モッズスタイルを原点に確立された、LID TAILOR(リッドテーラー)根本修流スーツ&ジャケットのスタイルとは。

取材・文/倉野路凡
写真/佐々木 孝憲

20年来の仲だという服飾ジャーナリスト倉野路凡さんとLID TAILOR 根本修さん。倉野さん曰く「取材するたびに面白いと感じる」のだとか。今回は根本さん独自のスーツスタイルについてお話を聞くべく西荻窪にあるアトリエへお邪魔してきました。

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老舗テーラーで研鑽を積み、2006年、LID TAILOR創業。

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伊勢丹メンズ館(イセタンメンズ)の「Made-to-Measure(メイドトゥメジャー)」でもお馴染みのLID TAILOR(リッドテーラー)だが、もともとはビスポークから始めたテーラーだ。

オーナーの根本修さんは20歳のときに都内の老舗テーラーで修業し、その後アメリカンスタイルを得意とするテーラーで腕を磨いた人物だ。型紙を作り、生地を裁断するカッターであり、芯地作りや縫製をするテーラーでもあるのだ。

2006年に西荻窪に自らの店舗LID TAILORを創業。現在は職人の手による「Bespoke(ビスポーク)」を中心に、イセタンメンズと同じファクトリーメイドの「Made-to-Measure(メイドトゥメジャー)」、オリジナルのパターンオーダー「Corks(コークス)」を展開している。

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目指したのは着心地を優先したソフトテーラリング

LID TAILORの手掛けるビスポークスーツの特徴を説明しておこう。
当初から根本さんが目指しているのはソフトテーラリング。

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「見た目はカッチリ見えますが、着るとソフトな着心地なんです。ビスポークの場合は、お客さんに合わせて芯地を作っていきますが、比較的柔らかな芯地を使うことが多いですね。小さ目のアームホールにして着やすさを追求したり、糸のテンションをゆるくして柔らかさを出したり、肩パッドも薄いものを選ぶなど、着心地とリラックス感を大切にしています」と根本さん。

と言っても、イタリアのサルトが手掛けるような柔らかく、軽い仕立てではない。

根本さんが影響を受けた唯一のテーラーがロンドンはサヴィル・ロウの老舗ANDERSON & SHEPPARD(アンダーソン&シェパード)なのだ。サヴィル・ロウの中では珍しく、当時としては柔らかな仕立てをするテーラーとして知られている。

そこの影響を受けているわけだから、どこかにカチッとした英国調スーツの美しさがLID TAILORのビスポークスーツには存在するのだ。

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また、薄い肩パッドを使ったナチュラルショルダーを基本としているが、アメリカントラッドのスーツのような丸みを帯びた肩ではない。着ている人の肩傾斜に近い肩に仕立てているとのこと。英国調のスーツのわりには、触っても硬さは感じないし、むしろ軽いほうだと思う。

英国調、しかし英国至上主義にもなりすぎない。あくまで根本流のビジネススーツ。

言葉で説明すると、特徴がなんとなくわかるのだが、見た目では普通の、中庸的なスーツに見えるのだ。けっして「お洒落!」と思うスーツではないのだ。つまり、デザインの奇抜さに重きを置いてスーツ作りをしているのではなく、あくまでもビジネスで着られる上質のスーツ作りを目指しているのである。

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秋冬のビスポークスーツで、一つボタンのUベスト付きのスリーピーススーツ。生地はイギリスのスミスウーレンズのボタニーを使用。このUベストはロンドンの新しいテーラーがやり始めた流行のデザインで、オリジナルはフォーマルウエアに由来すると言われている。

前述したようにアンダーソン&シェパードのスーツ作りに共感して影響を受けているのだが、だからといって英国スーツ至上主義者でもない。分類すれば、たしかに英国調スーツになるのだが、作っているのは日本のLID TAILORであってサヴィル・ロウではない。突き詰めれば根本修さんが目指す根本流のスーツなのである。

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仕立てはシングルと同じビスポーク。剣先に注目してほしい。剣先が寝がちなものが多いが、綺麗に立たせているのが特徴。

このラペルのデザインベースはアンダーソン&シェパードとのこと。ゴージラインを一般的なものより1インチ半以上下げて、大き目の1インチのラペルホールを開けている。生地は秋冬のウーステッドで、柄も素材もいたって普通。エドウィンウッドハウスが自社でやっていた頃の反物の生地を使用。ダブルブレスドで作るお客さんもけっこう多いそうだ。

このラペルのデザインベースはアンダーソン&シェパードとのこと。ゴージラインを一般的なものより1インチ半以上下げて、大き目の1インチのラペルホールを開けている。生地は秋冬のウーステッドで、柄も素材もいたって普通。エドウィンウッドハウスが自社でやっていた頃の反物の生地を使用。ダブルブレスドで作るお客さんもけっこう多いそうだ。

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英国のスーツ好きが高じて、2穴ボタンやサイドアジャスターなどもサヴィル・ロウで使われるパーツを取り寄せている。着心地とはまったく関係ないパーツなのだが、こういう細かなこだわりが作り手側のテンションを上げるのだ。ビンテージデニム好きが織りだけでなく、ボタンやファスナー、リベットにこだわるのと似ている。

ビジネスマンから支持されるMade-to-Measure

「Made-to-Measure(メイドトゥメジャー)」はイセタンメンズで取り扱っているものと同じ。つまり同じ型紙から作ったゲージ(サンプルジャケット)を着用しピン打ちして体型補正をしていくシステムで、ファクトリー(縫製工場)も同じ。ただしLID TAILORはインポート生地で展開しているそうだ。ビジネススーツに最適なデザインなので、ビジネスマンから支持されているとのこと。

プラスチック製のハンガーは使いたくなかったため、国内のハンガーメーカーに作らせたという木製ハンガーを使用。細かなところにもLID TAILORらしさは反映されているのだ。

プラスチック製のハンガーは使いたくなかったため、国内のハンガーメーカーに作らせたという木製ハンガーを使用。細かなところにもLID TAILORらしさは反映されているのだ。

モッズスーツから生まれたオリジナルブランドCorks(コークス)

根本さんの趣味から生まれたのがパターンオーダーの「Corks(コークス)」で、スーツのベースはモッズ。やや細身のスーツが特徴だ。

もともとイギリスのモッズ好きが高じて、テーラーの世界に入った根本さんにとっては、自分のファッションのオリジナルでもあるのだ。

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店先に停めてある2代目ベスパは18歳の頃から乗っているという。それくらいモッズが好きなこともあり、スーツのパンツの裾を折り返して穿くことに当初は抵抗があったそうだ(笑)。モッズはパンツの裾を折り返さないらしい。

ちなみにCorksに最適な生地は?と聞いたところ、1960年代のコンポラスーツに使われたウールモヘアの生地だそうだ。モヘア独特のシャツ感と軽さが魅力で、カノニコのクアトロがおすすめ。

誰にも真似できないオリジナリティを求めて

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ここ数年で根本さんより下の世代のテーラーも増えてきた。日本国内で修業をした人もいれば、イギリスやイタリアのテーラーで修業した帰国組もいる。

混沌とした国内のテーラー界にあって、LID TAILORは個性的で面白いと思うのだ。各パーツにこだわった英国調スーツでありながら、やはり根本さんが目指すスーツ作りや趣味性が反映されている。

さらにCorksでは趣味性を前面に出している。

洗練されてはいるが土臭さを感じさせる根本さんの“個性”が、スーツ作りに出ているようで面白いのだ。

ーおわりー

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これからの季節におすすめはスミスウーレンズのFINMERESCOの生地。TRAVEL SUITINGSと名付けられているように、強撚糸の生地でシワになりにくいのが特徴だ。糸は細くて撚りが強いため復元力があるのだ。デイリースーツとして、旅行用として活躍しそうだ。280~390gm。

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LID TAILOR

ヘッドーテーラーを根本修氏が務める、LID TAILOR(リッドテーラー)。ビスポークを中心に、Made-to-Measure(メードトゥメジャー)、オリジナルブランドのCorks(コークス)も手がける。見た目の印象はカッチリと、それでいて柔らかい着心地に仕立てる「ソフトテーラリング」が特徴。Made-to-Measureでは中庸的なデザインの上質なビジネススーツ、Corks(コークス)では根本氏のオリジナリティが発揮されるモッズテイストのスーツをオーダーするのがおすすめ。

◉ビスポーク
価格:33万円+tax〜(スーツ)、25万円+tax〜(ジャケット)
※ベスト、トラウザーズなど詳細の価格はHPの価格をご確認ください。

◉Made to Measure 
価格:12万円+tax~(インポート生地)。
納期:約1ヶ月。

◉Corks
価格:9万8000円+tax~。
納期:約1ヶ月。

公開日:2017年3月25日

更新日:2022年5月2日

Contributor Profile

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倉野路凡

ファッションライター。メンズファッション専門学校を卒業後、シャツブランドの企画、版下・写植屋で地図描き、フリーター、失業を経てフリーランスのファッションライターに。「ホットドッグ・プレス」でデビュー、「モノ・マガジン」でコラム連載デビュー。アンティークのシルバースプーンとシャンデリアのパーツ集め、詩を書くこと、絵を描くことが趣味。

終わりに

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久しぶりのLID TAILORの取材だった。根本さんとは20年ほど前にホットドッグ・プレスという雑誌でライターをしていた時に、取材先のテーラーで知り合ったのが最初だ。本文でも触れたが自分が好きだった趣味性をスーツのスタイルとして確立しているテーラーだから、取材していても説得力があるし、なにより面白い。好きなものに特化した人物というのは、その趣味性が偏っていても、何かを得ている人が多いので、取材していて楽しいものなのだ。

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