服飾ジャーナリストの倉野路凡さんが「アンティーク時計を取り扱うショップの中でも、高品質で信頼できる」と太鼓判を押すのがシェルマン。今回はシェルマン銀座店にご協力いただき、おすすめのアンティークウォッチと購入する際のポイントについて伺いました。
銀座にあるアンティークウォッチの老舗、シェルマン
しばらくアンティークウォッチのショップ取材をしていなかったので、もっとも信頼できるショップ、シェルマンにお邪魔してきました。
シェルマンの歴史は古く1971年にまで遡ることができる。創業時は銀座3-12-18にあり、まだ木造建てだったそうだ。当時は西洋骨董の黎明期だったこともあり、アンティークショップは都内でも数が少なかった。アンティークウォッチに絞ってみても、当初から取り扱っていた実績がある。
日本でもアンティークウォッチブームは何度か訪れたが、ブームが過ぎる度にショップが減っていく。ブームに乗ってとりあえずアンティークウォッチを取り扱ってみました、といういい加減なショップが多かったのだ。つまり現在生き残っているショップは信頼されているということ。なかでもシェルマンは別格のショップだ。
シェルマンがマニアックなアンティークウォッチ愛好家から一目置かれているのは、やはり信頼。扱っている時計の品質の高さとアフターケアがしっかりしているということだ。
しかもアンティークウォッチ好きはもちろん、初心者でも購入しやすい価格帯のものまで揃えている。今回は銀座店の取材だったが、違う店舗ではレディースのアンティークウォッチを取り扱うなど、コレクター、初心者、男女に関係なく、幅広くアンティークウォッチの良さを広めたいという気持ちが伝わってくる。
シェルマンおすすめのアンティークウォッチを紹介
今回はシェルマンらしいおすすめの3本を紹介してもらった。
「パテック・フィリップ」ビッグカラトラバ
Ref.570 Cal.27SC 18Kイエローゴールド 手巻き1962年製。価格280万円+税。
一般的にカラトラバといえばケース径30.5mmの96モデルが有名だが、この570モデルはケース径が35mmもある。大きめの存在感のあるケースということもあり、現行モデルの感覚で装着できるのが魅力なのだ。ケースのコンディションも素晴らしくエッジがしっかり立っている。海外でもこのモデルは人気急上昇とのこと。
ちなみに「オールドパテックならシェルマン」と言われるほど、アンティークのパテック・フィリップに力を入れてきた実績があり、トロピカルなどの希少モデルの入荷もあるのだ。
「ロレックス」角型ケース ピンクゴールド×ステンレススティール
手巻き。1920年代製。価格68万円+税。
ケースが3面カットされていて、サイドがピンクゴールド、中央がステンレスという珍しいモデルだ。角型モデルは丸型モデルに比べ、防水性が乏しかったこともあり、市場でも状態のいいものが残っていない。しかもアールデコ調のモデルはさらに数が少なく希少なのだ。文字盤は人気の3、9、12の夜光の飛びアラビア数字で、色はケースに合わせてコパーゴールドと洒落ている。
「オメガ」コンステレーション
Ref.2852 Cal.505 ステンレススティール 自動巻き 1950年代製。価格38万円+税。
オメガを代表するコンステレーションのなかでも、多面カットされた文字盤と、ダイヤモンドインデックスと呼ばれるインデックスを組み合わせた人気モデル。個人的にも1950年代らしい顔つきのこのモデルは大好きで、装着した際のほどよい重厚感が魅力だ。価格も比較的購入しやすいと思う。
アンティーク時計を購入する際のポイント
初めてアンティークウォッチを買う場合に気をつけたいのは、現行モデルではなくアンティークウォッチということだ。
つまり現行モデルのように高い防水性があるわけではないので、汗をかく真夏の炎天下での使用は避けたいし、電化製品などの磁気を発生するものや場所にも注意が必要だ。
磁気を帯びると大幅に時間が狂うのですぐにわかる。磁気を帯びた場合はショップに持参すれば磁気を取り去る専用の機械があるので心配ない。
アンティークに限らず機械式時計は振動に弱いので、バイクを運転するときは外した方がいいかもしれない。けっしてアンティークだから壊れやすいというわけではないし、慣れると気楽に使えるので身構えることはない。
選び方をお伺いしたところ、サイズ感や文字盤のデザイン、ケースのデザインで選んでいいそうだ。サイズが現行モデルに比べて小さいものが多く、実際に腕に装着して確かめてほしい。丸型や角型によっても装着時の印象がずいぶんと変わるので注意したいところ。
文字盤のデザインというのはインデックスと針の雰囲気だ。夜光針と夜光インデックスの組み合わせなのか、アップライトのインデックスなのかによっても、雰囲気が異なる。あるいはミリタリーテイストの黒文字盤なのか、ビジネスでも合わせやすいベーシックな白系の文字盤なのかなど、自分の好みのポイントを押さえておきたい。
中身の機械であるムーブメントの状態は表から見えないのでとくに気をつけたい。こればかりは信頼できるお店で購入するしかない。シェルマンはコンディションの悪いムーブメントを取り扱わないので信頼できるのだ。
海外のサイトで安いからといって購入すると、ムーブメントに不具合があったりするので止めたほうが無難だ。けっきょく修理代がかかったり、最悪な場合は修理不可能なこともあるので要注意だ。安物買いの銭失いにならないこと。
ブランドよりもデザイン重視。最近のアンティークウォッチの傾向
以前からアンティークウォッチのなかでもマニア好みのクロノグラフは人気が高かった。ムーブメントが自社製であるとか、バルジューやビーナスといったムーブメントメーカーから選ぶ場合も多かった。
ところが最近はムーブメントで選ぶよりもデザイン重視で選ぶ傾向にあるという。とくにクロノグラフの場合は3針モデルよりも文字盤のデザインがユニークなものが多くあり、プッシャーの大きさや形(丸型、角型)もさまざま。
たとえば有名ブランドではないものでもデザインが良いものは価格も高騰しているという。
特徴としては大型ケースのもの、重厚感のあるケース、ブラックのミラーダイヤルのもの、渦巻き模様のタキメーターなど、オリジナリティーの強いものが人気なのだ。
ムーブメントはバルジューやビーナス、ランデロンなどが搭載されているものが多いが、ホイール式でもカム式でも気にしないらしい。
たとえば有名ブランドと無銘ブランドのどちらもバルジューやビーナスのムーブメントを搭載しているが、有名、無銘にかかわらず仕上げのクオリティに大差のないものもある。つまりこれまでは有名ブランドのクロノグラフのみがスポットライトを浴びてきたということ。ここへきて、無銘ブランドがようやく適正に評価され始めたというわけだ。これまで10~20万円で購入できた無銘のクロノグラフが、デザインが良ければ倍以上の価格に高騰している。
これは日本だけではなくて海外での市場も同じだという。ブラントにこだわらず気に入ったら買っていく。これまでは時計オタクやコレクターのものだったクロノグラフが、ファッションの一部として、現行モデルの感覚で買われているのだ。
シェルマンで取り扱っているすべてのアンティークウォッチはすべてコンディションがいいものばかり。安心してお気に入りの1本を買ってもらいたい。
ーおわりー
Shellman 銀座店
シェルマン全店のなかで最大の面積をもつフラッグショップ。メンズアンティークウォッチのセクションでは、機械式時計全盛期を象徴する名品を最高のコンディションで揃えている。中でも「オールドパテックならシェルマン」と言われるほど、アンティークのパテック・フィリップに力を入れてきた実績があり、トロピカルなどの希少モデルの入荷もある。もちろん、パテック以外にも傑作が充実している。
アンティークウォッチだけでなく、時計の殿堂と呼ばれる「ラ・ショード・フォン国際時計博物館」の永久展示品に選ばれるという最高の栄誉を獲得するに至ったシェルマンのオリジナルウォッチのセクション。さらにスイス時計界の至宝とも呼べる独立時計師の作品など、さまざまな視点で時計の魅力を伝えている。
時計を一層楽しむために。編集部おすすめの書籍
ロレックスもパテック フィリップももちろんいい時計だが、それは単に値段が高いからだけではない――。
教養としての腕時計選び (光文社新書)
そこかしこで時刻を確認することができる時代、人は何のために腕時計を身につけるのか。腕時計を成熟したビジネスパーソンの身だしなみ、あるいは「教養」としてとらえ直し、自分にふさわしい品を選ぶセンスを高めるための入門書。もはや腕時計はステイタスアイテムであり、自分自身を表現するツールである。
もっと腕時計を楽しむための知識が満載!
腕時計のこだわり (SB新書)
ロレックスが高級腕時計の定番として君臨し続けている秘訣とは何か、最高峰ブランドであるパテック・フィリップの驚異的な職人芸とは──腕時計の「こだわり」がわかれば、腕時計はずっと面白くなる。腕時計をより深く楽しむための知識やノウハウを徹底解説。
終わりに
初めてシェルマンを訪れたのはたぶん1986年。東京に上京した年。銀座店ではなくて今はなくなったハナエ・モリビルの地下にあった青山店だ。地下フロアがアンティークマーケットになっていて、アンティークのジュエリーやウォッチなどが楽しめたのだ。その後ライターになってからは何度か銀座店を取材している。ちなみにシェルマンはアンティークだけでなく独立系時計師のウォッチを紹介したり、オリジナルウォッチも展開している。