変則、逸脱、説明不可能。次の時代をアーティストと創るギャラリーANOMALY

インタビュー/長谷川惠美子 長谷川一英
モデレーター/深野一朗
文/塚田史香
写真/新澤遥

変則、逸脱、説明不可能。次の時代をアーティストと創るギャラリーANOMALY_image

倉庫街だった東品川の天王洲エリアは再開発により、アートの発信地というイメージを定着させつつある。TERRADA Art Complexの4階に、2018年11月、現代アートのギャラリー「ANOMALY」が誕生した。共同代表は山本裕子、浦野むつみ、橋本かがりの3人だ。

興味深い点は、このギャラリーが山本現代、URANO、ハシモトアートオフィスの3ギャラリーの統合により生まれたこと。そしてグランドオープンの展覧会をおこなったのは、3つのギャラリーのいずれにも属していなかったChim↑Pomであったことだろう。

3つのギャラリーが集まって何をはじめるんだ?1992年の伝説の展覧会「ANOMALY」の再来か?

周囲の前のめりな関心をすりぬけ、「ANOMALY」はしなやかな形態で、新たなギャラリーの在り方を目指す。ANOMALYの山本裕子さんと浦野むつみさんに、夫婦で現代アートをコレクションする長谷川一英さんと惠美子さんが話を聞いた。

コレクター長谷川さんより

10年程前のある日の午後、東京・白金の裏通りで道に迷っていた外国人を、山本現代に案内したことがあります。こんなところに海外からもファンが訪ねてくるギャラリーがある。それが、最初の出会いでした。白金時代はもとより、天王洲に移転後も、若手作家さんたちとの交流を楽しみつつ作品を購入してきました。ギャラリストと作家との距離感が近く、一緒に成長するそのライブ感が魅力です。特に浦野さんは、岩崎貴宏さんのヴェネチア・ビエンナーレ出展の際の応援プロジェクトを一緒に企画・実行していく中で、ギャラリストとしての目利きとお仕事ぶりを間近に見ることができ、心から敬意を感じています。

コレクション初心者にとって、信頼できるギャラリーの存在は、才能ある数多の作家たちがひしめく現代アート界で、行く手を照らしてくれる松明のようです。山本現代とURANOは、国内の有望な若手作家を発掘して紹介するギャラリーの双璧。その2軒のギャラリーが、橋本さんと一緒に新しいギャラリーを創る背景には何があったのでしょう。

新生「ANOMALY」は、時代の変化に備えようとしているのでしょうか?自ら変化を創ろうとしているのでしょうか?未来をどのように考えているのか、是非聴いてみたいと思います。

有力な3人のディレクターがANOMALYに集結

長谷川惠美子さん:ANOMALYとして2018年11月に、3つのギャラリーが統合するということも驚きでしたが、最初の展覧会はChim↑Pom。所属する全アーティストを網羅的に紹介する企画になると思っていたので、ガーンとやられました。

長谷川一英さん:経営統合は産業界ではよくあることでも、美術業界では珍しいことですよね。どなたが最初に思いついたのですか?

山本裕子さん:声をかけたのは私ですが、発想にはきっかけがあります。ギャラリーの枠を超えて仲良しのアーティストは多々いるのですが、ある時、Chim↑Pomから歌舞伎町に呼び出され、飲みながら話をしたんです。個人の苦難から、アーティストが日本で活動を続ける難しさなども話題にのぼりました。その後も定期的に飲むようになると、美術業界全体に関わることまで話が広がるようになりました。ギャラリスト同士でも業界の課題を話すことは多々ありますが、「こうなったらいいね」と言いつつ、教育や美術館やマーケットなどの環境を憂うばかりでした。しかし歌舞伎町でChim↑Pomと飲みながら話を重ねるうち、ギャラリーにできることや、オルタナティブでこの状況にフィットしたギャラリーの姿を考えるようになったのです。

山本裕子(YUKO YAMAMOTO)さん。レントゲン藝術研究所、白石コンテンポラリーアート(現SCAI THE BATHHOUSE)を経て、2004年に独立。文豪の花街・神楽坂のワイルドな工場街にギャラリー「山本現代」を設立する。2008年から港区白金、2016年天王洲での活動を経て、2018年11月にURANO、ハシモトアートオフィスと統合。既存の枠にとらわれない自由なスタイルのギャラリーを目指し、「ANOMALY」を立ち上げた。

山本裕子(YUKO YAMAMOTO)さん。レントゲン藝術研究所、白石コンテンポラリーアート(現SCAI THE BATHHOUSE)を経て、2004年に独立。文豪の花街・神楽坂のワイルドな工場街にギャラリー「山本現代」を設立する。2008年から港区白金、2016年天王洲での活動を経て、2018年11月にURANO、ハシモトアートオフィスと統合。既存の枠にとらわれない自由なスタイルのギャラリーを目指し、「ANOMALY」を立ち上げた。

山本さん:ふり返ってみればChim↑Pomの生き様に刺激を受けた部分も大きいかもしれません。彼ら彼女らは怪物のようなアーティストです。人並みの幸せを捨てて芸術に生きている。才能あるアーティストがこんなに生きづらい日本の状況、関係者の端くれとして恥ずかしいことだと思いました。

こうした経緯があったので、新しいギャラリーを彼らの個展でオープンとすることは、彼らの希望もあり自然な流れでした。3人で、そして(Chim↑Pomが所属する)無人島プロダクションともよく相談して決めました。

惠美子さん:変化は、山本さんからはじまったのですね! 一方で、3つのギャラリーともそれぞれ特徴があり、ファンも多い有力ギャラリーでした。所属作家の皆さんも活躍していますし、海外からも注目され、充実していたように見えていたのですが、変化を求めるきっかけが何かあったのでしょうか?

山本さん:「インターナショナルなギャラリーとは」という問いは、きっかけの1つになりました。ギャラリーにはヒエラルキーがあり、上には海外のメガギャラリーがいます。そこを目指しフェアに次々と出展するのも一つの道ですが、私はそこに興味をもてませんでした。アートを仕事にしようと思った理由は、「1つの高みを目指す」ことではないからです。

その後、海外のアートフェアに出たり海外作家を扱う以外にも、ギャラリーとしてやれることがあるのではないかとより一層考えるようになりました。しかし日々、山本現代の仕事に追われている。自分一人でできることにも限界を感じる。そんな時に、ふと見渡せば、同じフロアに尊敬できるギャラリーがありました。当時ギャラリーが隣同士だったURANOの浦野さんが歩いているところを捕まえて「どう思いますか?」と話したら、「やりましょう!」とその場で決まりました。

Installation view of Chim↑Pom “Grand Open - Marvelous Liberation -”, 2018, ©️Chim↑Pom, courtesy of ANOMALY, Photo by Kenji Morita

Installation view of Chim↑Pom “Grand Open - Marvelous Liberation -”, 2018, ©️Chim↑Pom, courtesy of ANOMALY, Photo by Kenji Morita

惠美子さん:即決されたのですね!

浦野むつみさん:毎日がフル稼働、目の前のことで精一杯で、知性や感性を修練したり、関心領域を広げるようなインプットの時間が持てないことへの危機感がありました。それに、アートフェアに頼らないオルタナティブなギャラリーのあり方などについて、お隣り同士ということもあって日頃から山本さんと意見交換をさせてもらっていました。「異なる経験を持つ大先輩とだったら、新しい地平を見ることができるかもしれない!」と直感的にOKしました。お互いのギャラリーを隔てている壁を取り払ったらいいだけだね、なんて話もして(笑)。

浦野むつみ(MUTSUMI URANO)さん。白石コンテンポラリーアート(現SCAI THE BATHHOUSE)を経て2007年に独立。「URANO」(旧ARATANIURANO)を設立し、様々なアーティストと協働しながら、展覧会のほか、プロジェクトやイベントなど実験的な活動を展開。2016年に天王洲に移転。既存の枠にとらわれない自由なスタイルのギャラリーを目指し、2018年11月に山本現代、ハシモトアートオフィスと2018年11月に「ANOMALY」を立ち上げた。

浦野むつみ(MUTSUMI URANO)さん。白石コンテンポラリーアート(現SCAI THE BATHHOUSE)を経て2007年に独立。「URANO」(旧ARATANIURANO)を設立し、様々なアーティストと協働しながら、展覧会のほか、プロジェクトやイベントなど実験的な活動を展開。2016年に天王洲に移転。既存の枠にとらわれない自由なスタイルのギャラリーを目指し、2018年11月に山本現代、ハシモトアートオフィスと2018年11月に「ANOMALY」を立ち上げた。

山本さん:しましたね(笑)。そこから私はたくさんのギャラリストに会い、ヒアリングをする中で橋本さんとも話をしました。最初は「難しいと思うよ」と言われて終わったのですが、数日後に「でも面白いかも」と連絡をくれたのです。橋本さんは、私や浦野さんと、少しやり方に違いがあります。そこも面白いと思いました。

一英さん:ただ単に規模を大きくしたギャラリーをつくろうとされた訳ではないと思うのですが、どんなギャラリーを目指そうと話をされていたのですか?

山本さん:グローバリズムによってアートマーケットは繁栄し文化的にはわかりやすくなった一方、つまらなくなっているようにも感じていました。日本に美術という概念ができたのは明治時代です。明治時代に翻訳やその誤読で近代化したことをポジティブに捉え、日本のアノマリー現象を表象した無視できないヘンなギャラリーが必要だと思い至ったわけです。

「簡単に翻訳して広げるのではなく、ドメスティックなことをまどろっこしく残した方が逆説的にインターナショナルになる」というのも一つのテーゼです。それに、一匹狼はかっこいいけれど一人では訴求力に限界もあります。インディペンデントでやってきていた才能が合体しコレクティヴを組めば、無視できない活動ができ誰も見たことがない風景が見えるのではないかと思いました。

浦野さん:社会的不寛容な現代において、ギャラリーの役割も変化する必要に迫られていると感じています。例えば、単に作品を販売するだけではなく、美術館などの公共施設では展示が許されないけれども、世に提示するべき重要な作品を展示することがギャラリーのミッションのひとつになるなど、アーティストをサポートする方法もより一層多様になっていくでしょう。このような激動の時代だからこそ、変化を怖れず、自由な個人が自発的に集まり、同じ価値観を共有しながら協働を楽しむことで、一人だけでは生み出すことのできない結果を導き出せるのではないかと思っています。

惠美子さん:結果的に集結した3つのギャラリーのディレクターが3人とも女性ですが、同性だからこそ、価値観を共有できたということでしょうか?

山本さん:確かにジェンダーバランスは取れていませんね(笑)。そこにこだわりはありませんでした。意識したのは3人以上であること。「私」と「あなた」にもう1人いれば、「社会」になる。世代もジェンダーも問わず3人以上ならば、10人でもよかったんです。その時に集まったメンバーの得意分野や個性をみて、そこから創り始めようと決めていました。

一英さん:以前からそれぞれのギャラリーに所属していた作家たちはどのような反応でしたか?

山本さん:驚いたでしょうね。でも定期的にまわってくる個展にあわせて作品を創るような受注発注の関係より、作家もギャラリーも面白くなると思うんです。

浦野さん:実際、「所属作家の数が一気に増えますよね。これまでは、待っていれば2年に一度は個展の機会が巡ってきたけれど、そうではなくなるわけですよね?燃えます!」と言ってくれた作家もいました。

惠美子さん:刺激を受けた作家さんたちの今後が、楽しみですね!ところで、どうしてANOMALYという名前にしたのですか?

MuuseoSquareイメージ

山本さん:anomalyには「変則」「正論で考えると起こらない現象が起こる」などの意味があります。椹木野衣さんの同名の展覧会を思い出される方もいるかもしれませんが、名前を考える際に意識したのは、「A」で始まることでした。リスティングで上にくるように、戦略的に。

浦野さん:そこは戦略的だったのですが、出てくる案がどれもヒドくて(笑)。

山本さん・浦野さん:アップルハウスとか、アンドロメダとか……。

(一同、笑)

山本さん:そして行きついたのが、ANOMALYでした。これからギャラリーを創るなら上ではなく​横に、あるいはオルタナティブに広がる形体であったり、ユニークさを出していかなければいけません。​「無視できない」「変なことが起こる」ギャラリーに、という思いで決めました。

現代美術と関わるには美術だけでは足りない。アーティストと同じ感度で時代と向き合う

惠美子さん:お二人とも、SCAI THE BATHHOUSEに勤務されていた時期がありますね。

浦野さん:私は当初、学生アルバイトとして、何もわからないところからSCAIにお世話になり、育てていただきました。もともと映画や写真に興味があり、SCAIと並行して、映画配給会社でもアルバイトをしていました。映画は、アート以上に作品に関わる人の数が多く、映画監督と話ができるようなチャンスはまず訪れませんでしたが、一方、SCAIでは、アーティストの赤瀬川原平さんや李禹煥(リ・ウーファン)さんがふらっとやって来て、何時間も話しこむようなことが起こります。作家との接点の多さに惹かれ、次第にアートの道に進むことになりました。

Installation view of Maki Na Kamura Solo Exhibition, 2019, ©️Maki Na Kamura, courtesy of ANOMALY, Photo by Ichiro Mishima

Installation view of Maki Na Kamura Solo Exhibition, 2019, ©️Maki Na Kamura, courtesy of ANOMALY, Photo by Ichiro Mishima

Installation view of Maki Na Kamura Solo Exhibition, 2019, ©️Maki Na Kamura, courtesy of ANOMALY, Photo by Ichiro Mishima

Installation view of Maki Na Kamura Solo Exhibition, 2019, ©️Maki Na Kamura, courtesy of ANOMALY, Photo by Ichiro Mishima

惠美子さん:浦野さんは、ベースに映画と写真もあるのですね。山本さんは、伝説のレントゲン藝術研究所(以下、レントゲン)で経験を積まれたあと、SCAIに合流されたのでしたよね?

山本さん:レントゲンがちょうど移転するタイミングに声をかけていただき、SCAIに行きました。レントゲンでは現代アーティストの登竜門的なことや、詩の朗読会、ノイズのコンサート、一晩だけの展覧会や演劇など一夜限りのイベントを数多く企画してやっていました。村上隆さんや会田誠さんなど、いまの日本を代表する元気のよい作家がいた頃です。初めてのギャラリーがレントゲンだったので、ギャラリーというものを誤解していたかもしれません。

惠美子さん:今聞いてもわくわくしますね。

山本さん:SCAIもレントゲンも、まずギャラリーとして素晴らしく、その上楽しかった。レントゲンでは、イベントを一緒につくる面白さを学びました。それをビジネスにする方法を教えてくれたのがSCAIでした。

浦野さん:私がアートに興味を持った当時、レントゲンはすでに伝説でした。少し遅れて、レントゲンやP-Houseでの刺激的な展覧会を見聞きしたことも影響して、現代の社会的な背景や今ある課題をアーティストが作品で表現する必然性を感じ、アーティストと同じ感度で時代と向き合いたいと思って、大木裕之さんや高嶺格さんの上映パフォーマンス、加藤泉さんの個展などをSCAIで企画させてもらいました。

一英さん:確かにレントゲンは伝説ですが、同じことをしたいのではないのですよね?

山本さん:時代が違います。レントゲンのような場は、誰かが作ったというより時代に求められて生まれたものだと思っています。その流れがまたアート業界に起こった時は、ANOMALYが受け皿になれるといいですね。

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3人でギャラリーの概念を超え、不可能を可能に

惠美子さん:展覧会の企画は、どのように立てるのですか?

浦野さん:それぞれが元々取り扱っていた作家の展示を交代で開催するというような無意味な配慮はやめようと初めに決めていました。今やるべき展示は何か、3人で相談しながら決めています。

山本さん:「このアーティストは、いまこんなことを考えているから、この時期にこれをしたら面白いと思う」みたいな情報を出しあい、時期を調整する。展示スペースは2つあるので、突発的に面白い人や企画が出たとしても、バッファーになっています。

浦野さん:2つのスペースにヒエラルキーはつけず、大きなスペースで若手作家の、小さなスペースでエスタブリッシュされた作家の展示をすることもあります。組み合わせについても毎回考えています。

Installation view of Ishu Han “still there”, 2019, ©️Ishu Han, courtesy of ANOMALY, Photo by Ichiro Mishima

Installation view of Ishu Han “still there”, 2019, ©️Ishu Han, courtesy of ANOMALY, Photo by Ichiro Mishima

一英さん:一般企業であれば、統合することで今まで以上に収益を伸ばすことを目指すのですが、その点についてはどうお考えですか?

浦野さん:収益に捕らわれすぎると、それが理由になってできないことも増えてしまう。それは逆に不自由ですよね。これまでのアート業界の成功例とは違うところを目指しているわけで……。とは言え、3人とも経営の経験がありますから、大雑把ながらもなんらかの計算はしています。

山本さん:その計算は「あまり間違ってもいない」んですよね。大雑把なので間違えようもありませんが。そのような面も含め、ビジネスのエキスパートには首を傾げられるようなこともするかもしれませんが、「ああいう人たちもいる」くらいの立ち位置でいられたらいいですね。

惠美子さん:何事も話合いで決めるとなると、正直、1人ならやったけれど3人だから...と意見を飲み込むこともあるのではありませんか?

山本さん:迷惑をかけてはいけない相手ができたので、「やりたい」と言う時には、ひとりの時にはなかった緊張感があります。何かを還元しなくては、と思いますから。それでも、「ごめん、迷惑かけちゃうかも。その代わりに、面白いことになるかも」みたいなところで、バーターになると考えればいいかな?とも考えています。

惠美子さん:ではANOMALYでやりたかったことを、できている実感はありますか?

山本さん:ギャラリストには、ギャラリー内の展覧会以外にも、その2~3倍の仕事があります。美術館の展覧会、芸術祭、作家独自のプロジェクトに、企業との取り組みなど...。

そのような「外」の部分において、異常な充実を見せています。単独では、引き受けられなかったような規模のプロジェクトもあり、「みんな、こういう存在のギャラリーを待ってたんじゃないの?」という手ごたえもあります。もし別のギャラリーでも、何かやりたいことがあれば、一度ANOMALYに相談してくれるとうれしいです。一緒に面白いことができるかもしれません。

浦野さん:実際に、アート業界以外のところから「ANOMALYだからこそ頼みたい」とご指名をいただいたプロジェクトも進行中です。ギャラリーでの展覧会の予定も向こう一年間はいっぱい。来年以降もっとすごいことになりますよ。

山本さん:8月はじめには、ニカサン/三野新の新作演劇公演の開催と合わせて、ライブアクトやトークマラソンなど一夜限りの特別なオールナイトイベントを開催する予定です(注:記事公開時点では終了)。ギャラリー内外問わず今後も色々試していきます。

ディスカッションの時間はかかりますが、自由度が大きく下がったと感じることはいまのところありません。3人になり、1人では引き受けられないような仕事もきている。計算と違うのは、3人になったのに、3人とも忙しさだけは変わらないこと。そこはいつも「おかしいなあ」と首をひねっています。

—おわり—

左から:長谷川一英、山本裕子、浦野むつみ、長谷川惠美子

左から:長谷川一英、山本裕子、浦野むつみ、長谷川惠美子

山本さん、浦野さんへのQ&A

Q. アート以外の趣味を教えてください

月並みですが読書と映画鑑賞、そして物書き……。しかし全てがアートとリンクしてしまっているという。(山本)

映画鑑賞、読書、音楽鑑賞、ゴリラ観察。(浦野)

Q. ご自身でコレクションもしますか?

もちろんです。小さいものばかりですが、赤瀬川原平、篠原有司男、宇川直宏、キュンチョメ、小林耕平、ヘルマン・ニッチ、できやよい、Chim↑Pom、松田修、ダグラス・ゴードン、ダイアン・アーバス、中原昌也、会田誠、西村健太、高橋大輔、今井俊介、アディティア・ノヴァリ、などなど。(山本)

淺井裕介、アピチャッポン・ウィーラセータクン、新井卓、石内都、遠藤利克、岡崎乾二郎、落合多武、河口龍夫、キュンチョメ、小西紀行、ミリアム・カーン、志賀理江子、島袋道浩、田口行弘、高嶺格、チェン・ウェイ、Chim↑Pom、長島有里枝、奈良美智、西野達、シュテファン・バルケンホール、潘逸舟、カールステン・ヘラー、森山大道、横山裕一、米田知子など。(浦野)

Q. アートをコレクションしようと考えている人へアドバイスをお願いします

とりあえず一点、まずは好きなアーティストを応援する気持ちで、(自分の生活を逼迫しない程度に)思い切って準代表作を狙いましょう。コレクションすると、作品が外で観るものではなくなり、主体的に関わるようになりますので、考えもしなかったことを考えるようになったり、気づいたりします。(山本)

美術館で、「この展示室の中だったらどの作品をコレクションするか?」妄想してみることをお勧めします。自身が作品に何を求め、反映するのかが見えてきて、楽しい実地訓練になる気がします。(浦野)

Exhibition

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小林耕平:ゾ・ン・ビ・タ・ウ・ン

ANOMALYでは、2019年10月19日(土)から11月9日(土)まで、小林耕平の個展を開催いたします。

小林耕平(こばやし・こうへい、b.1974)は東京に生まれ、愛知県立芸術大学美術学部油画科を卒業、現在は武蔵野美術大学で教鞭をとり、埼玉を拠点に精力的に活動を続けています。近年の個展に『蓋が開かない、屋根の上の足音』(山本現代、東京、2015年)、『あくび・指南』(山本現代、東京、2018年)などがあり、また『アーティスト・ファイル2015 隣の部屋―日本と韓国の作家たち』(国立新美術館、東京/韓国国立現代美術館、ソウル、2015年)、『小林耕平×高橋耕平 切断してみる。二人の耕平』(豊田市美術館、愛知、2017年)など、様々な美術館の展覧会にも出展、また2016年のあいちトリエンナーレや、同年瀬戸内国際芸術祭にも参加するなど、国内外で注目を集めています。

小林は、伊藤亜紗(*1)提供による奇妙な思考の道筋や論理の絡繰でできたテキストを下敷きに、小林独自の解釈で日用品を組み合わせた奇妙なオブジェクトと、そのオブジェクトを説明する映像を制作し、複雑なインスタレーションを形成します。そのオブジェクトは、我々の認識からすると一見、モノとしての機能を失ったオブジェクトとして提示されています(例えば、長いスパイラル状の針金に刺さった2つのテニスボール、など)。

しかしそのオブジェクトは、小林による新たな「使用方法」を解説する映像(デモンストレーション)によって、そのモノ本来の役割を軽やかに取り払ったのちに、代わりに別の可能性や意味を添えて、新しい装置に「見立て」られ、奇妙な機能を持ったオブジェクトとして「再生」されていきます。その映像は、小林の解説の受け手であるcore of bellsの山形育弘(*2)を相手に、しかしその解説すらも徐々に破綻していく様を提示し、鑑賞者にまなざしや思考の転換を喚起します。

たとえば、本展『ゾ・ン・ビ・タ・ウ・ン』では、「町をゾンビタウンにする」ために書かれた伊藤氏のテキストをもとに、小林が考案した「タオルにヤクルトの空ケースを取り付けたオブジェクト」が登場しますが、ヤクルトを「水分」として摂取する様をもって、身体を「再生機」というオブジェクトに「見立て」ます。インスタレーションを構成する映像の中で、「水分」が体内を移動する様はその移動の履歴と記録(レコード)である、と提案し、その奇妙な「再生機としての身体」をデモンストレーションしますが、そこでは常に「解釈のズレ」が生じます。小林は山形を相手に映像の中で問答を繰り広げながら、このように様々なオブジェクトの使用方法を説明しますが、二人のやりとりはその問答を繰り返すことで奇妙さと解釈の多様性を呈し、鑑賞者をより高度で未知な思考に導きます。小林によれば「齟齬とはこの場にはない空間を指し示すこと」であり、ひいては我々の世界の捉え方に、不思議な変化をもたらします。

展覧会初日10月19日(土)は、伊藤亜紗氏と小林によるトークイベントを開催します。
また、展覧会最終日11月9日(土)には、クロージングイベントとして、前出の山形育弘と小林によるパフォーマンス「Post Shaped Piggy Bank」(2017)や、core of bellsのパフォーマンスなどを行います。

ゾ・ン・ビ・タ・ウ・ン 再生 ©︎小林耕平、撮影=渡邉寿岳

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開発好明:開発再考 Vol.1 初期ビデオ作品

ANOMALYでは、2019年10月19日(土)から11月9日(土)まで、開発好明の個展を開催いたします。

開発好明(かいはつ・よしあき b.1966)は、 1993年に多摩美術大学大学院 美術研究科修士課程を修了。在学中より積極的に発表を続け、国内外で多くの個展を開催、グループ展にも多数参加し、2001年岡本太郎現代芸術賞優秀賞を受賞。2004年にはヴェネチア・ビエンナーレ第9回国際建築展日本館の作家として選出され、代表作ともいえる発泡シリーズが大きな注目を浴びます。NY、ベルリンなど海外での滞在制作も多く、ベタニアン(ベルリン、ドイツ、2004年)にてレジデンス、ZMK(カールスルーエ、ドイツ、2005年)、ノイエナショナルギャラリー(ベルリン、ドイツ、2006年)での展覧会にも参加してまいりました。2016年には市原湖畔美術館(千葉)にて大規模な個展「中二病」を開催。90年代の作品から新作まで、館内外を使ったスケールの大きな展示を行いました。六甲ミーツ・アート(兵庫)や越後妻有 大地の芸術祭(新潟)、いちはらアート×ミックス(千葉)などの芸術祭でも多くの鑑賞者を取り込むユーモラスな作品や活動が取り上げられています。現在開催中の「あそびの時間」(東京都現代美術館、東京、2019年)では、作品の出品と合わせて“木場のダメパンダ”としてパフォーマンスも行っています。

2011年に起きた東日本大震災の際には、トラックに作品を詰め被災地を巡回、アートによる心の繋がりを運ぶ“デイリリーアートサーカス”を立ち上げます。また、原発事故後の南相馬に“政治家の家”という休憩所を建て、まずは現地へ足を運び、今後の日本について考えてもらいたいと政治家へ招待状を送り続けました。これらのプロジェクト以前にも、1995年ナトリウム漏洩事故が起きた高速増殖原型炉「もんじゅ」や2001年アメリカ同時多発テロに関わる作品など、社会の出来事、在り方を見据える姿勢は、開発の制作において重要な柱の一つとなっています。

作品の膨大さ、アプローチの多様さから作家としての全貌を捉えることが容易ではなく、そうされることを意図的に避けているともとれる開発の活動を再考すべく、今回の展覧会では、初期ビデオ作品をまとめて展示いたします。1998年アジアン・カルチュラル・カウンシルの助成金を得てニューヨークに滞在中、ワンカット、ワンアクションというシンプルな方法でパフォーマンス作品を制作しました。可能な限り感情やストーリーを排除し、自ら決めた行為のみを行うこのルールをもとにつくられた作品のひとつが「Roll」です。前転し続ける開発の背景には2001年9月11日にアメリカ同時多発テロ事件の標的となったワールドトレードセンターが映っています。図らずも作品の中に映り込んだ歴史的事件の現場は、現在の鑑賞者にとってどのように映るのでしょうか。シンプルな行為の背景にあるものは、時として複雑さを持ち合わせ、行為の対比として立ち現れます。

BankART1929代表・池田修氏は、開発好明のことを吉本隆明氏の『転位のための十篇』を引用し「ひとり民主主義」と評しました。あくまでも個人の営みをベースに社会やそこに生きる人々にユーモアを持って対峙し続ける稀有な作家であると言えます。

Roll, 1998, Video ©︎Yoshiaki Kaihatsu

公開日:2019年10月30日

更新日:2019年11月4日

Moderator Profile

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深野一朗

現代アート・コレクター。コレクターとギャラリーの交流に特化した招待制SNSサービス「CaM by MUUSEO」をプロデュース。主な著書は『「クラシコ・イタリア」ショッピングガイド』(光文社)。

Writer Profile

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塚田 史香

東京在住。ライター。PRSJ認定PRプランナー。好きな場所は、自宅、劇場、美術館です。

終わりに

深野一朗_image

ANOMALY誕生のニュースには驚いた。ギャラリーのディレクターが独立して自分のギャラリーを立ち上げるのは珍しくないが、既に十分なキャリアのあるギャラリー同士が一つになるというのは僕にとってはある意味「事件」でもあった。いったい何故?

オーナーの皆さんのお考えを是非知りたいと思っていたが、なかなかその機会も巡ってこない。だから長谷川さんがインタビューの相手にANOMALYさんを挙げてくださった時には「しめた!」と思った。

グランドオープンの企画がChim↑Pomの個展というのも意表を突いた。長谷川さんもご指摘の通り、それぞれ所属作家を広く見せるのが「普通」であろう。それを3ギャラリーのいずれにも属さない作家、しかもChim↑Pomをもってくるとは!そこに僕はANOMALYの決意と覚悟を見た気がした。

ANOMALYは、それぞれのオーナーがアートの仕事に携わるようになった頃の熱気と興奮を再び取り戻すための原点回帰の場所ではないか。山本さんと浦野さんが仰る通り、何より「やってて面白いか」「楽しいか」が最優先なのだ。

2002年にノーベル経済学賞を受賞した米プリンストン大学の心理学者、ダニエル・カーネマン教授が面白い研究をしている。それによると感情的幸福は年収7万5000ドルまでは収入に比例して増えるが、それを超えると比例しなくなるという。ではそこから先は何が感情的幸福をもたらすか?それは「やってて面白いか」「楽しいか」ではないだろうか。

コマーシャル・ギャラリーである以上、好むと好まざるとに関わらず、巻き込まれざるを得ない欧米型のギャラリーのサーキット。そこからいち早く抜け出たANOMALYの今後の展開は、「日本というローカル」のギャラリーのあり方に一石を投じることは間違いない。

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