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Devonian period

シルル紀を境に、三葉虫は衰退に向かいました。ところがこのデヴォン紀になると、モロッコ産の種を中心に、一部の三葉虫の中には、体を多数の棘で武装する種が登場します。どちらかというと地味であったシルル紀の三葉虫とは対照的に、形態的な派手さとしては一番目を引く種が繁栄した時代です。この時代に棘を多く持つ三葉虫が登場した理由は不明です。大きく強力な魚類の登場が引き金になったとう説もありますが、矛盾点も多く、本当のところは誰にも分かりません。いずれにせよ、三葉虫コレクターにとっては非常に魅力的な時代であります。モロッコ産三葉虫を中心に紹介します。

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    Drotops armatus

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    Scabrella sp.

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    Palarejurus sp.

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    Gerastos tuberculatus marocensis

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    Walliserops tridens & Acastoides zguilmensis

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    Scabriscutellum sp.

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    Cyphaspides sp.

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    Viaphacops claviger

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    Drotops armatus

    一体彼は誰から身を守りたかったのでしょうか?
    あるいは、誰かにその派手な見た目をアピールしたかったのでしょうか?

    デヴォン紀を代表する有名種、ドロトプス・アルマトゥス (Drotops armatus) です。アルマトゥスとは『武装した』という意味ですが、その種小名が呈する通り、三葉虫の全身を痛そうなトゲトゲで覆っております。デヴォン紀を代表する三葉虫であるファコプスの仲間であり、同時代を特徴づける『棘』を持ち、まさにこの時代を代表する種と言えるかと思います。この種は多くのファコプス同様、防御姿勢をとる事ができますが、そうなるとぐるり一周棘だらけで、もはや捕食者は手出しできなくなります。この派手な『棘』は、この時代に巨大化・高機能化した魚類に対する防御の為という説が根強くありますが、本当のところは誰にも分かりません。

    比較的繁栄した種のようで、常に市場で売りに出されている為、状態を問わなければ比較的入手はし易いです。ただ棘が偽物である事が多いのと、プレパレーションが荒い標本が多いので、状態の良い標本の入手はそれなりに困難です。

    いずれにせよ、150mm近くになる巨体も手伝い、初見でのインパクトは凄まじく、多くの三葉虫コレクターが最初に憧れる種の一つであります。

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    • 登録日:2020/6/7

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    Scabrella sp.

    この愛らしい風貌の王蟲のような三葉虫は、スカブレラ (Scabrella sp.) です。体長240mmとかなり大型の種で、モロッコデボン紀の幻種とも言える巨大三葉虫です。ずんぐりむっくりした巨体に、小さな眼がちょこんとついており、尾部からは小さな尻尾が出ております。何かのマスコットキャラのような種です。全体として、母岩から浮かせたプレップをしてあり、いわゆるフライングフィニッシュ仕上げとなっています。

    この種を初めて見る人であれば、『これ、本物ではなくて模型なんじゃないの!?』という感想を抱くかもしれません。実際、『こんな生き物がいたのだろうか、仮に居たとしてもこんな形で化石が残るだろうか』、と思う方も多かろうと思います。全く妥当な疑問だと思います。

    実は一時期、私はこの種に入れ込んだ事があり、この三葉虫の事を随分調べ回りました。結論を言えば、この不思議な三葉虫は架空のものなどではなく、確かに存在した生物なのだという事であります。本標本は棘のないタイプですが、棘のあるタイプもいて、棘の太さなどにより、更にタイプが分かれる可能性があります。なお、この棘のないタイプは、Scabrella propradoanaと言及される事もありますが、やや疑義が残りますので、Scabrella sp.のままとしております。

    目立つ三葉虫なので、モロッコではこの種の偽物が大量に出回っています。出回る99%がフェイクとすら言われています。本標本は、いくつかの理由から本物だと考えていますが、100%本物ではなく、この種の部品を組み合わせて作ったコンポジットだと考えます。真のこの種の本物は、滅多になく、まさに幻扱いであります。

    6~8番目の写真はこの種の尾部のみの標本です。この部分化石の保存状態は非常に良く、表面に小さな毛穴のようなものが見えます。ここからは感覚毛が生えていたという仮説もあります。更によく見ると、表面に棘が取れた跡のような痕跡も見る事ができます。

    実に興味深い三葉虫であります。

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    • 登録日:2020/6/8

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    Palarejurus sp.

    パラレユルスの一種 (Paralejurus sp.) です。
    モロッコデヴォン紀で産出する、有名で一般的な三葉虫のうちの一つです。

    特徴は、その楕円形の可愛いらしい体型も一つですが、何より全身を覆う謎の『しわ』がこの種に特異的です。『しわ』は特に頭部と尾部に目立ちます。単なる模様だったのか、それとも成長線の類なのか、色々な仮説はありますが、想像を巡らせるのが精一杯で、研究者にもマニアにも誰にも分かりません。ただこのように、ある程度自由な想像の余地があることもまた、化石の一つの魅力だろうと思います。

    モロッコのデヴォン紀の三葉虫は、市場が先行しており、正式な学名が未記載の種も多いです。パラレユルスもまた、素人目に見ても色々なタイプのものがあり、おそらくこの標本もまだ学名が付いていません。安全の為、この標本もsp.表記に留めています。

    この標本はモロッコ三葉虫を得意とする、一級プレパレーターである、ハンミ氏 (Hammi Ait H'ssaine) によりプレップされており、微細な構造に至るまで高レベルに保存されております。特に複眼構造の保存は見事の一言です。

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    • 登録日:2020/6/13

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    Gerastos tuberculatus marocensis

    ゲラストス・トゥバキュラトゥス・マロチェンシス (Gerastos tuberculatus marocensis) です。もっともポピュラーなモロッコの三葉虫のうちの一つですが、正式な学名が長らく付いておらず、かつては、ゲラストスの一種 (Gerastos sp.) や、ゲラストス・グラニュロスス (Gerastos granulosus) など適当に呼ばれていた種です。ここ近年のモロッコ三葉虫の記載ラッシュにより、ようやく2006年に正式名称が与えられたようです。

    本種の特徴としては、記載論文 (Chatterton et al., 2006) の説明によると、
    ✔︎ 頭鞍に尖った目立つ荒い顆粒を持ち、顆粒は胸尾部の細かな顆粒より大粒
    ✔︎ 頬棘は短いながらも、その先端は尖っている
    などでしょうか。特に、頭鞍の顆粒の大きさは分かりやすく、上写真でも頭鞍の顆粒が胸尾部のそれに比べて大きい事がわかるかと思います。

    最近の論文では、モロッコの微妙な差異のあるゲラストスが10種類以上に分類されております。(G. hammi、G. ainrasifus、G. aintawilusなど) ただ、本種以外は比較的レアであり、中々市場で見かけないですし、そもそもゲラストスの見分けは大きな違いがあるわけではないので難しいです。

    安価で今一つ軽視されがちな種でありますが、小柄な体格にぷっくりした複眼や、とても可愛らしい種でもあります。

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    • 登録日:2020/6/13

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    Walliserops tridens & Acastoides zguilmensis

    一体この謎のフォークにどんな機能があったのでしょうか?
    戦いの武器?、一種のセックスアピール?
    いずれも想像の域を出ませんが、興味が尽きません。

    こちらは、Walliserops tridens (ワリセロプス・トリデンス) & Acastoides zguilmensis (アカストイデス・ジグイメンシス) です。このうち、特にワリセロプスは見ての通り、あまりに奇妙な頭部先端のフォークが目立ち、見た目がド派手な為、モロッコ三葉虫の中でもとりわけ人気が高い種です。

    さて、このワリセロプスには複数種がいて、
    ✔︎フォークが長いタイプ:
     Walliserops trifurcatus
    ✔︎フォークが短いタイプ:
     Walliserops tridens
     Walliserops hammi
     Walliserops lindoei
    と大まかに分けられます。

    長いタイプの唯一の種、ワリセロプス・トリフルカトゥス (Walliserops trifurcatus) は実に奇天烈な見た目の種で、『あんた一体何者なんだ?』とツッコミたくなります。フォークや棘の掘り出しには技術を要し、プレパレーターの腕が試される種でもあります。この種は、とりわけ人気がありますが、フォークが短いタイプに比べれば、比較的産出量は多いようです。

    一方、短いタイプには主に上記3種類がいます。
    ハンミ (Hammi) はフォークが細く両脇の角が大きく湾曲している事が特徴です。リンドエイ (Lindoei) はフォークの3つの角が潰れて、平坦になっている事が特徴であります。本種トリデンスは、特徴がない事が特徴といいますか、細くもなく潰れてもない短いフォークなら、トリデンスかなと私は判断しています。流通量的には、リンドエイ>ハンミ>=トリデンスなイメージです。リンドエイとトリデンスはやや似通っていて、混同されている標本も見かけます。

    ところで、このフォーク、日本のカブトムシのようだと思われた方もいるかもしれません。しかし、実は全然構造が違います。カブトムシの角はよく見ると、先が4つに分かれ左右対称です。一方、このフォークは見ての通り3つ組構造です。3つ組の構造物は、古代〜現生種でみても、実はかなり珍しく、この種を特別なものにしています。

    三葉虫の形の面白さや奇妙さを説明する際に、これほど適した種もいないと思います。

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    • 登録日:2020/6/13

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    Scabriscutellum sp.

    スカブリスクテルムの一種 (Scabriscutellum sp.) です。ティサノペルティス (Thysanopeltis) と似ておりますが、こちらは明らかに尾板周りの棘がなく、そちらとは容易に鑑別する事ができます。あくまで種にもよりますが、モロッコ三葉虫としてはコモンな種であり、状態を問わなければ入手は容易です。

    しかしその鑑別は困難を極め、分類は混乱の最中にあります。まず、Thysanopeltisは別にしても、他に見た目の近い属レベルで違う(かもしれない) 種々のスクテラムが存在します。

    第一に、プラティスクテルム (Platyscutellum sp.) 。Platyscutellum cf. massaiなどと表記される事が多いです。これは尾板が極端に頭部に比較して小さく分かり易い種ではあります。ただスクテラムの中でも、見た目が奇妙で大型で目立つので、モロッコの偽物三葉虫の代表としてフェイク品を頻繁に見かけます。次に、体全体が細かい顆粒に覆われたメタスクテルム (Metascutellum sp.) 、ないしはゴルディウム (Goldium sp.) と呼ばれる種もいます。Metascutellum aff. pustulatumなどと呼ばれております。それらよりは極少数ですが、複眼や中葉から目立って長い棘が生えている、ボヨスクテルム (Bojoscutellum sp.) と呼ばれる謎の種もいます。いずれも、主にチェコの類似種などを元に名付けられており、厳密な意味での記載という訳ではないように思います。

    さて、ややこしい事に話はそこで終わりません。このスカブリスクテルムにも、やはりと言うか色々なタイプがいます。

    中でも、2006年に記載 (Chatterton et al., 2006) された種、
    ○スカブリスクテルム・ラフチェニ (Scabriscutellum lahceni)
    Occipital ring及び胸節軸葉の前3節と後3節にのみ、太く垂直な棘が生えるタイプ
    ○スカブリスクテルム・ハムマディ (Scabriscutellum hammadi)
    尾部周りにルーペで観察できる程度の小さな無数の棘を認めるタイプ

    私の知る限り、スカブリスクテルムのうち、厳密に正式に記載されているのは、この2種のみかと思います。

    他にスカブリスクテルム・フルシフェルム (Scabriscutellum furciferum) という古くから知られた種がいて、多くの市場のスカブリスクテラムに、取り敢えず名としてつけられております。

    正確には、チェコ産のスカブリスクテルム・フルシフェルム・フルシフェルム (Scabriscutellum furciferum furciferum) を元に記載された、スカブリスクテルム・フルシフェルム・ハムラグダディアヌム (Scabriscutellum furciferum hamlagdadianum) という亜種であります。これは確かに1971年にAlbertiらにより記載されています。ただ問題点として、今から半世紀前の当時、今ほどの剖出技術が整っておらず、仮に棘など細かい構造があったとしても、全部プレップ中に飛ばしてしまったものと思われます。Chattertonらは、このフルシフェルム・ハムラグダディアヌムは不完全な頭鞍と、複数の形態の異なる尾板を元に記載されており、その存在は少々怪しいと断じております。

    図鑑の説明としては、不適切なほど長文になってしまいましたが、まとめると、極少数の記載種を除けば、スクテルムは正確に分類されるに至っていないという事であります。

    そこでやっとこの標本についてですが、特徴としてはOccipital ring及び胸節の全てにやや小型の垂直な棘が並んでいます。入手元で、スカブリスクテルム・フルシフェルムとして手に入れたものであります。確かにその可能性はありますが、上記の通りフルシフェルムはその記載に疑問符が付く上、本種には軸葉に垂直な棘があり、当時のフルシフェルムは少なくとも棘の記載はないので、この種と断定する事はできません。ラフチェニが似ているもの、ラフチェニは胸節軸葉に関しては、前方3節と後方3節にのみ棘がある種である為、明確に違います。

    つまり、本標本は、スカブリスクテルムの一種 (Scabriscutellum sp.) とするしかないかな、という結論です。今後の本種の研究を待ちたいものです。

    その分類に対する疑義はともかく、見ての通り素晴らしいプレパレーションであります。プレパレーターは凄腕ハンミ氏 (Hammi Ait H'ssaine) 。お見事の一言であります。

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    • 登録日:2020/6/14

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    Cyphaspides sp.

    派手な種の多いモロッコのデヴォン紀の中でも、比較的近年みつかったジョルフ (Jolf) で産出する種は、見た目が派手でヴァリエーションに富み、色合いも母岩の質を反映して、透明がかった白〜赤を帯びており美しく、コレクターに大人気の産地です。

    本種はそのジョルフ産の種のうちの一つ。透明感のある赤みを帯びており美しい標本です。通称キファスピデス (Cyphaspides) と呼ばれている種の仲間ですが、他のジョルフ産の種同様、未だ正式な記載はなされておりません。キファスピデスの仲間には、頬棘〜胸節から伸びる棘が棘が短いタイプと、本種のように長いタイプがいて、両者は明らかに見た目が異なっています。

    膨隆した頭鞍を覆う顆粒、頭部辺縁や尾部辺縁に沿い並ぶ細かな棘、軸葉に並ぶ二列の棘などが観察でき、見所のある標本です。

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    • 登録日:2021/7/11

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    Viaphacops claviger

    ネヴァダ州というと、基本的には三葉虫関連ではカンブリア紀の層が大半を占めております。そんな中でこちらウェンバン累層 (Wenban fm) は、ネヴァダ州でも中央に位置するSimpson Park Mountainにある地層で、同州にしては珍しいデヴォン紀の層が広がっております。

    そんなマニアックな産地で産するこの種は、ヴィアファコプス・クラヴィゲル (Viaphacops claviger) 。異色の産地の異色の巨大なファコプス類であります。ウェンバン累層は地層の変形が激しく、押しつぶされたように圧がかかった標本が多いです。本標本もプレスされたように押しつぶされております。

    特筆すべきはその特異な風貌。全長100mmオーバーと、ファコプスの仲間ではモロッコの巨大種ドロトプス (Drotops) に匹敵する巨体を有し、髭のような自由頬から伸びる棘や、軸葉から垂直に伸びる棘(本標本では残念ながら摩耗しております) を持つなど、相当な変わり種のファコプスであります。サイズ感の比較用に写真8枚目で、一般サイズのファコプス (NY州のEldredgeops rana) と並べております。

    ファコプスにもこんな種がいるのかと、認識を改めてくれる種です。

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    • 登録日:2021/7/11

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