「日本一の靴磨き職人」 石見豪がこだわり抜いたブラシブランド「KINKOU」始動。

文/佐々木 健人
写真/THE WAY THINGS GO

「日本一の靴磨き職人」の称号を持つ石見 豪さん。彼がオーナーを務める靴磨き専門店「THE WAY THINGS GO」からこだわり抜かれた靴ブラシが発売された。

既存のブラシメーカーとのダブルネームではなく、製造委託先の選定からデザインまでディレクションし「ブラシブランド」を立ち上げたのはなぜなのか。お話を伺った。

日本一の靴磨き職人が立ち上げたブラシブランド「KINKOU」

MuuseoSquareイメージ

「今まで研鑽してきたことが、間違いでなければ優勝という最高の結果を出せるはずです」

銀座三越で開催された第一回、靴磨き日本選手権大会。HPに書かれた意気込み通り日本一に輝いたのは、大阪の船場ビルディングにお店を構える「THE WAY THINGS GO」の石見 豪さん。

全国区で名をはせるシューシャインのプロフェッショナル12名の出場者の中でたった一人、ベースを作ったあとワックスをのせるフルケアをおこない会場を沸かせた。

大会で磨く靴は乳化製クリームが浸透している状態のもので、与えられた時間は20分。 ワックスケアのみを行う職人さんが多い中、石見さんはクリーナーで乳化性クリームを一度落とし、再度入れたあとワックスケアを行った。通常お店で行う手順を踏み、クオリティを保ちつつ両足20分で仕上げる技を魅せた。

そんな石見さん率いる「THE WAY THINGS GO」は、2018年4月にブラシブランド「KINKOU」を立ち上げた。深みのあるオレンジ色の箱の中には、手入れの手順が書かれた取り扱い説明書と共に、高級感のあるブラシが収められている。

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靴ブラシは3種類発売されている

KINKOUブラシは100年以上に渡って手植えブラシを製造してきた老舗メーカーのもと、フルハンドメイドで作られている。職人がひと穴ごとに手植えするため毛切れを起こさず、脱毛もほとんどおこらない。

そのため耐用年数は長く、年間何千足の靴を磨くシューシャイナーでもずっと使えるとのこと。通常の使用頻度ならば子供の代まで受け継いでいける。

品質はもちろん折り紙つき。この記事ではこだわり抜かれた「デザイン」に焦点を当てていきたい。

デザインの原点「靴磨きを知らない人に手に取ってほしい」

「このブラシを、靴磨きに関心がない人にも興味を持ってもらうきっかけにしたいと思いました。もともと靴磨きが好きな人であれば、ブラシの使い心地やつくりを購入の判断基準にしますし、既存の製品はそういう人をターゲットに作られているようです。どうすればそうでない人にも手に取ってもらえるだろうと考えた時、デザインの重要性を感じました」

靴ブラシは3種類発売されている。クリームを塗り込むための豚毛のブラシ。表面の塵を落としたり、スウェード素材のデイリーケアに向いている馬毛ブラシ。そして、仕上げの磨きに使われる山羊毛のブラシだ。

それぞれのブラシには毛に合わせた動物のアイコンがあしらわれている。

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「お客様の目の前で磨く『その場磨き』をしていると、僕の手元のブラシを指して『今使っているのは、何の毛ですか?』と尋ねられる方が多くいらっしゃいます。初めて靴磨きをする人でもパッと見て判別できること、それでいてカッコ良いことを条件に考えました」

石見さんは2012年9月に出張靴磨きをスタート。日々店頭に立ち、述べ3万足の靴を磨いてきた。最初は一人ではじめたお店も、現在では4人のスタッフを抱えるまでに成長した。

現在TWTGでは3名の職人が活躍している。左から寺島さん、石見さん、細見さん。

現在TWTGでは3名の職人が活躍している。左から寺島さん、石見さん、細見さん。

動物のロゴをあしらうことはブラシを作り始める時のコンセプトとして決まっていた。このロゴ、納得のいくものができあがるまで1年かかったそう。

「ほしいイメージが明確にあったので、そこから少しでもずれていると即座にデザイナーに指摘していました。デザイナーの方はデザインするのがお仕事なのに、僕たちの要望はただひとつ、自分たちの頭にあるイメージを再現することだったので、きっとすごく嫌なクライアントだったと思います」

大阪で評判のいいデザイン会社数社に当たったものの、発注までは至らなかった。結果、イラストレーター探しも石見さんたちが行うことになる。

「思っていた通りのイラストレーターがみつかった時は、飛び上がるくらいうれしかったです。僕があまりにも喜んでいるので、彼はプレッシャーを感じたようですけど、スムーズに進んだと思います。と言っても、メールを含めれば100回以上やり取りしました。最後まで付き合ってくれて、イラストレーターには本当に感謝しています」と石見さんは話す。

遊び心が感じられる山羊毛のブラシの取扱い説明書。ブラシによってイラストも変わる。取説に描かれている靴はあの有名ブランドの革靴。キャップ部分をぼかすことで、見る人が見たらわかるような形になっている。

遊び心が感じられる山羊毛のブラシの取扱い説明書。ブラシによってイラストも変わる。取説に描かれている靴はあの有名ブランドの革靴。キャップ部分をぼかすことで、見る人が見たらわかるような形になっている。

ブラシは蓋部分が黒の漆塗り。身が無垢の木で作られている。光沢感のある漆部分が光を反射し、高級感漂う。ブラシの中心には、箱同様毛の種類に対応した動物のロゴが刻印されている。

MuuseoSquareイメージ

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「初期に作った刻印はもっと複雑だったんです。でも、改良を重ねてどんどんシンプルにしていきました」

刻印は金型で押されている。押してちゃんと画として出るのかの確認も必要になってくるのに加え、修正がかかるたびに金型費はかさむ。

「廃盤になった型もたくさんあります。でも妥協はできませんでした」

ブラシは洋服の生地を包む際に使用される上質紙で包まれている。さらに、届いたときに毛が曲がらないようにという配慮から、ブラシはケーキフィルムのような硬いシートで保護されている。

「靴磨きを文化として定着させる手段の一つが、ブラシを作ることでした」

構想から約2年ほどの開発期間を経て出来上がったKINKOUブラシ。現在販売しているのは店舗と自社サイトのみ。とても好評で生産が追いついていないそう。

「デザインにこだわることによって、靴磨きを知ってもらえるきっかけになれば」

冒頭に述べたように、2018年1月には初めての日本靴磨き選手権が開催された。また、シューシャイナーの数もここ数年で急増し、マスメディアに取り上げられることも増えてきた。

KINKOUとは「均衡」、その名の通り「バランス」という意味だ。「ひとつの考えに縛られずに多角的に捉え、バランスを保つのは何事においても難しいこと。 当たり前にあるものを特別な味わい深いものに変換できるバランス感覚を持った会社にしたいと名付けました」と石見さん。

KINKOUとは「均衡」、その名の通り「バランス」という意味だ。「ひとつの考えに縛られずに多角的に捉え、バランスを保つのは何事においても難しいこと。 当たり前にあるものを特別な味わい深いものに変換できるバランス感覚を持った会社にしたいと名付けました」と石見さん。

「『靴磨きがブームだよね』と言われることもあります。ブームとして一過性のもので終わらせるのではなく、文化として定着させるための手段のひとつがブラシを作ることでした」

靴磨きは革靴を持っている人ならすぐにチャレンジできる。靴は履いたらシューキーパーを入れ、ブラッシングすることが長持ちさせるための基本だ。

KINKOUブラシには、使い手への心配りと靴磨きへのストレートな愛情が込められている。「THE WAY THINGS GO」のスペシャルなケアを体験したことがある人はもちろん、日頃靴磨きをあまり嗜んでいない人にもぜひ手に取ってみてほしい。

ーおわりー

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「THE WAY THINGS GO」ONLINE STORE

KINKOUブラシは、「THE WAY THINGS GO」店頭とONLINE STOREから購入することができます。各ブラシの詳細は下記ボタンからチェックしてみてください。

公開日:2018年6月19日

更新日:2022年5月2日

Contributor Profile

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佐々木 健人

エディター、プランナー。1993年東京都生まれ。時計メーカーを経てミューゼオに入社。オンラインジャーナル「ミューゼオスクエア」のディレクション、ECサイト「ミューゼオファクトリー」の製品開発などを担当。

終わりに

佐々木 健人_image

ブラシを包んでいる紙を留めているシールも擬人化した動物にしていると聞いて「一切の妥協を排除している…!!」と驚きました。道具が美しいと靴磨きをしたくなります。自分の靴だけでは飽き足らず家族の靴も磨きたくなりそうです。

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