井本 貴明
いろいろなWebサービス作っています。 浦和レッズ、ヨーロッパサッカー中心の生活。 何か面白い企画があったら、ぜひ仲間に入れてください! 好きな映画は、「LOST IN TRANSLATION」。
取材・文 / 井本 貴明
写真 / 平瀬 夏彦
20世紀の終わり、世の中がスニーカーブームだった。あれから15年が経ち、街中ではあの頃のスニーカーをよく目にするようになった。Nike、Adidas、Reebokなどが復刻版を出したのがきっかけで、ファッション雑誌などでは、”スニーカーブームの再来” などと紹介している。
今回はニューヨークで靴のバイヤーとしての仕事をしていた経験もあり、各社の限定モデルなどを数多く所有している柿内さんにスニーカーを集める楽しさを聞いてみた。
コレクション・ダイバー【Collection Diver】とは、広大なモノ世界(ワールド)の奥深くに潜っていき、独自の愛をもってモノを採集する人間(ヒト)を指す。この連載は、モノに魅せられたダイバーたちをピックアップし、彼ら独自の味わいそして楽しみ方を語ってもらう。
目次
柿内さんのスニーカーが飾られている自宅兼コレクションルームを訪ねたのは、冬から春へと季節が変わる頃だった。指定されたマンションの一室を案内してもらい、ドアを開けると、そこには無数のスニーカーが壁に並んでいた。まるで、スニーカーショップに入ったような雰囲気。唯一違うのは、そこには新品の靴よりも、履いた形跡のある靴が並んでいる。
「現在、スニーカーはたぶん350足ぐらいあると思います。366足までは数えていました。366足目を手に入れたときは、『これで1日1足履いても、1年間違う靴を履けるんだ!』と思いましたね。その後、知り合いやどうしても欲しいという人に靴を譲ったので、かなり数は減りました。今でも、1、2ヶ月に1回程度で靴を購入しているので、300足から400足の間だと思います。もう、Tシャツを買うような感覚ですね。」
(左)柿内さんの自宅にコレクション部屋。壁一面にスニーカーが並んでいる。
(右)柿内さんが一目見て衝撃を受けたAirMAX97(日本では、AirMax98と呼ばれている)。
300足以上の靴を集めたコレクションライフは、小学生5年生の時に出会った1足から始まった。それは、「Air Jordan 1(赤×白×黒カラー)」の復刻モデルである。漫画「スラムダンク」が好きだった少年時代の柿内さんは、この靴をどうしても欲しくなり、クリスマスプレゼントで母親にお願いをして買ってもらった。
そして、柿内さんが中学1年生の時に、日本中の若者がスニーカーブームで熱狂。中学校の先輩や友達が、かっこいい洋服、靴を身につけ始めたのだ。欲しい気持ちが高鳴り、高校時代には、靴や洋服を購入するためにアルバイトに明け暮れた。
そして、高校3年生の頃には所有している靴の数が100足を超えていた。
柿内さんは、基本、街中のショップではスニーカーを購入しない。主に利用するのが、ネット販売、オークション、アウトレット、Employ Store(靴の会社の従業員向けセール)、Swap Meet(あまり裕福でない人が足を運ぶ地元型のStore)である。
そして、そこでかっこいい靴を見つけても、2つのポリシーから外れていたら購入をしない。その2つとは、「定価を超えない」「サイズが28.0cm」。
柿内さんは、オリジナルのデッドストックだろうがコレクターの間で貴重とされているビンテージスニーカーだろうが、実際に履くのだ。気持ちよく履くためにはサイズが重要である。そして、柿内さんのコレクションの中には、定価の数倍の値段が付いているスニーカーが数多くあるが、それらを全て定価以下で手に入れたというのは驚きである。柿内さんにとって、プレミアム価格とは後づけの結果であり、重要なことでないと言う。
2つのポリシーをクリアした靴の中から、購入する靴を選ぶ際に重要視するのが ”ギミック” である。日本語で訳すと”仕掛け”、”からくり” のような意味になる。例えばNikeの「Vandal」という靴は、一見普通の靴に見えるが、よく見ると靴の表面にLAの街の地図がプリントされている。Adidasの「Super Star City Tokyo」では、靴の表面に目立たないように東京をイメージしたカラスの模様が刻印されている。VANSの「Syndicate Mr. Cartoon SK8」では、靴の中敷に翼が生えた女性が描かれている。
柿内さんは、このように ”靴の作り手が自ら楽しんでいることを感じられるギミック” が好きだと語る。
AdidasがSUPERSTARの35周年を記念して、世界各都市をイメージした靴を販売。Tokyoモデルでは、靴の側面にカラスの模様が記されている。
VANSの「Syndicate Mr. Cartoon SK8」。 Mr.CARTOONという彫り師がデザインしたキャラクターをプリントしており、インソールには女性のキャラクターが描かれている。柿内さんが、ニューヨークのSupreamで購入した一足。
関連記事
集めたスニーカーを実際に ”履く” ことを重視する柿内さんの楽しみは、靴を中心にファッションを合わせることである。靴を履きたいから、洋服を選ぶという感じだ。ちなみに、最近のお気に入りのファッションは、派手な靴を選んで洋服は全てシンプルというようなスタイルだと言う。
柿内さんは靴と洋服の組み合わせを決める時にも、こだわりがある。それは、ブランドで揃えることである。
「Adidasの服には、Adidasの靴を履きたい。上着がAdidasでパンツはPuma、そして靴はNikeというような組み合わせは絶対に無しですね。組み合わせのガチャガチャ系はやらないです。そこは、僕のこだわりです」
300足以上の靴の中から、毎朝履く靴を1足選ぶのは大変だと思う人もいるかもしれない。その考えは、柿内さんにはない。毎日が楽しい瞬間なのだ。
Adidasマイクロペーサーの復刻。 万歩計を靴のベロに付けてしまう、斬新なアイデア。 当時は、マイクロペーサーの上着もあり、袖の部分にデジタル万歩計が付いていた。柿内さんは、その上着と靴を一緒にスタイリングしていた。
柿内さんに、いま欲しい1足を聞いてみた。
それは、映画「Back To The Future 2」の中で、未来である2015年にタイムスリップした主人公のマクフライが履いたNikeの靴「Nike Air Mag」だと言う。(ファンの間では親しみを込めて「Airマクフライ」と呼んでいる)
Airマクフライは、履く人の足に自動でフィットする未来型のコンセプトシューズであった。当時、映画を見ていた人の誰もが驚いた1足である。4年ほど前にファンの方が実際にAirマクフライを販売して欲しいとNikeに要望し、Nikeが開発をして1500足限定で実際に販売された名品である。
(参考:2016年春にオークション形式で再発売されるとの報道がNikeから発表された。)
Nikeが作成した「Nike Air Mag」のコンセプト映像
小学生の頃からスニーカーを集めはじめた柿内さん。
それから20年近く経ち、スニーカーを集める上で心の変化が生まれたと語る。
「昔、アメリカで靴のバイヤーをしていた時代は、靴を買う事に行き過ぎた時代がありました。25歳ぐらいの時に日本に帰ってきてからは、靴を”集める”ことから、”使用したい”という考えに変わりましたね。スニーカーは劣化する特性があるので、良い状態の時に、その靴と思い出を作りたいと考えるようになりました」
「靴を使用したいと強く意識するようになってから、靴のダメージが減ってきました。基本的な事ですが、雨の日は履かない、擦らないように歩くなどを実践しています。最近は、靴が壊れるという事が本当に無くなってきましたね。」
良い状態の時にその靴を使用して思い出を作りたい、という考えに私はとても感銘を受けた。
実際に、私はとある靴(現在では定価以上の価値が付いている靴)を履くのがもったいないと感じ、箱に入れた状態で実家の押入れに保管している。柿内さんと話をした後に、その靴に対して申し訳ない気分になった。
年末、久しぶりに実家へ帰ったら、押入れから靴を取り出してみたい。
そして、その靴を履いて初詣に行こうと思う。
新しい思い出を作りに。
ーおわりー
柿内さんのスニーカーコレクションから、珍しい数足を紹介。
靴のキャンバス地にレーザーでLAの街の地図を表現。
「これはアメリカでも人気があって、全然手に入らなかったですね。LAに住んでいたこともあるので、思い出深い1足ですね」
アッパーがアクリルの透明になっているのが特徴。
「サンバ自体の形も好きなんですが、それに透明っていうのがスゴイ。これはアートですね。芸術です。この船のような形も好きです。 確かeBayで買いましたね」
「ジョージコックス風のNew Balanceの紫色です。ヤフオクで10000円ぐらいで買いました。このシューレースの銀色の感じがカッコいいですよね。」
昔の野球のグローブをイメージしたAir Force 1。グローブのステッチや、皮の素材感などを再現している。
「 昔、ニューヨークに黒人だけの野球リーグ『Negro League 』というのが存在していて、その当時のユニフォームの生地やグローブをイメージした作りになっています。後ろのロゴには、『ニューヨーク コロンバス』というチームのロゴもしっかり刻まれています」
(左)Nike Cortez Metallic Silver
(右)Adidas Country Silver
マイケル・ジャクソンがPVの中で履いていた「Nike Tailwind Night Track」と言うダンスホール用の靴があり、その靴のデザインが元になった二足である。
公開日:2016年1月1日
更新日:2020年7月15日
Writer Profile
井本 貴明
いろいろなWebサービス作っています。 浦和レッズ、ヨーロッパサッカー中心の生活。 何か面白い企画があったら、ぜひ仲間に入れてください! 好きな映画は、「LOST IN TRANSLATION」。
終わりに
柿内さんの部屋で取材を実施したのですが、壁一面に置かれたスニーカーの数に驚かされました。そして、見た事のない貴重なスニーカーがたくさんあり、とても楽しい時間を過ごす事が出来ましたね。柿内さんと話をして分かったのが、靴を「集める物」と言うよりも「履いて楽しむ物」という考えをお持ちで、とても共感ができました。そして、購入の際に「自分のポリシー」を決めて、そのポリシーを守る姿勢もカッコいいです。