本から始まった、フランスとの出会い
子供時代から「三銃士」が好き。学生時代に出会った「南仏プロヴァンスの12ヶ月」も創造力が掻き立てられた。そういった本の影響もあって、フランスを思い浮かべる際は都会的なパリよりも、草原や田園など牧歌的な雰囲気を感じさせるメネルブなどを思い浮かべる。
僕がウエストンを気に入っている理由の一つは、その素晴らしい革質にある。
ウエストンは古来から伝わる伝統的なベジタブルタンニングを継承している。原皮となる革は1頭の牛からせいぜい3〜4足しか取ることのできない背中を中心とした部分。加えて、レザーソール専門のタンナリーを自社で所有しているほど革質にはこだわり抜いている。
革の質の良さという話であれば、ジョンロブがまずあげられるだろう。個人的には、ウエストンとジョンロブの革質は少し方向性が異なるように思う。ジョンロブは少し磨くだけできれいな光沢を放つ。加えて、触り心地はふわふわしている。
対してウエストンは革が厚く、傷がつかない。ドレスシューズらしい華やかさと、タフなカントリーテイストが共存している。
ウエストンは、革へのこだわりが半端ではないブランドです。特にクラシックラインのレザー系の底材は自社で製造しており非常に質がいいです。雨が降った時に履くとそのタフさがよくわかります。
他メーカーの靴を雨の日に履いていると、「これ、底溶けていってない?」と心配になるような履き心地になることがあります。ウエストンはそういうことがありません。
また、意外と魅力的な部分は
ライニング。あまり擦り切れることが少なく、よく汗を吸ってくれます。いい加減なイギリスブランドよりも質実剛健かもしれません。
大人の階段を登り、興味を持ったJ.M.Weston
ちょっと良い靴を買うようになったのは大学生のころ。神保町の輸入品をたくさん扱っていた靴屋でパラブーツを購入したのは今でも覚えている。
洋服は同じく神保町にあるセレクトショップ「メイン」で買っていた。当時は渋カジの全盛期。ボタンダウンシャツにチノパンという、きれいめな東海岸風の洋服にパラブーツを合わせていた。
仕事をはじめて10年ほど経ち、学生時代とは異なりスーツファッションが中心となったので、ドレスラインのパラブーツや国産のロイドフットウェア、42ND ROYAL HIGHLANDなどを好んで使うようになった。
スーツを買っていた店はA.S.T.Y(アプレセイズ タケシヤジマ)。ファッションデザイナーの矢島タケシがディレクションしていたショップだ。
アプレセイズはフランスらしい、美しい色合いやラインを意識した仕立てを得意としていた。その影響は多分に受けていて、最近ではパリの匂いを感じるヴォルテラーノ・岡本圭司さんにスーツを仕立ててもらうことも多い。
フレンチテイストのスーツが好きなので、フランス製のウエストンには常に興味があった。ハンドメイドで作られた靴があるということも、好奇心を後押しした。
ただ、働き始めて数年の若手が買えるわけでもない。当時は敷居が高く手がでなかったものの、その頃からフランスとアメリカ、イギリスで作られた靴に違いがあることを認識し、興味を持ちはじめた。
2001年にはクリエイティブ・ディレクターとしてデザイナーのミッシェル・ペリーが就任しました。レディスシューズのデザイナーをしていただけあって、彼が関与した靴は都会的な靴が多いんです。21世紀に入りモードな靴が増える一方で、私が知る限りクラシックラインは
木型も含めて昔から変えている部分はほとんどないはずです。
コアビタシオン(フランス語: Cohabitation)という言葉があります。所属勢力の異なる大統領と首相が共存する状態を指す言葉ですが、価値観が異なっていても、一つ屋根の下に収めておくというスタイルは政治以外にも見てとれます。
例えば、ルーブル美術館でエントランスの役割を果たしているのはガラスでできたピラミッド。とてもモダンです。しかし、その周りを囲んでいる建物はとてもクラシック。超先端と超古典を共存させるスピリットがある国がフランスです。ウエストンも、そういう観点ではフランスらしい靴屋だと思います。
J.M.Westonの代名詞。丁寧なサイジングとタイトなフィッティング
ふとした時に高島屋のウエストンショップで意を決して履いてみた。代表モデルのゴルフだ。
友人の革靴好きたちは皆「ウエストンはサイジングが丁寧。タイトなフィッティングにしておいて、馴染んで来ると足に吸い付くような履き心地になる」と話していた。
噂にたがわずタイトフィットを勧められたが、ハーフサイズほど上げてもらった。
上げてもらったものの、万事にきっちりしたことが苦手な自分にはタイトフィットは向かないと感じたので、オークションサイトでさらにハーフサイズ大きいゴルフを買ってみた。
これがたまたまかなり古い時期のウエストンで、独特の佇まいが気に入って履くようになった。
ウエストンのクラシックラインの特徴として、一つのレングスに対し必ず複数の
ウィズが用意されていることが挙げられます。昔はどこのブランドも複数のウィズ展開がありましたが、生産の合理化に伴い数を減らしてきました。
デザインを見ると、ウエストンのクラシックライン、特に
内羽根式は「旧
チャーチを意識していた」ことがわかる靴が多いんです。例えばトウシェイプがセミスクエアになっていたり。昔のチャーチが好きな人は、ウエストンを手にとってみるのもいいかもしれません。
編集長が愛するJ.M.Westonクラシックライン
ゴルフ(641)
ゴルフは当時Men's EXなどの雑誌でジャーナリストシューズと紹介されていた。履きやすく、歩きやすく、雨にも強いのでまさに足で稼ぐジャーナリスト向きだと思う。見た目からしてタフ。それは、おそらくコバに存在感があるから。スーツよりはジャケパンと合わせるとうまくまとまることが多い。
ゴルフはその名前の通り、ゴルフをプレイする際に履く靴として製造されました。狩猟用より軽量で、かつプレイ中に雨が降っても平気なようにラバーソール仕様になっています。
色ごとに撥水性が若干異なり、中でもこげ茶色は撥水性が高いと言われています。お天気とか、地面の状況とかあまり気にせず、場合によって徹夜とかなんとかになっても耐えられる。
また、比較的どんな格好をしていても様になります。そういう意味で利便性の高い一足と言えます。
ハントダービー(677)
9分仕立て。オイルを染み込ませた極太番手の麻糸にて職人が手縫いで縫っていくノルウィージャン製法を採用しており、放つオーラが圧倒的。ツイードジャケットやブラウンリネンのジャケットなど、カントリーテイストな装いによく合う。
ウエストンの靴の中で、フランス狩猟靴の伝統が最もあらわれている靴がハントダービー。
底付けはヨーロッパの登山靴の底付けのやり方そのもの。コバで
ウェルト(細革)を介在させていない分、屈曲性に優れ、おむすびのようなノルウィージャンスティッチでアッパーと
インソールとをしっかりと固定させているので、見た目の重厚感のわりに足への追随性の高さで定評があります。
クラシックウイングチップ/トリプルソール(590)
ショートノーズな590は、足が小さく見えるので合わせる洋服をとても選ぶ。例えば、裾幅が広いパンツを履いている時には少しアンバランスな印象を受ける。最近はパンツの裾も絞られてタイトになってきていて、こういったショートノーズの出番も増えつつある。
ミッドソールを二段重ねし、
アウトソールを含めて三枚構成とした
トリプルソールはカントリーシューズが起源の靴であるため、堅牢性が高く重さも重量級です。ただ見た目のわりに木型が細いので、履く人を選ぶ靴でもあります。
ジスカール(579)
トリプルソールと同じく捨て寸がなく、足がコンパクトに見えるので、裾幅が狭いパンツと合わせてバランスを取る。コンチネンタルな外羽根のセミブローグはチノーズと相性抜群。
アメリカ靴に暫し見られる「ロング
ウィングチップ」の典型的な意匠「バルモラル」と呼ばれるデザインが特徴です。
バルモラルとは、トウキャップや
鳩目周りから始まるブローギングやステッチングがかかと部まで伸び切った意匠のこと。
J.M.Westonの2代目ユージェーヌ・ブランシャールはアメリカに修行に行き、いわゆるグッドイヤーウェルト(
グッドイヤー・ウェルテッド)の靴作りを学んでフランスに帰ってきました。そのことを思い出させてくれます。
Uチップ(597)
597はセンターシームの長い独特の顔が古くから親しまれているモデル。598(別名:ロジェ)と似ているが、ラバーソールを採用しているので雨の日でも履ける。
同じUチップでも、ゴルフより多少都会的なエッセンスが加わっています。アイレットは4つで、外ハトメタイプ。内ハトメに比べるとより表情がカジュアルになります。
パラブーツをはじめとするフランスの靴ブランド同様、Uチップの作り込みには目を見張るものがあります。
フランスでは、モカシンのUチップは代表的な狩猟靴として使われてきた歴史があります。アルプスは言うに及ばず、スペインとの国境もピレネー山脈で区切られていることからわかるように、国土は意外と険しいので足への追随性が高いUチップの靴が好まれていたのでしょう。
一方、イギリスの狩猟靴といえば
フルブローグ。イギリスは高い山が少なく、雨が多いので
ブローグ系が主流になっているのだと思います。
フランスという国とJ.M.Weston。オリジナリティを大切にする姿勢に惹かれる
主観にはなるけれども、フランスメイドのものは上品な色使いが多い。イギリスほどカチッとしないし、イタリアほど主張しているわけでもない。かといって、デザインされすぎているわけではない。エレガンスというよりは、どちらかというと朴訥としている印象がある。
車にせよ、文房具にせよ、あまり他国に影響されず、独自デザインを貫く。世界中に広げようという野心もあまり感じられない。
フランスの農用地面積は51%とEU最大で、農業生産額もEUの中で一番。「南仏プロヴァンスの12ヶ月」で思いを馳せた牧歌的な風景は、今も残っているのだろう。時代が変わっても自分たちのよさを貫く。そこにとても惹かれている。
ーおわりー