代官山と渋谷を結ぶ八幡通りから一本入った閑静な場所に、一軒のアンティークウォッチ店があります。それが創業24年を数える老舗「ホロル・インターナショナル」。接客から時計のメンテナンスまで一貫して対応する、店主の廣江さんに取り扱う商品のこだわりなどを伺いました。
静かな代官山に似合うアンティーク時計店
アンティーク、ヴィンテージウォッチ専門店として人気の高いホロル・インターナショナルへ行ってきました。1993年に台東区で創業し、2001年に代官山の八幡通りに移転。さらに10年ほど前から現在の場所で営業を続けている老舗なのだ。
店主の廣江顕さんによると、「愛着のある下町からあえて離れ、スタイリッシュなお店が集まる街に店舗を構えてみたい」という思いから恵比寿や原宿などの物件を探したそうだ。
店主の廣江さん
結果的に代官山になったのだが、ほんと良かったと思う。アンティークウォッチのお店は、静かな街がよく似合う・・・。と勝手に思ってしまう(笑)。メイン通りの八幡通りから少し入った現在のこの場所はいい立地だと思う。店内も広過ぎず落ち着いた雰囲気で個人的には好きな店舗である。
「アンティークウォッチを気軽に日常生活に取り入れてほしい」こだわりの商品構成
さて、このお店の特徴のひとつが廣江さんのこだわりを反映させた商品構成だ。以前はロレックスも取り扱っていたそうだが、ここ数年値段が高騰してしまったこともあり、いまは魅力ある他ブランドを厳選して揃えている。
たとえば、以前から意識して展開してきたのが、これまで聞いたこともないブランドのダイバーズウォッチやクロノグラフなど、リーズナブルでカッコいいデザインの腕時計だ。有名ブランドは人気もあり、当然価格も高い。簡単に買えるものではなくなった。しかし、ブランドにとらわれなければ、価格のわりにいいものも存在するのだ。
クロノグラフは無銘ブランドとはいえ、バルジューやビーナス、ランデロンなどムーブメントメーカーのムーブメントを搭載しているので安心だし、状態がいいもののみ取り扱っている。最近ではそういう無銘ブランドまで評価されるようになってしまい、残念ながらそれにともない市場での価値も上がってきたという。
他には有名だが、メンテナンスしやすいスタンダードな3針モデルにも力を入れている。オメガのロングセラーモデルとして知られる30mmキャリバーをはじめ、ミリタリーテイスト溢れるエテルナ。ロンジン、IWC、ジャガー・ルクルトや当時としてはモダンな雰囲気を醸し出しているモバードなどだ。
とくにモバードは外のデザインにも中のムーブメントにもオリジナリティーがあり、比較する対象がない存在。例えるなら昔のホンダの車みたいだ。クロノグラフではタグ・ホイヤーやユニバーサル ジュネーブなど、クロノグラフ好きにはお馴染みのモデルだ。
ユニークなのがアメリカンウォッチにも力を入れている点だろう。ウィットナー、ブローバ、ハミルトン、ベンラスなど、アメリカで生産されたモデルやアメリカ市場向けにデザインされた腕時計のことだが、アンティークウォッチ愛好家からはそれほど人気がなく、まだまだリーズナブルなのだ。
アンティークウォッチに興味をもつと搭載されているムーブメントに目が移り、自社製のムーブメントにこだわったりしてしまう。つまり、より深くマニアックな世界にどっぷり浸かってしまう。そうなると安価なアメリカンウォッチには興味がなくなる。アンティークウォッチはどうしても偏屈な趣味に陥りがち。もっとファッションのように普通に楽しめないのか?そんな理由から廣江さんはトレンドに関係なく、アメリカンウォッチを推してきた。
スイスの高級時計のように繊細な手のかけ方はしていないが、合理的に組み立てられるように設計されている。けっして雑というのではない。あくまで合理的なのだ。アメリカンウォッチに関してはレディスモデルも取り扱っているのでプレゼントにもおすすめしたい。
ホロル・インターナショナルおすすめのアンティークウォッチを紹介
独自のセレクトを行う廣江さんにおすすめの3本を選んでもらった。
SMITHS「ASTRAL」
1950年代製造 9Kイエローゴールド 価格18万円+消費税
あまり知られていないが、スミスはイギリスのブランドだ。12、3、9という飛びアラビア数字とくさび形インデックスの組み合わせは、1950年代製造の特徴。最近の腕時計は付加価値をつけるために、サイズも含めて、盛り過ぎな感じがする。その点このモデルはシンプルで飽きのこないベーシックなモデル。懐中時計に見られるようなクラシックな粒金仕上げのムーブメントというのも雰囲気がある。
OMEGA「Round Style」
Cal.265 1950年代製造 ステンレススティール 22万円+消費税
オメガを代表するシンプルな時計。この手巻きの30ミリキャリバーはテンプも大きく、精度を出しやすい。こういうシンプルな文字盤の時計はどんなベルトも似合うので、色で遊んでみるのもおすすめ。
HAMILTON「Royal Army」
1970年代製造 ステンレススティール 11万円+消費税
イギリス陸軍採用の1970年代製造のミリタリーウォッチ。玉数はあるほうだが、酷使されているものが多く、このように状態がいいものは少ない。このモデルは生産をスイスに移行してからのもので、ETA製のムーブメントを搭載。整備しやすく、精度を出しやすい。ハック機能付き。
時計のメンテナンスも自ら手がける
もうひとつの特徴は廣江さん自身がオーバーホールや修理を行っているということ。店舗の奥がメンテナンスの工房になっていて、毎日のように作業をしている。メンテナンスに加え、お客さんの接客対応からサイトの更新など、店主である廣江さん一人ですべてをこなしているのだ。けっこう忙しい毎日なはず(笑)。
廣江さんが行うオーバーホールはとても丁寧で、修理が発生した際も的確に行っている。すべてのブランドの修理用のパーツを揃えているわけではないが、機種によってはパーツの予備をストックしているし、このモデルはここが壊れやすいという情報も頭に入っている。
自らオーバーホールをできることが、腕時計を仕入れる際にも役立っている。購入したお客さんが長く使えることが何より大切で、トラブルが少なく、その後の修理のしやすさも選ぶ基準に含まれているのだ。
ホロル・インターナショナルで購入した腕時計以外でも、アンティークの腕時計ならオーバーホールをしてくれる。また、ダイバーズウォッチやミリタリーウォッチ、スポーツウォッチの夜光針の夜光部分の抜け落ちや、夜光部分の色の塗り替えも行ってくれるというから有難い。代官山という落ち着いた雰囲気のなかで、お気に入りの1本を探してみるのも楽しいものだ。
ーおわりー
Horol International
代官山に店舗を構えるアンティークウォッチ店。1993年に東京都台東区にて創業。2001年から渋谷区代官山で営業するようになり、2008年には現在の場所へ移転。魅力ある古い時計を気軽に日常に取り入れてごく普通に使うライフスタイルを提案しており、特定のブランドに偏ることなく個性的で状態の良い時計を取り揃えている。店主である廣江さんは仕入れから整備、販売まで可能な限り手がけているので、安心して腕時計を購入できるアンティークウォッチ店の一つだ。
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終わりに
ずいぶんと昔だが、ホロル・インターナショナルの店舗の原稿は、腕時計専門誌で何度も書いた記憶がある。今回取材して思ったのだが、自分でスーツを仕立てるテーラーは安心感がある。それと似ていて、自らオーバーホールする店舗はやはり信頼できるのだ。余談だが、廣江さんは筋道を立てて語ってくれるので理解しやすく、ストレスなく取材することができた。