テクノロジーの進化が生み出した「ナイキエア」の技術。
まず初めに、Air Maxの代名詞である「ナイキエア」のソール構造について説明したい。
NASAの技術士であったフランク・ルディ博士が開発した技術であり、ウレタンフィルムに窒素ガスを注入することで、着地の際の衝撃を吸収するだけでなく、蹴り出した時の反発力も生まれる仕組みを開発した。その後、試行錯誤を繰り返し1978年に発売された「AIR TAILWIND」に、ポリウレタン製のミッドソールに、フルレングスのエアバッグを搭載した。しかし、当時のソールは柔らかすぎる問題があり、その後のモデルに搭載されることはなかった。
時が流れ1987年、改良を続けたエアバッグはエアの量も増大し、ソールの側面からナイキエアが見えるビジブル化に成功。Nike Air Max 1に採用されたエアバッグは、画期的なスニーカーとして発売された。
スニーカーの歴史上、最も成功を収めたであろうNike Air Max 95の登場
1987年のAir Max1 発売後も進化を続けたAir Maxは、Air Max 90、Air Max 180などの名作を発表し、93年に発売されたAir Max 270では、ソール部分のエアが270度ビジブルになる技術革新を起こしている。
そして、1995年夏。スニーカーの歴史上、最も成功を収めたであろうNike Air Max 95が発売された。最初に発売されたのは2色のMax 95であり、「グレー x イエローグラデ」のカラーは、そのグラデーションの珍しさや、ネオンイエローの求心力があり、当時のファッションアイコンである木村拓哉や広末涼子が履いたことも重なり、若者の間であっと言う前に流行になった。品薄で手に入らなくなり、プレミアとなったAir Max 95は、スニーカーショップでは10万円以上の値をつけることもあった。その後発売された、Reebokのポンプフーリューなどと共に「ハイテクスニーカーブーム」を巻き起こすのである。
ハイテクスニーカーブームとは?
1995年に発売されたAir Max 95を筆頭に、Reebokのポンプフーリュー、Pumaのディスクシステムなど、未来を感じるようなデザインとテクノロジーのスニーカーが爆発的な人気を得た時代。流行の発信地である原宿のストリート(裏原宿、キャットストリート)から、日本全国のストリートへと普及をしていく。当時は、「マックス狩り」という恐喝事件が話題になる社会的現象も発生。1998年を過ぎると、徐々にブームは終焉を迎えていく。
3つの仮説から考える、Air Max 95の魅力とは?
Nike Air Max 95「グレー x イエロー」。イエローグラデの愛称で呼ばれることが多い。
なぜAir Max 95は、ここまで人気が出たのか?当時のファッション雑誌や、ブログ記事からいくつかの仮説を私なりに組んでみた。
- 「ネオンイエロー」x「グレー」 のカラーリング
- 数多くの別注モデル、限定モデルの存在
- スニーカーを扱う雑誌の多さ
Air Max 95のデザインを担当したNike社のセルジオ・ロザーノ氏は、過去の取材にてこのように発言をしている。
「当時、グレーは人気がないカラーだったのですが、私はそのグレーを使ったデザインをしてみたかった。走る靴であることを前提としたAir Max 95には、泥が付いても大丈夫なように、グレーを靴の側面に利用しました。そして、組み合わせで使ったネオンイエローは当時のNikeのランニングでも象徴的に利用していた特別な色でした」
クールな印象を受けるグレーと、未来を感じるネオンイエローの組み合わせは、当時の周りのスニーカーには見かけることがなく、とてもインパクトが強かった。そして、1995年当時には珍しかったグラデーションという概念も、僕らの心をぐっと捉えていたのだと思う。
そして、Air Max 95には数多くの限定モデルが存在する。スムースレザーを利用した全身黒色の「AIR TOTAL MAX SC」。2001年のバレンタインデーに米国限定で発売された赤色の「AIR MAX 95 "ST VALENTINE DAY"」。そして2003年には、原宿のスニーカーショップであるATOMSによる限定カラー「AIR MAX 95 AP "ATMOS"」が発売されている。もちろん、Foot Lockerのような海外のスニーカーショップによる限定モデルも存在するため、その数はさらに多くなる。
最後に、当時は雑誌Boonを筆頭に、Cool、Smartなどの雑誌もハイテクスニーカーの特集を組み、私の記憶では10冊以上のスニーカー雑誌が毎月のように本屋に並んでいた。各誌ともに、珍しい別注モデルや海外の限定モデルを紹介し、Air Maxへの興味を掻き立てる内容だった。余談ではあるが、雑誌Boonは1997年2月号の実売が65万部と最盛期を迎えている。これは、スニーカーブームの絶頂期と同じタイミングである。
Air Max95 のこぼれ話1
1995年に発売されたオリジナルのAir Max95の中でも初期ロットと2ndロットが存在。初期ロットは、グラデーションの最上部はシングルステッチで縫われているが、2ndロットからはダブルステッチに変更されている。これは、ほつれやすい問題を解決するためである。
初期ロットは市場に出回った量が少ないために、このシングルステッチのAir Max95はレア度がさらに上がる1足である。
進化が止まらないAir Maxの未来とは?
2000年代に入り、NikeはAir Maxの復刻版を次々にリリース。なかでも、Air Max 1、Air Max 90、Air Max 95は、カラーリングの種類の多さが人気を博し、90年代のスニーカーブームを知らない若者が新たなAir Maxのファンになり、現在のストリートでも定番のアイテムになっていった。
2012年には、Nikeが開発した「Flyknit(フライニット)」の技術をAir Maxと融合させた。これは、1本の糸から靴下を作るような感覚で、1本の糸から靴を作ってしまう技術である。靴下を履くようなフィット感、ニットを編んだようなカラーリングがとても人気である。
また、Nikeが提供するNIKEiDでは、WEBにて自分好みのAir Maxをカスタマイズして作れる。ソールの色からシューレース、ベロ部分のロゴまで自由に選べるので、自分好みのAir Maxを手に入れることができるのだ。
このようにして、1987年に誕生したAir Maxは、そのオリジナル性を残しつつも進化を繰り返し、幅広い年代で愛される1足になっている。
現在のストリートファッションでは定番のモデルになったAir Max。この先10年後のAir Maxの進化が楽しみでしょうがない。
ーおわりー
Air Max95 のこぼれ話2
2000年代に入り、復刻モデルとして製造、販売が繰り返されるAir Max95。実は、復刻された年代で、ベロ部分にあるロゴパターンが異なる。1995年当時のオリジナルは、「air max」の左2文字 a,i の背景が黒色、残りの r,m,a,x の背景は白色。しかし、2003年の復刻モデルでは背景の色が反転。また、2005年の復刻モデルでは、背景色の区切りが a,i,r と m,a,x の間に移動されている。
別注モデル、復刻モデルでは、さまざまなカラー、素材が楽しめるのが嬉しい
Flyknitとエアソールが合体した「Nike Air Max Flyknit」
Nikeを一層楽しむために。編集部おすすめの書籍
ナイキのアイコンである「DUNK SB」に関する初の書籍
Nike SB: The Dunk Book
2002年に誕生した「ナイキ ダンク」は、スケートボーダーやスニーカーヘッズがコートから取り入れ、ストリートのアイコンとなりました。スニーカーカルチャーを今日のように進化させる初期のきっかけとなったナイキダンクは、数多くのモデルチェンジやクリエイティブなコラボレーションを経て、スニーカーカルチャーに欠かせない存在となりました。
DUNK SBは、スニーカーにこだわる文化には欠かせない存在となっています。このレガシーを祝うために、『Nike SB: The Dunk Book』は、史上最も重要なシューズのひとつであるダンクの歴史的なアーカイブを紹介する初めての書籍です。世界中の大会で多くのエリートライダーに愛用されているナイキ ダンクは、そのファンキーでユニークなデザインだけでなく、高いパフォーマンスも評価されています。
Nike SBの最も象徴的なスタイルのビジュアルストーリーを伝える素晴らしい画像が満載です。
500点のカラーイラストと、ナイキの素晴らしいチームが共有するストーリー、洞察力、知識、情熱、歴史を組み合わせた一冊
Nike: Better is Temporary
ナイキでは、最高を目指すことは目的地ではなく旅であり、より良いものは常に一時的なものです。
反抗的な新興企業から世界的な現象に至るまでのナイキの変化を描いた画期的な出版物です。没入型のビジュアル調査は、業界を定義する革新的な技術や世界的に認知されている製品を、未発表のデザインやプロトタイプ、インサイダー・ストーリーなどと一緒に掲載することで、ナイキの理念に基づくデザイン方式の舞台裏を探るという、前例のないものです。
本書は、2017年に行われた2時間を切るマラソン大会の実現に向けたナイキの試みを紹介した「Breaking2」に始まり、パフォーマンス、ブランド表現、コラボレーション、インクルーシブデザイン、サステナビリティを重視したナイキの取り組みを5つのテーマ別の章で紹介しています。
この本の素晴らしいデザインは、その内容にも通じるものがあります。印象的な表紙は、ハーフトーンのドットパターンでプリントされた世界チャンピオンのマラソン選手エリウド・キプチョゲの画像の上に、ナイキ独自のカラーであるボルトイエローとハイパーパンチピンクがシルクスクリーンで重ねられています。透明なジャケットから見える本の背表紙には、本のボーナス章である "Crafting Color "で言及されているように、中のページから伸びる一連のカラータブが表示されています。