会うたびに異なる色柄のストールを巻いていたり、トラウザーズの裾からカラフルなソックスがチラりと見えたり。初対面の人でも、特にファッションの話をしようと思っていない人でも「それ、キレイな色ですね」と自然に言わせてしまう。
倉野路凡さんの小物使いは、人の緊張感を解いてパッと明るくしてくれる。
長年、服飾ジャーナリストとしてクラシッククロージング業界で活動し、2020年には『The three WELL DRESSERS』を執筆。日本のテーラー界でも名が知られており、倉野さんに取材をしてもらいたいと依頼がくるほどだ。
今回は、そんな倉野さんに春夏に使う美しい色柄の小物コレクションを紹介してもらった。ページ後半では、倉野さんのファッションルーツの鍵となるアイテムも登場。
いつだったか「もし僕が道端で倒れても、可愛いモノを身につけていれば助けてもらいやすいでしょ?」と笑いながら話されていたのを思い出す……。コレクションを見ると、その冗談も的を得ているような気がしてくる。
春夏のスーツやジャケパンスタイルを彩る小物たち
●ストール
ブルーのストールは、コットン×リネン。一番左の淡色オレンジは、レーヨン100%。他はすべてコットン製。ブランドは右から、Altea(アルテア)、Épice(エピス)、チチカカ、BEAUTY & YOUTH UNITED ARROWS(ビューティ&ユース ユナイテッドアローズ)、ノーブランド
春夏になると明るめのストールを巻きはじめる。さっと一枚合わせるだけで、リゾート気分を盛り上げてくれるのだ。以前は吉祥寺の元祖仲屋むげん堂で無銘ブランドのものをよく買っていたが、引っ越しの際に紛失してしまった。写真は全てインド製のストールで、発色がきれいでよく使っている。
右はヴィンテージストールで、左はGAIJIN MADE(ガイジンメイド)
左は、ガイジンメイドのタイ製ストール。和テイストの織柄が気に入っていて、丁寧に手入れしながら使っている。が、何度洗っても色落ちする(笑)。染めはおそらく藍染め。もう一本はヴィンテージのストールでレーヨン製。小紋柄はジャケパンスタイルにも合うので出番が多い。
●ポケットチーフとスカーフ
右がHackett London(ハケットロンドン)のポケットチーフ、左がLELLE(レレ)のスカーフ
ハケットロンドンのシルク製ポケットチーフは、ジャケットの胸ポケットに。アイボリーは春先にも映えるので、よく使っている。レレのシルクスカーフは、カリフォルニアのサーフィン柄&椰子の木柄。リゾート気分いっぱいのこの一枚は、サマージャケットの首元に。昔からマリンテイストの絵柄が大好きで、1980年代初頭にテイジンメンズショップ(通称テイメン)で買ったヨット柄のスカーフを思い出す。
●ネクタイ
ブランドは、右からBURBERRY(バーバリー)、THE POPPY(ポピー)、SARTORIA SPERANZA(サルトリア スペランザ)、FRANCO PRINZIVALLI(フランコ・プリンツィバァリー)、John Comfort(ジョンコンフォート)、LANVIN(ランバン)、FRANCO PRINZIVALLI(フランコ・プリンツィバァリー)、ノーブランド
(写真右から)バーバリーの赤ストライプは、タグの雰囲気から少し前のヴィンテージタイだと思う。素材はコットン47%、シルク43%、リネン10%で、シャリシャリとした素材感が春先に向いている。
ポピーは、横浜の老舗店オリジナル。シルク100%で触り心地がとても良い。
佐野織物が出している純国産のオーダーネクタイ、サルトリア スペランザのネイビーストライプは、凸凹した表面のフレスコタイ。涼感のある織りで、とても気に入っている。
フランコ・プリンツィバァリーのチェック柄はシルク100%。春夏にブラウン色を合わせるのは昔から好きだ。
ペイズリー柄の赤ネクタイは、ニューヨークの名店、F.R.トリップラーがジョンコンフォートに別注した1本。ジョンコンフォートは、作家アラン・フラッサーの本で紹介されているお店だ。薄手なので夏以外にも締めることができる。こちらも素材はシルク100%。
大きいペイズリー柄のプリントタイは、ランバンのものでシルク100%。シルクの触感がお気に入りで、ランバンはいいシルクを使っていると実感した1本。
もう一本のフランコ・プリンツィバァリー、ブルーのストライプ柄は、シルク72%、レーヨン22%、ポリエステル6%。見た目も素材も春らしいストライプタイ。
イタリアのコモ製のペイズリータイはシルク100%の無銘ブランド。1983年頃に京都の田舎町で購入した、初めてのイタリア製ネクタイ。当時はペイズリー柄だと思っていたが、いわゆる更紗柄のようだ。インド更紗なのかジャワ更紗の柄なのかは不明。
●ニットタイ
黒・茶色・赤はCricket(クリケット)。黄色はRalph Lauren(ラルフローレン)、ドット柄はFAIRFAX(フェアファクス)
18歳の時にポールスチュアートのシルクのニットタイを母に買ってもらってから、ニットタイの気楽さに開眼する。よく締めるのはブラウンとネイビーのドット柄。写真はすべてシルク製。映画『おしゃれ泥棒』('66)でピーター・オトゥールが締めていたのがニットタイのドッド柄だったこともあり、これを見つけたときは即買いした(笑)。
●ソックス
HALISON(ハリソン)のカラーソックス。左4つがコットンで、右3つがリネン。
写真はすべてハリソンのソックス。春夏ならではのカラフルな色のソックスを穿く機会が多い。1980年代初頭にアラン・フラッサーが派手な色のソックスをドレスシューズやスエードシューズに合わせていた!という影響も大きいと思う。ソックスは消耗品と考えているので、高価な海外ブランドは買えない(笑)。
●シューズ
すべてスエードの靴。ブランドは、右からThe Asakusa Cobbler(ジ・アサクサ・コブラー)、A.P.C.(アー・ペー・セー)、Bruno Magli(ブルーノマリ)、Ducal(デュカル)
スーツに合わせるドレスシューズは日本製かイギリス製が圧倒的に出番が多いが、今回はリゾート地でも履けるカジュアルな雰囲気のものを選んだ。すべてスエード素材でアウトソールはレザーというのがポイント。スエード=秋冬のイメージがあるが、春夏だってスエードは“あり”なのだ。レザーソールにすることで少しだけドレッシーになり、中が蒸れにくいという利点がある。
内羽根式パンチドキャップトウは、ジ・アサクサ・コブラーのオリジナル。チャーチのディプロマットスエードの写真を見せて、「頼むから似たものを作ってくれ!」と代表の石郷岡 博さんに注文した一足。3プライのフレスコのスーツに合わせて履いてみたい。
A.P.C.とデュカルスは明るめのスエードで、コバもナチュラルカラーの仕上げなので、スニーカー感覚で履ける。スクエアトウももはやありかなと(笑)。夏に履く靴は価格的にも脱力感たっぷりの靴がいい。
ブルーノマリのスエードスリッポンはエレガントな一足なので、リゾート地でのジャケパンスタイルに。高級リゾートホテルのランチの時に履きたいと勝手に妄想している一足。
ALBEROLA(アルべローラ)のパイル地シューズ
1980年代中頃、グルカショーツが流行り、それに合わせるグルカサンダルやホワイトバックスを履いて海水浴場に出かけていた。そんな足元の'80sの気分が残っている一足がコレ。パイル(タオル)地のアッパーとエスパドリーユを彷彿させるコバのデザインがユニーク。スペインブランドで、しかも価格が安いのがいい。
大好きな画家ジョアン・ミロのアトリエはスペインのマヨルカ島にあったんだよね。靴とは関係ない話だけど(笑)。
SCOTCH GRAIN(スコッチグレイン)のUチップ
春から初夏にかけてのジャケパンスタイルによく合わせているのが、日本のスコッチグレインのUチップ。真面目に作った一足という感じで、このブランドは好き。
●バッグ
marimekko(マリメッコ)のキャンバストート
春夏のビジネスバッグ以外に活躍しているのがキャンバストート。汚れたら洗えるところが便利で、いくつか持っている。ファスナー付きで中身を隠すことができ、容量もあるので役立っている。マリメッコのロゴが可愛い。
倉野さんの春夏クラシッククロージングのルーツを探る
●僕のバイブル
メンズクラブ別冊『サマーアイビー(昭和59年/1984年)』
メンズクラブの別冊は本誌と同じく、1980年代から1990年代の半ばまで買っていた。特にこの『サマーアイビー(昭和59年/1984年)』はよく読んでいた。ミスターメンズクラブこと、田中カール氏が表紙というだけで買いでしょう(笑)。夏向け素材や堀洋一先生のシャツについての話など、今でも面白く読める。平和堂靴店の広告やテイジンメンズショップのオリジナルブランド「バーボン」の広告など、今となっては懐かしい広告もある。
ちなみに当時のフローシャイムのウィングチップは65000円。今なら安いと思うけど、当時は高かったなあ。
1980年前後の『ポパイ』と『ホットドッグ・プレス』もアイビー特集号の時は買っていた。
●ギンガムチェック柄シャツ
左がDENIME(ドゥニーム)、中央がNAMSB(ナムスビ)、右がH&M
春夏になるとチェックやギンガムチェック着用率が高くなる。真ん中のナムスビはセレクトのいいお店だった。夏のイメージが強いマドラスチェックに比べて一年中着られるのも嬉しい。
チェック柄のシャツは高校生の時に観た映画『アメリカン・グラフィティ』(1974年公開)の影響が強いかな。出演していたリチャード・ドレイファスが、マドラスチェックの半袖シャツを着ていたのに憧れた。それにハリウッド俳優のアンソニー・パーキンスがよくチェック柄のボタンダウンカラーのシャツを着ていたのもある。1950年代後半から1960年代前半はアメリカでもアイビーが入っていた頃で、しかも彼は実際にアイビーリーガーだったので、とても似合っていた。その影響もあると思う。
1984年の夏(高校卒業した年の夏)にはマドラスチェックの半袖シャツを着ていた。当時は2枚ほど持っていたと思う。その後は、米国トラッドブランドのGANT(ガント)や渋谷にお店があったREDWOOD(レッドウッド)、ナムスビのシャツを買っていた。
チェックシャツの利点はアイロンをかけなくても、シワが目立たないということ。無地のシャツに比べて、親しみやすさがあるというか、キャラがたちやすいというか、そんなところも好きな理由だ。
●ボーダーTシャツ
左・中央がSaint James(セントジェームス)、右がORCIVAL(オーシバル)
1986年春、渋谷のナムスビに出かけて初めて買ったボーダーTシャツが、セントジェームスだった。ナムスビ渋谷店は、レッドウッドの姉妹店。レッドウッドと同じくアメリカンカジュアルの老舗で、いわゆるアメカジ、渋カジブームを先駆けた名店だ。あのプロペラができるずっと前の話。
そのセントジェームスによく合わせていたのがリーバイス502。リーバイスジャパンが初めて発売した復刻モデルで、1986年の春に購入。丸井で買ったのかなあ~。
当時はベルトもナムスビのオリジナルをしていた。一部リザードを使っていて、ウエスタン調のベルト。靴はシェットランドフォックスのホワイトバックスで、大阪のテイジンメンズショップで購入した。足元はやはりアイビー、ブリティッシュアイビー出身なので、本格的なホワイトバックスを合わせていた。
ボーダーTシャツに合わせていた腕時計はタグ・ホイヤーのフォーミュラ1。ホイヤーからタグ・ホイヤーになった最初の時計だ。1986年の春に吉祥寺パルコのチックタックで購入。ブルーの文字盤で、デザインはダイバーズウオッチ。
当時はセントジェームスやagnès b.(アニエスベー)などフランスブランドが次々と上陸し、フレンチアイビーが流行っていた。その後、何枚かセントジェームスは買って着ていて、ボトムスはやはりブルーデニムが多かった。
ボーダーのロングTシャツは今もよく着るアイテムで、いつかは楳図かずお先生やフードスタイリストのマロンさんみたいに、「ボーダー=倉野」と呼ばれてみたい(妄想)。
ーおわりー