作品の大部分は、鏡の中の世界。
さまざまな解釈を呼び起こしてきた鏡像のずれ、
現実を描いているようで、現実ではない、鏡を使ったトリック的な絵。
(最後の画像が配置を説明している図)
マネはさまざまな要素を卓越した技術でひとつの画面に収めた。
1882年に描かれた彼の最晩年の傑作で、翌年マネは51歳で亡くなります。

フォリー・ベルジェールは上記で紹介したとおりミュージックホールでした。
しかしながらフォリー・ベルジェールのバーは単なるバーではなく、売春婦を買うことのできる場所としても有名でした。

急激な経済発展を遂げた1860年代のフランスでは、その代償として経済格差が広がっていた。
当時のフランス女性は、結婚するか娼婦になるか安い給料でお針子をするかしか道がなく、多くの女性が娼婦に流れ、バーメイドも「酒と性の売り子」と呼ばれ、
バーで働きながら売春婦としても生きていたとか・・・・
賑やかなミュージックホールのバーメイドのアンニュイな表情は、
輝かしい経済発展の裏に隠された当時のパリの陰を映しているのか。

ちなみにフォリー・ベルジェールは時代と共に変化はあるものの現在も当時と同じ場所で営業してる(7枚目の画像)

東京都美術館「コートールド美術館展 魅惑の印象派」より「フォリー・ベルジェールのバー」

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