革靴好きなら一度は気になる!? ブラックカラーの靴クリームを徹底比較。

文/飯野高広
写真/佐々木孝憲

同じ靴クリームのブラックといえどこれほどまでに違う⁉︎ モゥブレイ、イングリッシュギルド、サフィール、ブリフトアッシュなど、色味、テクスチャーそして使用感を服飾ジャーナリストであり革靴愛好家である飯野高広さんがマニアックに語ります!

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靴クリームの界隈はここ数年、紳士靴以上に状況に大きな変化が生じている。種類が多様化し選択肢が広がると共に、高額なものも当たり前に。

オフィスウェアのカジュアル化や長引く不況の影響で、革靴そのものを買う頻度が以前より確実に減っているからこそ、一足一足を大切にする方向に意識が変化しつつあるのが影響しているのかもしれない。

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そんな中、各靴クリームの「色」の出方の違いも、選択のより重要な要素になってきた。

含有する水・油・蝋のバランスや、染料・顔料の種類や配合比の違いで、同じ色名でも商品次第で靴に塗った後の印象はまるで異なるからだ。そして実は、その差が最も顕著に表れるのが、最も使う頻度が高いと共に正に一見どれも同じな「黒」のもの!

そこで今回は、そんな「黒」の乳化性靴クリームの中でも、特徴的な色味を有する5つに迫ってみよう。

透明感に富むグレイ! M.モゥブレィ・プレステージ クリームナチュラーレの「黒」

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かつて英国王室御用達(ロイヤルワラント)の靴クリームブランドとして名を馳せた名品・メルトニアン直系の「M.モゥブレィ シュークリームジャー」の高級版として2011年に登場したこの黒は、純粋なブラックではなく、どこからどう見ても青み・緑みを帯びたミディアムグレイ。

そして登場時にとにかく驚かされたのが、色味に従来の靴クリームにはない瑞々しさや「抜けの良さ」が備わっていたことだ。薄過ぎはしないものの、アッパーの革の地肌を無闇に隠すことなく素直に活かすこの色感は、恐らく顔料を含まず、染料のみで色出しを行っている効果なのだろう。

ババロアのような、いや炒り卵のような抵抗感の少ないクリームの無二の質感も相まって、「この革には水分を補給してあげたいなぁ……」と感じたら、ついつい真っ先に取り出してしまいがちだ。(ちなみに現行品はパッケージが白から紺に変更されている)

私の大好物の「あの色」。イングリッシュギルド ビーズリッチクリームの「黒」

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ノーザンプトンの著名な紳士靴メーカーが製造ラインで用いる靴クリームの供給業者が、一般ユーザー向けに作ったものがこちら。2013年だったか、登場直後に新宿の東急ハンズで衝動買いしたのを今でもはっきり覚えている。

真っ黒とは明らかに異なるブルーブラックな色合いに、2つの思い出が瞬時に蘇ってしまったからだ。以前書いた万年筆のその色のインクの中でもとりわけ思い入れの深い、昔のスーパークインクのそれ(インク紹介回のParkerのSuper ink Blue Black)にそっくりだったこと。そして若い頃大好きだった、1990年代初めまでのメルトニアンの靴クリームの黒とも、色味が極めて近かったからでもある。

蜜蠟が多めなレシピのためなのか、光沢が重厚でシャープな黒に仕上がるので、ビシッと仕上げたい時に重宝している。(ちなみに、ラベルが赤ではなくこげ茶のものも存在する)

華のあるチャコールグレイ。サフィール ビーズワックスファインクリームの「黒」

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フランスの名門・サフィールの、こちらは青地に白のロゴのノーマルバージョン。

芸術大国の商品だけあり現行で76色もある中の黒は、黄色みと僅かに赤みを感じる華やかなチャコールグレイの雰囲気を有する。アーモンドオイルがやや多く配合されている効果なのかもしれないが、この色なのに「くすみ」をあまり感じず、暗さではなく明るさすら思わせてくれる点も魅力だ。

更にはこの靴クリームには補色・着色力を増すため顔料を多めにブレンドしていることもあって、薄くて上質なベールを一枚被せたようなムラのない光沢に仕上がるのも特徴だろう。香りも薬品臭くないので、ちょっとしたキズの補修や婦人靴のお手入れには絶対に欠かせない。黒に限らず何色も用意したくなる!

エスプレッソ? いやフレンチロースト? サフィールノワール クレム1925の「黒」

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黒地に金のロゴを有するサフィールのプレミアムバージョンは、蜜蝋ベースの基本レシピを1920年代の登場以来守り続ける「高級靴クリーム」の元祖。

近年シアバターオイルを新たに配合し、仕上がりのキメ細やかさが増したこの黒にはズバリ、深煎りコーヒーを思わせる赤みを感じ、思わず茶系の靴にも塗ってしまうほどだ。また、表情を引き締めると言うより、それを落ち着かせるようなパワーと優しさを兼ね備えた色感なので、特に冬場に出番が多くなるのも頷ける。

実はこれ、乳化性ではなく製造時に水分を全く入れていない油性の靴クリーム。だから忙しい時はこれ一つで革への栄養補給だけでなく、ワックスのように鏡面磨きまで行なえてしまうことも知っておいて損はしない。(ちなみに、現行品は蓋がプラスチックから金属製のものに変更されている)

大都会を感じるブルーグレイ、ブリフトアッシュ ザ クリームの「黒」

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表参道に店舗を構え日本の、いや世界の靴磨きに革命をもたらし続ける長谷川裕也氏率いるブリフトアッシュ。

2015年に発売されたここのオリジナル靴クリームは、化粧品レベルの高い安全性や瓶を持ち込むことで中身のみの販売も受け付けるユニークさと共に、色味の凛々しさでも従来の靴クリームの常識を打ち破ってしまった感がある。黒に関しても、青みと赤みのバランスが一歩も二歩も抜きん出ており、とても染料のみで色出しされたものだとは思えない。

しかもスキンクリーム並みの癖のないサラッとした質感なので、このクリームだけは靴に塗りこむ際に小ブラシではなく、指で革に直に入れたくなってしまう。透明感抜群の艶が出るのにあまり時間が掛からない点も、何かとありがたい!

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靴クリームのブラックには「青い黒」と「赤い黒」が存在していた!飯野さんによる色味比較の分布図がこちら。

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さて好評の4分割マトリックスでは、素直に縦軸に透明度、横軸に赤みと緑みを配してこの5つを比べてみた。

透明度はさておき、イタリア製だがオリジンは英国にあるM.モゥブレィ・プレステージともろイギリス製のイングリッシュギルドは、はっきり言って「青い黒」。対照的にフランス製のサフィールの2つは「赤い黒」。あ、これ以前やった黒の革靴の色味の時と似たような話だ! 日頃見ているものの色の僅かな違いが、やはり品物の色の差に明確に表れているのだろう。

ーおわりー

公開日:2017年3月4日

更新日:2022年5月2日

Contributor Profile

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飯野 高広

ファッションジャーナリスト。大手鉄鋼メーカーで11年勤務した後、2002年に独立。紳士ファッション全般に詳しいが、靴への深い造詣と情熱が2015年民放テレビの番組でフィーチャーされ注目される。趣味は他に万年筆などの筆記具の書き味やデザインを比較分類すること。

終わりに

飯野 高広_image

どれも日頃から使い慣れているもの(笑)だけあって、実は今回の話は以前から気にしていたこと。ただ、色味の違いが、使い方の違いに無意識に直結していたのは正直驚き。青っぽいもの・赤っぽいもの、どれも重宝しているのは間違いありません。

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