多くの人が革製品、ジーンズの洗い方、買い方に悩みを持っていた。
経年変化協会の代表である松井さん
まず、日本経年変化協会の紹介から。
会長である松井剛さんが2011年に11月に創立された協会である。10年ほど前は、松井さんが個人ブログで経年変化の魅力を紹介していた。内容は、自身が長年愛用していたブーツやジーンズ、革ジャンなどを紹介していたのだが、次第に読者の方から質問をもらう機会が多くなった。
「ジーンズは、どうやって洗えばいいのですか?」
「革ジャンは、雨に濡れたらどうやって対処すればいいですか?」
驚いたことに、みんなが革製品やジーンズに関して、ほぼ同じ内容の疑問を持ち、悩んでいたのだ。そこで、今までの質問に対する回答をまとめるという意味で、独自のホームページを立ち上げることにした。そのサイトの名前が「日本経年変化協会」である。松井さん一人から始まった協会は、現在では18人が所属している。
日本経年変化協会が定義する経年変化とは?
長年愛着を持って製品を使用した際、経年変化により製品の風合いが熟成された美しいと思われる状態に変化すること。
経年変化協会のコンセプト
大量生産、使い捨ての時代と言われる今日において、少数ながらでもモノ造りに情熱を注ぐ企業や職人、またそれを支援する店舗は存在します。モノ造りにおいて情熱を注がれて出来上がってきた製品は、長く愛用することができます。日本経年変化協会はそんなホンモノのモノ造りを行う職人さんやメーカー、そしてそれらホンモノの製品を愛してやまない人たちを応援することを目的としています。
日本経年変化協会は、そこらの協会とは違う。未来を見ている協会だ!
日本経年変化協会の活動を知る上でのキーワードは、2つの「伝える」である。
1つ目の「伝える」は、松井さんから経年変化を楽しんでいる愛好者に対して。
松井さんは、経年変化の魅力を世の中に伝えるために、ホームページで情報を伝えているだけではなく、実際に経年変化を楽しめるアイテムを、さまざまなショップや企業と共同で開発している。また、2015年の2月からは、松井さん自身が惚れ込んだタンナー、職人と協力してオリジナルの革製品を作っているのだ。ポイントは、経年変化を楽しめる素材にこだわっていること。そのこだわりに共感するお客さんからの支持があり、売り切れが出るほどの人気ぶりである。そして、商品の売り方に関しても、松井さんのこだわりがある。
「僕が作る商品は、80%の状態で買っていただきます。残りの20%は、実際に買った人が使い、メンテナンスをして、自分だけの最高の状態を作ってもらいます」
もう一つの「伝える」は、日本の職人技術を、若い世代に伝える活動である。日本各地のタンナーやアトリエを回るうちに、次世代を担う若い職人が少ないことに気づいた。
「日本の職人技を継承することが大事だと思っています。しかし、今の若い人は、革製品を作る職人になりたがらない。それは、職人になっても経済的に苦しいと考えているからだと思います。若い職人が経済的に自立できるように、物が売れる仕組み、マーケットを作るのが僕の役割だと思っています」
そこで、将来の夢として経年変化協会が大きなアトリエを持ち、若い職人が集まれる場所を作ること考えている。そのアトリエで海外向けに革製品を作り、松井さんが海外の展示会で発表をするのだ。海外で評価を得た後に、逆輸入という形で国内にも流通をさせ、職人が経済的に独立できるような仕組みを作る。若い職人のために、漫画家の手塚治や藤子不二雄が集まっていた「トキワ荘」のような場所を作りたいと語る。
経年変化協会とは、未来を見ている協会であることが分かった。
代表の松井さんに聞く、経年変化に関するQ&A
Q:初めて経年変化に興味を持ち始めたのはいつですか?
A:小学2年生の時。当時通っていた英会話にいた外国人の先生の影響で、海外の音楽、映画を知りました。そこで見たボロボロの履きこまれたジーンズがとてもカッコ良くて、先生にどこに売っているのか聞いたら「ジーンズは、自分で履いて育てるんだよ」と教えられた。それから、ブーツやジーンズを買っては、長年履いて育てることが楽しいと思った。
Q:ご自身のアイテムで、経年変化を特に楽しんだ物は何ですか?
A:大学1年の時に購入した、国産のジーンズ「ステュディオ・ダ・ルチザン」です。破けた部分を自身で補修したりして、今でも大事に履いています。
Q:長年履いているジーンズですが、どのように洗っているのですか?
A:下記の3点に注意して、普通の洗濯機で洗っています。洗う間隔は、春、夏とかだと1ヶ月に1回ぐらいですね。
・ 洗う時にひっくり返す
・ ジーンズだけで洗う
・ 中性洗剤を使う
Q:経年変化を楽しむファションとして、影響を受けた人はいますか?
A:所ジョージです。彼が創刊者である雑誌「ライトニング」は、中学、高校時代の愛読書だったので、影響をモロに受けていた。あの流行に左右されないスタイルは、かっこいいと思う。
学生時代に購入した「ダ・ルチザン」のジーンズ
小学校時代から利用している革のペンケース。
ワインを熟成させるような感じで、自分が大切なアイテムの経年変化を楽しんでほしい
最後に、松井さんに経年変化の魅力を聞いてみた。
「自分の物に愛着が出てきて、使うのが楽しくなります。長年一緒に過ごすことで、自分らしさを刻みつけることができる。例えば、僕が10年以上前に購入した革ジャンは、最初は固くてどうしようもなかったですが、着ることを続け、丁寧にオイルを塗りメンテナンスをすることで、今ではシャツを着ているかのように自分の体にフィットしています。そして、革ジャンのキズや、変色している部分は味が出ていると感じられます。それは、人間も一緒です。歳を取ってから味わいが出る役者もいますよね。
ぜひ、ワインを熟成させるような感じで、自分が大切なアイテムの経年変化を楽しんでほしいです」
現在の日本では、ファストファッションに代表されるように、流行に左右され製品寿命が短いものが多くなってきた。そして、その流れに警告を唱える人も増えてきた。しかし、「物を大事に使い続けよう」と言われると、どこか説教じみた印象を受けるのだ。そこで、「物の経年変化を楽しもう」と言葉を変えてみるのはどうだろうか。前向きに実行してみたくなるから不思議だ。
松井さんを筆頭に、立ち上がったばかりの日本経年協会は、これから10年、20年と時を重ねて、協会自体が熟成されていくのだろう。そして、その時には、きっと松井さんの夢である若手職人が活躍している日本になっていると思う。
ーおわりー
ショップ「GUM-A-MAMA」の本田さんとエイジング談義
本日の松井さんの足元は「トリッカーズ」。お手入れを繰り返し、10年以上履いている
経年変化の魅力でもある、革の色変化、シワが楽しめる1足
本田さんの私物である革ジャン。長い間着ることで、体にフィットしている
見事な色落ち。新品にはない格好良さがありますね
ワーク・ミリタリー・ストリートを一層楽しむために。編集部おすすめの書籍
時代を超えたFRYE(フライ)のブーツ
Frye: The Boots That Made History
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世紀を超えるキング・オブ・ジーンズ
取材協力ショップ「GAM-A-MAMA」
ハンドメイド革製品を制作、販売。
鞄、ベルト、財布、ペンケースなどを、独自の世界観から生まれたデザインと融合。詳しくは、ホームページを参照。
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住所:兵庫県神戸市中央区元町通6丁目7−7
TEL:078-945-8007
終わりに
松井さんは僕と年齢が近いこともあり、ファッションやカルチャーの感覚が近くて、取材をしていて楽しかった。
今回の取材場所で協力をしてもらった、神戸で革製品を扱っているショップ「GUM-A-MAMA」の代表である本田さんが語った言葉が印象的だった。「松井さんは、革製品を作る学校やアトリエでの経験がないぶん、革に対する既成概念がない。僕らが驚くような革の加工方法や使い方を考えつく。今では、革に関して困ったことがあると、松井さんに聞いていますね。」
革製品を作っている職人や企業が、革に関する相談を持ちかける。そこには、松井さんが持っている革の知識だけでなく、どことなく兄貴分の空気感を持っている松井さんの人間味が関係しているのだと思います!