初めて鉄道模型を手にしたのは3歳のころ。物心ついた頃から英才教育を受けていました(笑)
今回は鉄道模型を楽しむ皆さんにお集まりいただきました!まずは、簡単な自己紹介と皆さんが鉄道模型に出会ったきっかけをお話しいただけますでしょうか。
バー銀座パノラマ渋谷店という鉄道模型が走るバーを運営させていただいております。
小さい時に住んでいた家の部屋の窓から電車が見えていたんです。それをずっと見ていた少年時代を過ごして、そこからずっと鉄道が好きでした。一時期、少し離れていた時期もあるのですけれども、こういった模型を見ながら飲めるバーがあるということを知ったのが鉄道模型との出会いでした。実は私は最初このお店の客として来ていたんです。前のオーナーさんが辞められるという話を聞いて、「やらせてください」ということで引き継がせてもらって、7年目になります。
バー銀座 バー銀座パノラマ渋谷店の2代目店長榎本さん。今回の対談もバー銀座パノラマ渋谷店にて撮影させていただいた。
ジオラマ製作会社を運営しています、三宅です。
僕も京浜急行のそばに住んでいましたから、小さい頃から鉄道の車両を見るのが好きというのは、多分榎本さんと共通項目かもしれない。
学校を卒業してから20年ぐらいはサラリーマンをしていました。40歳を過ぎて、そろそろ自分のやりたいことをと思い、当初は農水省のグリーンアドバイザーという、要するに庭師になりたかったんです。サラリーマンをしながら園芸相談を受けたりなんかして……この話ちょっと長くなるけどいいんですか?(笑)
右から三宅さん、齋藤さん。対談開始から会話も弾む。
ある時、女房の兄がアメリカ人女性と結婚することになって、彼女のお父さんが日本に来たんですね。そのお父さんが鉄道好きだったんですが、帰国するタイミングに「お土産に何が欲しい?」と聞いたら、「ダイオラマ」(ジオラマ)って言うんですよね。当時銀座にある
天賞堂さんとか伊東屋さんが鉄道模型をやっていましたので行きましたが、材料は売っているのに気軽に買えるような完成品としては販売されていなかったんですよね。「じゃあ自分で作ろうか」ということで作ったら、大変喜んで帰っていただきました。それが初めてのジオラマ製作でしたね。そのあとバイヤーに昇格した伊東屋の担当者から問い合わせがあって「うちにも2〜3台作ってもらえませんか」と。
それくらいから段々と始まっていって、最終的には東急ハンズさんに納品させていただいたり、少しずつだけどジオラマの需要が出てきたんです。1997年に今の会社を創業して来年で20周年です。ちなみに我が社の社訓は、「日本にジオラマの文化を普及する」。そういうつもりでやっています。
「いつから電車が好きなんですか?」と聞かれるんですけど、自分は26歳で鉄道マニア歴26年とよく言っているんですけれども(笑)、物心ついた頃からすごく電車が好きでした。もともとおばあちゃんが品川に住んでいたんです。思い出深いのは、品川の田町基地によく連れて行ってもらって留置している電車を見たりとか、山手線、京浜東北線、東海道線、新幹線も通ります。そこで鉄道の「英才教育」を受けながらという感じだったんです。
皆さんプラレールとかを小さい頃にやると思うんですけれども、もともと鉄道模型に触れ合ったきっかけというのが、3歳ぐらいの時に
Nゲージ(当時出たばかりの300系新幹線のぞみ)を買ってもらちゃったことなんです(笑)。今でも大事に持っています。たぶんまだ走ると思います。
齋藤さんが3歳の頃初めて買ってもらったというNゲージ 300系新幹線のぞみ。
好きでしたね。小学校の頃は買えなかったのでそんなに遊んではいなかったのですが、転機になったのが中学生の頃。中高一貫の男子校で鉄道研究部という部活に入ったんです。そこでは、文化祭までに1年間かけて教室いっぱいにジオラマを作ってお客さんに見せるという活動していて、入部当初は先輩に指示を受けて路線を引いたり、バラスト(砂利)をまいたりという作業をしていたんです。
高校1年生ぐらいの時に、電車の色を自分で塗り替えてみて「車両の加工って面白いな」と思ったのが鉄道模型にはまるきっかけでした。
で、今回対談出演者のみなさんはお知り合なんですよね?
はい。こちらのお店には何度も遊びに来ていました。三宅さんは、榎本さんにご紹介いただいたんです。
僕が働いているシステム開発の会社、システムゼウスは鉄道に一切関係がないんですが、たまたまオフィスを引っ越す際に、「来客スペースにジオラマを置いたらどうですか?」と提案したところ通ってしまって。そこで、一度取締役とお店に遊びに来た時に「これぐらい置きたいね。ちなみにジオラマはどちらで作られたんですか?」って聞いたら「
ディディエフさんです」と。「ディディエフ、さすが!」って思いました。
中学生の頃、BSの番組で三宅さんを見たんです。鉄道模型を作る番組があって、そこで三宅さんが伊豆に行ってジオラマを作るところを密着取材するんです。情熱大陸みたいな感じでした。「こんな人いるんだ」と思っていたら、まさかそんな人に会えるんだと感激でした。
店内中央に設置された模型はDDF製作の物。バーの空間に合わせて渋谷駅前の夜の風景が表現されている。
渋谷のシンボルとも言える駅前スクランブル交差点の混み合う様子も見事に再現。
鉄道は会いに行けるアイドル! 手に入らないからこそ鉄道模型に夢中になれる。
みなさん鉄道がお好きなようですが、鉄道ファンと鉄道模型ファンは同じなのでしょうか? 楽しみ方に違いがあるのか、棲み分けているのか、そのあたりが気になるんですけどどうなんですか?
全部が全部じゃないんだけど、鉄道模型好きな人は、たぶん鉄道嫌いじゃないよね。大きく分けると、一番は本当の鉄道ファン。その中でも乗る専門は「乗り鉄」だよね。カメラで写すのが「撮り鉄」、模型で楽しむのが「模型鉄」。今は女の人の「女子鉄」がいるわけでしょ。
鉄道と言っても本当に細分化されていて、音楽鑑賞が趣味ですと言っても、みんなそれぞれ好きなアーティストがいたり、好きな音楽のジャンルが違うのと同じだと思うんですよね。鉄道が好きというのは、それはそれなんですけど、そこから細分化していくと本当にいろいろな楽しみ方があって。
例えば鉄道の写真家って結構いるんだけど、写真家によっては本当にハードの部分の車両だけを写す車両カメラマンと、情景をちゃんと入れて季節感を出して撮影する情景カメラマンもいる。橋があったりトンネルがあったり、手前に小枝を入れたり、遠くのほうに車両が見えるとかね。写真を写す人だけでも好みが細分化されるんです。
鉄道ファンの仲間がいても、鉄道模型をやっていない人ももちろんいます。あと鉄道模型を始めたきっかけって自分の好きな車両を手にしたいというのが一番にあると思うんです。車は買えるじゃないですか。でも電車は買えないんですよ。鉄道は公共物なので。そうなるとこのサイズで手元に持ちたいというのが欲求としてあると思うんですよね。
そうだね。ちなみに本物の車両が1両いくらかって知らないでしょう。16両編成だと新幹線がいくらって知らないよね。
もうちょっと。億だよ。昔は5千万で
EF63が買えたんだよ。昔は「東芝製5,300万円」とか価格が出てたの。ちょっと頑張れば買えるかもしれない?(笑)
ちなみに、南海電鉄の
ラピート号の先頭5メートルの1分の1の模型を作った時に……ラピートは先頭車が10億円かな。さすがに10億円をぶった切って展示するわけにはいかないので、
FRPで1,000万ぐらいで作ったんだよね。だから、新幹線1編成は相当の価格でしょうね。
自分は昔から「鉄道はアイドルだ」と言い続けているんです。写真も撮るし、写真も本もアイテムとして持っていきたくなるし、グッズも欲しくなる。で、駅に会いに行く。
皆さんどこかで鉄道が好きになったのでしょうけれども、実際にお店に来て好きになった人もいるんですか?
そういう方もいらっしゃいますね。鉄道が好きな方に連れられて来た方が、「あれ、こういう世界があったんだ!」って。
3名のお宝鉄道車両公開。ファンも唸る、試作品で終わった幻の鉄道模型。
皆さんにお好きなNゲージ車両を持ってきてもらいましたので、見せていただきながらお話いただきたいと思います。まずはお好きなNゲージ車両の紹介と、好きな風景とかジオラマがあればそれも一緒に教えてもらえますか。
僕の思い入れのある車両は、鉄道コレクションのJR
201系中央・総武緩行線です。モーターは入っていないんですけど、それこそ職場のデスクの上に置いたりすることもできる。実はちゃんとしっかりした作りになっています。
昔、中野のほうに住んでいたので、窓から見える車両が黄色とオレンジの電車だったんです。幼稚園ぐらいの時だったかな、「201系」という新型車両が出て、「これに乗りたいな」と思っていたものだったんですね。それで思い入れが強くて。これだと買いやすい価格で買って並べることができるので、走らせるまでいかなくても好きな車両を眺めたいなという方にオススメなんじゃないかなと思っております。
では、車両と合わせて中央線、総武線の風景もお好きなんですね?
好きなんですよね。リアルはどんどん新しくなって快適になるんですけど、私の目の前にある車両は、いつでもその時間に戻れると考えています。そういう楽しみ方もあるのではないかなと思っております。
いま話をしていた中で、榎本さんは「201系」と言うんだけれども、鉄ちゃんの共通の用語では、山手線とか中央線と路線名だけではまず言わない。「205系」とか「101系」とかこの部分までは分からないといけない。新幹線の「のぞみが好き」って言う方がいるけど、「のぞみ」を名乗る車両には「300系」も「700系」も世代交代してあるからね。やはり僕らは「系」で言います。700系でもN700系とかね。じゃあそのNは何でだって話が続いちゃう(笑)。鉄はね、一日では鉄にはなれない。
鉄は一日にしてならず(笑)。そういうの大事です。「ナントカ系」っていうのは。
ちなみに僕の持ってるのは485系。日本の車両らしくないカラーリングが好きです。
しかもこれは「なのはな」なんだけど、「ニューなのはな」。たぶんこれは鉄道模型メーカーさんは発売してないよね。
自分これ、作ろうと思っていました! 出ていなかったので。最近、確か
マイクロエースさんが塗装違いのモデルを出していましたね。
※マイクロエースから製品化されているのは、485系の別カラー「華」「やまなみ」「せせらぎ」タイプ。「ニューなのはな」は未発売。
当時は弊社も鉄道車両を若干作っていたんです。ただ、マイクロエースさんが今後出すなら、試作の1号だけで止めておこうと。だから幻の1号で、これしかないんです。
すごい。感動です。悲しいことに、最近実車が廃車になってしまったので余計に。
お座敷電車だったんですよね、これ。千葉のほうとかよく走ってました。
私は一番思い出深い車両と言うことで、クロスカントリーというイギリスの鉄道会社の
クラス170。イギリスの鉄道ファンは「ワン・セブンティー」と言うんです。自分は昔から海外の鉄道にすごく憧れていて、海外に行ったらそこの車両は買いたいという夢があったんです。たまたま大学生の時に語学研修で1カ月イギリスに行く機会があったんです。現地の本屋さんで鉄道雑誌を漁って、週末は巻末に載っていたお店情報を元にお店巡りをして…。
はい、ロンドンの模型屋さんでようやくこのNゲージに出会ったんです。イギリスは
OOゲージ(ダブルオー)という規格がメインで、
HOゲージと言われているちょっと大きいサイズの76分の1スケールなんですけど、それがメインなんです。お店の人に「Nゲージないですか?」って聞いたら「Nゲージかぁ。日本人は好きだけど、あんまりNゲージはないんだよな」とか言いながらいっぱい出してきてくれた。その中で自分の乗った車両というので、このクロスカントリーという、イギリスのイングランドのヨークやケンブリッジ周辺を走ってる車両がちょうどあったので買いました。結構高かったですけど。
当時購入したというイギリスの鉄道雑誌、状態もとても綺麗。
齋藤さんがまさに参考にしていたお店情報ページを見せてもらった。
これは確か2万円ぐらい。その時、ポンドのレートが結構高かったんですよ。自分がその時持っていたクレジットカードがその後使えなくなってしまって、これのせいだったという(笑)。 家に帰ってこれを走らせるだけじゃもったいないなと思って、イギリスで撮ってきた写真でジオラマを作りまして、これはイギリスの田舎風景みたいな感じで。
例えば石垣とかは実際自分が見たような光景だったりするんですけど、そういうのを作ったりして鑑賞用として眺めています。
いいねえ。心象風景をジオラマにするというのはいいんだよ。
自分の夢の光景なんです。自分はイギリス車が好きなんで、ミニクーパーをここに置いたりとか。ちなみにこれは、ミスタービーンが乗っているミニクーパーなんです(笑)。そういう細かい設定なんです。私には、これが宝物の車両です。
鉄道模型を手に取れば、自ずとお国柄もわかる⁉︎
ちなみに一つだけ解説。イギリスの車両の特徴。正面が黄色いでしょ。これは警戒色と言って、イギリスの車両のお約束なんです。今、イギリス向け車両は日立も作ってるんだけど、みんな先頭が黄色なんです。フランスとかドイツの車両は黄色じゃない。ちなみにこの「なのはな」はリスペクトしたかインスパイアしたかでちょっと黄色入れてみたんだけど、やっぱりやめたんだろうね。これは、そこからヒントを得ているの。
それから自分はイギリスの車両の虜になってしまいました。
蒸気機関車以外はどんな車両でも郊外型の車両でも全部黄色を入れないといけない。この辺は鉄ちゃんでもちょっと高い部分の知識なんです。
見るとお国柄が色々分かりますね。他のヨーロッパの国には特徴はあるんですか?
乗り入れる国によって違うんだけど、例えばドイツの車両みたいに自国内とフランスやオランダにも行っていると、どう違うかというと、運転席が真ん中にあるの。普通は左右どっちかなんです。日本の場合は左にしかない。進行方向の左側。なぜかというと、信号機とか走っているものに対する情報が左側に集中しているので、運転席は左なんです。ところが、ドイツの車両がフランスへ入ると方向が逆になって右側通行が左側になるので、運転席が離れちゃうから、じゃあ真ん中にしようと。これもちょっと高度な話ですね。
もちろん再現されていますよ。車両1個手に取るだけでお国柄が分かるという。国によっては
パンタグラフが二つ付いていたり。
そこが精密に再現されてるというところが鉄道模型の良さなんでしょうか。
バー銀座パノラマ渋谷店
コンセプトは鉄道模型が走るバー。店内中央約7平米弱ほどに設置された精密かつ迫力ある鉄道模型ジオラマが見もの。渋谷のトレードマークとも言える渋谷109、スクランブル交差点など駅前の風景もリアルに再現。その他にも住宅地や川沿い、山間なども細かに表現され、走り抜ける列車風景と一緒に思わず見入ってしまう。ドリンクメニューには「ロマンスカー」「ドクターイエロー」など鉄道車両をイメージしたカクテルも。鉄道ファンはもちろん都会の喧騒に疲れた大人たちにもオススメしたい癒しの空間だ。
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Nゲージレイアウトプラン集50
鉄道模型を走らせるレイアウトを作るには、正確な部品配置の図面と、どんな情景を作るかといったイメージの両方が必要です。しかしこれを両立させるのは至難のワザ。そこで池田邦彦氏の登場です。鉄道漫画で人気のある氏は、レイアウトの図面・イラストの両方を手がけることのできる第一人者でもあります。魅力ある情景イラストと正確な図面、そして綿密なテーマ設定の元に作られた50のプラン。カトーのユニトラック、TOMIXのファイントラックの両ブランド対応。