無垢の木のオーダー家具ができるまで ーアオゾラカグシキ會社ー

取材日: 2019年2月23日

文/佐々木健人
写真/佐々木孝憲

無垢の木のオーダー家具ができるまで ーアオゾラカグシキ會社ー_image

家具についてインターネットで調べていると、「クラシックスタイル」といった言葉を多く目にする。

どこの地域の「古典的な様式」の家具なのかそこからは読み取れず、ローカルから離れて均質化されきったことを感じさせるが、家具一つひとつには、これまで積み重なってきた歴史や作り手の考えが反映されていることは間違いない。そこを掘り下げると家具をもっと面白がれる軸ができる気がする。

「クラシックスタイル」「北欧インテリア」などの抽象的で大きくカテゴライズされた言葉から一歩踏み込んで、一つひとつの家具や時代について解きほぐしてみたい。

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企画を進めるにあたり、まず最初に訪れたのはアオゾラカグシキ會社だ。

下町の香りを残す東京の清澄白河。代表の友繁 康氏が手がけたショールームには、穏やかな空気が充満している。まるで森の中にたたずむ工房のよう。

修理しながら長く使うより、新しく買い換えるほうが安いという「消費のサイクル」ができあがる中で、同社は大量生産に向かない無垢の木を使いお客さんのニーズに合わせたオーダーメイドの家具を作り続けている。

合理的とは決して言えない。けれども、友繁氏が作る家具には空気を一変させてしまうような佇まいが確かにある。

時代の流れに逆らうようなものづくりに、長く愛用できる家具を探す鍵があるのではないか。無垢の木の話、家具デザインの話を中心に語っていただいた。

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無垢の木のこと、仕上げのこと

月の満ち欠けをイメージしてデザインした、棚付きのサイドテーブル。価格は記事公開時点でチェリーは60,000円、ウォルナットは63,000円(いずれも税別)。

月の満ち欠けをイメージしてデザインした、棚付きのサイドテーブル。価格は記事公開時点でチェリーは60,000円、ウォルナットは63,000円(いずれも税別)。

無垢の家具を作る場合、材料を乾燥させるところから始まります。自然乾燥や人工乾燥を経て、使う材料を大まかに木取り、家具として使える水分量まで落ち着かせるんです。それをシーズニングといいます。

水分は完全にゼロにはなりません。雨が続くと、空気中の水分を吸って木の幅は広がります。反ったりねじれたりもします。加えて材によって変化量が異なるので、大量に材を仕入れて加工することは難しく、量産には全く向きません。

木を削るカンナも樫(カシ)でできているので、台が日々微妙に狂うんです。だから、カンナも日によって調整しています。カンナを削る、台直しガンナという道具もあるんですけど、それも木でできているので日々調整が必要です。だから、キリがない(笑)。

0.1ミリ単位の精度で加工し、カンナを使い調整していきます。家具として仕上がった後も木が動くことを許すような作りにしないといけないんです。

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この机の天板は木目の方向を変えているんです。木の縦と横を組み合わせて家具を作る、端ばめという技術を用いています。こうすることによって、天板の反りを抑えられる。

でも、幅は伸びたり縮んだりするので、解決するために木栓を5箇所入れています。真ん中だけは固定の木栓を入れて動かないようにしています。真ん中以外は、外見はぴったりはまっているように加工しているけれど、中は幅方向に穴を大きくしているんです。ほぞ全体をボンドでぴったりと接着してしまうと、使っているうちに割れたり不具合が出てきてしまう。

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横から見ると段になっているのがわかると思います。冬は乾燥するので出っ張っているんです。梅雨の時期は水分を吸うので幅が広がり、段差がなくなってきます。そういうのを面白いと思ったんですね。すごく。

ダイニングセットを届けたお客さんからは、「梅雨の時期でも空気がさらっとしている」とお聞きました。家具が余計な水分を吸ってくれるんです。それに、何かものを落として少し家具が凹んでも、水を含ませたティッシュを上に乗せておけば、木が膨らんで元に戻ります。

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家具の仕上げの塗装方法は一般的にウレタン塗装やラッカー塗装、オイル塗装などがあります。アオゾラカグシキ會社の家具は、自然の植物油をベースにしたオイルによる塗装で仕上げています。

ウレタン塗装は樹脂の膜を作って覆う塗装です。汚れにくいし、傷もつきにくい。だから扱いやすいんですが、もし樹脂の塗装に傷が入ると、簡単には直せない。オイル塗装は、塗膜を作らないため凹んでも修復するし、傷が入っても軽くサンドペーパーを当てて、再びオイルを塗れば自分で直せます。

店舗ではオイルも販売。メンテナンスについてまとまったガイドも配布している。

店舗ではオイルも販売。メンテナンスについてまとまったガイドも配布している。

傷がつかないように、汚れないように意識して作られた家具は修理できる部分が限られているので、壊れたら新しいモノに買い換えなければならないことがほとんどです。無垢の木の家具は、最初から直して使うことを前提で作るので出発点が違います。

極論、無垢の木の家具は作りかえることもできます。家族で大きいテーブルを使っていたけれども、生活が変わって小さくしたいということであれば半分にできます。その柔軟で懐の深いところは、無垢の木の家具の良いところなのかなと思います。

サイズ感とシンプルさ。家具をデザインする時に大切にしていること

オーダーの際は採寸に伺い、規定のデザインがあるテーブルや椅子以外は図面を引いて一個一個作ります。

お店にいらっしゃる時は、何もご準備いただかなくて大丈夫です。こちらから話を聞いていきますので。

いまどう暮らしていて、これからどう暮らしていくか。家族は何人で、ひとがよく集まる家なのか。椅子に座るのか、床に座るのか。部屋の写真を見せてもらったり、床の素材や色を聞いたり。あとは家具以外の好きなものとか。なんでもいいんです。

もちろん、雑誌とか持ってきて「こういう感じ」と示していただいても構いません。棚の場合、何を入れるかはお聞きします。

北海道産の楢で製作したコンソール。取っ手にはウォルナットを使用している。価格は記事公開時点で124,000円(税別)。

北海道産の楢で製作したコンソール。取っ手にはウォルナットを使用している。価格は記事公開時点で124,000円(税別)。

長く付き合える家具を作るために、サイズ感は大切にしています。家具のデザインを決めるのも、使い勝手の良し悪しを決めるのもサイズ。無駄に深さや奥行のある引き出しを作っても意味がないですし、価格にも関わってきます。

入れたいものが入れられて、置く場所にちょうど良い。だから採寸にも行きますし、細かくお話を聞いて、図面を書く段階でこだわりますね。

サイズ感が良いのが、無印良品。あそこは、暮らしに合うサイズをすごく研究されていると思います。いつもメジャーを持ち歩いていて、街中で良さそうなサイズのものを見ると、測っています(笑)。

あとは、あんまりデザインしないことでしょうか。取っ手だけ、木と同じように経年変化を楽しめる真鍮を使ったりと家具ごとに少し工夫しますけど、あくまでシンプルに。

シンプルとは、「余計なものがない」と言い換えてもいいかもしれません。「単純」とは違います。例えばこのスツールとかも、単純に作ろうとすると足の先を細くする必要はないんですけど、まっすぐにすると不恰好に見えるんですよね。幕板の下もちょっとだけ曲線を付けて、重なりやすくしています。

縦横の比率も大切です。横に対して縦が細かったり、縦と横の比率が一緒だと不安定に見えるので、本棚のような箱物は横に対して縦は少し太めにしているんです。その方が余計なものを感じなくなる。

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冬のにじいろスツール。価格は記事公開時点でチェリーは36,500円、ウォルナットは38,400円(いずれも税別)。

青年、職人になる

高校を卒業したあと、早稲田大学文学部に入学して日本史を学んでいました。でも、あんまり勉強はしていなくって。演劇のサークルに入って、舞台を作ったりしていました。立て看板をペンキで書く機会があって、そこで身につけた技術はいま役にたっています、外の看板も手書きで作りました(笑)。

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大学を卒業したタイミングでは就職しなかったんです。少しフラッとした後に、職業訓練校に入った時が家具作りに携わった最初です。

僕が通っていた頃は品川技術専門校という名前で、今は名前が変わっています(注:東京都立城南職業能力開発センター)。

パンフレットには「カンナなどの道具の使い方から始まり、スツールとか小さい引き出しを作って、最後はタンスを作れる」というような1年間のプログラムが書いてありました。

金属造形とか他の訓練科目もあったんですけど、木工技術科を選択したのはあまり理由はなく、なんとなくですかね。科目どうこうよりも「職人になれるかも?」という期待の方が大きかったです。大学を卒業してから職人にはなれないものだと思っていたので。

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職業訓練校に入って、木のことがどんどん好きになりました。1年間のカリキュラムのうち、無垢の木を使って家具を作る期間は半年くらい。もう半年は木枠を作って化粧合板を貼る「フラッシュ」と呼ばれる作り方を学びました。

フラッシュは同じ家具を量産できるメリットがあります。でも、自分は一つの家具を最初から最後まで作りたかったですし、「木」という素材に面白さを感じていたので無垢の木を扱う仕事に就きたいなと思っていました。

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その後入社したのが、ウッドユウライクカンパニーという、昭島に工房があり、青山に店舗がある家具屋さんです。一人の職人が、ひとつの家具を最初から最後まで手がけています。

ウッドユウライクカンパニーに入社して働けたことがすごく大きかったというか……入社できると決まった時はすごく嬉しかったですね(笑)。でも、入ったら素人と一緒でした。機械の使い方はわかる、それだけ。

一番上手な職人さんを100とすると20もできていなかったと思います。5くらいじゃないかな。

うーん、全然でしたね。カンナなどの刃物を使いやすいように研ぐのはできて当然のこと。でも、入った当時はその辺がまだ甘かったので、仕事しながら技術を上げていきました。

ウッドユウライクカンパニーでは11年働きました。テーブルをたくさん作りましたね。図面を見ながら一個一個作る。作って、塗装して、届ける。お客さん対応はやらなかったけれども、それ以外は一通り経験しました。

家具は道具なので、高嶺の花にはしない

価格は、無垢のオーダー家具としては正直なところだいぶ抑えています。機能的なことだけを考えれば、もっと安いものは他にもあります。壊れたら買い換える考え方もありますもんね。

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工房から直接届けるので、コストが抑えられているのもありますが、何より無垢のオーダー家具を手の届かないものにしたくないんです。家具は道具なので。家具をオーダーすることに縁の無い人が買ってくれたら嬉しいです。

ウチは街の文房具屋とかのイメージなんですよね。清澄白河にショールームを構えているのも、下町の雰囲気が気に入ったからです。実際に、全然木の家具とか知らずにフラッと入ってきた若いご夫婦が、話をしているうちにダイニングテーブルを頼もうと決めてくれたこともあります。そういうのは、嬉しいです。

アオゾラカグシキ會社は木の日用品も製作している。写真はチェリーとウォルナットで作られた一輪挿し。価格は記事執筆時点で3,000円(税別)。

アオゾラカグシキ會社は木の日用品も製作している。写真はチェリーとウォルナットで作られた一輪挿し。価格は記事執筆時点で3,000円(税別)。

納期は通常3ヶ月〜5ヶ月ほどです。製作期間はそれくらいなのですが、木が育つ長い時間があるからこうやって家具が作れます。木が育つ50〜60年という年月や、子どもや孫の世代まで渡っていくことを思うと、無垢の家具は時間軸が長いですね。

お客さんの手に渡ったあとは、手入れをしながら使ってもらって、時々お話を聞いたり、修理する箇所があれば直したり。

材木屋さんから木を購入して、家具を作ってお客さんに渡すまでを私は担っているわけですが、作って終わりではなく自分で作った家具にはずっと関わっていきたいと考えています。

ーおわりー

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アオゾラカグシキ會社

清澄白河にお店を構える、無垢の木のオーダー家具店。機能的であること、そして長持ちすることを念頭に、使う人の生活や周りの風景や自然とも協調しあえる、シンプルな家具を制作している。オーダーの際は採寸に伺い、規定のデザインがあるテーブル以外は図面を引いて一つひとつ制作。主に使う無垢材はアメリカンブラックチェリーとウォルナットで、そのほかにオークや楢、メイプルなども取り扱っている。塗装は自然の植物油をベースにしたオイルで施している。

東京都江東区清澄 3-10-4

03-3642-2470

土日祝 12:00〜18:00。平日は予約制。

*お店に足を運ぶ前に、HomePageで最新の情報を確認することをお勧めします。

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Writer Profile

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佐々木 健人

MUUSEO SQUAREエディター。1992年東京都生まれ。時計メーカーの資材購買を経て、ミューゼオ編集部へ。ディレクションのほか、ファッションや家具、文房具分野の取材執筆も行う。

終わりに

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アオゾラカグシキ會社を知ったのは4年ほど前。清澄白河を散歩していてふらりと立ち寄ったのがきっかけでした。

ドアを開けると、机や椅子や棚がところ狭しと並んだ家具屋さんとは異なり、広い部屋に家具がポツンポツンと間隔を空けて置かれていました。その家具一つひとつが際立つような空間作り、装飾しすぎない素朴さが記憶に残っていて今回取材をお願いしました。当時は深川江戸資料館の近くショールームと工房がありましたが、いまはショールームは小名木川の近くに移転し、工房は武蔵村山にあります。

現在のショールームに足を運んだのは初めて。ドア、タイル、家具の上に置く本や小物……細部まで友繁さんの目を通り抜けてきたものだけで空間が構成されていて、場所は変わってもショールームの雰囲気はそのままでした。

HPの素敵な写真は友繁さんご自身で撮影しているそうです。歪みがでないよう、時間をかけて何回も撮影することもあるのだとか。美意識に対して妥協しない、実直な姿勢に背筋が伸びます。

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