立ち見続出の「靴磨き選手権大会」。主催者が語る舞台裏

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文/佐々木健人

2019年2月16日に開催される「靴磨き選手権大会」。日本各地に靴磨きの専門店がオープンし、シューシャインを嗜む人が増えている今、なぜエキシビジョンではなく大会を開催したのか?仕掛け人の一人である、田代径大(たしろけいた)さんにお話を伺った。

2018年1月27日、銀座三越の5Fは靴磨きを眺める人で熱気につつまれていた。

観覧用として用意された椅子には到底収まり切らず、立ち見が続出。その列すら三重四重にもなり、最後尾はモニターを通し大会の様子を見守る人も。ニコニコ動画で配信された映像は2018年12月時点で2万回再生をゆうに越えている。

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「お手製の運営がいいんです」と語るのは、発起人の一人であり、当日はマイクを握りMCもこなした田代径大さんだ。

大会の事務局は、田代さんの後輩である佐藤真也さんを含めた株式会社三越伊勢丹のスタッフのみ。外部のイベンターにお願いすれば、もっと規模も大きくできるだろうが、田代さんは「考えていません」と話す。

革靴の販売足数は2008年から2018年にかけて減少傾向にある中、靴磨き文化を定着させるためには何が必要なのか。紳士靴売り場で9年間勤務した経験を持つ、田代さんが出した答えとは?

第一回は、うれしさを通り越して言葉にならなかった

ーー前回の「第一回靴磨き日本選手権大会」の手応えはいかがでしたか?

なんか……想像以上でした。2、30人くらいお客さんが来てくれて、靴好きの間で盛り上がるくらいかと思っていたんです、開催1週間前くらいまでは。

開催の5日前にニコニコ動画さんから取材依頼をいただいたんです。その頃から「おやおや?もしかしたらバズるんじゃないか?」という一抹の不安を抱きはじめて。

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ーー期待ではなく、不安。

これまでも靴磨きに関するイベントを開催してきて、それなりに(靴磨きへの)関心が高まっているとは想像していました。しかし、まさかあんなにお客様がいらっしゃるとは想像できていなかったですし、ニコニコ動画の配信で約2万人視聴するなんて思ってもなく。言葉にならなかったです。

ーー喜びよりも驚きが先行したんですね。

ある程度イメージしているところに達するとうれしいんですけど、あまりにも超えていたので「ええ!」みたいな驚きにかわちゃってて。開会宣言する時は、ガクブルですよ(笑)。

ーーガクブルですか(笑)。

ガクブルですよ。予選の開始時刻の直前、待合室で待っていたら「会場に人が溢れているので、早くはじめてください」とスタッフに急かされて。会場についたら、一気に緊張しました。

だって、MCに関しては素人ですし。でも、この大会の司会者に求められていることは、解説や実況。「プログラム番号一番!〇〇!」という進行が必要とされているわけではなく、結婚式の二次会の司会者のような盛り上げを求められているわけでもない。だから、他の人にお願いするわけにもいかず、発起人であるBrift Hの長谷川さんと二人でMCを行いました。

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エキシビジョンではなく、大会とした理由

ーーエキシビジョンではなく、「大会」という形式にしたのはどうしてでしょうか。

そうなんです。そこが一個の壁だったんですよ。大会は順位を決めるわけじゃないですか。でも、日本人って順位を決めるのをあまり好まないと思うんです。出場者も、主催の私たちも実はリスクがあって。「靴磨きエキシビジョンやります」「みんなに磨いてもらって展示します」が一番簡単なんです。

順位を決めるのは、怖いからやっていなかったんですよね。

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ーーそういった懸念があったにも関わらず、大会に落ち着き、第二回も同じ座組みでの開催となりました。

「優勝者を決めた方が面白いだろ!」ってことです。僕らの目的は、「靴と靴磨きの文化の発展と繁栄を実現する」こと。目的を達成するために何が必要かといったら勝負かな、と。勝負となると、(エキシビジョンと比べても)出場者の方の顔が変わるんです。ただおそらく、出場者の方は嫌だったとは思います。

ーー第二回の予選会の様子をニコニコ動画のアーカイブ配信で拝見しましたが、プロアマ問わずみなさんすごく上手でした。

うまいです。だって、クロスをあんな早く巻いて磨き始める人、いないですからね。レベル高いですよ。全員レベル高い。半端ないです。僕なんかは、出たら足元にも及ばない。もう競技です。靴磨きはエンタメを超えている競技になったと思いました。スポーツでしたね。

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ーー「スポーツ」とおっしゃいましたが、ポジティブに捉えているのでしょうか?それともネガティブに捉えているのでしょうか?

ええと、この競技に関してはポジティブです。めちゃポジティブ。もっとストイックになってほしい。

本当はオリンピックみたいに、種目を増やしたいんです。靴文化を伝えていくことを最上位の目的としているので、靴と靴磨きを好きになってもらえるようなコンテンツを作っていきたいです。その一つが靴磨き選手権大会の、シューシャイン部門だったということです。

ーー例えばパティーヌとかも。

はい。オリンピックでも、100mが好きな人もいれば、マラソンが好きな人もいる。カヤックに人生を賭けている人もいる。「種目は違えど、全員スポーツが好き」みたいな状態を目指したいんです。

現在の靴磨き日本選手権大会は、「誰が一番早く光るんだ!」という100m走のような競技なんですよ。フィギュアスケートみたいな競技があってもいいと思うし、チームワークが試されるような種目があってもいいと思うんです。

ーーオリンピックを目指して、達成率はどのくらいでしょうか?

まだ2,3歩目くらいです。あと7,8歩くらい必要ですよね。でも、一気にやろうとは思ってないんです。そうすると、他の人に入ってもらっちゃうしかなくなっちゃうんで。

自前でやるからこそ、熱量をあたたかいままお届けできる

ーーMCなどの運営を、自前でやるモチベーションはどこにあるのでしょうか。イベント開催となると、外部のイベンターなどに入っていただくこともあるかと思います。

本音を言うと、外部の方に入っていただいた方がラクだとはたまに思うんですけどね。ただ、自前でやっているイベントほど楽しいものはなくて。

それに、自前でやることによって関わっている人の熱量を、あたたかいままお届けできる。僕は、革靴の文化を伝えるにはそっちの方がいいかな、と。スニーカーはカルチャーで攻めていっていると思うんで。

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なんか、親近感というのかな。距離を与えたくないんですよね。

「靴磨き、すごいよね」で終わるのではなく、「靴磨き、自分もやってみたい!」と思ってもらわないと。

「かっこいい」とか、「可愛い」だけだと駄目だと思うんです。距離を詰める必要があって、それにはお手製の運営がいいんです。かっこよすぎちゃいけないんですよ。

ーーそう思うのはどうしてでしょうか。

ビジュアルに凝ったイベントをやったこともあるんです。そういうイベントは瞬間的に売り上げが作れたりはするんですけど、同じようなスピードで廃れるんです。

僕は常に緩やかに上がっていく曲線を描いていきたい。広告打ってドーンというのは、僕はあまり想像していなくて。

ーーそうしたら、継続的な開催が鍵となりそうですが、ShoeShinerMeeting(靴と靴磨きを愛する人が集まるオフ会)で田代さんとお会いした時に、「赤字なんです」とお話を聞いて衝撃を受けました。

入場料もないですしね。第一回と予選は赤字なんです。今は文化の発展のためにやっています。持続可能にするために、売り上げは作っていかなければいけない。そこは、正直にいうと厳しいです。

なので、もっと観覧する人が増えてくれれば、持続可能な形にする方法が見えてくるかもしれない。応援してくれる方を増やさないと終わってしまうという危機感が常に背後にあるんです(笑)。

第二回靴磨き日本選手権大会の見所

ーー第二回は、靴磨きを本職としていない、アマチュアの方も参加可能になりました。

本当は第一回からそうしたかったのです。靴磨き文化の発展にはプロアマは関係ありません。

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ーー第一回があそこまで盛り上がっていると、応募もたくさんありそうです。

出場者の募集定員は50人だったんですけど、定員以上の応募は来ませんでした。しかし、それは想定内です。

大会の日、銀座に来られるかというと、仕事の関係で来られない人もいるわけです。それに、名前が出るのでプロからしたら、負けたときのリスクもある。靴磨き選手権大会で1位になることがメリットだと思う人と、リスクだと思う人が出てくるのは明らかでした。

また、アマチュアの方でも、靴磨きを見て楽しいのと、大会に出場するモチベーションでは相当ギャップがあると思っていました。

ーーすごく冷静ですね。

ビビりなだけです(笑)。本当は応募ではなく、当日エントリーでやりたかったんです。でも、万が一50人定員のところに100人会場に出場者が集まったら、それはそれで困っちゃいますしね。

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ーー2019年2月には第二回の本選がありますが、主催者として注目しているポイントはありますか?

出場者のみなさんは、予選で他の方の磨きを見ているわけなので予選を実施した10月の磨きと、2月の磨きで違いが出ると思うんです。それぞれの選手が準決勝、決勝に向けて数ヶ月間でどうブラッシュアップしてきているのかを見るのが楽しみです。

予選を勝ち抜いた12名のうち2名がアマチュアの方です。応援する方がいると、観戦の楽しみになるかと思います。今回も難しい課題靴を準備しているので、出場者の方がどう攻略するのかを楽しんでもらえたら。

ーおわりー

公開日:2019年1月12日

更新日:2022年5月2日

Contributor Profile

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佐々木 健人

エディター、プランナー。1993年東京都生まれ。時計メーカーを経てミューゼオに入社。オンラインジャーナル「ミューゼオスクエア」のディレクション、ECサイト「ミューゼオファクトリー」の製品開発などを担当。

終わりに

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Brift Hの長谷川さんと、田代さんの間で第一回の大会を開催すると話が出たのは2017年の5月とのこと。大会は2018年1月の開催だったので、準備期間は約8ヶ月間。場所の確保には少し苦労したそうですが、タイトなスケジュールの中、実施までこぎつけた関係者のみなさんの熱意に打たれました。第二回は2019年の2月16日に開催が決定しています。これまでの大会の様子は(プレミアム会員になると)ニコニコ動画で観ることができるので、大会の雰囲気などはそちらをチェックしてみてください!

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