修理に重きを置くアンティークウォッチ専門店「ケアーズ」。時計の先に見据える想いとは。

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取材・文/倉野 路凡 写真/松本理加

アンティーク時計を取り扱うお店の中でも、修理やオーバーホールに力を入れているのが森下に本店を構える「ケアーズ」。販売した腕時計を自らメンテナンスするこだわりと、取り扱う腕時計について服飾ジャーナリストの倉野さんに解説していただきました。

「長く使ってほしい」を体現したアンティークウォッチ専門店の老舗

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高校生のときに買った古いセイコーの手巻きの腕時計が最初のアンティーク時計との出会いだった。成人してから1950年代のモバードを買ったり、それなりに詳しくなっていったが、腕時計雑誌の取材で頻繁にケアーズに通うようになってから、本格的にアンティーク時計の魅力にどっぷりはまっていった。

ケアーズは平成元年に会社を創業した老舗のアンティークウォッチ専門店だ。当初はオーナーで職人の川瀬友和さん一人で、自宅の2階を工房に改装して腕時計の修理を開始。同時に買い付けと卸を行っていたという。平成3年頃に地元の森下で店舗を構えた。その後は近辺で移転を繰り返して現在の店舗に至っている。

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森下本店は都営地下鉄森下駅から徒歩1分の場所にある

ケアーズの最大の特長は店名にもなっているメンテナンスの充実だ。一般的なアンティーク時計を取り扱うお店は外部の職人にオーバーホール(分解掃除)や修理を依頼する場合が多い。その点ケアーズは創業時から販売した腕時計は自らメンテナンスを行うというルールを堅持してきた。

修理工房を併設するメンテナンスへのこだわりぶり

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店舗の1階がアンティーク時計の販売、2階がオーバーホールや修理の受付、3階が工房になっている。販売している商品はすべてオーバーホールを行ってからお客様に販売し、コンディションの良いものしか取り扱わない。現在工房では10人の職人がオーバーホールと修理を行っている。ケアーズのオーバーホールは、ただ分解して、洗浄し、注油して組み上げるだけではない。

ケアーズの創業者であり、現在は会長をつとめる川瀬さん

ケアーズの創業者であり、現在は会長をつとめる川瀬さん

「手をかけられるところはすべて手入れします。たとえば歯車の軸も磨きます。磨くことによって油の寿命が延びてもちが変わってくるんです。それを支えている石も古い油を徹底的に洗浄します。古い油は経年により酸化してしまい、金属を腐食させるんですよ」と川瀬さん。

長年自分たちで修理しているため、この時計のムーブメントはどこが壊れやすいといった情報を把握している。自ら工房を構えているメリットでもある。実際に見せてもらったのだが、交換頻度の高いパーツを中心に大量にストックしているのだ!時計マニアが見たら興奮するはずだ(笑)。創業当初から集めているため数も半端ではない。

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時計のブランドごとに交換頻度の高いパーツをストックしている

修理の際に交換するパーツは基本的に純正品にこだわっている。手巻きモデルの場合はリューズが駄目になっている場合がある。その場合も、できるだけ純正品を探すが、見つからない場合は似たリューズを探すという。

また、歯車や軸だけでなく耐震装置も破損している場合があるという。インカブロックやキフの耐震装置もストックしているので安心できる。

もしもケアーズで販売した腕時計が故障してしまい、交換するムーブメントのパーツがない場合は同じモデルのムーブメントを分解して修理に充てるそうだ。1本を潰してまで対応するお客様ファーストの姿勢が素晴らしい。

コンディションの良いものしか扱わない

ケアーズのもう一つの特長がコンディションの良いもののみ取り扱っている点だ。年に20回ドイツとアメリカに買い付けに行くのだが、状態の良いものしか選ばない。買い付け回数が多いため、年間を通して新しい商品が入ってくるのも魅力の一つだ。店頭での販売だけではなく、ホームページからも販売を行っている。地方のお客さんはネットでの購入になるが、近郊に住んでいる人は店舗で直接商品を見てから購入することが多いそうだ。

ネットの普及によって海外のサイトで安く購入できる時代だが、ケアーズはそれに警鐘を鳴らしている。

「うまく動かないからと修理に持ち込まれる時計は、海外のサイトやオークションで安く購入されたものが多いですね。オーバーホールで済むものもありますが、パーツが傷んでいたり、ひどいものになると接着剤で着けているだけのものとか、表からはわからないですが、裏蓋を開けてみると修理不可能なものが多いんです」と川瀬さん。

じつはボクも何度か失敗して痛い目に会っている(笑)。ほんとアンティーク時計に関しては信頼できるお店で買うのがけっきょく損をしないのだ。

ケアーズで取り扱うアンティーク時計

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店頭に並ぶアンティーク時計は1940年代~1960年代に製造されたものがメイン。アンティーク時計市場では、これまで安価だった1970年代のクロノグラフに人気が集まり価格も上がってきている。

ケアーズが定義するアンティーク時計は1960年代までに製造されたモデルだが、1950~’60年代に生まれて1970年代にリニューアルされたムーブメントは取り扱っている。ムーブメントのベースが1970年代以前に製造されたものはアンティーク時計という定義なのだ。もちろん振動数の多いハイビートは取り扱っていない。

ケアーズおすすめの3本

「ロンジン」14Kイエローゴールドケース

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年に1本入荷するかどうかの希少なロンジンのブラックミラーダイアル。シルバーの文字版に比べて人気もあり値段も高い。スクエアプッシュなのでケースはスナップバック。非防水モデル。フライバック機能付き。これはスタートして止めないでリセットできる機能のこと。(1938年製。Cal.13ZN。価格400万円+税。)

「オメガ」スピードマスター セカンドモデル 

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リファレンスが裏蓋の内側に打ってあるので製造年代がほぼわかる。インダイアルが3レジスター(3つ目)なので12時間の積算計が付いている。オメガのマークがアップライトになっているのもセカンドモデルの特徴。プロフェッショナル表示がまだない。搭載されているCal.321はレマニアのムーブメント。オリジナルの希少なキャタピラブレス付き。(1961年製。Ref.2998-5 Cal.321。価格320万円+税。)

「ジャガー・ルクルト」メモボックス

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裏蓋がリング式スクリューバック構造を備えるモデルだ。ハーフローターの自動巻き。ブラックミラーダイアルはシルバーに比べて生産数が少なく、なかなか入荷しない希少モデルだ。本当に数が少ない。(1950年代製。価格95万円+税)

アンティーク時計は値崩れしにくい

投資目的でアンティーク時計を購入するのはなんだか嫌なのだが、購入後も値崩れしにくいのもアンティーク時計のメリットかもしれない。現行品は一度着けてしまうと中古品になってしまい、一部のロレックス以外は価値が極端に下がる。その点アンティーク時計は価値が下がりにくいのだ。

若い人にこそ苦楽を共にしてほしい

若いときにこそ、ぜひアンティーク時計を購入してほしいと川瀬さんは言う。自分の人生をアンティーク時計と共に長く歩んでほしいとのこと。現行品のようにトレンドの影響を強く受けていないので、ビジネスウォッチとしても使いやすく、複雑な機能ではないのでオーバーホールさえしっかり行えばずっと長持ちするのである。

若い人にはオメガのコンステレーションやシーマスター、30ミリキャリバー。ロレックスのエアキング、デイトジャストがおすすめ。価格もそれほど高額ではないので入門編としても最適だ。

アンティーク時計の付き合い方

アンティーク時計のデメリットは磁気に弱く、防水性があまりないということだ。スポーツタイプの肉厚なケースのものは大丈夫だが、ケースの薄いドレスウオッチは気をつけたい。長時間パソコンを使うときは外したほうが無難。

雨の日も外すのが賢明。風防の周りやリューズ付近から湿気が入ることがあるので要注意だ。神経質な使い方しかできないと思う人もいるだろう。しかし雨の日に高級な革靴を履く人はいないはず。それと同じように雨の日は現行品を着ければいいのである。

現行品との共存するのが個人的には面白いと思うし、アンティーク時計の良さもじわじわと味わうことができるのだ。

ーおわりー

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ケアーズ森下本店

アンティークウォッチの修理専門の会社として平成元年に創業。

アンティークウォッチを販売するにあたり、リペアとアフターケアは必要不可欠なものであると考え、ショップオープンの前にまずは修理がしっかりできる体制を整えようと修理専門でスタートした。ショップ名 “ケアーズ” の “ケア” はアフターケアからとっている。

現在もそのコンセプトは変わらず、1階がメンズのアンティークウォッチ専門店、2階が修理受付、3階が修理工房というスタイルで営業しており、30代の若い職人からベテラン職人までの幅広い技術力を集結し日々数多くの時計を修理している。ちょっとした修理ならその場で対応し、すぐに持ち帰れるサービスはケアーズならでは。

販売している時計は欧米を中心に自社で直接海外買付けを行い、1930年代から1960年代までを中心に幅広いブランドを取り揃えている。また、時計は全てメンテナンスし、1年保証を付けているので安心して購入できる。

森下本店以外に東京ミッドタウンと表参道ヒルズにもショップがある。(表参道ヒルズ店はレディースウォッチのみ)

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公開日:2017年11月25日

更新日:2022年4月12日

Contributor Profile

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倉野路凡

ファッションライター。メンズファッション専門学校を卒業後、シャツブランドの企画、版下・写植屋で地図描き、フリーター、失業を経てフリーランスのファッションライターに。「ホットドッグ・プレス」でデビュー、「モノ・マガジン」でコラム連載デビュー。アンティークのシルバースプーンとシャンデリアのパーツ集め、詩を書くこと、絵を描くことが趣味。

終わりに

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何度も取材をし、数本買ったこともあるケアーズ。創業以来アンティークウォッチ一筋というところも凄いと思ってしまう。店頭にしか置いていないモデルもあるので、機会があれば一度覗いてほしい。地下鉄の森下駅から歩いてすぐそばなので楽だし・・・(笑)。

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