集める、作る、走らせる、撮影する。三者三様の鉄道模型の楽しみ方。
対談前編ではお好きな
Nゲージ 車両をご紹介いただいたんですけれども、実際にその車両を用いて、鉄道模型ファンの人はどういうふうに楽しんでいるのでしょうか。齋藤さんの場合だと作って楽しむ方ですかね。
自分は工作派です。作るという事の楽しさを高校生の頃に知ってしまって。工作の一番のモチベーションは自分の好きな車両が手元に欲しいということ。例えば、新しい新幹線が出た、そういうときにNゲージを買うにはどうすればいいかというと、やり方はいろいろあって、Nゲージのメーカーさんにハガキで「出してください」とお願いする手もあるんですけど、自分は作ろうということで。例えば今回持ってきた「スカイライナー」という成田空港まで走っているものは、走り始めた頃は既製品がなくて、これがどうしても欲しいと思って作りました。図面はたまたまあったんです。
大きいものが形式図という図面、それをもとに齋藤さんが1/150に計算して厚紙にプリントアウトしたものが手前。
これは三面図なので、これがあればボディができるということで、これは厚紙に印刷します。それをペーパークラフト的に切り出して150分の1に小さくして計算して、紙で組みます。
齋藤さんが自作したペーパーフラフトの鉄道模型。手前が京成スカイライナーAE形で、奥が小田急ロマンスカーMSE。製作期間はおよそ1編成2ヶ月程度。
場合によっては関数電卓叩きながらやりましたね。それを塗装するとこんな感じで。
レール に乗せたら分からないですよね。ステッカーとかは自分でプリンタで作ったりして貼って、車輪までは作れないので、ここは既製品の車輪を使って組み立てるという楽しみ方を自分はやっていました。途中から自分は3Dプリンタで模型を作るということを始めました。3Dプリンタで出力したのがこういう感じです。
齋藤さんが3Dプリンタで作成した鉄道模型。向かって右側2つが3Dプリンタで成形されてすぐの状態。車両の長さも短めなミニチュアサイズにデフォルメしているが、これも動力をつければちゃんとNゲージ線路の上の走るという。
3Dプリンタを見たことない方がほとんどだと思うんですけど、積層と言ってプラスチックを溶かして下から積み重ねていくんです。なので、積層痕と言ってギザギザしているのですけれども、これをヤスリで磨いて塗装するとNゲージの車両になります。例えばこれは「
ななつ星 」という九州7県を走る豪華観光寝台特急で有名なんですけど、これはまだ製品化されていないから作ったんです。
ないものは作ればいい! 鉄道模型の自作派がシェアして楽しむ時代に。
今みたいな話だと、鉄道模型が好きだと手先が器用で自分で作るみたいなイメージがあるんですけど、僕は全く不器用で何もできないんですよ。でも、見るのは好き。不思議と時代も変わってきて、「車両もこんなの見たいな」って言ったら、齋藤さんみたい方が現れて、作ってと言ったら、自分がやらなくても出来上がる時代になってきた(笑)。
やっぱり「無いものが欲しい」という鉄道ファンの熱意というのは本当にすごくて、最近は製品化されていない車両がない時代になってきちゃったんです。例えばトミックスさんやKATOさんというメーカーさんも、どんどん新製品開発の速度が上がってきて、自分がびっくりしたのは、北海道新幹線の「H5系」という車両が実車が走り始める前からトミックスさんが出していたりとか、それぐらい早くなってきたんです。そのかわり自分みたいな個人が個人メーカーとして活躍し始めている人もいるんです。自作派がシェアする時代になってきたという感じがしますね。
その分、昔から作っていた小さい模型メーカーが随分と淘汰されちゃった。もう自分で作れるようになっちゃって、大手はだいたい押さえちゃう。今までその隙間を狙っていたのが、だんだん商売にならなくなって、ずいぶん廃業している方も多いはずなんです。見かけなくなったメーカーもあるしね。
さっきも言ったように、ジオラマ文化を普及させなきゃいけないんでね。日本人て非常に収集癖があるの。何でもとにかく集めるの。模型車両を買っても動かさない。ところがドイツなんかに行くと、買ったその日に自分のレイアウトに持っていって走らせるわけです。 買ってきた車両をそのままストックにしておくのは、それは本当に本末転倒だよね。僕らは、もちろん物を作ったら走らせたくなるし、榎本さんは走っている風景を見て癒される人もいる。グルグルゆっくり回っているものを見るだけで、医療的に癒し効果もそうです。うちは結構心療内科にもレイアウトを入れてるの。
とにかく黙って動いてるとこれだけで癒されちゃうの。だから観覧車も出しているの。ぼくはけっこう癒されていない人のお仕事もしているから。ゆっくり回ると心が落ち着くんだって。これが早く回るとダメなの。疲れちゃって。
集めて満足しているだけじゃもったいない! 鉄道模型は走らせてナンボ。
うちの(お客さんで)年配のおじいちゃまが、ほとんど走らせていない車両を持っていて、お亡くなりになった方も結構いらっしゃるの。残った未亡人はそれをうちへ持ってきて処分をお願いするから、僕が
天賞堂 さんへ持っていったんです。買ってくれるところがあるから。そうすると、買った値段の4分の1とかになっちゃうじゃないですか。だったら、走らせたほうがいいじゃないですか。そういうことが何度かあったので、これはジオラマをどんどん普及させようと。そうすれば走らせるようになるから。だから結構いいことしてるんです(笑)。
自転車だって、自動車だって走らせなきゃ。そのままにしていても価値は下がってるじゃない。だから20年前に比べると、それはうちの貢献度ではないんだけど、日本でも走らせる人が増えたんです。分かったんだよ、少し。走らせた方がやっぱり楽しいという事が。
それで走っていると楽しくなって撮りたくなるんですね。
確かにその通りです。これ(ジオラマエクスプローラー)で追いかけたりしたくなります(笑)。
ソニーのカメラを搭載したジオラマエクスプローラー。システムを開発したのはなんと齋藤さんの会社?? 詳細についてはこの後のお話で。
運転手の目線で楽しむ! 操作と撮影が同時にできる渾身の新システム登場。
今までは走っているのをカメラを構えて撮っていたんですよね。
今までもカメラカーというのはあったの。でも画像が悪くてレールから電源を取ったり、電波を飛ばすと画像が乱れるの。でも今彼が開発しているのは、画像が見れば全く違うものです。
デジタル放送と昔のアナログ放送の違いぐらい。もっと違うかもしれない。
かなり鮮明です。やっぱり広角で幅広く見えるのが売りなんですけど、昔のカメラだとカーブの先までは見えなかったりするんです。例えばこれだとカーブの先まで見えたり、隣を通過する車両とかがちゃんと綺麗に見えたりするので、運転席にいる感覚で景色を見ることができます。
タブレットとカメラ車両を手に解説する齋藤さん。
このカメラ自体はソニーさんの商品なんです。ソニーさんは、もともと遊び心があって、昔Nゲージを作っていた会社なんです。やめちゃったけど。
実は日本で初めてNゲージを出したのはソニーさんなんです。今、そのNゲージは本当にプレミアがついてますね。
多分ソニーが本気を出して作ったら……世界のメーカーだから。こうやってカメラカーとか作るじゃない。これはたぶん作った人の中に鉄ちゃんがいるのよ。鉄道の好きなヤツが。揺れもちゃんと吸収するように作っているのはすごいよね。そこがソニーだね。
これは本当にエヌゲージャー(鉄道模型のNゲージを楽しむ人たち)に一番売れているカメラなんです。
Nゲージャーの気持ちを汲んで開発されたんですかね。
ソニーの方に聞いたことがあったんですけれども、「そういうわけではない」と(笑)。
しかし、このカメラ、本当に絶妙なNゲージサイズで、トンネルを通り抜けたり、車両と車両がすれ違う時のぶつからない限界ギリギリなんですよ
鉄(オタク)成分も盛り込みつつ、誰もが操作して楽しめることを目指しました!
カメラで撮った動画を再生して見て楽しむんでしょうか?
そうですね。今まであった遊び方は、カメラを貨物の貨車に乗せて走らせて、後で撮った画像をSDカードでパソコンに移して見るというものでした。走らせる時の運転コントローラは今までぐるぐる回すアナログなタイプたっだんですが、これからはタブレットで撮影している動画を見つつ、操作しましょうというのが、僕たちが開発したジオラマエクスプローラーなんです。 自分が車両に乗って運転しているような感覚になるというコンセプトです。
すれ違う車両の様子もバッチリ。運転士目線でジオラマ内を自由に駆け抜けることができる!
ちなみに今年は東京・
松屋銀座の鉄道模型ショウ を始め、大阪での鉄道イベントなど3回ほどデモンストレーションをやったんですけど、ものすごい反響ですね。
鉄道が好きな齋藤さんならではのこだわりが、そのモニターの中に入っているんですか?
うちの会社に「鉄」が自分しかいないんで、開発段階では細かに途中で自分が「鉄チェック」をして(笑)。「ちょっとこれは違うな」とか、操作感にすごいこだわりました。でも、逆にリアルにしすぎるというのも……。最初は、実は画面を運転台にするという案もあったんです。電車のメーターがあってハンドルがあって。そうすると画面のここが隠れちゃうんで、あんまり面白くない。自分がジオラマに入っている気がしないんですよね。
VIDEO
パノラマ渋谷店のジオラマ内を駆け抜けるジオラマエクスプローラー。
その通りです。「プワァーーーーン」。警笛の音も、うちで作っているんです。録音とかじゃなくて。最初はもうちょっと違うような音で、「警笛ってこういう音じゃないんだよな」みたいな。警笛の種類についてまず3種類ぐらい解説を始めたり(笑)、いろいろなこだわりがあります。
実際の鉄道のハンドルをもとにしているんですけど、右側にブレーキハンドルがあって、左側にマスコンがあります。ブレーキを解除してマスコンをガチャガチャガチャと下ろすと電車の速度がちょっとずつ上がってくる。マスコンをゼロに戻すと電車が定速になる。ブレーキをかけて減速していく。そういう走行の仕方なんです。それをかなり忠実に再現したんです。
齋藤さんがこだわったという手元の操作感。右親指でブレーキ操作、左親指で速度操作をする。
電車の一番前に乗ればただで見れるよ。乗ったことない? あと時々、運転席の後ろで白い手袋をして、運転士と一緒に「出発、進行」ってやってるヤツ、見たことない? 帽子かぶっちゃって。中には制服まで着始めている人もいるから。「側面ヨシ」とか言って(笑)。あぶねぇなこいつみたいな。でも、基本的に嫌いじゃないけどね(笑)。
ジオラマの高架下も難なく通過する絶妙なサイズのジオラマエクスプローラー。
ちなみにこれだけ画質が良くなると、作っているジオラマがヘボだと画面に出ちゃう。こんななって曲がったりしていると。だから、こういうものは逆にジオラマを作る僕らとしては手が抜けなくなっちゃう。
トンネルの中だとか、普段見えないような、橋げたの裏とかも見えちゃいますからね。
上位入賞は女子高校⁉︎ 若い世代の間でも盛り上がる鉄道ジオラマコンテスト。
今、銀座松屋さんでのイベントの話もありましたけども、日本各地で鉄道模型のイベントがあるんですね。いろいろな盛り上がりの中でも、高校生のイベントがあるとか?
数年前ぐらいから女子がすごく強いんですよ。手先だったり感性が男の子と違うので、香り付きのジオラマを作ったりとか。ドールハウスだとかって、女性の方は結構やられたりするじゃないですか。何かそういう感じで見て楽しいジオラマを作ってくれますね。 高校生の模型のコンテストで楽しいのは、彼らはお金を持っていないんですね。部費とかもそんなにないので。その中でいかにジオラマを作るかというところなので、ぞうきんを材料に使ったり(笑)。
もういくらでも。100円ショップに行くとジオラマの材料っていっぱいあるの。
100均のものでいろいろ組み合わせたりだとか、建物とかも高くて買えないから紙で作ったりとか。創意工夫がすごいですよね。あとやっぱり“負けたくない”という熱量がすごい。言ってしまえば甲子園みたいな感じなので。他の高校に負けじと、大人相手に「見てください、見てください。ここにこだわりました」ってプレゼンしてくれたりとか。
パノラマ渋谷店のジオラマ。よくよく見ないとわからないような細かな部分まで作り込まれているのがジオラマの魅力でもある。
そのイベントは、自分が高校時代にあったらいいなと思っていました。卒業してからできたんです。
まだ5回目ぐらいだけど、毎年盛り上がりがすごいよ。
最初はそんなに出場校がなかったんですけど、途中から一気に増えてきました。テレビで紹介されたというのが結構大きかったかもしれないですね。『笑神様は突然に…』という番組で特集を組まれたことがあったんです。
鉄道BIG4 という……。そこで女子の人がやっているというのが取り上げられて。あれはすごく面白いですよね。自分の後輩とかも出たりしているので。
そういった若い世代の盛り上がりもあったりするんですね。
お金がなくてもクリック一つで始められる鉄道模型ライフ。
鉄道模型についてお話を聞かせていただきましたが、まだこの世界を知らない人に対して、どういうところから入って行ったら楽しめるのか、どういうふうに楽しんだらいい世界なのか、お話していただけますか。
僕は商売がてらで言うわけじゃないんだけど、方法は二つ。一つはお金がある人とない人で多少入り方というのは違うよね。 まず、ない人から言うと、これはもう完全にWEB。特にyoutubeで鉄道模型だとか鉄道情景だとかジオラマというキーワードを入れると、ものすごい数が出てくるの。だから、まずはそれで。自分の自慢をしたい人もいるから、すごく丁寧に作っている人もいるし、これだったらWEB上でお金もかけずに楽しめるので。
お金のある人は(鉄道模型の)先進国であるドイツの鉄道情景を体験したらいいと思う。中でも一番有名なのはハンブルグにある
ミニチュアワンダーランド に行ってみてほしい。
特に女の人のファンも多いし、年間100万人。2000年オープンで累計入場客数が1,300万人ぐらい。それが日本人が何人来たとか全部カウントされているの。確かに聞かれるの。「Where are you from?」って。「Japan」とか「Korea」って言うとボタン押してるの。すごくアナログ的なんだよ。ちなみに日本人は2000年オープン以来2万5,000人。チャイニーズはすでに3万5,000人でも人口比から言ったら……。
では、お金のない人はWEBから、お金のある人はドイツに行こうと。
そう、ドイツに行こう。やっぱりドイツ人の仕事は非常に細かいんです。騙されたと思ってミニチュアワンダーランドというWEBを覗くと、飛行機は飛ぶし、船は水の上をちゃんと走ってるしね。
VIDEO
ミニチュアワンダーランド公式動画がこちら。
まずは検索してみて、そして展示してあるものを見に行くということですね。
あと最初からそんなに難しく考えなくていいと思うんです。もう開かれていると思いますので。私たち(ファン)はね、いつでも待っているという感じですので。
(お店でも)結構隣に座っている方が教えてくださったりとか結構ありますよね。鉄道ファンは話すと優しい方が多いですよ。
自分はまずキーになる車両を1個買うといいと思います。別に7両とかのフル編成で購入しなくていいんです。ちなみに円周線路とコントローラーと新幹線の「のぞみ」3両セットで1万6,000円ぐらいのパッケージが出ていますしね。自宅で走らせなくても、このバー銀座パノラマさんもそうですし、
レンタルレイアウト さんや、模型屋さんにジオラマがあるという場所もあるので、そこへ自分で持ち込んでとにかく走らせてください。そうすると、多分次の欲求が湧いてくると思います。例えば自分はイギリスの話をしましたけれども、イギリスに行った思い出があれば、今WEBで買えるのでイギリスの車両を買うとか、ドイツの車両買うとか、とにかく自分のキーになる車両を頑張って一つゲットしてみるというのはいいと思います。
ダメだよ。ドロ沼にはまっていく。買ったらもうダメだな(笑)。我慢しないと。
最後はジオラマが欲しくなるかもしれないなと、最近自分は思っています。
線路を持っていなくてもいいんです。Nゲージの車両を1個だけ持っていれば、いくらでも遊ぶ方法はあるので1両買いましょう。
バー銀座パノラマ渋谷店
コンセプトは鉄道模型が走るバー。店内中央約7平米弱ほどに設置された精密かつ迫力ある鉄道模型ジオラマが見もの。渋谷のトレードマークとも言える渋谷109、スクランブル交差点など駅前の風景もリアルに再現。その他にも住宅地や川沿い、山間なども細かに表現され、走り抜ける列車風景と一緒に思わず見入ってしまう。ドリンクメニューには「ロマンスカー」「ドクターイエロー」など鉄道車両をイメージしたカクテルも。鉄道ファンはもちろん都会の喧騒に疲れた大人たちにもオススメしたい癒しの空間だ。
鉄道模型の新しい楽しみ方を提案するシステム「ジオラマエクスプローラー」
齋藤さんが勤務する会社 株式会社システムゼウスが開発。ジオラマの中で運転士目線で運転操作、撮影ができるシステム。真の鉄ちゃんである齋藤さんが中心メンバーとなり、操作性、効果音など細かな部分にまでこだわって開発。初心者にもわかりやすく、鉄道模型ファンにも愛を感じてもらえるような出来栄えとイベントでの反響も上々だ。 ※2016年12月現在はDiorama Explorerは試作段階で、販売について検討中。
鉄道模型を一層楽しむために。編集部おすすめの書籍
コレクションを充実させたい人!これから模型を始めたい人も!
Nゲージカタログ 2021-2022 (イカロス・ムック)
2020年7月から2021年6月までに発売された新製品を、1両ずつ写真入りで紹介。ほしいモデル、買い逃したモデルを探すのをサポート。また、主要模型メーカーであるKATO、TOMIX、マイクロエース、グリーンマックス、MODEMO、ポポンデッタのラインナップの特徴や最新情報も収録。
Nゲージレイアウトを作るための「50」のプラン集
Nゲージレイアウトプラン集50
鉄道模型を走らせるレイアウトを作るには、正確な部品配置の図面と、どんな情景を作るかといったイメージの両方が必要です。しかしこれを両立させるのは至難のワザ。そこで池田邦彦氏の登場です。鉄道漫画で人気のある氏は、レイアウトの図面・イラストの両方を手がけることのできる第一人者でもあります。魅力ある情景イラストと正確な図面、そして綿密なテーマ設定の元に作られた50のプラン。カトーのユニトラック、TOMIXのファイントラックの両ブランド対応。