クラウンが高く、垂直に伸びているシルエットこそが、王道のヴィンテージハット
石王さんは仙台在住のコレクターで、現在25個ほどのヴィンテージハットを所有している。20年ほど前からジーンズ、スニーカー、ブーツなどのアメカジは集め続けていたが、ヴィンテージハットを集め始めたのは3年ほど前からだと言う。
「昔から、Beamsなどで今風のオシャレなハットを買うことはありました。しかし、映画『ゴッドファーザー』や『Borsalino(ボルサリーノ)』、そして小津安二郎映画に出てくるハットとは、何かが違うと感じていました」
それから文献やインターネットで1940年代、50年代のハットを調べているうちに、たまたま仙台の古着屋で1950年代のヴィンテージハットが販売されているのを見つけた。当時の様子を石王さんはこう語る。
「チラッと一瞥(いちべつ)しただけで、風格、オーラがありピンと来ました。ビロードのような手触り、そして裏地には格調高そうなインレイ(細工)。その瞬間、今風のオシャレハットとの決別を決意しました」
ヴィンテージハットと今風のハットの大きな違いは、「シルエット」だと言う。クラウンと呼ばれる頭を包み込む部分に高さがあり、垂直に伸びているのが特徴だ。さらに生地の感触も違う。両者の生地を実際に触ってみたが、ヴィンテージハットは、より”しっとり”した感じを受ける。
シルエットが特徴的なヴィンテージハットを被る際には、真上から被るだけではなく、斜めの角度をつけて被るのがオススメだ。同じハットでも、角度を付けることで見え方が異なる。その日のファッション、気分で被り方を変えられるのが楽しい。
著名人でも本格紳士帽の愛用者がいるが、とくに麻生太郎氏は上手にファッションに取り入れていると石王さんは言う。
「年齢、風格、実績に加え、あのニヒルな風貌が似合っています。冬は黒、夏はパナマ帽とTPOも気をつけている。報道陣が寄ってくると一旦脱ぐあたりも、なかなかの作法です」
石王さんが考えるヴィンテージハットの定義
今から50年より以前に製作された本格紳士帽。年代で言うと1965年以前のもの。
1940年、50年は、世界的な帽子の黄金時代。
そして、1965年前後は、その終焉時期になる。
ジョニーデップが愛用するSTETSON(ステットソン)社のWhippet。市場価格が高騰する現状
石王さん一番のお気に入りであるRoyal StetsonのWhippet
石王さんの一番のお気に入りは、米国STETSON社の最高ランクであるRoyal StetsonのWhippet(ウィペット)と呼ばれるモデル。素材にはビーバーの毛を使用したフェルトハットで、1950年代前期に製造されたモノ。
お気に入りの理由は、ブリム(ツバ)の広さ、リボンの太さ、クラウンの高さが作り出す黄金比率のバランスである。このバランス感は、他のヴィンテージハットには感じられない。さらに、ハットの内側に装飾されている文字や紋章も保存状態が良く、強い存在感を出している。
このハットは、インターネットの購入サイトで出会い、35,000円の値段で即決購入した。
余談であるが、ジョニーデップが好んで被っているのが、このモデルである。その効果もあり、市場の価格が跳ね上がり、ヴィンテージのWhippetは入手するのが難しいレアなアイテムとなっている。
その他には、米国DOBBS社、英国Christys'社、イタリアBorsalino社などのヴィンテージハットがお気に入りだ。
そんなお気に入りのハットを、夜にお酒をちびちび飲みながら、眺めては、被ってみる。石王さんが楽しみにしている時間である。
現代社会から離れ、ひとときのゆとりをくれるヴィンテージハット
「資本主義とか貨幣経済の中で生活をしていると、効率化、コスト削減とかで物事を考えてくる。しかし、昔のヴィンテージハットは、違う世界、違う時代の物だと思っている。なので、ヴィンテージハットを頭に載せるだけで、効率的な動きをしようだとか、人を押しのけてまで成功してやろうなどの気持ちが無くなる。姿勢を正してくれる存在ですね」
ヴィンテージハットの魅力をそう語る石王さん。
確かに、昔の映画で見るヴィンテージハットを被った役者は、どこか「たしなみ」「ゆとり」を感じさせる。きっと、小津安二郎が作る映画の世界にヴィンテージハットがよく出てくるのは、そういう演出を考えていた小津安二郎の計算なのではと想像してしまう。
そんな石王さんの夢は、世の中の人にヴィンテージハットの魅力を知ってもらい、実際に使ってもらうことである。ヴィンテージハットは、昔に製造されたハットなので流通量が限られている。そのため価格も高騰し、誰もが気軽に入手出来る物ではない。
なので、ヴィンテージハットの特徴、空気感を身にまとった”復刻版”のハットをプロデュースしたいと考えている。実際に、ハットを製造してくれそうな会社にアプローチをしていると言う。
「現在でも、各社が昔のハットを真似た復刻版を出していますが、どうしてもファッション性を出そうとして、ヴィンテージハットの空気感が無くなります。細部まで昔のハットを再現した復刻版を作りたいですね」
ネットバンク、リニアモーター、スマホ、ビットコイン。
人々は、便利、快適を求め、様々な物を改良してきた。そして、その代償として様々な場所でストレスを抱え込む社会になったと思う。そんな現代の”流れ”に疲れた時は、ヴィンテージハットを被ってみるのはいかがだろうか?
一瞬だけでもその”流れ”から抜け出し、心にゆとりが生まれるはずだ。
ーおわりー
Borsalino製 モデル名:unknown
Borsalino製 モデル名:unknown
Dobbs製 モデル名:unknown
ROYAL STETSON製 モデル名:openroad
ヴィンテージハットコレクション以外にも、復刻版ジーンズやジージャン、レッドウィングをはじめとしたブーツのコレクションも。すべて石王さんの愛するアイテム達。状態も良くきちんと手入れをしながら愛用しているのがうかがえる。
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終わりに
撮影現場には、事前に用意して下さったジーンズ、Gジャン、ブーツ、ヴィンテージハットが並べてあり、古着屋を訪れた気分になりました。
本格的なヴィンテージハットを被ったのは初めてでしたが、石王さんからは「顔に帽子が似合っている」と褒められました。鏡に映る、ハットを被った自分を見ると最初は照れてしまいましたが、徐々に慣れてきますね。
将来、石王さんプロデュースのハットが作られたら、買ってみたいと思います!