元建築士が営むミリタリーウォッチの聖域。アンティーク時計店「Curious Curio(キュリオスキュリオ)」。

取材日: 2018年4月20日

取材・文/倉野 路凡
写真/高橋 敬大

元建築士が営むミリタリーウォッチの聖域。アンティーク時計店「Curious Curio(キュリオスキュリオ)」。_image

華やかなトップブランドが軒を連ねる表参道。そこから10分ほど歩いた閑静な住宅街にアンティーク時計店「Curious Curio(キュリオスキュリオ)」はあります。

オーナーの萩原秀樹さんは、建築士からアンティーク時計店に転身した異色の経歴の持ち主。ミリタリーウォッチを中心とする独自のセレクトについて、服飾ジャーナリストの倉野路凡さんがインタビューしました。

「古いものは価値がある」小学生のころに芽生えた価値観

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Curious Curio(キュリオスキュリオ)の代表取締役 萩原秀樹さんは小学生の頃から古いものが好きで、おじいちゃんの家に行った時は古いカメラや切手、古銭を見て「いいなあ~」と思っていたそうだ。

小学校3年生の時、きかんしゃトーマスが壊されるという内容についての作文を書かされた時のこと、「古いものは価値があるから、古いからといって壊してはいけない」と書いたそうだ。アンティークが根っから好きなタイプなのだ。

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アンティーク時計との出会いは大学生の時。時代は1990年代の初め頃、バブル経済の終わり頃の話だ。映画「トップガン」の影響もあり、MA-1を筆頭にフライトジャケットが大流行。MA-1は1988年頃から流行し始め、デニムにウエスタンブーツを合わせたり、アメリカブランドがブームになった。

デニムの復刻モデルがブームになるなど、ビンテージの古着が注目され始めるのもこの頃だ。

萩原さんはフライトジャケットに似合うビンテージの腕時計を探していた。街を歩いていて見つけたのが、アンティーク時計のお店、イーストグリニッジだった。

10代の後半だったが、そこでレマニアのイギリス陸軍の「ダーティ・ダース」モデルを3万円ちょっとで購入。その後もお金を少しずつ貯めてアンティークウォッチを買い集めたそうだ。

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建築士から一転。趣味の世界へ

「レマニアの1本を買ったことがきっかけになり、どっぷりアンティークウォッチの世界にはまっていきましたね(笑)。その後にワールドフォトプレスから発売された腕時計専門誌『ウォッチアゴーゴー』のミリタリーウォッチ特集(1996年No.2)を読んで、さらに拍車がかかりました。とくに何軍が好きというわけではなく、レマニアが好きでしたね。レマニアはいろんな軍に納めているんですよ。チェコスロバキアやスウェーデン、イギリス軍とか。それをコツコツ集めていきました」と萩原さん。

大学の建築学科を卒業し設計事務所に就職。とにかく毎日が忙しく大変な日々が続いた。8年間勤めた後、これからは趣味の世界で生きていこうと決心する。通っていたイーストグリニッジの店長が独立して新しく店を出したのをきっかけに、現在の道へ進むことを具体的に決めたそうだ。

萩原さんは数多くのアンティーク時計を所有している

萩原さんは数多くのアンティーク時計を所有している

その後ミリタリーウォッチに強いアンティーク時計店に勤めたのち、新しく会社を立ち上げた。もちろんアンティーク時計の会社である。

当初は二足のわらじでスタート。昼は親戚の製本業の手伝い。夜はネットで時計を販売した。当時は海外から仕入れて、オーバーホールなどのメンテナンスはかつて一緒に仕事をしていた職人に依頼した。

「ネットでの販売はあくまでも副業でした。製本の仕事は本当にキツいんですよ(笑)。仕事が終わってから仕入れや出品だのやってましたからね。それに当時は資金もなかったので少しずつ仕入れて販売していました。そういう生活を5年ほど続けました」と萩原さん。

北欧家具で統一。キュリオスキュリオらしい空間作り

2015年10月に待望のリアル店舗、Curious Curio(キュリオスキュリオ)を南青山にオープンさせた。設計事務所8年、アンティーク時計店6年、製本の仕事をしながらネットでの販売5年。このお店を構えたのは40歳を過ぎてからだ。コツコツと努力を継続するタイプなのだ。そんな人がやっているお店というだけで、ボクは信用してしまう(笑)。

店舗の内装はさすがにセンスがいい。当たり前だ。設計事務所に勤めていたのだから。インテリアは北欧のビンテージの家具で統一されているのだ!こんなアンティークウォッチ専門店は見たことがない。

たとえば、デンマークのアイヴァント・ヨハンセンのアイチェア。ゲタマ社が作っているハンス・J・ウェグナーのベッドサイドキャビネット。カイ・クリスチャンセンの椅子といったこだわりの家具が店舗に溶け込んでいるのだ。

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「機能美という言葉が好きです。機能がデザインになっていて、それが凄くバランスがいい。素材は木が好きですね。北欧の家具はチーク材が多いんですよ。チーク材はいつ買い足しても統一感が出ます。テーブルは突板なのでチーク材を貼っているんですが3ミリほどの厚みがあるため、削ってメンテナンスしてまた使うことができる。家具ならウェグナー、建築家ならフランク・ロイド・ライトが好きです。自然が好きなのでカーテンと床はグリーンにしました」と萩原さん。

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種類豊富で機能的。萩原さんが考えるミリタリーウォッチの魅力

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店主の萩原さんの好みを反映させた内装だが、取り扱う時計選びもこだわっている。ベースはミリタリーウォッチだ。

ミリタリーウォッチは軍が発注して作らせていたので市販されていない。マーキングで時代や軍がわかるというのも面白い。物資不足で市販品に刻印したものもあるが、防水仕様に改良されていたり、ハック機能を加えた改良ムーブメントだったり、ハイスペックに変更されているのも魅力だ。

第二次世界大戦の前半はスナップバックだったが、1944~45年の後半になると防水性を高めるためにスクリューバック仕様のものが増えている。とくにドイツ軍の時計は機能重視のものが多く、耐震装置もいち早く取り入れている。

「大戦中で耐震装置が入っているのってドイツ軍くらいなんですよ。また、ドイツ軍の時計はブラックのミラーダイヤルというのがあり、ロンジンやミネルバが生産していました。イギリス軍はものすごく種類が豊富なのが魅力ですね。私が最初に買ったダーティ・ダースは各社が生産して軍に納品していますから、それを集めていくのも楽しいです」と萩原さん。

Hamilton(ハミルトン) アメリカ海軍 UDT用    

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アメリカ海軍UDT用の時計。潜るためリューズキャップが付く。風防はガラス仕様で鉛溶着して防水性を高めている。ベルトも当時のモノ。ナイロン素材のベルト。蓋が水筒みたいだからキャンティーンと呼ばれている。他にエルジンのモデルも存在する。1940年代製造。価格42万5千円。

GLASHÜTTE(グラスヒュッテ) ドイツ空軍 クロノグラフ

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第二次世界大戦時のドイツ空軍のクロノグラフ。真鍮に施したメッキが経年により剥げて、ベースの真鍮の金色が出ている。雰囲気のある1本だ。1940年代製造。価格138万円。

OMEGA(オメガ) イギリス陸軍 ダーティーダースシリーズ

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中央上部にブロードアローが入っている。比較的購入しやすい価格帯ということもあり、初心者にもおすすめできるモデル。ステンレススティール。1940年代製造。価格38万円。

取り扱う時計はオリジナルにこだわる

ミリタリーウォッチ以外のモデルも多く取り扱っている。文字盤やケースが魅力的なデザインのモデルが多く、このあたりは店主の好みを確実に反映している。ムーブメントはもちろん、見た目の美しさにもこだわっている。

また、オリジナリティーにもこだわっている。針はもちろんだが、リューズもオリジナルのものを提供したいという考えだ。手巻きモデルのリューズは意外と違うものが付いている場合が多いのだが、そのあたりも妥協しない。ケースも研磨しない。風防は傷が多い場合は交換するが、それは時計の本質である視認性を損なうからだ。お客さんに納品する際には必ずオーバーホールする。

以前は海外からの仕入れのみだったが、現在は年に3回の海外での買い付けや、国内のディーラーを通じての仕入れ、お客さんから買戻しなど。仕入れの半分以上は国内での仕入れだそうだ。新しい商品が頻繁に入ってくるのも楽しみの一つである。

また、このお店で買った時計は販売価格の80%で買い戻してくれる嬉しいサービスがある。まあ、傷だらけだったり、状態がかなり悪いと価格は下がると思うが、基本は80%での買い戻しなのだ。これは他店に比べて高い買戻し率だ。もともとムーブメントの状態がいいものを販売しているので、買い取る側も安心できる。

ーおわりー

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オリジナルのベルトも充実

キュリオスキュリオでは、「アキュレイトフォルム」というオリジナルの時計バンドのブランドを展開している。できるだけ細い糸でステッチをかけるなど、あえて昔のバンドのディテールで作らせている。オープンエンドタイプのものもあり、アンティーク時計の良さを邪魔しないデザインだ。

素材はホーウィン社のクロムエクセルやシェルコードバンを使用。個人的にはホーウィン社のラティーゴという種類のベージュ色が気に入った。

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Curious Curio(キュリオスキュリオ)

軍用時計に特化した日本屈指のヴィンテージ時計専門店。学生時代、本物の軍用時計に衝撃を受けた萩原秀樹さんがオーナーを務める。

キュリオスキュリオのホームページでは、国・軍などカテゴリー別に軍用時計を探すことができる。店舗は、東京メトロ表参道駅から乃木坂駅方面へ8分程歩いた閑静な住宅街にある。店頭では時計の販売、買取、修理だけでなく、オリジナル革ベルトの販売も。既製品に加え、革ベルトは素材やカラー、ステッチや尾錠、剣先のデザインなどを自分好みにオーダーすることが可能だ。

東京都港区南青山4-26-7 +8ビル 302

03-6712-6933

15:00~20:00
定休日 月曜・火曜

*お店に足を運ぶ前に、HomePageで最新の情報を確認することをお勧めします。

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取材ライターが感じたひと言

ミリタリーウォッチに強いお店は少なく、それだけでも貴重なお店だ。萩原さんが勤めていたアンティーク時計店は何度か取材したことがあり、そこで働いていた方というだけで親近感が増した。それに萩原さんはデザインに詳しくセンスがいいので時計のセレクトだけでなく、店舗の内装も素晴らしい。ホームページに載せていないモデルも多くあるので、一度店舗も覗いてもらいたい。

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