ファッションに関心のある方なら、1度は袖を通したことがあるであろうGジャン(ジージャン)。オリジナルの「ファースト」「セカンド」「サード」といったリーバイスのヴィンテージものに憧れを抱く方も多いはずだ。今回は業界内でもコレクターとして名高い原宿・BerBerJin(ベルベルジン)の店主、藤原さんに、所有するヴィンテージ・Gジャンをご紹介いただきながら、その魅力について語っていただいた。
90年代に巻き起こったヴィンテージブーム。あの頃の憧れを、今もそのままに。
「初めてビンテージのGジャンを手にすることができたのは、高校生の頃。当時はヴィンテージブームの最中で、私にとってオリジナルのGパンとともにGジャンも憧れの対象でした。かなり頑張って2万5千円を出して購入したので、今でもよく覚えていますよ」
そう語るのは、ヴィンテージファッションを専門に取り扱う原宿・BerBerJin(ベルベルジン)の店主、藤原さんだ。たびたびファッション誌にも登場し、ファンからは「ミスター・リーバイス」と呼ばれることもあると言う屈指のデニムコレクター。
デニムジーンズとともに、デニムジャケットも集めている。当時の想いをそのままに、今もGジャンに魅せられている。
「その頃は、セットアップで着るとちょっとダサいという風潮がありました。チノパンやミリタリー系のものと合わせて羽織っていましたね。後にファッション業界に入り、自分で取り扱い始めた事も重なって収集するようになりました。もう17~8年になります」
解説:ヴィンテージ・Gジャンとは?
ヴィンテージの年代に関する定義は、各メーカーやモデルごとに異なり判然としたものはないが、大まかに1970年代前半以前のものを指すことが多い。現在のGジャンの基本形をつくった、リーバイ・ストラウス社の通称「1st」「2nd」「3rd」が代表的なモデルとして知られる。現存する最古のGジャンは、1880年代に製作されたと推定されるリーバイ・ストラウス社のもの。
背中に見える圧倒的な存在感。エクストラサイズの象徴「Tバック」。
業界人として、収集家として、数多のGジャンを目にしてきた藤原さん。長い収集歴の中で、どのようなGジャンを集めてきたのだろうか。
「私のコレクションの中で大きなウエートを占めているのは、モデル名に「E(Extraの意)」の記載がある、通称「Tバック」と呼ばれるもの。大きいサイズのため背中の生地が1枚では足りず、セパレートしているのが特徴です。つないだ跡が「T」の字に見えることから、愛好家の間でこう呼ばれるようになりました」
後ろから一目で分かる「T」のラインが希少性の証。
「以前は数あるヴィンテージの中でも、それほど目立った存在ではなかったのですが、生産数の少なさから近年人気を集めています。私はかなり前からこの「Tバック」に注目しており、「ファースト」で気に入ったものを10枚集めようと思っていたのですが、今はとても手が出る値段ではなくなってしまいました(笑)」
藤原さんのコレクションから一部をご紹介
それでは藤原さん所有のヴィンテージ・Gジャンをご覧に入れよう。どれも愛好家なら目を見張るものばかりだ。
前面にポケットが1つ付いた、シンプルなデザインのいわゆる「ファースト」。入手したのは10年ほど前、年代を考えれば非常に稀な、ワンウォッシュの状態で購入することができたのだそう。この一着にたどり着くまで、同モデルを3着買い替えた経緯もあり、藤原さんにとって一生モノのGジャンだ。サイズは46。
購入時にはすでにブリーチされていたという一着。「70年代あたりに、以前の所有者がほとんど着ないままブリーチをしてしまい、気に入らずに眠っていたのでは……」と藤原さんは推測する。サイズは48。
Levi's 506
Levi's 506の中でも、製造された年代によって少しづつ違いがある。フラップがついていなかったり、シンチバックが違っていたり、ボタンにドーナツボタンが使われていたりとさまざま。中でも物資不足により簡略化して製造されたモデルを大戦モデルと言う。
506の廉価版に当たる213。リネンパッチやドーナツボタンが、506とはまた違った風合いを生み出している。くすんだ茶系の色合いは、一旦ブリーチされ、染められたことによるもの。まさに1点モノだ。サイズは48。
506の内側にブランケットが施された仕様の519。飛び散ったペンキはインパクト大だ。現行の新品でも、ペンキやダメージがデザインされたモデルが数多くリリースされているが、以前の所有者が着用してきた中で自然についた風合いに勝るものはないだろう。サイズは48。
前面にポケットが2つ付いた「セカンド」。「ファースト」で背面に付いていたアジャスターは、サイドに設けられている。ポケットに付いた赤タブには、片面しかブランドネームが印字されておらず、このことから年代を推定することができる。コンディションも良好で非常に希少な一着。サイズは46。
「Tバック」の「セカンド」は、ほとんど現品を見ることができないというほど希少なモノになるのだそう。決してサイズ的に着用してフィットするものではないが、その希少性に惹かれて購入。赤タブには両面にブランドネームの印字がある。サイズは54と推測される。
「ファースト」のデザインを参考に作られたJ.C.PENNEY FOREMOST(J.C.ペニーフォアモスト)の一着。リーバイスのものとは異なる柔らかなタッチのデニムが使用されており、独特の風合いを楽しむことができる。
こちらも「ファースト」がベースとなっている一着。前面にボタンとジッパーが併用されている珍しいタイプだ。ワークブランドならではの軽く動きやすい着心地。サイズは42。
GWGは独特の縦落ち感に定評があるカナダのブランドだが、60年代後半にリーバイ・ストラウス社へ吸収されて現存はしていない。この一着はLeeの101を参考につくられている。
ヴィンテージは一点モノ。だからこそ愛着が湧き、惹きつけられる。
こだわりのヴィンテージ・Gジャンを数多く所有する藤原さん。あえて現行品ではなく、ヴィンテージを求める理由について伺った。
「これはGパンについても同様ですが、正直に言いまして、製品としての品質を求めているわけではありません。私が所有しているGジャンが作られた年代に比べると技術は非常に進歩していますし、日本でも数多くのブランドが良質なジーンズを世に送り出しています。しかし、50年、60年といった時間を経て現代まで残っている一着を手に取り、着た時の特別感は代えがたいものがあります。当時ならではの多少アバウトな部分にも愛着を感じるんですよね」
また、今日のようにヴィンテージを愛でる文化をつくったのは日本人だという、興味深いお話もお聞きすることができた。
「今は世界中でヴィンテージ・ジーンズに対する認知度が高まってきていますが、このような価値観を生み出したのは、実は日本人なんですね。70年代頃、海外へ渡航していたビジネスマンが、本業とは別のところで倉庫に眠っていた大量のデッドストックを安価に仕入れ、日本に輸入、販売した。ヴィンテージ・ジーンズの約50%は日本にあるとも言われているんですよ」
店舗内にはGジャンのほか、ヴィンテージのGパンも数多くディスプレイされている。
ヴィンテージファッションを提案する、店主としての立場からもお話を伺った。
「カジュアルファッションを楽しむ中で、Gジャンは全体のスタイリングによいアクセントをつけてくれる存在。フォーマル寄りのパンツに合わせるもよし、デニムオンデニムでバッチリ決めるもよし、使い勝手に困りません。やはり私と同じように、10代後半でヴィンテージ・ジーンズに憧れ、30代~40代になって少しお金が使えるようになった世代にはぜひ手に取って楽しんでいただきたい。最近は女性の方も、ヴィンテージを普段のファッションの中にうまく取り入れる方が増えてきているので、ちょっと特別感のある一着が欲しいという方は、この世界に一歩足を踏み入れてみてほしいです」
藤原さんが監修した『THE 501®XX A COLLECTION OF VINTAGE JEANS』は、リーバイス501のヴィンテージモデルを掲載したファン垂涎の一冊。
計15着のヴィンテージ・Gジャンを所有する藤原さんだが、コレクターとして今後はどのような一着を探していくのだろうか。
「価格も上がっているので、そんなに積極的になれないのですが(苦笑)。Leeの「ファースト」仕様、1940年代のモデルがあり、これが最終目標かなと考えています。今所有しているコレクション同様に、よい縁があるといいですね」
藤原さんは、2015年にリーバイス501のヴィンテージモデルを多数収録した本を監修されている。
「Gジャンでも、このような形で「ファースト」「セカンド」「サード」を全てまとめた本を出したいと思っているんです」と取材の合間にお話いただいた。
コレクターの枠を越えて、ヴィンテージカルチャーを育む活動にも熱心な藤原さん。
これからの展開にも期待したくなる取材だった。
―おわり―
藤原さんも開発に携わったという、ジーンズ専用の洗剤「BEYONDEXXX」。色落ちを防ぎながら、衣類の汚れを落としてくれる。
BerBerJin
JR山手線原宿駅からほど近くにある、ヴィンテージファッションに特化した老舗古着店「BerBerJin(ベルベルジン)」。店内は2フロアに分かれており、定番モノを中心に所狭しとアイテムがディスプレイされている。コレクターズアイテムも数多く取り揃えており、特別な一着をお探しの方にはぴったりのお店だ。
ワーク・ミリタリー・ストリートを一層楽しむために。編集部おすすめの書籍
世紀を超えるキング・オブ・ジーンズ
1人のヴィンテージリサーチャー(ウラ取り屋)が数々の史料から読み解いたリーバイス研究書。
501XXは誰が作ったのか? 語られなかったリーバイス・ヒストリー (立東舎)
誰もが知る世界最大のジーンズ・ブランド、リーバイス。会社の創始者であり、ジーンズの生みの親として知られるリーヴァイ・ストラウスや、ブランドの代表モデルである501のことは、誰もがご存じでしょう。だが、リーヴァイ・ストラウスは、実はジーンズ作りには関わっていなかった、としたら……?
アメリカン・ヴィンテージ・クロージングを専門とする屈指のリサーチャーである著者の青田充弘氏が、膨大な史料をもとに、今まで日本で定説とされてきたリーバイス神話を徹底検証し、知られざるリーバイス史の真相に切り込んでいくのが本書となります。
「商標を鵜呑みにしてはいけない理由」「ツーホースマークの元ネタは?」「人員募集広告から見る、リーバイ工場の変遷」など、数々の史料から導き出した独自の持論を、多数掲載。
これが真実のリーバイスの物語、かもしれない! ?
終わりに
個人的には今まであまり縁のなかったヴィンテージ・Gジャン。お話を聞きながら実際に現品を目の当たりにしてみると、80年、90年といった長い時間を経過してきた重みを確かに感じました。最近は特にショート丈のGジャンが人気とのこと。Gジャンを着こなすことはもちろん、「ファースト」「セカンド」「サード」が生み出された背景や細かなディテールについても勉強してみたくなりました。