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John Lobb、Alden、Church’s……、名作革靴ブランドのブラックレザーを比較分析!

John Lobb、Alden、Church’sなど錚々たる名ブランドの靴たち。ベーシックカラーと捉えられ、一見同じように見える黒色の革靴たちも、見る人が見れば革質によって青みがかっているのか、赤みがかっているのかその微細な違いが見えてくるという。ファッションジャーナリスト・飯野高広氏が黒色の世界を深掘りする。

取材日: 2016年7月11日

文/飯野 高広

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学校の先生:「はいこれ、なんて書いてある?」
私:「ん??? わかりません……」
学校の先生:「ならばこちらは、なんて書いてある?」
私:「えっ? これもわかりません」
学校の先生:「そうかぁ…… 飯野君は念の為、眼医者さんで詳しい検査を受けようね」

小学校4年生の初夏。校内での簡単な健康診断の「め」で、飯野は引っかかった。母に伝え一緒に近くの眼科へ。もう少し複雑な検査の後、
眼科:「飯野君は俗に言う色弱です。お母様の実のお父様も……」
母:「あの……私の父もでした。日常生活に大きな影響が出るものなのでしょうか?」
眼科:「特段ありませんが……将来の職業の選択に、多少制約が出て来ます。例えば飛行機のパイロットとかにはなれません」
ここで母の顔が一気に蒼ざめていったのを、今でも思い出す。その数年前に放映されたTVドラマ「白い滑走路」(主演は両親ともに大好きだった田宮二郎)に感化され、「ジャンボの機長になる!」が毎日の口癖だった私。そんな純粋な夢を、伴性遺伝なる避けようのない要因で諦めさせざるを得なくなったのだから。

実のところ「パイロットになれない」は、私自身は別段ショックではなかった。むしろ「自分は色の捉え方が、他人より劣る」なる宣告の方が、頭の片隅にずーっと付きまとうほど強烈だった。そしてそれが色に対しての扱いの慎重さ、すなわち色使いの冒険ができずベーシックな色合いばかりを追求してしまう今日の姿勢に、確実に繋がっている。

ことさら慎重、と言うかある種の畏敬の念すら感じて扱っている色が、何を隠そう「黒」。非常に濃い紺やチャコールグレイと黒との見分けの付かない時が今でもある。そのため、私は身体の中心部に来る服に関しては、黒のものはフォーマルウェア以外には「間違いが怖くて」未だに身に付けられない。対照的に、中学の頃に美術か何かの講義で「輪郭線」、すなわち立体の連続性が絶たれる箇所の概念を知ったのをきっかけに、身体の端部に限っては黒いものでも受け入れられるようになった。端っこならむしろ黒っぽくなるのが自然だよなぁと…… やがて私が解る範囲での微妙な色味の違いを楽しめるようにもなった。

そう、その典型が紳士靴なのである。黒はそのアッパーになくてはならない色。しかも革を鞣すタンナーやフィニッシュの違いが、色味のわずかな差に直結する。今回はそんな「さまざまな黒」を、靴の解説とともにご紹介したい。「黒」については色味と艶の高低の2つの軸で捉えてゆく。あまりにマニアックな探求、しかも色覚異常の私の目を通じての探求なので、写真と解説との差に違和感を持たれるかもしれないが、何卒お許しいただきたい。

たかが黒、されど黒。黒の革靴分布図がこちら!

今回採り上げた「黒の革」はどれも、靴好きには有名なものばかり。たかが黒、されど黒。革質のみならず色の出方・見え方の微妙な差こそ、この色の靴の隠れた魅力。茶系の靴の革のような顕著な違いには瞬間的には気付けないからこそ、ついつい深追いしてしまうのである!

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1. 「黒光り」のお手本。John Lobb(London)の黒(ボックスカーフ)

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(革)旧西独 カール・フロイデンベルグ製ボックスカーフ/(デザイン)外羽根式Vフロントプレーントウ  

1970年代の製造と思われる「本来の」ジョンロブのビスポークで、底付けは当然フルハンドソーン・ウェルテッド。黒のボックスカーフと言えば、まずはこの靴に用いられている旧西独カール・フロイデンベルグ社のものを推したい。端正に青味掛った艶と透明感のバランスに秀でたこの黒は、紳士靴のアッパーとして長らく頂点を極めていた存在。正に「黒光り」のお手本であり、つま先の既に色が抜けかかった状態ですら凛々しい。シンプルな外羽根式のVフロントプレーントウなだけに、柔らかいのに軟くはない絶妙なハリを感じる革質がメリハリある履き心地に直結している。なお現在このタンナーはワインハイマー・レーダー社として分離独立し、主要な製造拠点をポーランドに移し製造を続けている。

2. 華やぎを感じるRegal Tokyoの黒(ボックスカーフ)

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(革)フランス アノネイ製ボカルーカーフ/(デザイン)ホールカットサイドレースプレーントウ

銀座のRegal Tokyoが以前、英国のアルフレッド・サージェント社に委託製造させていた、Regalブランドなのにリーガルコーポレーション社製ではないある意味貴重な一足。アッパーはフランスのアノネイ社製のボックスカーフ。後述するデュプイ社のものと同様にやや赤みを帯びた黒がフランス製らしいところだが、それに比べると光沢が強く出るような気がする。華やいだ雰囲気を有するこの革を、サイドレースアップ仕様のホールカットプレーントウにすっきりまとめてくれたのは、私のような革好きにはとにかく嬉しかった。因みにアノネイ社はデュプイ社から独立したタンナーで、契約農家制などを通じ早くから革の安定供給に積極的に取り込んでいたことでも知られ、現在はエルメスの傘下である。

3. ひたすら眩しい黒。Aldenの黒(シェル・コードヴァン)

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(革)アメリカ ホーウィン製コードヴァン/(デザイン)外羽根式プレーントウ

Aldenの代表モデルである外羽根式プレーントウ。アッパーは言わずと知れたアメリカ・ホーウィン社のシェル・コードヴァン。この革の黒は、牛革のそれとは繊維の走る向きが異なることに起因する「抜け感と乱反射」が入り混じった光沢が大きな特徴だ。ズバリ、あまりに眩しくかえって暗い黒。ベトッとした密着感と履きジワに細かなものが出て来ない点も牛革とは違う。因みに鳩目周りにちらほら見える白い粉は、カビではなくなめしの際に加えた蝋分が析出したものだ。造りは雑だがいざ足を入れると最高にリラックスできてしまうのが、昔から「医学的に正しい靴」の探求に積極的なAldenの素晴らしさ。ある程度以上かしこまった場でも履かれる黒靴ですら、この「用の美」を味わえるのが有難い。

4. たくましくも上品だったChurch’sの黒(ブックバインダーカーフ)

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(革)イギリス ピポディ製ブックバインダーカーフ/(デザイン)外羽根式プレーントウ

このShannonは1999年に英国で購入したもの。現地では同社の125周年記念モデルがこれより安くセールになっていたのだが、迷わずこちらを選んだのが今でも懐かしい。アッパーは今は亡きイギリスのタンナー・ピポディ社のブックバインダーカーフ。いわゆるガラスレザーの一種だが、モチっと膨らみを感じるキメの細かさと薄青掛ったクリアーな光沢は、他のそれより明らかにたくましく、しかも品が良い。靴クリームも選ばず素直に入り、Church’sで現在使われている類似品=ポリッシュドバインダーカーフとの差は歴然だ。なおこの靴、木型が廃番の#224である正真正銘の「旧チャーチ」にもかかわらず、中敷の都市表記にはMILANが含まれ、製造年が1998年とほぼ断定できる点も案外貴重かも?

5. 赤みに美意識が出るJ.M.Westonの黒(ボックスカーフ)

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(革)フランス デュプイ製ボックスカーフ/(デザイン)外羽根式フルブローグ

パリの直営店で購入した一足で、同社が一時傘下に収めていたフランス・デュプイ社のボックスカーフをアッパーに用いている。他の国のものに比べ明らかに赤みを感じるのがいかにもフランスの黒革で、光沢もややマットでかつ良い意味での硬さと言うかコシがある。お手入れしてもピカピカにはなり難いものの、だからこそ「輪郭線」となるのには最も相応しい質感とも言え、やはり芸術大国らしい革なのかもしれない。この靴はダブルソールではなくてトリプルソール、しかもウェルトが二重に巻かれた超骨太な風貌が一大特徴。この作風こそがフランス紳士靴の実は保守本流なのだが、ミシェル・ペリーがデザインに関与して以降のJ.M.Westonにはあまり見られなくなってしまったのが残念でならない。

6. 引き締まった黒。John Lobb(Paris)の黒(ボックスカーフ)

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(革)フランス デュプイ製ボックスカーフ/(デザイン)内羽根式ストレートチップ

前出のビスポークとは異なり、こちらはエルメス傘下のいわゆる「ロブパリ」の既製靴で、1990年代初期に製造されたもの。アッパーは実はJ.M.Westonと全く同じ、フランス・デュプイ社のボックスカーフ(同社も現在はエルメスの傘下)。しかしデザインの違いでそう見えるのか、はてまた革のグレードが多少異なるのか、こちらの方が透明度に若干秀でており、磨くといぶし銀のようなさ締まった光沢を放つ。この靴の木型である“Derby”は、現行品の主流・#7000の3世代前にあたり、やがて完全買収することになるエドワード・グリーンの当時の工場に委託生産させ始めた最初期にしか使わなかったもの。足囲は表記こそEだが実際にはC程度しかなく、フォーマルユース用らしい細さと低さが際立つ。

7. 色味と言うか色気。Gaziano & Girlingの黒(ボックスカーフ)

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(革)イタリア イルチア製ボックスカーフ/(デザイン)内羽根式ストレートチップ

21世紀の英国靴の象徴とも言える同ブランドが、既製品を投入した2006年に早速購入した一足。内羽根式キャップトウの様式美を踏まえた上でのダイナミックな造形だけでなく、当時注目が集まり始めたイタリア・イルチア社のボックスカーフをいち早くアッパーに用いていた点も魅力的だった。他のタンナーのそれに比べ、パキッとした光沢とやや紫寄りの濃い口の色味、そして薄さの割にしっかりとハリのある表情。フィット感を意識した緩急あるシェイプやビスポーク的要素をふんだんに盛り込んだディテールと、この革質とがぴったり融合している。一時操業停止に追い込まれたイルチア社だが、近年再起を遂げた。イタリアのタンナーらしいこんな「色気のある革」を、まだまだ期待せずにはいられない。

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