John Lobb(ジョンロブ)が「革靴の最高峰」と呼ばれる理由とは?

取材日: 2018年10月7日

取材・文/ミューゼオ・スクエア編集部
写真/成松 淳

John Lobb(ジョンロブ)が「革靴の最高峰」と呼ばれる理由とは?_image

現代でも革靴の最高峰とも謳われるJohn Lobbジョンロブ)ですが、旧作モデルを今改めて見直してみると、その進化の過程を見つけることができます。

今回はミューゼオ・スクエア編集長が愛用するジョンロブのオールドモデルのシューズから、編集長が感じるジョンロブの魅力について語ります。服飾ジャーナリスト・飯野高広さんのより詳しい解説付き!

ジョンロブが革靴の王様と呼ばれる理由

ジョンロブの歴史

MuuseoSquareイメージ

美しい革靴の代名詞とも言われる、シューメーカーブランド・ジョンロブの靴。

流線型のラインで構成された形、コシとしなやかさのある革素材。どこまでも美しく洗練された印象の強いジョンロブだが、合わせて実用面を優先した革や製法を取り入れた靴づくりをしていた。

まずは、ジョンロブがどんな靴メーカーだったのかを整理しておきたい。

1829年、ジョン・ロブ氏はイングランド南西部コーンウォールに生まれる。ロンドンで修行したのち、オーストラリアへ。ゴールドラッシュで盛り上がる地で鉱夫用のブーツを作り、成功を収める。ロンドンに戻ったあとは自身のショップを持ち、富裕層向けの高級オーダー靴店として知られるようになる。

息子ウィリアム氏の代にはパリに進出。その後、通称“ロブ パリ”はエルメスの傘下となり、ロンドンにあるジョンロブ以外は全てエルメスの管理下に置かれることとなった。ここから「ジョンロブ」は高級既成靴の最高級ブランドとして認知されるようになる。

なお、ジョンロブ・ロンドンでは既製品は取り扱わず、全てビスポークの受注生産を貫いている。

Barros、Chanbordなど、同じエプロンフロントの革靴でもこれだけモデルがある!

左からバロス、ノルウェイ、シャンボールド、ボルドー、ビエナ。左側のややカジュアルな印象のバロスから、右端のドレッシーな印象のビエナまでの振り幅がある。

左からバロス、ノルウェイ、シャンボールド、ボルドー、ビエナ。左側のややカジュアルな印象のバロスから、右端のドレッシーな印象のビエナまでの振り幅がある。

私がジョンロブに惹かれる理由の一つに、シューズデザインのバリエーションの豊富さがある。

奇抜なデザインのものがたくさんというわけではない。あまり革靴に興味のない人からしたら一見同じ靴に見えるかもしれないが(笑)、エプロンフロント(フロント部分の切り替えがエプロンをかけたようにUの字型にカーブしている、通称Uチップとも呼ぶ)と呼ばれる共通したデザインの靴だけでこれだけのバリエーションが存在しているのだ。

革靴好きなら共感してもらえるだろうが、写真のように並べて違いを比較をするのがまた楽しいのである。

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ジョンロブにはオーダーメイドのみを扱う「ジョンロブ ロンドン」と既製ラインを主に取り扱う「ジョンロブ パリ(ロブパリ)」があります。

そのロブパリのUチップの豊富さは目を引くところ。エドワードグリーンでさえもUチップシューズは代表的なものがドーバー以外ほとんどないのに、Uチップへの力の入れようがうかがえます。

ジョンロブの革のバリエーション

上段左から:ダークオークボックスカーフ、メレーゼバッファローグレインカーフ、バーガンディボックスカーフ、下段左から:アルディラアンテークボックスカーフ、ハバナアンティークボックスカーフ、スクワラルボックスカーフ、ランバッファローグレインレザー

上段左から:ダークオークボックスカーフ、メレーゼバッファローグレインカーフ、バーガンディボックスカーフ、下段左から:アルディラアンテークボックスカーフ、ハバナアンティークボックスカーフ、スクワラルボックスカーフ、ランバッファローグレインレザー

モデルとラストの話を上げたが、もう1つ革のカラーや素材も革靴の表情を大きく変える要素の一つであり、革靴選びの楽しみでもある。同じ茶系統の靴でもこれだけバリエーションがあるのもジョンロブならではではないだろうか。

ジョンロブで多く用いられているのが、「フルグレインレザー」という革だ。日本語では「銀付き革」と呼ばれる、銀面(動物の皮の表皮を削ったすぐ下の層)を残した皮革最も外側の部分の革。外皮に近いことから耐久性が高く、かつしなやかで包み込むように足に馴染んでくれる。

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特にボックスカーフと名前がついている頃の革は抜群に質が良いです。型押しやアンティーク加工など加工をほとんどせずに、そのまま使用できる透明度の高い革でした。おそらく当時の製造元はデュプイではないかと推測します。

時代に合わせて進化し続けてきたジョンロブのラスト

ジョンロブの革靴の一つの特徴と言えるのが、創業してから現在に至るまで「これこそがジョンロブ定番」といったモデルの革靴がないのである。

使用するラスト(木型)も革の素材も一つの型に収まらず常に変化を遂げてきたジョンロブ。ロングセラーとされる同じ名前の付いたモデルであっても変遷があるのが面白い。

靴がどんなシルエットを描くかは、ラスト(木型)にかかっている。歩くための機能性と、美しいシルエットを兼ね備えた靴を作るために、ジョンロブはいくつもの木型をモデルごとに用意している。

ただしジョンロブらしい堅牢さと上品さを残しながらモデルチェンジを図っている。クラシックにこだわるのではなく、時代やトレンドに合わせた新しいラストの開発を続けるなど、「最高峰だから」と奢りがないところがさすがだ。

ちなみに、ジョンロブは毎年10月25日(靴の聖人セント・クリスピンの祝日とされる)にその年限定のイヤーモデルを世界同時発売もしている。時には日本限定と称されるものも出たりと、ジョンロブの豊富なモデルは愛好家もすべて把握するのは難しいだろう。

(左)1999年のイヤーモデル「ジョンロブヴィンテージ1999」、(右)2002年のイヤーモデル「ジョンロブヴィンテージ2002」と、

(左)1999年のイヤーモデル「ジョンロブヴィンテージ1999」、(右)2002年のイヤーモデル「ジョンロブヴィンテージ2002」と、

同じ革靴でも製造工場が違うことも?ジョンロブの名作靴たち

ジョンロブが製造した靴の中には寿命の長いモデルもある。モデル名が同じでも、工場が違ったりもする。ジョンロブの名作靴を紹介しよう。

クロケット&ジョーンズ製とジョンロブ製。Uチップの「バロス(Barros)」を比較する。

バロス。ラストは#292。

バロス。ラストは#292。

数あるモデルの中でも、わかりやすく変化を遂げているひとつがエプロンフロント(Uチップ)のバロス。フレンチトラッドの頃に流行したモデルで、ちょっとカジュアルなデザインなのだがジャケットスタイルにも合わせやすい傑作だ。 

(左)自社工場で生産されたとされるラスト#2998のバロス、(右)クロケット&ジョーンズ社の工場で生産されたとされるラスト#292のバロス。

(左)自社工場で生産されたとされるラスト#2998のバロス、(右)クロケット&ジョーンズ社の工場で生産されたとされるラスト#292のバロス。

バロス(#2998)の表記。

バロス(#2998)の表記。

バロス(#292)の表記。

バロス(#292)の表記。

上の写真で並べた2足は同じバロスというペットネーム(靴の愛称)だが、実は作られたファクトリーが違うとされている。

写真右で赤みがかった靴がクロケット&ジョーンズ社の工場でOEM生産されたもの、そして写真左で茶色の靴がジョンロブの自社工場で作られたものではないかと思われる。インソールに職人により書き込まれたモデル名の筆記にも変化がある。

私自身はバロスを履く際はフレンチテイストの洋服と相性が良いと感じて組み合わせることも多い。ちなみにクロケット&ジョーンズ製のバロスは、使用された革のお陰かなのか雨のときに履いても全然へこたれないと感じる頑強さがある。

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バロスの自社工場生産品とクロケットアンドジョーンズ工場でのOEM生産品の見分け方があります。木型ナンバーの記載が4桁数字なら、ほぼ間違いなく自社工場、そして3桁数字ならばクロケットアンドジョーンズ工場でOEM生産されたものです。

ただし、後者の写真で間違えやすいのが、「9013」という4桁数字。これはクロケットアンドジョーンズ工場でのモデルナンバー。すぐ近くにある「292」が実際の木型のナンバー。

さらに、バロスモデルに限ってですが、クロケットアンドジョーンズ工場で作られたものかどうか、一発で確認できるポイントが。シューレースの左右の穴の間隔がほぼ一定ならば自社。そして、つま先に向かって左右の穴の間隔が広がっているのが、クロケットアンドジョーンズ工場製となります。  

人気モデル「フィリップ(Phillip)」から「フィリップ2(PhillipⅡ)」へ。何が変わったのか?

フィリップといえば現在のジョンロブの代表的なモデルと言って差し支えないと思うが、これも変遷してきているモデルの一つである。

写真左からフィリップ#470、フィリップ#8695、フィリップ2の#7000

写真左からフィリップ#470、フィリップ#8695、フィリップ2の#7000

写真左からフィリップ(#470)、とフィリップ(#8695)、フィリップ2(#7000)の順で変化してきている。初期に作られたラスト#470はボノーラというイタリアンブランドで製造され、その後のラスト#8695は買収したエドワードグリーンの工場を自社工場として、そこで生産されたと言われている。

製造工場や製法も紆余曲折しながら今の形へ行き着いたという背景も面白い。フィリップの一番新しいモデルであるフィリップ2は、現在のジョンロブの主力ラストである#7000が使われている。

ちなみに履き心地にも違いがあり、フィリップ(#470)は歩くときの硬筆さが他のジョンロブシューズと比べても全然違う。足を着地したとき革靴の前部分がカツーンカツーンと音がなるのが独特で好きなのだ。

またボノーラ製のフィリップ#470は特に質の良い革を使っていたのだろう、磨けば磨くほど輝きを増していく。サフィールノワールのデリケートクリームを使用するシンプルなお手入れだけで十分輝きが維持される。

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#470のラストは土踏まずより前半分の底付け手法がハンドソーンウェルテッド製法、後ろ半分がマッケイ製法です。成松さんが言っているカツーンという硬質な音とはき心地はこの手法によるところなのかもしれません。

スーツにも合わせやすい、ダービー(Darby)の変遷。

ダービー。ラストは#8695。革はアルディラアンティークを使用。

ダービー。ラストは#8695。革はアルディラアンティークを使用。

ダービーは外ハネ式のフルブローグでデザイン自体はカジュアルなのに、スーツにも合わせやすい。フルブローグは飾り穴が多いので足元が主張しがちなのだが、シックに仕上げているのはさすがジョンロブと感じさせるモデルだ。

(左)ダービー#2466、(右)#8695

(左)ダービー#2466、(右)#8695

写真左のラスト#2466(90年代前半から半ば)から#8695(90年代中盤から後半以降)へと変化。#2466が全体的に細身なら、#8695は甲の厚みが少しボリューミーになり、かかとも若干大きくなっている。

ちなみに現在はダービー3としてラストも#7000に変更されたが、現在も根強く引き継がれているモデルだ。

どちらの靴も美しいカラーが特筆すべきポイント、特に黄味の強いライトブラウン(アルディラアンティーク)は銀杏の紅葉に合わせて必ず履きたくなる。

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外羽根のブローグシューズ、しかもダブルソールという野暮ったくなりがちなデザインのはずなのに#2466の細身のラスト、そしてパターンと革の良さの組み合わせで全く野暮ったさを感じさせないのが、さすがロブパリ。

また、一部のモデルを除いてコバにはギザギザ模様がついていないのが当時のロブパリのポイントの一つであり、それも洗練された印象を与えています。

クオリティが高いと定評。ボノーラの工房製のジョンロブ。

MuuseoSquareイメージ

今ではなかなか手に入れるのが難しくなった革靴の一つに、イギリス以外で作られたジョンロブがある。イタリアのブランド・ボノーラを手がけていた工房がジョンロブシューズの生産を請け負っていた時代に作られた。

インソールにもしっかりとボノーラのブランド刻印が入っており、ジョンロブでもボノーラからも同じものが発売されていたとか。このイタリアンメイドの時代の靴は革も丈夫で、作りも優美さだけではなく機能面を重視した無骨さも感じられるのが特徴だ。

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90年代の終わりにロブパリが自社のクオリティを上げるための一つの施策としてボノーラを作っていた工房に製造を一時的に依頼し、ハンドメイドにより近い彼らのノウハウを吸収しようとしていたのでは?と言われています。

アウトドアでも活躍するジョンロブのコテージライン。

ジョンロブ コテージラインのウラヌス。

ジョンロブ コテージラインのウラヌス。

洗練された都会の紳士靴という印象の強いジョンロブだが、実は少し毛色の違ったシューズも登場している。それが、旅先や日常使いでの顧客の要望を受けてデザインされたコテージラインだ。

底がラバーソール、そしてアッパーには水を弾くバレニアレザーを使い雨天にも対応できるタフなシューズ。高級靴とされるジョンロブがカジュアルなテイストで作ったライン・コテージラインの靴の一つ。

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1995年頃からスタートしたコテージライン。最初はパラブーツにOEM生産を依頼し、その後はエシュンにOEM生産を依頼していたのではと当時は言われていました。実際のところ、製造に携わっていたのはエシュンのようです。

ロブパリは街で履く靴というイメージがありましたが、顧客の旅先やリゾート地でも履きたいという顧客のリクエストをくんでデザインしたもののようです。なので使用する革もタフでデザインもよりリラックス、カジュアルといった印象のものが多いですね。

ジョンロブのラストの見分け方

MuuseoSquareイメージ

冒頭でジョンロブにはモデルが豊富にあるとお伝えしたが、モデルは大まかにラスト(足の木型)×デザイン×革素材の3つの要素の掛け合わせ。

革靴を作る際に基盤となるラストの違いによってそれぞれ靴のフォルムも違ってくるのだが、ジョンロブにはいくつか時代ごとに代表的なラストが存在する。今回は、その代表的なラストを比較してみたい。

スクエアトゥ(#8896)か、それともラウンドトゥ(#8695)か。

ラストを見分けのつきやすいポイントから分類すると、つま先部分のトゥがスクエアかラウンドかの大きく2つに分けられる。

(上)スクエアトゥ#8896と(下)ラウンドトゥ #8695

(上)スクエアトゥ#8896と(下)ラウンドトゥ #8695

それがわかるのが90年代後半から2000年初頭において主力ラストだったスクエアトゥ#8896とラウンドトゥ#8695の2足。同じようなコンセプトで作られたラストだと思うがトゥの違いで印象は大きく異なる。

#2466から#7000まで。ラウンドトゥでの変遷。

ちなみに90年代後半から現在に至るまでに同じラウンドトゥでも大きく変化してきた。それが#2466から#8695への変化、そして#7000の登場である。

(左)#2466、(中央)#8695、(右)#7000

(左)#2466、(中央)#8695、(右)#7000

それぞれ登場した順に、一般的には全体的に細身な#2466、ややボリューミーで中庸さが美しい#8695、ロングノーズでより洗練されたフォルムの#7000と評されている。

写真だけではわかりにくいがつま先の先端位置がやや内側寄りだったものがだんだんとセンターに移動していっているのが分かるだろうか。

#8000と#8896。スクエアトゥでの変化は?

(左)スクエアトゥのラスト#8000、(右)ラスト#8896

(左)スクエアトゥのラスト#8000、(右)ラスト#8896

MuuseoSquareイメージ

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同じスクエアトゥでも違いを見せる#8896と#8000を比較してみよう。#8000の方がよりつま先部分が細く長く伸びているように見える(ロングノーズともいう)。時代の雰囲気の変遷でもありよりロングノーズが好まれるようになっていった時期でもある。

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このモデル変遷は作られていた工場の変遷でもあります。#2466はエドワードグリーンの以前の工場にOEM生産を依頼して作られていたラストで、ロブパリだけの独占木型でした。

#8695は、自社工場(95年にエドワードグリーンの工場を買いとる)生産を開始して初めてロブパリ独自に開発したラストです。#2466に比べると幅広で高さが出てきました。現在に至るまでの標準的な木型です。

ちなみにラウンドトゥ#8695のスクエアトゥのバージョンが#8896になります。さらに進んで#7000は2000年代に入ってからのラスト。#8695よりもロングノーズで現代的なシェイプ最近の主力ラストになります。このスクエア版が#8000です。

やはりオールドジョンロブに心惹かれる

私の好きなオールドジョンロブシューズを紹介してきたが、どれも集めたわけではなく、「これもいいなぁ」と一つ一つ入手した結果。手元に集まったシューズを改めてみて、私は特にオールドジョンロブに心惹かれていたようだと気付いた。

靴の楽しみ方は人それぞれにあると思うが、私が「革靴は楽しい!」感じるのは家のベランダでジョンロブを並べて磨いている瞬間だ。履き続けて、磨き続けていると革靴があるとき新品よりもカッコよく変化を遂げるタイミングがあるのだ、磨きながらその経過を見つめるのが心満たされる時間だったりする。

ーおわりー

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