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ものづくりの哲学とヒストリーを携えた、著名革靴ブランド10選。

チャーチ、ジョン・ロブ、エドワード・グリーン、リーガル……。英国や米国の名ブランドたちはどんな歴史と個性を持ち合わせているのか。ブランドごとの特徴を服飾ジャーナリスト・飯野高広氏の監修でわかりやすく解説。各革靴ブランドの愛好家たちのシューズフォトも豊富に掲載!

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Church's(チャーチ)

国・地域:イギリス・ノーザンプトン

創業年:1873年

創業者:トーマス・チャーチ/ウィリアム・チャーチ/アルフレッド・チャーチ 

1873年、紳士靴の聖地として知られるイギリス・ノーザンプトンで産声をあげた靴メーカーの老舗。250工程にも及ぶグッドイヤーウェルテッド製法を用いた既製靴メーカーとして、早い段階から確固たる地位を築き出して来た。アメリカ市場へも比較的早く参入し、アメリカントラッドファッションとも相性のよいアイテムとしても長年広く認知されて来た。2000年にイタリアのブランド・プラダの傘下に入った後、使用する木型が変更されたのが大きな転換点。ほんの少しのアップデートではあったものの、ファンの間では今日でも、それ以前の木型への賛辞と共に、それ以降の木型への拒絶反応が後を絶たない。それゆえ、プラダ資本以降を現行チャーチ、それ以前をオールドチャーチと区別されることも多い。なお、靴の中敷に押印された都市名の数などにより、オールドチャーチの中でもさらに製造時期を分類することも可能。名作靴に内羽式フルブローグの「チェットウィンド」がある。

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Edward Green(エドーワード・グリーン)

国・地域:イギリス・ノーザンプトン

創業年:1890年

創業者:エドーワード・グリーン

エドワード・グリーンは、一言で言うならば「90年代以降のイギリス靴の主役」。80年代までは私たちが想像する英国靴はチャーチの一択だったところに、メディアの後押しもありトップに踊り出てきた存在。このブランドならではのポイント3つ。①色のムラ感を出しまるで家具を買うような茶色のアンティーク加工を提案したこと。②従来は靴のサイズや形で選ぶ意識があったところに木型(ラスト)の違いによって選び取る楽しさを提案したこと。③「英国靴=堅牢=硬い」という固定概念を打ち壊したこと。他社の英国靴と比較しても底面のあたりが格段に柔らかく、足を入れた瞬間にその違いを感じられ、古き良きイギリスの伝統的な形を残した保守本流のデザインも特徴。1990年代半ばに、それまでの工場をエルメス資本のパリのジョン・ロブに売却し新工場に移転した際、定番の木型が若干変更になり、ファンの間で大論争になった。そのため、その時代までの製品を「旧グリーン」、以降のものを「新グリーン」を明確に分けて評価するファンも多い。しかし「新」でもチャーチほどの拒否反応はあまり起きていないのは、その際にデザインも巧みに洗練・熟成させていたからかもしれない。名作靴は、内羽根式のストレートチップ「チェルシー」。外羽根式のUチップ「ドーバー(Dover)」。

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J.M. WESTON(ジェイエムウエストン)

国・地域:フランス・リモージュ

創業年:1891年

創業者:エドワール・ブランシャール



名前の由来は、20世紀の初めに創業者の息子が靴修行に行ったアメリカの地名で、その際習得したのがグットイヤーウェルテッド製法である。日本ではちょうどフレンチトラッドが流行っていた80年代中頃にセレクトショップで取り扱われ始め、足元にウエストンのローファーやゴルフを合わせることが贅沢なお洒落の代名詞となった。大きな転換期は、婦人靴デザイナーとして有名だったミッシェル・ペリーをアーティスティック・ディレクターとして迎え入れた頃から。それ以降は彼のデザイン・監修によるものと、従来からの定番人気モデル(ローファーやゴルフなど)とで作風が明確に分かれている。海外では前者が好意的に受け入れられている一方、日本では後者のファンが根強い。またレザーソールを自社工場(革の鞣し工場)で製造・調達できる唯一の靴メーカーでもあり、少々の雨天なら十分対応できる革質には評価が高い。

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John Lobb(ジョン・ロブ)

国・地域:イギリス・ノーザンプトン

創業年:1849年

創業者:ジョン・ロブ

靴職人だったジョン・ロブがロンドンにビスポーク専門店を開設したことが始まり。その後2代目が開設したパリの支店が1976年に経営難でエルメス傘下となり、この段階でジョン・ロブはロンドンとパリとで経営権が完全に分離された。暫し誤解されるが、既製靴を製造・販売しているのはエルメス傘下のパリの方のみである。彼ら=エルメス資本のパリのジョン・ロブが既製靴の分野に参入したのは1981年のこと。当初は主にクロケット&ジョーンズにOEM生産を依頼していたが、90年代初めからは当時のエドワード・グリーンにも依頼し始め、結局90年代半ばにこのエドワード・グリーンの工場を買収して自社工場とし、以後現在に至るまでメインの工場としている。21世紀に入って以降は、デザイン面でのモダン化が進み、本来の英国靴的な様式美が大分薄れてきてはいるものの、革や作りへのこだわりはさすがエルメスグループ。既製靴の品質面では間違いなくナンバーワンの存在ではないだろうか。ここの名作靴は、内羽根式のストレートチップ「シティー」。なお、「本家」筋であるロンドンのジョン・ロブも健在であり、ここでビスポークするのは英国靴愛好家の憧れでもある。

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Crockett&Jones(クロケット&ジョーンズ)

国・地域:イギリス・ノーザンプトン

創業年:1879年

創業者:ジェームズ・クロケットと、その義理の兄弟チャールズ・ジョーンズ。

もともとはOEM生産をメインとしていた影武者的存在。これまでの依頼元で有名なブランドはラルフローレンやポールスミス、そしてエルメス資本のパリのジョン・ロブなどなど錚々たる顔ぶれであり、今日でも数多くのショップ・ブランドの別注品を手掛けている。確かな技術と依頼元への臨機応変な対応力、そして豊富なデザインパターンや木型を活かし、1980年代後半からは自社ブランドにも本格的に注力するようになり、認知度を一気に高めていった。日本では大手のセレクトショップで置かれている英国靴の代表選手と言えよう。名作靴は内羽根式のストレートチップ「オードリー」。このモデルは90年代半ばに開店したパリ支店からの発案を採用したもので、従来の定番を若干ロングノーズのチゼルトゥ(トゥの先を鋭角に落としたデザイン)にアレンジしたもの。木型の造形は現代的だが形はオーソドックスであり、時代の匂いを巧みに取り入れた点が、多くのファンに違和感なく受け入れられた。これまでの同社の経験が凝縮されている一足である。

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Paraboot(パラブーツ)

国・地域:フランス・イゾー

創業年:1908年

創業者:レミー・アレクシス・リチャード

ブランドの名前の由来は、ラバーソールの原料である天然ゴム=ラテックスを積荷するブラジルの港町「パラ」から。創業者のレミーが滞在先のアメリカで出会った一足のラバーシューズに魅了され、ラテックスを底材に使用した靴を作り始めたことがこのブランドの始まり。パラブーツの特徴の一つはやはりゴム底命のところ。自社で型を抜きラバーソールを製造する、数少ない紳士靴メーカーである。また、創業地がアルプスのふもとであるためか、険しい山道にも耐える堅牢なノルウィージャンウェルト製法を得意としている。用いる革も耐水性のあるオイリーなカーフが主体であり、「雨の日でも履ける高紳士級靴」と言う独自の地位を築いている。名作靴は、レミーの息子の名前を採用したというチロリアンシューズの「ミッシェル」、また、ここ数年日本でも良く売れているUチップの「シャンボール」。

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Tricker's(トリッカーズ)

国・地域:イギリス・ノーザンプトン

創業年:1829年

創業者:ジョゼフ・トリッカー

1829年にイギリス靴の聖地ノーザンプトンに創業した老舗靴ブランド。元々ハンティング用の靴作りを得意としていたため、耐水性と耐久性に富んだラインナップが主流。チャールズ皇太子により「英国王室御用達(ロイヤルワラント)」にも認定されている。トリッカーズと言えば金茶色=Cシェイドレザーのカントリーシューズと言うほどブランドイメージが完全に定着しているものの、ドレスシューズも従来のデザインを守り貫いており、イギリスの既製靴メーカーの中では最も昔の顔をきちんと残している存在ではないだろうか。日本でブレイクしたのは80年代終盤辺りから。代表的な靴は矢張りCシェイドレザーのフルブローグブーツだろう。

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ALDEN(オールデン)

国・地域:アメリカ マサチューセッツ州 ミドルボロウ

創業年:1884年

創業者:チャールズ・H・オールデン

アメリカ東海岸を代表する靴メーカーで、アメリカントラッドをひたすら突き進むブランド。他の米国メーカーがイタリアやフランスの靴に影響を受けても一切のブレも感じさせないことから、アメトラ好きから今も昔も支持を得ている。オールデンならではのポイントとしては大きく分けて3つ、①アッパーにコードバンを用いた紳士靴を広めた存在であること。②アメトラの大定番であること。③エドワード・グリーンと同様に紳士靴を木型で選ぶ観点を植え付けてくれたこと。特に有名な木型はモディファイドラスト。整形靴的要素が強く、土踏まず部分の「くびれ」に個性があるため、アーチの立体感をしっかり意識して履くことができる。名作靴はモディファイドラストのVチップ。バリーラストのチャッカーブーツ。

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REGAL(リーガル)

国・地域:日本・東京

創業年:1870年

創業者:西村勝三

日本で紳士靴を語るときには絶対に外せない、我が国で屈指の歴史を誇る靴メーカー。元々は日本製靴という企業名で、戦前は主に帝国海軍や陸軍への軍靴の納品が中心、つまり戦後日本人が靴を本格的に履くようになる前からのメーカーであることは、今日意外に知られていない。1961年にアメリカのリーガルとライセンス契約し、それからしばらく後に、当時飛ぶ鳥を落とす勢いだったVANジャケットと組んで「VANリーガル」なるダブルネームの靴もリリース。いずれもアイビーブームのなかで人気を不動のものにした。やがて売り上げの大半をリーガルブランドが占めるようになり、1990年にアメリカの会社から商標権を買い取る形で社名をリーガルコーポレーションに変更。比較的お手頃な価格帯の既製靴も豊富にある一方で、ビスポーク部門も存在するなど多彩さは特筆すべきであろう。品質の安定性にも定評があり、日本市場での知名度・シェア共に高いリーガルは、紳士靴界のトヨタのイメージか?

SCOTCH GRAIN(スコッチグレイン)

国・地域:日本・墨田区

創業年:1964年

創業者:廣川悟朗

株式会社ヒロカワ製靴が所有するブランド。以前はJUNブループの紳士靴などのOEMも数多く受け持っていたが、1978年に「スコッチグレイン」での製造・販売を開始して以降は、専ら自社ブランドに注力している。英国靴的なものをメインにしたいという意向もあり、型押しレザーの代表格・スコッチグレインから名前をつけたという。大量生産に向くセメンテッド製法は一切行わず、底付けはグッドイヤーウェルテッド製法一筋。良い品質のものをなるべく安くという精神から、中物にコルクではなくスポンジを用いるなど独自の工夫が見られるのも特徴で、コストパフォーマンスの良さには定評がある。特にアッパーの革質の良さは特筆に値する。また、世代や用途別に木型やデザインを微妙に作り分けてシリーズ化を徹底しているため、リピート購入が容易な点も隠れた魅力である。なお、ヒロカワ製靴は現在では2代目の廣川雅一氏が後を継ぐ典型的なファミリービジネス。無闇な拡大に走らず行えることを手堅く実行する経営スタイルは、自動車メーカーで例えるならばスズキのイメージか?

文/Muuseo Square編集部
監修/飯野高広

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