電子デバイスの進化著しい昨今。スマートフォン一つあれば移動から書類作成まで対応できるようになりました。合わせて変化してきたのが持ち物と鞄。セキュリティの関係で書類の持ち出しを禁止する企業も出てきました。遠くない将来、出社しなくてもリモートで仕事をするのが当たり前になるのかもしれません。
ただ、鞄は荷物を運ぶ実用品という側面と、洋服と同じく持つ人の個性を象徴するモノという側面の二面を持っています。仕事のスタイルが多様化していく中で、鞄に軽さや容量といった機能性を求めるのか、それともトラディショナルな見た目を求めるのか。
今回、ファッションジャーナリストとして活躍する飯野高広さんと倉野路凡さんをお招きし、ミューゼオ・スクエア編集長とビジネスバッグを選ぶ基準について語り合いました。三者三様のこだわりが見えてきた仕事鞄鼎談(ていだん)を2回に分けてお届けします。
まず前編は、ビジネスバッグを選ぶときのマイルールについて掘り下げていきます。
ブライドルレザーにPVC。ベースの素材によって用途も大きく変わる飯野さんの仕事鞄
成松
ミューゼオ・スクエア編集長の成松です。まずはご持参いただいたカバンについて紹介をお願いします。
飯野
飯野高広です。今日持ってきたカバンはアメリカのレザースペシャルティという会社が作っていた軍モノのカバンです。
飯野
もともとは第二次大戦ごろに使われていたカバンで、空軍の輸送機の航空士が使っていました。地図などを使い、望遠鏡で位置を測る人ですね。
レザースペシャルティのカバン。空軍の輸送機の航空士が使っていたバッグ。航空図をたくさん持ち運ぶため、大容量。
倉野
ナビゲーションだね。
飯野
はい、ナビゲーションをする人です。その際に航空図を入れるためのカバンだったんですね。だから、蛇腹がどーんとあって。地図が入る大きさだったので戦後は軍モノ以外にも活用されていました。実は会計士さんが60年代から80年代まではよく使っていたカバンです。
成松
会計士は膨大な量の書類を運ぶので容量が多い方が使いやすかったんでしょうね。しかし、ものすごく重たいですね。
倉野
重いわ。筋トレできるね。
飯野
筋トレできますよね。今日は教えている講義の後だったので色々とモノが入っているんです。私は革のカバンを選ぶ際に大きな特徴があるんです。一つはできる限り
ライニングなし!
倉野
僕もノンライニング派ですね。革自体が生き生きしているからかなあ。ノンライニングはその会社の自信作なんですよ。間違いなく。革で勝負しているわけですから。「誤魔化してないからウチの革見てよ」っていう。
飯野
あと、形はフラップオーバーというかぶせカバンがほとんどです。ダレスバッグは2つしか持っていないんです。
成松
どうしてですか?
飯野
ダレスはビジネスエリートのカバンのように思えて。本当はアカデミーの方に行きたかった人だから、「自分はやっぱり違うよなあ」みたいな思いが強くて。
成松
確かにアカデミーっぽいですね。
飯野
学手でかぶせで、この見た目は学生鞄の延長じゃないですか。親近感があるんです。できれば、背面からかぶせまでが革が一枚。そういうところが気づいたら大きな基準になっていました。革は型押しだから雨の日でも全然平気なんです。重いけど、まあいっかみたいな。
成松
その基準を作るに至ったこれまでのカバンをお持ちいただきました。飯野さんはイギリス鞄がお好きですよね。
飯野
イギリス製、多いです。僕はイギリスというよりはアングロ・サクソンです。ラテンのカバンに興味がない人。靴でもなんでも性格がラテンではないので。僕の価値基準が決定的に決まってしまったカバンが
ロイドフットウェア(Lloyd Footwear)の黒のブライドルレザーです。これが質実剛健で。
成松
様式美ですよね。僕もすごく憧れた思いがあります。
ロイドフットウェアで販売されていたフラップオーバー。この鞄を製造していた英国の工場が一度解散したため、 長年店頭から消えていた。しかし、その工場が近年復活。ミュージックケースやフレームトップ(俗に言うダレスバッグ)などとともに、 こちらも以前どおりのアンラインド仕様で遂に完全復刻した。
飯野
すごく好きだったんですよね。このカバンに出会うまではそこまでこだわってはいなかったんです。
成松
確かに学生鞄ぽいと言われると、何となくわかります。
飯野
例えば大切な打ち合わせの時。「これは決まるかな」という場面で何枚かの書類と筆記具何本かだけ入れる。もう20年選手です。ここぞと言う時には同じ会社で作っている、ストラップがぐるっと一周しているカバンのどちらかを使っています。このカバンは2
気室ですね。ロイドのこの種の既製品はずっと2気室だったんですよ。
成松
やはりライニングも無いんですね。
飯野
ええ。これもライニングなしでぐるりなカバンです。トラもきれいに入っています。
倉野
20代の頃ですか?他に候補あったの当時?
飯野
そう、20代の頃。20代の終わりだったかなあ。実は同じ製造元だった
デンツ(DENTS)。トレーディングポストで売っていたんですよ。
倉野
僕も買おうか悩みました。少し黄色っぽい革のカバン。
飯野
はい。黒もありましたね。あとは言わずとしれた
ホワイトハウスコックス(WHC)。ただ、どうもWHCも製造元はここだったんじゃないかな。縫い目などの作り方がデンツとロイドと、WHCの当時のものは似ているなと。買うときは、トラが入っている方と入っていない方、どっちがいいですかと聞かれたんです。入っている方が大切にするだろうと思って、入っている方を購入しました。当時4万8000円くらいしかしなかったかな。「予算は10万円だから、じゃあ2つ買える!」と思って。「黒と茶色両方お願いします」って。
コーチの鞄。「就職祝いに購入したもので、黒と茶色をまとめて購入しました」と飯野さん。
倉野
黒と茶色はどういう風に使い分けるんですか?靴に合わせるの?
飯野
最近はそこまで気にしなくなりましたけど、当時は履く靴の色に合わせていました。
成松
わかります。ベルトと靴とカバンの色は合わせるべきじゃないかみたいな。もうすり込まれちゃった。
倉野
今はそうでもない?
飯野
僕は最近は必ずしもそんなことはなくなってきています。合わせた方が安心かなと思う時も多いんですけどね。だから色違いで黒と茶系、2個集めないと気がすまないんです。革製品は。お財布とかは別だけど、靴とカバンは本当にそう。
成松
飯野さんらしいですね(笑)
倉野
ブライドルレザーって急に劣化したりはしないんですか?
飯野
倉野さんがおっしゃっていることもわかります。少なくとも僕のは大丈夫でした。
倉野
ポロポロになる時もありますよね。硬いカバンならではなのかなと思っていました。ああなるのは、高温多湿を繰り返すからなの?
飯野
いや、単純に乾いているから劣化してきちゃうのかなーとは思います。でも、ロイドで買ったやつは明らかに劣化していない。
成松
ロイドフットウェアのカバンにはブラシが付いていますね。
倉野
粉を落とすためのものなんですけど、粉を落とされると怒るっていう。(笑)僕は粉をふくのでブライドルレザーが苦手なんですよ。ブライドルレザーに惹かれる理由を聞いてみたいかな。もともと好きだった?
飯野
僕が使っていたカバンの中で、書類を入れる前と後で重さの差を感じなかったのがブライドルです。逆に、書類を入れる前と入れた後で持った感じが変わったのが
コーチ(COACH)だったんです。コーチは重い荷物を入れると丸一日持てない。同じ重量でもすごく重く感じるんです。それに比べると、同じ分量の書類入れてぶん回していてもロイドは重いと感じない。
成松
難しい表現ですね。
飯野
あと、ブライドルは立つんですよ。例えばお客様のところに行った時に、地面に置いておくのは暗黙の了解じゃないですか。そんな時にペニャっとなるカバンより、シャキッとなるカバンの方がやっぱりマナーとしてかなっていると思いました。
倉野
トラッドだよね。素材でいうと、この
テイメン(テイジンメイズショップ)のカバンの素材は
PVC?
テイジンメンズショップで販売されていた、吉田カバン製のビジネスバッグ。PVC素材で作られているので耐久性は高い。
飯野
そうです。入社2年目に黒・茶セットで買った、
吉田カバン製のカバンです。吉田カバンの人に見てもらって、「これは確かにウチで作ってました」と。テイメンの店員さんも「何か壊れたら持ってきていただけたら吉田カバンで修理しますから」っておっしゃってました。これは雨が降っている時とかなんでも入れなきゃいけない時。鉄鋼会社で会社員をしていると、クレームがでた商品を箱に入れなければならないこともあるんです。鉄の部品は油汚れがあったりするじゃない。そういうものでも運べてしまうのですごく重宝しました。ちなみにコーチは就職祝いに自分でお金をためて黒と茶色をまとめて買いました。
成松
飯野さんは職業が変わっても興味関心は変わらなかったんですね。
飯野
変わりませんでしたね。ブライドルも好きだし、PVCも実は大好き。そういう意味では、素材が好きなのかもね。
成松
まず好きな素材で作られたものじゃないと、受け入れないんでしょうね。
飯野
素材で見ていますね。ナイロンオックスとかも大丈夫なんですけど、それぞれの素材ごとに「この形だったらこう使ってほしいな」という理想はあるんです。場所が場所ならばトートを使う時もあります。今日持ってこようか悩んだのは、
一澤信三郎帆布の
牛乳瓶を入れるためのトート。角形じゃなくて、底が小判形になっているトートがあるんです。トートは一澤と
L.L.Bean(
エルエルビーン)。両方ともキャンバスなんですよ。レザートートは私のキャラじゃないなあと。会計士や弁護士の方とか、ワッと書類を出さなければいけないということであれば、レザートートは絶対に役に立つと思っているんですけどね。
成松
やはりスタイルは徹底されていますね。
倉野
王道のトラッドスタイルですよ。アメリカントラッドをブームとして捉えていない。もうスタイル。
洗練された美しさが際立つ。倉野さんの仕事鞄
成松
倉野さんはなぜアウトドアのリュックを選ばれたんですか?
倉野
ジャケットを着る機会がすくなくなってきたためですね。あとは両手を開けたい。
飯野
ああー!納得納得!
倉野
カバンを手に持っていると、僕の場合行動範囲が狭くなってしまうんですよ。リュックにかえることで少しラクになる。ただし、これで銀座に行ったりとかはないです。下北沢、吉祥寺まではOK。地域限定バッグとして使っていますね。
成松
ジャケットを着るときはまた違うカバンなんですか。
倉野
違いますね。テーラーとかにリュックで行くのは流石にちょっと気まずい。お客様がきたときに「なんだよこいつ」って思われると申し訳ないのと、初めてのところだと「お前原稿かけるのか」と思われるかもしれない。ちゃんとしたバッグを持っていると、一定の安心感は与えられる。でも、職人さんに取材する場合はリュックなんですよ。
飯野
わかりますわかります。変に気取らない方がいいときはありますね。
倉野
昔ながらの人はカジュアルな方が心を開いてくれる。シャーペンとかもあるんですよ。僕は高級な筆記具が好きなんですけど、
ウォーターマンよりも
ぺんてるを使う時の方がいい場合はありますよ。今日持ってきたカバンは、飯野さんと一緒でフラップオーバーでノンライニング。
BREE(ブリー)のブリーフケース。ノンライニングで、革質のよさは保証されている。
ロエベのブリーフケース。「定期入れとか、名刺入れはずっとロエベを使っていました。鞄も昔からほしかったんです」と倉野さん。
成松
なぜフラップオーバーなんですか?
倉野
鞄の形に刷り込みがあるんでしょうね。飯野さんとの違いは、ストラップが回っているかどうか。僕からしたら少し重い感じがしてしまう。ブライドルレザーは(ストラップが)似合うじゃないですか。
成松
やっぱりシンプルで色がきれいですね。面のきれいさとシンプルさでは共通していますよね。
倉野
万年筆のグリップと一緒で、金色が好きみたいです。メッキでも本真鍮でもいい。
成松
倉野
なんだろう。シンプルさとナチュラル感かな。あとは形が好きなの。内っ側にマチが付いているわけではないこの形。同じ黒バージョンも持っているくらい、完成形だと思う。
成松
倉野さんにしては珍しく黒と茶で揃えているんですね。ブリーはどういった洋服に合わせるんですか。
倉野
ジャケパンの時にも使いますし、肩にもかけちゃう。ブリーは立たせた時に背中がきれいだよね。これはトラが見えているじゃん。こういうのもたまんなく好きなの。バイオリンの裏板と一緒でさ、萌えるのよね。
飯野
構造がすごくきっちり考えられていますよね。柔らかくてもしっかり立つし、崩れない。僕もブリーはヌメ革製のマチ付きを持ってますけど、補強の仕方が半端ではない。
成松
ドイツ製ですよね?
倉野
ドイツです。
かつてのゴールドファイル(GOLDPFEIL)もそうなんだけど、ドイツ製はたまらないものがある。(ゴールドファイルは現在日本製のライセンス品のみ製造)
ライカにしてもそうだし。作りになるとドイツは飾らない分ちゃんと作っているんですよ。スポンジを入れるのはイタリアの製造方法なんだけど、ドイツは絶対しないもんね。一枚で勝負するから。この厚み見てよって。
飯野
いま見るとドイツのカバン屋さんって、革質も各メーカーでぶっ飛んでましたよね。ゴールドファイルのオックスフォードとか。
倉野
カラチオラシリーズとか名作だよね。
飯野
あれはいまは無き名作だよね。カラチオラレザーの作品が好きな人は、さらに上のゴールドファイルのファン!
成松
私が持っているコーチなんて底鋲も付いてしっかりしているのに傾きますからね。
飯野
本当はきちんと立たせるため、あとは革にダメージを与えないために底鋲を打つんです。でもブリーは底鋲なしですよね。
倉野
個人的には大切に使っていれば底鋲はなくてもそれほど問題は無いとは思いますね。
ブルックリン(BROOKLYN)の創業者の草ケ谷さんは、「鋲がないと革自体が痛むし、立ちやすい」ということで底鋲を打っているんですよ。そういう意見もあります。
飯野
僕も底鋲はない方が好き。
倉野
ない方が美しさは出るぞ、と思う。電車の中で座った時にきれいですよね。「このラインみて」っていう感じです。持ってきた中では
ドゥーニー&バーク(DOONEY&BOURKE)のカバンは細かいよね。あずき色のような淡い色やベージュ色もあったんだけど、
芯通ししているもんね。
芯通しした革で作られた、ドゥーニー&バークの鞄。厚みのある革にも関わらず、がっつり染色されていることが見て取れる。
飯野
芯通しするとなると、色を思いっきり入れていくことになるので、革としては柔らかくなりすぎてカバン向きじゃないと考える人もいらっしゃるんです。そうなんだけど、これはいい。
飯野
実は、革は大きな転機を迎えたのは90年代終わりぐらいなんです。特にアメリカ。例えばコーチのグラブタンレザーを作ってた、カリフォルニアにあるサルツというタンナーさんがなくなっちゃったんです。サルツがなくなってから、革質が悪くなったどころかアメリカのプロダクツに革自体を使うことが少なくなってきました。
倉野
三越に入っていた
ハートマン(hartmann)も変わったよね。
飯野
うん。コーチ然り、
グルカ(Ghurka)然り、ハートマン然り。カバン屋さんはサルツを相当使っていたんだと思います。サルツがなくなってからカバン用の質のいい革は入手しづらくなって、コーチはその頃からCのマークがたくさん入っているカバンに思いっきりシフトしていくんですよ。
成松
倉野さんはどういう風に使い分けされているんですか?
倉野
使い分けというか、ただコレクションしているだけ(笑)。ブリーはデイリーで使っていました。容量が大きいから。ロエベはやっぱりパーティーとか大切な時。あと
アスコリ(ASCOLI)のような額縁が好きなんですよ。ちょっとしたことなんですけど。
アスコリのブリーフケース。銀座の和光で購入したもの。ふっくらとしたデザインが特徴。
飯野
額縁好きなんだ!アスコリはイタリアの
ボックスカーフですね。やわらかーく作られている。
倉野
でもウエスタンのような装飾的なものは嫌なんですよね。
飯野
カバンには大きく分けて外抜いと内縫いがあるんですよ。縫い目がドバーンと見えているのは外縫い。鞄としては内縫いやパイピングが入っている方が雰囲気としては圧倒的にソフトに見えるんですよ。外縫いの方が線がぱちっと決まるんで、端正な感じになる。
軽くて丈夫、でも一癖ある。編集長成松の「実用性重視」なビジネスバッグ
倉野
成松さんはいかがですか?
成松
フィルソンとブリーフィング両方に共通することは、自重が軽いことです。倉野さんや飯野さんほど相手に合わせているわけじゃなくて、ひたすら自分にとって使いやすいカバンを選んでいます。僕は荷物がとても多いんですよ。パソコンを持ち歩くことも多いので肩から下げられるというのは大事な選択要素です。倉野さんのお話にもありましたけど、手で持っちゃうとダメなんですよね。
秋冬に使用しているという、フィルソンの鞄。持ち手は堅牢なオイルドレザーで、重いものを入れてもヘタレない。
春夏に愛用している、ブリーフィングの鞄。バリスティックナイロンを使用しており、いうまでもなくタフ。
倉野
僕の場合、ノートパソコンが大きいからノートパソコン用のダサいキャリーケースに入れるんですよ。でも、僕がいくのはマックかタリーズか、エクセルシオールくらいだから恥ずかしくない。
成松
ははは。そうですね。前職の時からある程度ちゃんとしたカバンを持っていたほうがいいと思ってまずコーチを買いました。ただ、飯野さんのコーチと比べると革質は落ちますね。マグネットを採用しているのはコーチらしい割り切りですね。
飯野
パッととれるから便利ですけどね。
コーチの鞄。「重いんですけど、容量が大きいので書類を運ぶのに重宝しました」と成松。
倉野
成松さんはジャケット着ることが多いと思うんですけど、その時も肩からかけるんですか。
成松
かけちゃいます。僕が関わっている先はベンチャー企業が多いので、そこまで言われることはありませんが、相手によってはこれではダメでしょうね。
倉野
バリスティックナイロンとか、丈夫なのがお好きなんですね。
成松
そうですね。軽いのに丈夫で、かなり使っているのにヘタレないんです。そんなに見苦しい状態にならないのがいい。
飯野
わかります。バリスティックナイロンは素材としては確かにカバンには向いている。社長の鞄は割り切りられていますね。用途が決まっているし、荷物をたくさん入れなければいけなくて、しかもすぐに取り脱さなければいけないのでシビア。特徴は上からがばっと開けられてアクセスできるやつですね。
倉野
間違いなく癖はありますよ。カンポマッジなんかすごい。
飯野
クタクタになって、経年変化させているカバンは好きな人がいる分野。いわゆるイタリアのタンニンなめしそのもの。
カンポマッジの鞄
このクタクタしたベジタブルタンニンレザーがイタリアらしい
倉野
ハートマンのベンディングレザーのオーバーナイターとか選ばなかった?
成松
そっちも持っています。
倉野
やっぱり持ってるか(笑)。ハートマンのオーバーナイターはいいですよね。僕もほしい。
成松
出張用カバンの領域だなと思って持ってこなかったんですけど、今だに持ってます。ただ、結構雨染みがついちゃったんですよね。
飯野
あれを味と思うか、汚らしく思うか。
倉野
飯野
だけど内張りが気がつくと臭ってくる。たぶん、軽さを重視したんだと思います。
成松
そうだと思います。オーバーナイターは軽かったですからね。当時の技術の限界だったのかもしれません。
飯野
僕もナイロンツイードいくつも持っています。アタッシェにオーバーナイター二つ。だけど一番元気なのはライニングがコットン製だったアタッシェ。
成松
いま使われることはあるんですか?
飯野
いまは使わなくなってきてます。でも、ナイロンツイードは靴の色が黒でも茶系でも使える素材だったんですよ。仕事の出張の時でもプライベートな旅行の時でも、両方使えるいい素材だったんですよね。
倉野
ハートマンはもともと鉄道じゃん。だから得意なのかな、アタッシェとか箱物が。
成松
そういうことなんですね。僕もトローリーなんかは現役ですね。普段は
リモワ(Rimowa)使っているんですけど、四泊くらいの時に使う鞄はトローリーかナイロンツイード。
倉野
最初に買ったバリスティックナイロンの鞄って、ブリーフィングですか。
成松
そうです。でも当時は
トゥミ(TUMI)の黒いバリスティックナイロンの鞄を買おうかと考えたこともありました。
倉野
TUMIだよ。TUMIだよねえ。いまTUMIは普通のサラリーマンが持つ感じですね。
飯野
そうですね。TUMIだと、いまでも買っておけばよかったと思う鞄があるんですよ。それが、
ブルックスブラザーズ(Brooks Brothers)別注。
倉野
へえ、そんなのあるんだ。形は?
飯野
同じ。色がブレザーの紺色で、目立たないところにゴールデンフリースの刺繍があったんです。その鞄をとあるセレクトショップが復刻したんですね。
けど、どうしようかなーと思って。「ナイロンのカバンで10万円かー」とか。悲しいけどあの昔の価格を知っていると「10万円使えるなら違うものだよな。まてよまてよ」ってなる。
倉野
ブルックスのゴールデンフリースのドキュメントケース。あれに憧れはありました。本当にいい鞄がありましたね。グルカの前身のトラファルガーとか。カバンは細かいけどその人の個性だから、「こっちが好き」とか、「お前そっちなら俺こっちだ」みたいな色分けができた時代ということですね。
成松
一個だけ、その昔僕が欲しくて買わなかったバッグは、
ビルアンバーグ(Bill Amberg)の…。
飯野
あああー!ロケットバッグだ!
成松
ロケットバッグで、ハンドルにヴェネシャンガラスが使われた鞄。
倉野
あったあった。きれいなカバンでしたね。バーニーズにあったでしょ。中のライニングが赤なの。僕も似たやつを買ったんだけど、ファスナーを開けたら粉が飛んだ。笑
成松
ははは。
倉野
ビルアンバーグのカバンはきれいですね。普通のナイロンバッグは持ってたけど、作りはよかったです。安っちい作りではなかった。
素材へのこだわりや、各国ごとのカバン作りの特徴まで話が膨らんだビジネスバッグ鼎談。後半では、3人がいま選びたいビジネスバッグについて語り合います。
ーおわりー
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男のお洒落はこの3人に学べ!
終わりに
倉野さんと飯野さんの「取材先によって鞄を使い分ける」というお話を聞いて、防水で便利だからといつもCHROMEのリュックを持ち歩いていた自分をちょこっと反省。人生で初めて革のバッグを購入しました。「自立する鞄がいいな」ということでラザフォードのミュージックバッグです。ブライドルレザーの男前な雰囲気と、ソリッドバーの軽快感が気に入っています。