革カバンならオーダーかなあ
成松
これまで愛用してきたカバンを見つつ、「選ぶポイント」についてお話を伺ってきました。今回は現行品で仕事鞄を選ぶならどこのブランドを選択するか聞いていきます。
まずは倉野さん、いかがですか?
飯野
わかります。レディースのカバンもきれいですよね。
倉野
レディースがきれいなブランドはメンズもきれいに仕上げるんですよ。
ロエベ(Loewe)もそうだけど。デルボーはエンべロップの頃のロエベを彷彿とさせてくれるんです。ただ、三十何万するから、そこまでお金出せるんだったら
ORTUSの小松くんに作ってもらうかな。
成松
買うというよりは作ってもらう方向なんですね。
倉野
市場にないから。
成松
面白いですね。靴だと既製品には既製品のよさがあったり、オーダー品の方が絶対にいいとは言えない場合はありますよね。
倉野
そうですね。小松くんに革のチョイスからやってもらって、小松イズムを注ぎ込んでもらうのがいいかな。どちらにしても40万とかの世界だから、同じお金使うなら僕はどうやって理想のカバンを作るかで悩みたい。
小松くんの師匠に当たる
藤井鞄の藤井さんは箱物をきちっと作る方というイメージがあるんです。藤井さんも素晴らしいんだけど、あえて美意識という言葉を使うと、美意識が通じ合うのは小松くんかな。
成松
確かに藤井さんは箱物の人ですね。
飯野
アタッシェやダレス、ダレスの変化球のグラッドストーンとかフレームがしっかり入っているカバンは藤井さんにお願いしたい。だけど、かぶせだったら僕も小松さん。
素材は言わずと知れたブライドルです。ブライドルで3
気室にして、錠前はできれば
ロイドフットウェアの鞄と同じ懐中時計みたいな形のヤツで作ってもらいたい。もし今「100万円使って良いよ、ただカバンだけね」って言われたら小松さんに黒と茶色で作ってもらう。
飯野さん所有のロイドフットウェアの鞄
成松
ははは。
倉野
カッコいいんだよね。今はアシスタントがいるけど、本当に休憩時間は死んでいるよ。ちょっとベランダに出て、タバコを吸って燃え尽きている。
それだけやることをやっているんだろうね。彼が手がけるステッチの細かさはミシンよりも細かいよね。「これ手でやったの?」っていうくらいのステッチの細かさなんです。
OLTUSの鞄は全て手縫いで作られている。手縫いと言っても小松さんの手縫いのステッチはとにかく細かく、乱れることがない。まさに精緻をきわめている。(撮影:佐々木孝憲)
トートバッグ(撮影:佐々木孝憲)
ミュージックケース(撮影:佐々木孝憲)
飯野
あれを見ちゃうと、有名なブランドのカバンを同じ値段で買おうとはならない。思い出話で辛いんですけど、吉田カバンの昔作っていた革カバン!あれはすごかった。
成松
僕も吉田カバンの革のカートリッジバック、会計士浪人時代に神保町で釣り下がっているのを見て一目惚れして買いました。
飯野
成松
そうです。さすが!!未だにありますよね。
飯野
ありますあります。
成松
見るからに革質がいいんですよね。本格的なイギリスのカートリッジバックにも引けを取らない。どうやらいい企画者の方がいるみたいです。
飯野
山口幸一さんという、80年代から90年代初めまで吉田カバンのディレクションをやられていた方。その方が実は今のポーターのナイロンカバンだとか、ラゲッジレーベルなんかを作った人なんです。彼は革のカバンも大好きなんです。
倉野
彼のカバンのファンは多かったんですよ。
飯野
ラゲッジレーベルの革のカバンで、designed by k.yamaguchiと書いてあるやつは、一部の吉田カバンファンは涙なしには語れない。通称山口タグ。
倉野
山口さんは独立されて今はブランドやっているよね。前に取材したことがあって、すごく熱く書いたのね。「頑張ってください!!」的な原稿。そしたら、編集部にお礼のファックスが来て。
成松
そうなんですか。
倉野
熱い人ですよ。山口さんの作るカバンは本当にカッコよかったですよ。ヘルメットケースを作ったのも山口さんですし、日本のストリートカルチャーを支えた人です。
飯野
山口さんは趣味がそのまんまカバンになっちゃった。
実は軍用機が好きな人なの。確か千葉の方のご出身の方で、飛行機が舞っているのを見るのは好きだったのかな。軍用の戦闘機が大好きで、そこからMA-1を使ったカバンが生まれたりだとか。
倉野
そうなんだ。
飯野
空港の滑走路には誘導灯があるじゃないですか。あれをモチーフにしたようなカバンだとかを出していたんですよ。見ている飛行機がアメリカの軍用機だから、必然的にアメリカのカバンだとかオリジンにいくとイギリスのカバンになって。
それこそ山口さんがデザインしたこの錠前(レザースペシャルティのカバンについている錠前)が付いているブライドルレザーのラゲッジレーベルがあったんですよ。フルストラップじゃなくてハーフストラップだったんですけど。
飯野さん所有のレザースペシャルティというブランドの鞄。空軍の輸送機の航空士が使っていた。山口幸一さんがデザインしていた頃のラゲッジレーベルの鞄には、これと同じ錠前が付いたものもあった。
倉野
そこまでいっちゃっているんだなあ。
飯野
山口さんは錠前がなんなのかわかっていたんだよね。軍用バックということがわかっていたので、どうしてもこの金具を使いたいと。見つかったんだけどどうやら生産中止になったとかで買い占めたそうです。
倉野
山口さんはダッフルコートも大好きなんですよね。本当にオタクですよ。オタクが作ったバックだから、本当にかっこいいですよ。
飯野
見る人が見たら何が元ネタかすぐにわかってね。
キャンバスなら、実用性重視でFILSONとシルバーレイククラブ
成松
それはなぜですか?
飯野
やっぱりタフ!布のカバンの中ではものすごくよくできている。
成松
一切の装飾を排除して道具としての鞄に振り切ってますよね。
倉野
この厚さはすごいよね。
成松
一枚革の取っ手なんですけど、全く悪くならないんですよ。ものすごい重量を入れているんですけど。
飯野
ハンドルはアメリカのブライドルレザーですよね。フィルソンのブライドルはイギリスのブライドルとは違うんですよ。どちらかというと
オイルドレザー。粉ふきイモにならない。
成松
あと布製だけども立つんですよ。型崩れを全くしなくて耐久性は高いですね。あまり汚らしくも見えない。
飯野
そうですそうです!個人的にフィルソンの素材で一番好きなのはこのヘビー
ツイル(
ラゲージクロス)。
フィルソンは細かいところまでよく考えられているんです。ジッパーはもっと細かいやつでもいいんだけど、耐久性や開け閉めのしやすさを考えるとこの大きさが必要なんだそうです。アメリカの空港に行くと、フィルソンのツイル素材でできたダッフルバックを持って出張しているだろう人をよく見かけます。
倉野
フィルソンは全部ヘビーツイルなんですか?
飯野
ティンクロスという、パラフィン加工している少し薄いコットン素材もあります。あれはあれで魅力的なんです。種類がいくつもあってそこまで高くもないから、下手な革のカバンを一つ買うならフィルソンをコレクションする。
倉野
飯野
あ、シルバーレイククラブもいい!
倉野
デザイナーの吉田さんは山登りをする人なんです。吉田さんは「ナイロンバックで山登りすると、いずれ劣化する。けど、キャンバスなら破けても縫えばいいから、究極はキャンバスだぜ?」って言ってました。
その話を聞いて、「布製品のカバンってずっと使えるんだな」と思いましたね。実際に山で使用しているし説得力がある。
飯野
フィルソンを日本らしく丁寧に作るとシルバーレイククラブ。シルバーレイクは素材にも凝っていて、あれはいい。
ビジネスリュックはあり?なし?
成松
ちなみにナイロンバックだったら何かありますか?
飯野
工事現場の材料を再利用するブランドですよね。ドイツ語で金曜日という意味の。
倉野
僕はナイロンバックならきれいな、それこそ
フェリージ(Felisi)とかが好きだったから最初見たときはピンとこなかったんですよ。でも一つひとつ見ていったら、こういうのもありなのかなと思いました。
倉野
ははは、大好き。エディーバウアーの日本独自のライセンス企画の鞄を手がけていた方が独立してBusy Beaverを立ち上げたんですよね。
飯野
はいはい!気さくな時だとパッと使いたくなりますよね。
成松
完全にツールよりの選択ですけどね。
倉野
以前
FABRIC TOKYOに取材に行くことがあって、売れ線の生地を聞いたんです。そしたら、
Combat Woolというコーデュラナイロンにウールを混紡したすごく丈夫な生地でしたよ。リュックを背負ってもシワにならないという理由で仕立てる人が多いみたい。
成松
僕の場合、スーツにリュックはどうしてもダメですね。どこで線を引くかですね。
飯野
例えばシティライドしている人だったらありだと思います。
倉野
でも実際スーツにリュックを背負う人は多いですよ。もう別物だと思うようにしています。僕はスーツにリュックを合わせはしないですよ。しないけど、機能素材でスーツをオーダーするくらいならありだとは思うな。
成松
ビジネスバッグとは、ツールでありファッションであり、用途とその時代のスタイルに寄っていくんでしょうね。お二人ともありがとうございました。
番外編:バッグの中身
プライベート用の倉野さんのリュックの中身は少しファンシー。取材の時には持ち物が変わるそう。「ペンケースはディズニーのキャラクターもの。手帳はほぼ日手帳。糸井重里さんに取材して使うようになりました。手帳に刺さっているペンはクリップがついているジェットストリームです。筆記具はロフトに行ってしょっちゅうチェックしています」(倉野さん)
教えている講義の資料がたくさん入った飯野さんの鞄の中身。「スケジュールを細かく手帳に書かないのと、スマホで管理するのは少ししんどかったので手帳はレッツです。角が補強されているので、少し雑に扱っても安心です。デルフォニックスのこのぐるぐる巻きのペンケースは大好き。キャンバスなので、使い込むといい味になってくるんです。ネイビーが揃ったのはたまたまです」(飯野さん)
編集長の成松は識別がしやすいように小物を色別に分けていました。どこまで行っても実用的です。「単純にカバンの中で目立つかが大事なんです。スミスの小物入れは見栄えがよく重宝しています。お守り系も好きなので、ターコイズを鍵と一緒に持ち歩いています」(成松)
カバン・メガネ・アクセサリーを一層楽しむために。編集部おすすめの書籍
紳士服を極めるために是非読みたい! 服飾ジャーナリスト・飯野高広氏の渾身の1冊。
紳士服を嗜む 身体と心に合う一着を選ぶ
服飾ジャーナリスト・飯野高広氏の著書、第二弾。飯野氏が6年もの歳月をかけて完成させたという本作は、スーツスタイルをはじめとしたフォーマルな装いについて、基本編から応用編に至るまで飯野氏の膨大な知識がギュギュギュっと凝縮された読み応えのある一冊。まずは自分の体(骨格)を知るところに始まり、スーツを更生するパーツ名称、素材、出来上がるまでの製法、スーツの歴史やお手入れの方法まで。文化的な内容から実用的な内容まで幅広く網羅しながらも、どのページも飯野氏による深い知識と見解が感じられる濃度の濃い仕上がり。紳士の装いを極めたいならば是非持っておきたい一冊だ。
男のお洒落はこの3人に学べ!
終わりに
ビジネスリュックを背負う人が増えてくると、スタイルを追求したカバンの存在感がより際立ってくるのでしょうか。また、吉田カバンの元デザイナーである、山口幸一さんをGoogleで検索したらファンサイトが出てきてびっくりしました。それだけ愛されているデザイナーが作るカバン、気になります。