コート解体新書:第八回「ポロコート」アメリカトラッド系とクラシコイタリア系を比較する

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文/飯野高広
写真/佐々木孝憲

ヴィンテージコートの定番品を例に、コートの源流をたどる飯野高広さんの連載。第八回はポロコートを取り上げる。

人気が定着したアメリカとイタリアのものでは、生地もシルエットも異なるそう。

アメリカとイタリアで人気が定着した、スポーツ由来のポロコート

今回は「ポロコート(Polo Coat)」を採り上げる。こちらの直接の起源もスポーツで、19世紀終わりから20世紀初めにかけてイギリスで、ポロ競技の選手が休憩中=ウェイティング中に身体を温めたウェイトコート(Wait Coat)が変化したものだ。

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因みにこのウェイトコートは、ロング丈のダブルブレステッドでベルト付きという点で、嘗て「アルスターコート」と呼ばれていたものの流れを汲んでおり、以前ご紹介したタイロッケントレンチコートの親戚筋でもある。

ただし、スポーツ起源と申しても以前ご紹介したカバートコートやローデンコートとは、普及の経緯が似ているようで少し異なる。例えば選手だけでなく実際にはその観戦者、つまりスポーツを行う人だけでなくそれを「観る」側も当時から身に着けていた点。また、起源こそ確かにイギリスだが、人気が定着したのは寧ろアメリカとイタリアだった点も異なる。

かつてのウィンザー公や、今日のチャールズ皇太子がこれを身に着けている写真が非常に有名なので、イギリスでもさぞ人気があるよう思いがち。

しかし、両者の性格からすると「定番」とは異なる観点で考えたほうが自然だし、実際英国本国では第二次大戦以降人気が大分廃れてしまった結果、ポロコートは今日、アメリカントラッド系のものとクラシコイタリア系のものとに大別できる。

では両者は一体何が違う? その辺りを今回は探求したい。

明るいキャメル色が印象的な、アメリカントラッド系

アメリカントラッド系のポロコートの原点とされるのは、「かつての」Brooks Brothers(ブルックスブラザーズ)製のものである。

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前述したウェイトコートを参考に1910年頃に同社が発表したもので、その基本ディテールは、まず胸ボタンは通常はダブルブレステッド6ボタン3つ掛け、若しくは第一釦付近で下襟がロールする独特な6ボタン下2つ掛け段返り。

後身頃のみを締めるバックバンドが付くのは以前ご紹介したガーズコートと同様だが、登場当初は前身頃も含めて胴囲をグルっと一周するものも存在していた。

ただし前身頃には胸ダーツも脇ダーツも付かない、いわゆる「ボックスコート」の構造であるため、バックバンドで腰部を絞ってはいるものの、シルエット的にはややルースなずん胴形に近いものとなる。

同じアメリカ製でも「かつての」ブルックスブラザーズ製のものと他社のものとでは、仕様にいくつかの違いがあるのは意外に知られていない。

例えば袖は前者では単なるセットインスリーブだが、後者ではカフ付きのセミラグランスリーブとなる場合が多い。襟については前者のものはピークドラペルより鋭さが緩和された「セミピークドラペル」だったが、後者はダブルブレステッド故か素直にピークドラペルのものも見かける。

「かつての」ブルックスブラザーズ製のものは、襟の形状がなんとも独特。

「かつての」ブルックスブラザーズ製のものは、襟の形状がなんとも独特。

腰ポケットも前者はアメリカントラディショナル型のブレザーのそれと同様のパッチ&フラップポケットだった一方、後者はそれ額縁で囲ったようなフレームドパッチポケットを付けるケースが主流。なお、後者の腰ポケットは郵便受けに似ているからか「メールポケット」なる別名もある。

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「フレームドパッチポケット」は、パッチ&フラップポケットを一周枠で囲ったような造形。

「フレームドパッチポケット」は、パッチ&フラップポケットを一周枠で囲ったような造形。

生地についてはどちらも、明るめのキャメルベージュ無地でほぼ一択である。

ただし、前者は耐久性を考慮し敢えてキャメルヘア55%ウール45%の混紡だった(英国で特別に織らせていたとの説もある)のに対し、後者は専らキャメルヘア100%を用いる。

シンプルで分厚くあくまで実用性重視だった前者に対し、後者はキャメルヘアの特性、すなわちカシミアほどではないにせよ軽くて保温性に優れ、染色性は悪いが吸湿・発散性はウールに勝る機能性と、更にはこの素材独自の華やかさを前面に出したものと言えそうだ。

因みに着丈はどちらも膝上丈から膝下10㎝前後までと時代の流行により様々。写真のものは1980年代の「かつての」ブルックスブラザーズ製のもので、同社の現行品とは、何から何まで全く異なる。現行品は……オリジネーターとしてのプライドは、いったい何処に捨ててしまったのか、とだけ申し上げておこう。

なお、このアメリカントラッド系のポロコートにはダブルブレステッドバージョンのみならず、シングルブレステッドバージョンも存在する。

こちらは3つの胸ボタンが表面に見えるボタンスルーフロント(通称:ブチ抜き)で配置され、バックバンドが付かない以外はダブルのものと同じ。なので、要はキャメル色のボックスコートと考えていただいて構わない。

いかにもな「粋」が詰まった、クラシコイタリア系

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一方クラシコイタリア系のポロコートは、大雑把に申し上げてしまうと、以前ご紹介したダブルブレステッドのガーズコートの民間バージョンの腰ポケットを、ただのフラップポケットからパッチ&フラップポケットもしくはフレームドパッチポケットに変更することで、スポーティな印象を出そうとしたものだ。

こちらはアメリカントラッド系のポロコートとは異なり、胸ダーツはともかく脇ダーツは必ず付くので、構造としては「チェスターフィールドコート」の派生系とも言え、腰回りのくびれも綺麗に出やすい。

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胸ボタンの数は6つもしくは8つで、いずれの場合も一番上の胸ボタンは閉じるものと閉じないものの双方がある点や、襟がピークドラペル以上にアルスターカラーが主流な点などは、正にガーズコートと同じ。

また背面にはバックバンドが付くだけでなく、その周辺で一旦閉じて再び開く、非常に深いインバーテッドプリーツが付く場合が多いのもそれとの類似点だろう。

袖裾のカフスとセミラグランスリーブ。セットになりがちな組み合わせ。

袖裾のカフスとセミラグランスリーブ。セットになりがちな組み合わせ。

防寒対策で袖元にカフスを付けたり、身頃の裾周り(け回し)を比較的広めに取る点も一緒である。

ただし、ガーズコートと決定的に異なるのは生地だ。ダークカラーの分厚いウール地しかあり得ないイギリスのそれとは対照的に、こちらのポロコートはカシミア100%だろうがビキューナ100%だろうが、或いは無地だろうが柄物だろうが官能の赴くままなのがイタリアのコートらしいところ!

予め毛玉を作ってしまう「カセンティーノ」生地。メンテナンス性と保温性を兼ね備えた素晴らしいアイデア!

予め毛玉を作ってしまう「カセンティーノ」生地。メンテナンス性と保温性を兼ね備えた素晴らしいアイデア!

色は濃紺やダークグレイでも構わないが、明るいものだって沢山作られており、中でもコート好きなら絶対に押さえたいのは「カセンティーノ」と呼ばれるウール生地で仕立てたものだ。

これはイタリアのトスカーナ地方で古くから織られているもので、仕上げ工程でその表面を敢えてカールさせ毛玉を沢山作ってしまうのが大きな特徴。森や山の木の枝などにコートを誤って引っ掛けがちな狩人や羊飼い達のために考え出されたもので、予め毛玉を沢山作るのはもちろん、その傷を目立たなくするため。見事なまでの逆転の発想である。

実は毛玉にはもう一つ素晴らしい効果がある。そこに空気が貯まるので、そこまで分厚く・重く織り上げなくても十分暖かい生地になるのだ!

イタリアではレンガ色やオレンジ色のものが特に人気で、これも当初は他人から誤射されるのを防ぐ狩人の知恵だったものが「粋」として評価されるようになったもの。因みに裏地にはそれらと補色の関係である緑色のものが多く採用される(派手だなぁ……)。

写真のものも、そのカセンティーノを用いて日本の某有名セレクトショップがイタリアのとあるファクトリーに近年作らせたもので、襟の高さや袖の細さそれに膝上の着丈などにクラシックを気取った「当時の今時感」がプリントされている。

本当はバリバリの現地仕様であるオレンジ色のものがあればそちらを欲しかったのだが、流石に日本向けには企画できなかったか……。

起源がわかると、合わせ方もわかる典型例

アメリカントラッド系であれクラシコイタリア系であれ、ポロコートはあくまでタウンコート、つまりある程度以上畏まった場には不釣り合いなのは共通だ。

またキャメルベージュやオレンジと言った明るめな色合いが典型的であるが故に、「成功者の象徴」「富の象徴」として世間的に捉えられがちなのも似通っている。肌の色や髪の毛の色、それに瞳の色が異なるのでこれらの色味のものは正直、私達には扱い難いと感じがちだが、決してそんなことはない。

スポーツ起源のコートであることを思い出せば、同じくスポーツを起源とするアイテムと合わせれば違和感がなくなるのだ。

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例えばアメリカントラッド系のキャメルベージュのものは、それと補色の関係に近い濃紺色のブレザーとの相性が兎に角抜群なので、是非ともその上に羽織ってみて欲しい。

一方クラシコイタリア系のものは、確かに濃紺のものは無難で万能選手だが、もしオレンジやレンガ色のものが入手出来たら、茶系や緑系のツイードジャケットや3ピースのスーツと合わせてみたい。雰囲気が垢抜けて、しかも派手になり過ぎずキマる筈だ。

ーおわりー

クラシッククロージングを一層楽しむために。編集部おすすめの書籍

読むだけでもコートに関する知識が付く

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男のコートの本

<対象>
服飾関係者向け

<学べる内容>
コートの歴史。コートの作り方

メンズコートが自作できるようになる一冊。コートの中でもベーシックなPコート、トレンチコート、ダッフルコート、ステンカラーコートのデザインを紹介している。著者は東京コレクションにも出場した経験を持つ嶋崎 隆一郎。掲載されているコートは嶋崎氏が製作したもので、パターンが掲載されている。トレンチコートとダッフルコートは実物大サイズのパターンが付属。パターンだけではなく手順も詳細に綴られており、ある程度の採寸、縫製の知識があればコートが作れてしまうのではないだろうか。細かいパーツの話も豊富に収録しているので、読むだけでもコートに関する知識が付く。

男のお洒落はこの3人に学べ!

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The three WELL DRESSERS 白井俊夫・鈴木晴生・鴨志田康人――3人の着こなし巧者の軌跡

日本のメンズ服飾業界で絶大な支持を得る白井俊夫、鈴木晴生、鴨志田康人。世界的にも著名な3人は、日本を代表するウエルドレッサーである。彼らの人生を追うことは、戦後のメンズ服飾業界を俯瞰し、その歴史をなぞることでもある。3人の人生を生い立ちから描くとともに、スタイルブックとして活用できる写真も掲載。

公開日:2019年2月20日

更新日:2022年5月2日

Contributor Profile

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飯野 高広

ファッションジャーナリスト。大手鉄鋼メーカーで11年勤務した後、2002年に独立。紳士ファッション全般に詳しいが、靴への深い造詣と情熱が2015年民放テレビの番組でフィーチャーされ注目される。趣味は他に万年筆などの筆記具の書き味やデザインを比較分類すること。

終わりに

飯野 高広_image

ポロコートにせよガーズコートにせよ、バックバンドの付いたコートの良し悪しの分別は簡単だ。良い仕立てのものは、そのボタンを敢えて外して着た時より、それを留めて着た時の方が遥かに軽く感じる。バックバンドが「重量のバランスを分散させる」機能をしっかり果たしているからだ。残念ながら今日では、それが単なる飾り=デザイン上のアクセントに堕しているものも多いのだが……。

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