座談会「これだけは言わせて、日本の現代アート事情」

インタビュー/深野一朗
モデレーター/深野一朗
文/佐々木健人
写真/新澤遥

座談会「これだけは言わせて、日本の現代アート事情」_image

2008年春。活気あるビジネス街丸の内で、次世代を担う7つの若手ギャラリーによる展覧会が開催された。ニュートーキョーコンテンポラリーズと名付けられたそのイベントは好評を博し、同名のアソシエイションとして発足。東京のアートシーンの活性化を目指して活動した。

当時次世代として位置づけられたギャラリーもキャリアを積み重ね、現在はArt BaselNADA Miamiなどの世界の名だたるアートフェアに出展し存在感を発揮している。1990年代に日本で現代アートの土壌を作ったギャラリストを第一世代とし、彼ら彼女らを第二世代とするならば、さらにその下の第三世代ともいえるギャラリストも出てきている。

今回、ニュートーキョーコンテンポラリーズで活動していた無人島プロダクションの藤城里香さん、青山|目黒の青山秀樹さん、MISAKO & ROSENのローゼン美沙子さん、ローゼン・ジェフリーさんによる座談会を企画。本連載「What is 現代アート!?」モデレーターの深野一朗とともに、日本の現代アート事情ついてざっくばらんにお話してもらった。

コレクター深野一朗より

コレクターがギャラリストにインタビューする当企画を締めるに当たり、私はまだお話を聴いてみたいギャラリーが幾つもあると感じていた。ただ今回は「いちコレクターにつきいちギャラリー」ということで各コレクターにギャラリーをチョイスして頂いた手前、私だけがルールを破る訳にもいかず、さてどうしたものかと思案していた。

なかなかギャラリーを一つに絞り切れないでいた昨年の暮れ、MISAKO&ROSENさんの忘年会にお招きいただいた。オーナーのローゼン美沙子さんとローゼン・ジェフリーさんは、北米のアート事情に疎い私の先生でもある。やはりこのお二人で締め括ろうかとぼんやり考えながら伺った忘年会で、なんと青山|目黒の青山秀樹さんと無人島プロダクションの藤城里香さんにお会いした。そういえばこの三ギャラリーはかつてニュートーキョーコンテンポラリーズというアソシエイションのメンバーだった。仲が良いのだ。ポーランドのギャラリー、ラスターが主催しニュートーキョーのメンバーが参加して2011年11月に開催された「ヴィラ・トーキョー」は、現代アートを見始めたばかりの私にとって忘れられないイベントだった。忘年会で青山さんや藤城さんとお話ししているうちに、ふと思いついた。当企画でニュートーキョーのプチ同窓会ができないだろうか。

ただタケニナガワの蜷川さんには田口美和さんが、アノマリー(当時はアラタニウラノ)の浦野さんには長谷川ご夫妻が既にインタビューされている。そこでお三方に座談会を持ちかけたところご快諾いただいた。

美沙子さんとは「下町育ち」という共通のバックボーンがある。同じく下町育ちで同い年の青山さんとはジェネレーションを共有している。そして藤城さんとは彼女がアート業界に関わる遥か前にお会いしているご縁がある。個人的には一方的に親しみを感じさせて頂いているこのお三方からどのようなお話が伺えるか、とても楽しみにしている。

DIY精神に溢れたLISTE、Exhibitionを重視したJune

深野一朗(以下、深野):ジェフリーさん、青山さん、藤城さんはBasel帰りですね!(注:取材日は2019年6月26日)青山さんと藤城さんはアートフェア「LISTE」に出展していました。ジェフリーさんは今年加わったニューフェア「June」。いかがでしたか?

藤城里香(以下、藤城):私はLISTEというか、ヨーロッパのフェア自体に出展するのが初めてでしたが、Basel Hong Kongでずっと買ってくれていた香港のコレクターさんとLISTEでも会え作品を購入いただいたり、初めてのコレクターさんといっぱい知り合えたのはとても良かったです。あとNADA Miamiでは私たちのブースに寄ることがなかったコレクターさんがLISTEではふらっと来て作品を購入してくれたりもしました。

左:藤城里香さん。ギャラリー「無人島プロダクション」オーナー。2006年5月、無人島プロダクションを設立。広い意味での「芸術」を楽しんでもらえるよう、グッズ製作やイベント企画など、展覧会企画以外の活動も幅広く行っている。

右:青山秀樹さん。「青山|目黒 」代表。1968年福生市生まれ。1990-2004年の間、ヨーロッパ近代、現代美術を扱う画廊でのアルバイトからセールスマンとして修行。退職、転職を繰り返し、事務所での活動を経て2007年に現住所にギャラリー開設。特に2012年から国外のアートフェアや企画に参加するほか、住宅や店舗、オフィス、ホテル等の施設の監修も手掛ける。

左:藤城里香さん。ギャラリー「無人島プロダクション」オーナー。2006年5月、無人島プロダクションを設立。広い意味での「芸術」を楽しんでもらえるよう、グッズ製作やイベント企画など、展覧会企画以外の活動も幅広く行っている。

右:青山秀樹さん。「青山|目黒 」代表。1968年福生市生まれ。1990-2004年の間、ヨーロッパ近代、現代美術を扱う画廊でのアルバイトからセールスマンとして修行。退職、転職を繰り返し、事務所での活動を経て2007年に現住所にギャラリー開設。特に2012年から国外のアートフェアや企画に参加するほか、住宅や店舗、オフィス、ホテル等の施設の監修も手掛ける。

深野:その香港のコレクターさんはBasel Hong Kongだけでなく、Basel Baselにも足を運んでいるんですね。NADA Miamiでは寄ってこなかったのに、どうしてLISTEのブースには来てくれたのでしょう。

藤城:それはLISTEの部屋の構造もあるかもしれません。LISTEは一つの部屋の中にいくつかギャラリーが入っていて、回遊できるようになっているんです。NADA Miamiにかぎらずブースが仕切られているフェアだと、知り合いのギャラリーには行くけどそうではないギャラリーには行かないコレクターも多いんじゃないかな。

青山秀樹(以下、青山):LISTEは部屋の中に二、三軒入っていることが多いですが、一軒だけのところもあります。

深野:藤城さんはまた来年も出る予定ですか?

藤城:応募はしたいですね。ここ数年Basel Hong Kongに出ていたので他のフェアにも出てみたいなと。あとBasel Hong Kongでは、多くのギャラリーはインストーラーに設営を頼んでいます。私たちが設営している横で、あっというまにインストーラーが作業して他のギャラリストは帰ってしまう。一方LISTEではギャラリストが自ら設営している。今日来ている三ギャラリーの共通点であるDIY精神に通ずるものがありました。

ストレージは頼んでもいないのに付いているし、工具の貸し出しも無料だし、電源も構造の中に作ってくれている。机と椅子も無料で貸してくれる。なんてよくできたフェアだろうと。

LISTE 2019会場風景(無人島プロダクションブース:田口行弘)

LISTE 2019会場風景(無人島プロダクションブース:田口行弘

深野:ギャラリーに優しいフェアですね。青山さんはLISTEに7回連続で出られています。今年はいかがでしたか?

青山:昨年までは、続けて出ているギャラリーにはずっと同じ場所にブースが割り当てられていたんです。今年、ディレクターが変わるとともにルールも変更になり、6回目までとブースの場所も変わりました。そういう意味では7回目とも言えるし、1回目のフェアとも言えます。

深野:新鮮な感じだったんですね。五月女哲平さんを出した意図もお聞かせいただけますか。

青山:今回五月女の展示で中心になった新作映像は、出力された表面は静かで抽象的で美しいサウンドピースですが、その基盤として「足尾鉱毒事件」と四国須崎市での「防災」、それらをサンプルとした日本の状況が下敷きになっています。

最果ての言ってしまえば田舎の国、さらにその地方での課題を基にした作品でありながら、縁のない地の人へも開かれて関心が呼べるのではないかと思いました。現場で熱心に見てもらうことができて、実際に既に巡回の展示も実現し成功したと思います。これまでのフェア参加経験は全てこういう成果を得られることで継続してきました。

LISTE 2019会場風景 (青山|目黒ブース:五月女哲平)撮影:福居伸宏

LISTE 2019会場風景 (青山|目黒ブース:五月女哲平)撮影:福居伸宏

深野:ありがとうございます。LISTEはBaselのオルタナティブなフェアとして生まれたのでしょうか。

青山:「Baselは出展できるギャラリーの枠が限られているから、別のアートフェアを作ってほしい」という声が若いギャラリーからあったみたいです。LISTEは1996年から開催されていますね。

深野:ジェフリーさんと美沙子さん、Juneはいかがでしたか?LISTEに対するオルタナティブなフェアとしてJuneは作られたのでしょうか。

ローゼン・ジェフリー(以下、ジェフリー):Juneは「展覧会」に重きを置いていて、よりTastefulな作品を展示できるアートフェアでした。企画発案したのは、オスロにある「VI,VII」と、コペンハーゲンの「Christian Andersen」というギャラリーです。バーゼルに「新しいプロジェクトを」ということで企画され、巨大なアートフェアとは別のアプローチで開放感がありました。LISTEはアートを購入する場としては優れていますが、すべてのアートフェアが買うための場所である必要はありません。

ローゼン美沙子(以下、美沙子):創設者はJuneをエキシビション・プラットフォームと呼ぶべきだと言っていましたね。

ジェフリー:そう、Juneはエキシビション・プラットフォームと呼ぶべきですね。新しいアートフェアと言うとLISTEやBaselと対抗しているように聞こえるかもしれないけど、エキシビション・プラットフォームと言えば、そういう風には感じないでしょう。

会場はコンベンションセンターにとても近いです。文化的に物事を発展させようとするなら、金銭的な利益を優先することはできません。ミネアポリスにあるMidway Contemporary Artのように非営利で活動しつづけられるのは奇跡的なことです。改善の余地はたくさんありましたが、初めての年にしてはよかったと思います。継続し続けることが重要です。

左:ローゼン・ジェフリーさん。ギャラリー「MISAKO & ROSEN」オーナー。1977年ヒューストンテキサス生まれ。1998年からロサンゼルスのタカイシイギャラリーに勤務し、2000年にタカイシイギャラリーの石井氏とともにGallery Lowを立ち上げる。2002年に初来日し東京のタカイシイギャラリーに2013年まで勤務。MISAKO & ROSENは、2006年に妻のローゼン・美沙子とともに設立。

右:ローゼン美沙子さん。ギャラリー「MISAKO & ROSEN」オーナー。1976年東京生まれ。大学在学中から「小山登美夫ギャラリー」にアルバイトとして勤務し、大学卒業後そのまま就職。その後、10年間に渡り同ギャラリーにてあらゆる業務に携わる。2006年12月に独立し、夫のローゼン・ジェフリーと共に現代美術のギャラリー「MISAKO & ROSEN」を設立。

左:ローゼン・ジェフリーさん。ギャラリー「MISAKO & ROSEN」オーナー。1977年ヒューストンテキサス生まれ。1998年からロサンゼルスのタカイシイギャラリーに勤務し、2000年にタカイシイギャラリーの石井氏とともにGallery Lowを立ち上げる。2002年に初来日し東京のタカイシイギャラリーに2013年まで勤務。MISAKO & ROSENは、2006年に妻のローゼン・美沙子とともに設立。

右:ローゼン美沙子さん。ギャラリー「MISAKO & ROSEN」オーナー。1976年東京生まれ。大学在学中から「小山登美夫ギャラリー」にアルバイトとして勤務し、大学卒業後そのまま就職。その後、10年間に渡り同ギャラリーにてあらゆる業務に携わる。2006年12月に独立し、夫のローゼン・ジェフリーと共に現代美術のギャラリー「MISAKO & ROSEN」を設立。

June 展示風景 左の壁:MISAKO & ROSEN 右の壁:フランソワ・ゲバーリー(ロサンゼルス)

June 展示風景 左の壁:MISAKO & ROSEN 右の壁:フランソワ・ゲバーリー(ロサンゼルス)

美術館もコレクターによって支えられている

藤城:美沙子ちゃんたちは海外のローカルフェアにもたくさん出ているよね。それはやっぱり作品が売れるから?

美沙子:最近はあまり出てないけど、年8回くらい出ていた時はありました(笑)。作品が売れたら一番いいけど、ローカルコレクターとお友達になりにいくのも目的の一つです。その時に買ってもらえてももらえなくても、後にギャラリーがFriezeやNADAなどのローカルフェアよりも規模が大きいメジャーなフェアで再会した時に作品を買ってくれる時もあります。

青山:コレクターとの関係は大事ですよね。ギャラリーだけでなく、美術館もコレクターに支えられていますから。

藤城:海外の巨大美術館もコレクションを形成するために、お金を出してくれるコレクターやパトロングループをキュレーターたちはとても大事にしています。

深野:ファンドレイジングできる人が美術館では出世すると聞いたことがあります。

藤城:日本のアートフェアではあまり見ない光景なのですが、海外のアートフェアではキュレーターがパトロンの方々に自らガイドツアーをしています。作品を買ってくれたキュレーターはギャラリーのブースの前で説明をするわけです。「私たちの美術館はこの作家の作品をコレクションしています。作家はこういう方で……」と。

あと、美術館によっては「ここまでの金額まで」というバジェットの中で、キュレーター自身がフェアなどで単独で交渉する権利をもっているところがあって、それは日本の美術館ではまず見ないことなので驚きました。

Frieze London 2019. Photo by Linda Nylind. Courtesy of Linda Nylind/Frieze.

Frieze London 2019. Photo by Linda Nylind. Courtesy of Linda Nylind/Frieze.

深野:アートフェアにコレクターを連れてくるのは、その場で買ってもらい寄贈してもらうためでしょうか?

美沙子:それもあるでしょうし、「いずれ美術館に寄付します」という契約を交わしたりもしていると思います。

青山タカさん(石井孝之さん)のインタビューでアートセンターのお話がありましたが、コレクションと関係なく、海外のコレクターはアートセンターにお金を出資している方も多いです。コレクションを寄贈するのと比べ、金銭的なメリットは少ない。でも、「アートセンターのような機関は必要だ」と寄付するコレクターは海外にたくさんいます。

日本の国公立美術館が作品を体系的にコレクションすることが難しいなら、企業やコレクター個人がお金を出し、私設美術館を作ってコレクションしていくのも一つ選択肢としてあるのかなと思います。

勇気をもって海外の作家を買ってみよう

深野:みなさん、日本のコレクターと海外のコレクターの両方とお付き合いがあると思います。それぞれ特徴はありますか?

藤城:海外のフェアでは、作家や私たちのことをよく知らなくても作品に興味を持って買ってくれるコレクターが多いです。そういう出会いの魅力が海外のアートフェアにあります。田口(美和)さん宮津(大輔)さんのように、海外のギャラリストや作家とお付き合いがある方もいますが、多くの日本のコレクターの方は海外のアートフェアでも、海外のギャラリーではなく日本のギャラリーから買うことが多いように思います。

深野:言葉の問題ですかね。それともシャイだからでしょうか。

青山:それもあるでしょうし、投資と同じでアートを買うのも失敗したくないので、すでにお付き合いがある日本のギャラリーから買った方が安心なのかもしれないです。実際、日本のアート関係の本では、作品の意味や文脈が解説された本よりも「この作品を買うといい」みたいな本が出版されているように思います。

藤城:日本の方も、例えばよく知らない海外のギャラリーや作家でも、作品に惹かれたなら思い切って買うと「日本にいいコレクターがいるぞ!日本のアートフェアに出展しよう!」となり、日本のアートマーケットも盛り上がるのではないでしょうか。

座談会は無人島プロダクションにて実施。2019年、無人島プロダクションは清澄白河から江東橋に移転した。移転後初の展覧会は、小泉明郎による「Dreamscapegoatfuck」展。

座談会は無人島プロダクションにて実施。2019年、無人島プロダクションは清澄白河から江東橋に移転した。移転後初の展覧会は、小泉明郎による「Dreamscapegoatfuck」展。

深野:もっと勇気を持って海外作家の作品も買ったほうがいいということですね。みなさんは海外と日本、どちらの売り上げが多いのでしょうか?

美沙子:80%海外、20%日本です。日本の美術館やコレクターに高価な作品を売った年は、同じくらいの割合になります。作家のキャリアに応じて美術館にアプローチしてきたので、最近は美術館に買ってもらえることも増えてきました。でも、その美術館が同じ作家の新作も買うかは別の話です。

深野:年間の売り上げは美術館とコレクターのどちらが多いのでしょうか。

藤城:年によります。美術館から「購入します」と言われても、翌月に買ってもらえるわけではないですから。数ヶ月とか、1年かかることだってザラですし、海外の美術館は2年かかることもあります。タイミングが重なると美術館の売り上げが多くなりますが、それがなければ個人コレクターの売り上げの方が大きくなりますね。

深野:美術館へのビッグセールがないときはコレクターの売り上げが大きくなるわけですね。日本のコレクターは海外のコレクターと比べると多いのでしょうか。それとも少ないのでしょうか。

青山:海外と比べると日本のコレクターの数は少ないと思います。

美沙子:雑誌が「〇〇万円以下で買えるアート」などの特集を組んでいるのをたまに目にします。あれだと、日本のアートマーケットは拡がっていかないと思います。

ジェフリー:日本のアートを支えているコレクターは、数は少ないものの作品を見る目を持っていて素晴らしいと思います。一方、投資を目的としている人もいます。彼らは彼らの価値観に沿うものをマーケット的に良いと位置付けるので、文化を支援するという考えからは少し遠いかもしれません。

美沙子:日本では「誰々さんが〇〇の作品を買った」という話が広がると他のコレクターも流れに乗る傾向はあるかもしれないですね。好きなものを買えば良いと思う一方、もうすこしリスペクトされるコレクションについて考えてもいいかもしれません。

例えば無人島プロダクションや青山|目黒などのギャラリーにはそこまで高額ではなく、美術館に収蔵されるレベルの作品はたくさんあるんです。そういう作品を購入するために、海外ではアートコンサルタントがコレクターのコレクションを構築するケースもあります。

廣直高 Untitled (Puff) 2019 Acrylic, graphite and grease pencil on paper 106.7x81.3cm (MISAKO & ROSEN)

廣直高 Untitled (Puff) 2019 Acrylic, graphite and grease pencil on paper 106.7x81.3cm (MISAKO & ROSEN)

磯谷博史  六本木クロッシングでの展示風景 2019 森美術館 (青山|目黒)

磯谷博史 六本木クロッシングでの展示風景 2019 森美術館 (青山|目黒)

小泉明郎「Dreamscapegoatfuck」展 撮影=森田兼次(無人島プロダクション)

小泉明郎「Dreamscapegoatfuck」展 撮影=森田兼次(無人島プロダクション)

深野:アートコンサルタントは大事な存在なのですね。日本には少ないのでしょうか。

美沙子:日本には少ないかな。一人二人しか知らないです。

青山:やろうとしている人は多いんじゃないかな。でも、日本のコレクターは自分の目で見て研究して、好きなものを選びたい傾向が強いので、職業として成り立ちにくいのかもしれません。

深野:外国のコレクターは自分で選ぶことにこだわらない人もいるんですね。

青山:ヨーロッパにアートコンサルタントはあまりいません。アジア圏にたくさんいます。アメリカやイギリスにも多くいます。

藤城:自分のところの作家だけじゃなくて他のギャラリーの作家も含めて、「今後どのようにコレクションをするか」の相談にのることもあります。日本ではギャラリストがコンサルタントのような役割も兼ねているので、アートコンサルタントがなかなか商売にならないのかもしれないですね。

上の世代と下の世代に思うこと

深野:他のギャラリーの作家もお勧めするんですね。そういえば、(小山登美夫ギャラリー代表取締役の)小山登美夫さんに今回の座談会の話をしたら「どうしてみんな商売っ気がないのか聞いてみてください」と言われたんです(笑)。

藤城:商売っ気がないと言われたらそうなのかもしれません(笑)。売ることは重要だけど、なんでもかんでも勧めるわけではなく、お互いの考えをすり合わせて売買しています。あと写真や版画の場合数多く作ればたしかにお金になりますが、たとえば作家が一点しか作らないと言っているならば、それは作家のコンセプトと生き様なのでその意志を大切にしたい。そういったやり方は商売っ気がないようにも見えるかもしれません。

美沙子:小山さんから「絶対売れないよこんなの」とよく言われます(笑)。でも、そう言っている本人が買ってくれたりするんです。

深野:小山さんたちを上の世代とすれば、みなさんの少し下の世代に、KAYOKOYUKIの結城さんとか、XYZ collectiveのCOBRAさんとか、HAGIWARA PROJECTSの萩原さんらがいらっしゃいますよね。最近ではGinza sixに入っているTHE CLUBの山下さん、天王洲コンプレックスに入っているNUKAGA KOTAROの額賀さんなどが出てきました。下の世代に対して思うことはありますか?

MUUSEO SQUARE画像

XYZ collective(画像クリックでHPへ)

美沙子:XYZ collectiveのようなアーティスト・ラン・スペースは新しいアプローチでいいと思います。コマーシャルギャラリーのあり方が難しくなっているいま、もっと(アーティスト・ラン・スペースが)あってもいいかもしれません。ただ、アーティスト・ラン・スペースを「オルタナティブスペース」と言う人もいますよね。それこそ商売をしていないように聞こえますけど、そんな事ありません。例えばXYZ collectiveは運営している作家自身が優秀なので、きちんとできる範囲で運転資金を回しています。

ジェフリー:私たちがギャラリーを始めた時、先輩のギャラリーは親切に支えてくれました。XYZ collectiveやKAYOKOYUKIなども世代を越えてサポートしたり連携していくべきです。ここ数年で日本のアート界も変わってきています。他のギャラリーと連携して仕事をしていくという状況がちょっとずつ複雑になっています。

アートマーケットという視点では、世代間だけでなくキュレーター、コレクターという垣根も超えて協力していくべきだと思います。お互い競い合ったり戦っているわけではないので、まずはオープンな議論をするところから始める必要があるのではないでしょうか。

ーおわりー

藤城さんへのQ&A

Q. アート以外の趣味について教えてください

温泉・銭湯巡り、(出張以外の)旅先での市場観察、各地のモーニング散策。

Q. ご自身でコレクションもしますか?

します。ここ数年は昔よりコレクションできていませんが、主には若手の作品をコレクションしています。

Q. アートをこれからコレクションしようと考えている人へのアドバイス

1点だけでなく、高い作品でなくていいので、ちがう作家の作品を2、3点コレクションしてみては。そうすると「自分はこういうものが好きなんだ」というコレクションの軸を考えたり、客観的に自分の好みを発見することができるかな、と思います。あと展覧会などをみるときに「これってどうやって売るんだろう/買うんだろう。どうやって納品されるんだろう」と想像しながら観て、どうしても気になった作品は問い合わせだけでもしてみることをお勧めします。

青山さんへのQ&A

Q. アート以外の趣味について教えてください

休日は郊外の自宅にいる事が多いので草木の手入れ、掃除です。現実には枯れ草や虫との格闘ですが、実用だけでなく頭が普段と切り替わるのも効果大です。

Q. ご自身でコレクションもしますか?

人が見向きもしなさそうな品には手が出ます。変わり映えのしない石、などです。一方で自分の興味と正反対の最新の品も可能なら買ってみます。どこが良いのかを学ぶのに手っ取り早いからです。

Q. アートをこれからコレクションしようと考えている人へのアドバイス

個人的な嗜好、自己の反映、投資性、自慢、モテたい。そういうご興味でしたら徹底して研究して、追求して謳歌して頂きたいです。全て実現できるのがアートの素敵なところです。完結したら、その向こう側の扉もぜひ開いて欲しいです。

ローゼン・ジェフリーさんへのQ&A

Q. アート以外の趣味について教えてください

ウィスキーをコレクションして、飲むのが趣味です。アメリカのクラフトウィスキー、スコッチ、日本のウィスキーが特に好きです。

Q. ご自身でコレクションもしますか?

はい、します。

Q. アートをこれからコレクションしようと考えている人へのアドバイス

リサーチをたくさんした上で、好きなものを買ったほうがいいと思います。

ローゼン美沙子さんへのQ&A

Q. アート以外の趣味について教えてください

TVを見ながら好きなコーヒーやお茶を飲むのが趣味です。毎回欠かさないのは、「相棒」。主人公の杉下右京さんが以前相棒で飲んでいたデンメアの紅茶が好きです。あと2時間ドラマが大好きで、好きなシリーズは温泉女将とかタクシードライバーです。棚にいろんな紅茶を常備しています。コーヒーは日本の喫茶店で飲めるようなブレンドが好み。

Q. ご自身でコレクションもしますか?

はい、します。

Q. アートをこれからコレクションしようと考えている人へのアドバイス

好きだけで買うっていうよりも、ちょっとした予備知識を持つだけで自分が好きとおもったアーティストのキャリアや今後の状況が見えたりして面白いと思います。それをわかった上で買ったらもっと面白いとおもいます。

公開日:2019年11月29日

更新日:2019年12月3日

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深野一朗

現代アート・コレクター。コレクターとギャラリーの交流に特化した招待制SNSサービス「CaM by MUUSEO」をプロデュース。主な著書は『「クラシコ・イタリア」ショッピングガイド』(光文社)。

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佐々木 健人

MUUSEO SQUAREエディター。1992年東京都生まれ。時計メーカーの資材購買を経て、ミューゼオ編集部へ。ディレクションのほか、ファッションや家具、文房具分野の取材執筆も行う。

終わりに

深野一朗_image

紹介文には書かなかったが、今回の座談会の直接のきっかけとなったのは、作家がキャリアを重ねて「中堅」と言われる世代に差し掛かると、途端に離れていくコレクターが少なくない、という青山さんのご発言だった。コレクターの端くれとして胸に刺さるものがあった。

こういう率直なお話を是非記事にしたい。そういう思いでこの座談会を企画した。この「What is 現代アート!?」のシリーズは、現代アートに興味はあるが、その一歩を踏み出せないでいる初心者の方々が想定読者なのだが、今回ばかりは既にアートを買っているコレクターを念頭にインタヴューを行った。

忘年会と違ってアルコールがない分、どこまで皆さんの本音を引き出せたのか自信はないが、小山さん曰く「商売っ気がない」ギャラリストたちの真摯にアートに向き合う姿が少しでも伝わったなら嬉しく思う。

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