原点のファッションがあるから、素材や違いをより楽しめる。クラシッククロージングを語る【鼎談 番外編】

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写真/日下部美沙
取材・文/ミューゼオスクエア編集部

春夏のクラシッククロージングについて語る鼎談・番外編。

集まったのは、過去から現在までのクラシッククロージングを知り尽くす服飾ジャーナリストのおふたり、飯野高広さんと倉野路凡さん、何よりもあらゆる素材を愛するミューゼオスクエア編集長の成松です。

前後編と2記事にわたりお届けしてきた当企画ですが、まだまだ記事に入れられなかった熱いトークがあります。

今回は番外編(雑談編?)として、3人のファッションのルーツや当時のセレクトショップでの思い出などをお届けします。ぜひ後編の最後から続けてお読みください!

突き詰めるか、離れるか。今、ファッションは二分化する

鼎談後編の最後は、コロナ禍で仕事と住が接近したことで「遊ぶ」ことがきちんとしたイベントになり、オンオフがこれまでと逆転するのではないかというお話でした。そこからファッションが好きな人はとことんこだわり、「オーダー(=仕立てた服)は周回遅れでも最先端になる」という飯野さんのトークで締めくくりましたが、実は続きがありました。

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(成松)某ファストファッションブランドによって、「おしゃれしなければいけない」という脅迫から解き放たれたと思っています。そこから逆に、おしゃれしたい人だけは突っ走るようになったのかもしれませんね。
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(飯野さん)同ブランドの服は、道具としてすごくよくできていると思います。選び方次第ですね。
メンズでセレクトショップを引っ張っていた世代が、第一線から退いていますよね。グループA(天然素材)やグループB(人工素材)をわかったり楽しめたりする世代がいなくなってきています。

※「グループAやグループB」については、前編をご覧ください。

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(倉野さん)下の世代と捉え方が異なってきていますよね。例えば、Ralph Lauren(ラルフローレン)を考えてみると、僕や飯野さんだとニューヨークトラッドの方が強いけど、彼らはサンタ・フェのようなイメージかもしれません。アメリカの捉え方も違うのでしょうね。
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それはそれで良いと思いますが、素材やディテールに深く突っ込んでいく人が段々限られてきていると思います。
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飯野さんが(後編で)おっしゃっていた「スーツはこれから教養になる」ということが正しいのかなと思いますね。
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ファッションについて深く聞ける人がいなくなった……。質問しても応えてくれる人が飯野さんくらいしかいなくなってしまいました(笑)。
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一方で、ちょうど世代的に今の20代の一部の人たちにとっては、そういうスーツやその周辺に関連した「様式美」とか「教養性」とかを、とても新鮮に感じているようです。
ネットフリックスで見られる英国BBCの人気ドラマ『ピーキー・ブラインダーズ』の影響なのか、30年振りくらいにサーティーズとかトゥウェンティーズ、つまり20世紀初期から前半的な着こなしもコアな層で盛り上がっています。

でも、彼らはどこからスタートするかというと、もう服とは限らないんですよ。例えば東京では、代々木上原にある富士東洋理髪店などが、彼らがよく行く場所として定着し始めていて、店主の阿部さんの所に行くと今までの自分とは違う身なりに気付けて、そこから服「も」面白いとなっていく。髪がさっぱりしたから次に服はどうする?もしくは服を整えたけど、髪はどうする?となって彼の所に行くんです。そういうカルチャーができあがっていて面白いんです。

富士東洋理髪店 阿部高大さんの記事▶︎紳士服の黄金期到来。30s Styleが紳士を魅了する理由

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ネットフリックスが根となって枝葉を伸ばしていくなんて、いかにも今の感覚ですよね。
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そうなんです。実際阿部さんは、タイルのような戦前の日本の理容店の内装材とか、当時の西洋建築の様式とか、お店を作る際に徹底的に調べ上げたんです。高麗橋の野村ビルとか堺筋の生駒ビルとか、当時の美しい建物が東京よりまだ現役で残っている大阪に実際に足を運んで丹念にリサーチもしています。
そんな空間で髪を整えてもらうのですから、もはや「ファッション」ではなくて、教養性も多分に有した「カルチャー」なんです。
アカデミックアプローチ的な深堀りをそこで自然と会得できた鋭敏な彼らが、ファッションやブランド「だけ」しか浅く追うことしかできない旧来の層を、あっという間に、もはや追い付けない位置にまで抜き去ってしまっているのです。
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(呆然……)美容室にしか行ってない人って、シェービングの経験もないんじゃないかな。
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大昔は髭剃りの刃を革で砥いでいたのですが、実はその革はコードヴァンなんですよ。そういう昔のやり方が新しく見えて楽しくなってきて、とことん楽しもうという層がこれから出てくるんだろうなと思います。
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それがまたクラシックの面白さになってきてるのかもしれないですね。
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着る人によって服も靴も変わりますもんね。最先端のファッションも面白いけど、一方で今まで持っていたものはなんだっけ?と、そこから新しい使い方ができてくると楽しいと思います。

寄り道したり一周まわったりを楽しめるのは、原点のファッションがあるから

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倉野さんはここ最近「どんな服が着たい」というのはありますか?
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スーツが着たいですね。毎日の筋トレで筋肉が増えたのですが、合うサイズの服がないのでお金があれば全部ビスポークしたいです(笑)。筋肉が増減していくなかで、縫い代分を残せるのはビスポークだけなので。でもビスポークするなら、体が完成してからの方が良いですよね。
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倉野さんに初めてお会いした時、胸回りは私と同じくらいか少し大きい程度でしたよね。今はラガーマン体型!
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筋トレをしていたら止まらなくなり、こうなっていました(笑)。
実は靴も少しきつくなり体に合うものが減ってきて、腕時計やアクセサリーの小物類にしか興味がなくなっていました。
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ビスポークスーツが着たいということは、今また興味が服に戻ってきたのですか?
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1年前の引っ越しで服を大量に捨てたんです。その時に「これだけは救い出さなきゃ!」というものが、僕の中の一番大切なものでした。Church’s(チャーチ)の靴やSAINT JAMES(セントジェームス)の服は、全て救い出しました。これが僕の中のソウルなんだなと感じましたね。アンティークものや万年筆も持ってきました。
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一番手放したくないものだなということですね。
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究極の選択をしたんだよね。引っ越しをしたことで、一度リセットになったんだと思います。
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そういうのあるんですか?
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倉野路凡さんの春夏コーディネート。服についてのトークは、前編へ。

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原点に一度戻るんだと思います。僕の場合はニューヨークトラッドが原点なので、今回持ってきたような靴下が黄色や緑色というのは1980年代初頭のニューヨークトラッドで、アラン・フラッサーとラルフローレンがやっていたんですよ。
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出ると思った(笑)!
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1980年代半ばからCOLLECTORS(コレクターズ)というセレクトショップがあって、ハリソンとブルックリンの靴下を売っていました。ブルックリンは現在のブルックリンミュージアムで、創設者の草ヶ谷和久さんが黄色やエメラルドグリーンの靴下を一生懸命作っていたんです。それを買ってアラン・フラッサーやラルフローレンの着こなしを真似していましたね。

ちなみに初めて買った海外の腕時計はタグ・ホイヤーのフォーミュラ 1で、それもコレクターズで買いました。
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私も実はクロノグラフを持っているんですよ。あの頃のクロノグラフは黒、赤、紺の文字盤があって、紺文字盤を買いました。
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買っているだろうなと思いました(笑)。
タグ・ホイヤーにセントジェームス、リーバイスの(一番最初に復刻した)503にシェットランドフォックスのホワイトバックスを合わせてよく海に行っていたのを思い出します(笑)。

あとは、ザクザク感が自分の中で懐かしくて、もう一度オックスフォードを着るようになりましたね。
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ここ何年か、倉野さんの服装はどちらかと言うとオックスフォードというよりは軽い感じでしたよね。
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久しぶりにJW ANDERSON(JW アンダーソン)のオックスフォードシャツを見たら「やっぱりオックスだな」と思いましたね。
当時、シャツは素肌に着るものだと言われていましたよね。ハイテクなアンダーシャツがなかったのもあるけど、ブロードクロスを素肌に着て汗をかいたら気持ち悪かったんです。そういうところでオックスは良いなという記憶が残っていました。
ブルックスブラザーズは雲の上の存在で買えなかった(サイズ表記もわかりづらい……)ので、ずっとJ.PRESS(Jプレス)のオックスばかり買っていましたね。なので、Jプレスには詳しいですよ(笑)。
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ボタンダウンの左胸ポケットにフラップが付いていないと嫌な人だったんですね(笑)。
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そっちで覚えているし、ブルックスブラザーズと比べると買いやすい値段だったので。
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気持ち程度で、そんなに差はなかった記憶がありますよ。
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僕は神保町にあったMAINE(メイン)というセレクトショップで、ブルックスブラザーズの工場をやっていたというファクトリーブランドのボタンダウンを着ていました(笑)。
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BAGGY(バギー)ですね。メインはちょうど私たちが大学生くらいにできたお店ですよね。
成松さんは何かありますか?そういうデジャヴのような。
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色々ありますが、その一つはダーティバックスやコンビシューズですね。当時は惹かれていたのに履きたくても履けなかったというか、年齢や雰囲気的に履けないかなと思っていたので。
最近やけにクラシカルなマウンテンパーカーに目が行くのですが、それもデジャヴに近いかも。
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やっぱりあるんですね。
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原点というか、憧れを持っていた時代の物に戻ってみたくなるという感覚はわかります。
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ブランドに戻るのではなく、素材に戻っている感じですかね。ブランドよりも素材か、自分の好きなものを作りたい(オーダー)という方向にいっていますね。
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見るものを見てきてしまった人にとって、ある程度の年齢になると自分が若かった頃のブランドと今のブランドは正直違うという思いがありますよね。
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比較してしまいますよね。
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それが良い悪いは置いといて、帰巣本能のような「あれを再現するにはどうしたら良いんだろう」となってしまう。ブランドではなくて、そのものを知っているから、「あのテイストで、できればフルビスポークが理想だけど、パターンオーダーでもイージーオーダーでもいいから仕立てた方が良い」となってしまうのでしょうね。ブランドから良い意味で卒業できるけど、確かに素材には帰ってきますね。

秋冬系になってしまいますが、例えば紺のブレザーのフランネル生地は、秋冬モノなら軽くても12オンス(1m辺り約360g前後)はあってほしい、9オンスない程度の薄くて弱々しい横単糸のスーパーXX系生地を使って秋冬モノなんて言ってくれるな、みたいな。
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そうですね(笑)。
今は特にモヘア混紡のウールパンツを履きたいなと思いますね。1983年頃にkey west(キーウエスト)のモヘア混のパンツを持っていて、うぐいす色のパンツもあったんですよ。それをもう一度、今の年齢で体験したいという気持ちはありますね。
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それってあるかもしれないです。

アウトドアから知った最先端と伝統的な素材のそれぞれの良さ

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ここ最近、スーツは本当に着なくなりましたけど、いまだに仕事の時はジャケットを着るようにはしていますね。みんなが着ていないから逆に目立って良いというか。
洋服というのは面白くて、他の人と一緒のものを示すことと、違うものを示すことを同時に並存させるものですよね。僕自身、他の人とあえて変えているという意味では、上半身に旧素材、足元に革靴を持ってきつつも、あまり原理主義になるのも嫌なので、パンツはストレッチ素材でという日もあります。
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成松さんの原点は何でしょうか?
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僕は資格試験と格闘している時、神保町に行く事が多く、その間の楽しみといえば先ほど話に出たメインと以前話にも出たミマツ靴店平和堂靴店に寄ることだけでした。学生時代はアウトドアで活動することが多かったのでファッションもアウトドア的なテイストで、都会的なファッションに本格的に触れ出したのはこの頃が最初かもしれませんね。
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山登りをしていると必然的に機能性に目覚めませんか?
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そうですね。GORE-TEX(ゴアテックス)が出てきた時代でもあったので。
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ちょうど中高生あたりはゴアの人気が出てきたり、アタックザックにコーデュラナイロンが加わったりした時でしたね。今のリュックサックのメーカーで言うとMillet(ミレー)、karrimor(カリマー)、KELTY(ケルティ)、JanSport(ジャンスポーツ)など、今は普通におしゃれな、いわゆるリュックサックブランドになっているけど、当時は本気で山登りする人か本気でバックパッカーをする人、プロではないけど好きな人御用達のザックでした。
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成松淳の春夏コーディネート。服についてのトークは、前編へ。

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アウトドアから入っているからか、着崩すことにあまり違和感がないのかもしれません。2人みたいにトラッドから入っていなくて、最初からメインで買ったチノパンに上はストレッチ素材を合わせていましたね。そんなにそこの型がないというか。
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だから逆に素材にうるさくなるんですよ。
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そうですね(笑)。
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僕も海よりは山に登る人だったので分かります。スポーツをやっていると「これはいつまでに乾いて欲しい」「破けないで欲しい」というのが絶対にありますもんね。コーデュラナイロンが出たのがちょうどの世代でしたが、綿のような肌触りだけどナイロンで強い生地でした。
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60/40クロスもそうですね。革製の登山靴とナイロン製のシューズが同時に生き残っていたけど、その時の経験では、革の方がきちんと手入れしている前提であれば、長期間見てみると強いという印象があるんですよね。最近の製品がどうなのかはわかりませんが。
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当時は何を履いていましたか?
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高田馬場にあるカモシカスポーツのオリジナルを使っていました。夏山で10日間くらいの縦走をすることもあったので、割と本格的な重いものを履いていましたね。軽登山靴だと、僕らのような登り方では下手したら一回登ったらダメになってしまうんですよ。1週間、水に浸かりっぱなしになることもあるので。
そんな意味でも、また復活できる革への信頼があるのでしょうね。
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軽登山靴ではなく、本当にがちっとした靴だったのですね。
成松さんはそういう経験があるから、最先端のものと伝統的なものの両方の良さが分かるんですよ。すごく納得しました。
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ありがとうございます。

当時の靴屋とセレクトショップを振り返る

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原点を振り返ると、なんとなく共通するところは素材ですよね。
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素材感ですね。
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以前、鴨志田康人さん(ユナイテッドアローズの創業メンバーの1人)を取材した際、1980年代初頭にグローブレザーが出てきたときに、すごく抵抗があったと言っていました。
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例えば、COLE HAAN(コールハーン)などで使われていたようなものですか?
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そうですね。プレッピーブームのときにグローブレザーのコールハーンがファッション雑誌によく載っていました。G.H.BASS(ジョージ・ヘンリー・バス)やBOSTONIAN(ボストニアン)で育った昔ながらの本格的なアイビー世代には、コールハーンは受け入れられなかったんだと思います。

僕は1979年~1980年に流行ったプレッピー世代なので、素直にコールハーンはカッコいいなあと。値段も高かったので憧れでした(笑)。
飯野さんはどうですか?
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私の靴のスタートはREGAL(リーガル)なので、極端に言うとコールハーンなどの真似も多かったですよね。「こういうアッパーの素材もあるんだ」とリーガルの靴で知りました。
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ウディ・アレンが流行った時に、結構グローブレザーのローファーが出てきましたよね。それで知ったのもありますか?
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それもそうですけど、「グローブレザーはこういう革なんだ」と知ったのは、やっぱりリーガルの靴やカタログですね。
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カタログを買っていましたもんね。
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そこから「普通の革とどこが違うんだろう?」「グローブレザーとオイルドレザーの違いは何だろう?」となりました。
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モカシンタイプのデッキシューズもグローブレザーですか?
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あれは厳密には少し違うと思います。
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Timberland(ティンバーランド)が流行りましたよね。
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昨年、復刻されたデッキモカシンのティンバーを買いましたよ。
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ティンバーはオイルドレザーとグローブレザー、両方使っていました。当時有名だった3アイレットの「50003」「50009」はオイルドレザー、4アイレットで底面がフラットなキャンプモカシン(キャンプ場で履く靴)はグローブレザーでした。多分、ヘビーユースを考えているものに関してはオイルドレザーだったのでしょうね。
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なるほどね。
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すごく流行りましたよね。
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1980年代後半から1990年代、我々が大学生くらいの頃ですよね。
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みんなティンバーランドを履いていましたね。当時はデッキモカシンに紺ブレを着て、デニムを履くのが定番でした。その頃ティンバーランドのデッキモカシン、コールハーンなどのローファーが流行っていた気がします。
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そういうのが確かに店頭に多く並んでいましたね。私が実際に買ったのはミマツ靴店でした。
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僕もミマツ靴店で買いました(笑)。
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神保町駅のすぐ近くにある普通の街の靴屋さんだけど、奥に入れば奥に入るほどマニアックなゾーンが広がる不思議なお店ですね。
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ダナーの靴も結構置いてあったので、よく買っていました。店頭にはアウトドアシューズが並んでいて、奥に行くとローファーなどが並んでいましたよね。
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Quoddy(クオッディ)がありませんでした?
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置いてありましたね。ダナーやティンバーランド、僕もほとんど同じ頃にそこに買いに行っていたので、ハッキリ覚えています。
ただ、ミマツの店員さんがいつも店頭で履いていたのは、クラークスのネイチャーベルトやダナーのチャッカのような、ちょっとカジュアルでアウトドアテイストも入っていた靴の割合が高かった記憶が……なおかつ、どこかのセレクトではないというのもミソでした。
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そういうところでいくと、テイメンはセレクトショップだけど、セレクトの仕方が少し違うんですよね。ころころ変わらないというか。
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大人だった。
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僕らは「教えてもらう」という立場でしたね。
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学生時代、今ほど全国チェーン展開ではなかったですが、他の大手のセレクトショップについては「自分が服を通じて表現したいものは、これではない」という感覚がありましたね。引っかかるものがあって行くけど、自分が欲しいものはこれではないと思ってしまうんですよね。
ちょうどその頃にNew & Lingwood(ニュー&リングウッド)、Poulsen Skone(ポールセンスコーン)の靴がBEAMS(ビームス)で売っていて、やがてそれがエドワードグリーン製だということを知るのですが、「良いけど、違うなぁ」となっていました。不思議でしたね。
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SHIPS(シップス)は良かったですよね。置いてあるものがアメリカ色が強いから少しほっとしたのかもしれないです。
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元々シップスはアメ横起源ですもんね。
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土臭さが残っているのかもしれない。
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最初の名前も「ミウラ&サンズ」という、直輸入感の高いネーミングでしたし、確かに当時のBEAMS以上に「憧れ」のイメージが強かったかな?
ただ、個人的には学生の頃から海外のお店のメールオーダーなどを経験していたこともあって、大手のセレクトショップに関しては「これは僕に選ばせてください」と言うのか、今から思うととても高飛車な姿勢で申し訳ないのですが、自らがその種のセレクトショップをセレクトした上で「現地の実際とのズレ」みたいなものを常に比較文化しながら覗いていた気がします。

素材の話だと、当時は良い面も悪い面も含めて素材をちゃんと教えてくれるお店がありましたよね。先程のフランネルではありませんが、生地も春夏、秋冬向けの生地を教えてくれました。

色々な服に袖を通すのも面白い。でも「50歳を過ぎたら帰っておいで」

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飯野さんの原点は何ですか?
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私が本格的にこういう感じの恰好に突入したのは大学に入ってからです。男声合唱団に入っていたのですが、ステージ上できちんとした恰好をするというのを叩き込まれるんですよ。それが嫌だというより、面白いなと感じました。それから「やるんだったらやりきっちゃおう!」という思いから入り込んでいきましたね。
ちょうどその頃、ブルックスブラザーズやテイメンはもちろん、原宿のCREW'S(クルーズ)という小さなメンズショップにも行っていました。
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ありましたねー。
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僕の頃は店長の萬里小路(までのこうじ)さんに接客していただくことはなかったのですが、当時30歳くらいの女性がよく店頭に立たれていて、その方と馬が合ったんですよ。
重衣料は買わなかったけど、就活の時のネクタイや小物をいくつか買っていて、その時に「20歳そこそこくらいでトラッドに目覚めたことはとても良いことだと思うけど、別にそれでずっと突っ走る必要はなくて、30、40代で色々な服に袖を通すともっと面白いと思う。だけど50歳を過ぎたらまた帰っておいで」と言われて。
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良いことおっしゃいますね。僕はその後、自宅近辺に萬里小路さんが出されたテーラーで何度か知らずに服を作っていただきました。懐かしい思い出です。
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飯野高広さんの春夏コーディネート。服についてのトークは、前編へ。

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私は結局、根本的な浮気はできず、オーダーとヴィンテージに移行して、上のVAN・KENT絶対信仰世代からもクラシコイタリア移行組とも、それに2ndとかを愛読している層からも孤立した、正に英米ダメトラ沼ズブズブになってしまいました(笑)。
でも、その一言は今でも覚えていて、先ほどの素材に帰ってくるという話になった時に「これってそういうことなのかな」と思いました。全く同じように帰ってくるわけではなくて、別のサイドからまた帰ってくる感覚なのかなと思いました。
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それぞれの原点があって面白いですね。

皆さん、ありがとうございました。

3記事に渡ってお届けした鼎談企画、いかがでしたか?来年の春夏は、「この素材はどんな特徴があるんだろう?」「自分のファッションの原点はなんだろう?」なんて考えながら、服を選んだり仕立てたりするのも楽しいかもしれませんね。


ーおわりー

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公開日:2021年8月31日

更新日:2022年5月2日

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ミューゼオ・スクエア編集部

モノが大好きなミューゼオ・スクエア編集部。革靴を300足所有する編集長を筆頭に、それぞれがモノへのこだわりを強く持っています。趣味の扉を開ける足がかりとなる初級者向けの記事から、「誰が読むの?」というようなマニアックな記事まで。好奇心をもとに、モノが持つ魅力を余すところなく伝えられるような記事を作成していきます。

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