ビスポークをもっと身近に感じさせてくれる、新世代テーラー KIRINTAILORS(キリンテーラーズ)。

取材・文/倉野路凡
写真/佐々木 孝憲

服飾ジャーナリスト倉野さんが「次世代テーラーと呼ばれる世代ともまた違ったビジョンと美意識を持った人」と称するKIRINTAILORS(キリンテーラーズ)の江利角卓也さん。

生み出される洋服は英国の伝統的なテーラーリングを大切にしながらも、どこか新鮮でモダンな印象が漂う。江利角さんの服作りに対するこだわりを探ってきました。

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アレキサンダー・マックイーンに憧れ、敢えてテーラーの道を選んだ駆け出し時代

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自由が丘にあるKIRINTAILORS(キリンテーラーズ)へお邪魔しました。

テーラーといえばクラシックで重厚な内装を思い浮かべてしまうが、こちらの店内は明るくてモダンで開放的だ。ショップを作る際に「重厚な雰囲気は避けてほしい」と、建築家に内装を依頼したそうだ。

「これまでスーツを作りたくてもどこでオーダーしたらいいのかわからない。敷居が高そうで入りづらい。そんな20代の人たちにもスーツに興味をもってもらいたかった」とオーナーでテーラーの江利角卓也さんは語る。

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ショップの特徴を語る前に江利角さんのプロフィールを簡単に説明しておこう。福岡県で生まれた彼は、高校生のときにアレキサンダー・マックイーンやクリストファー・ネメス、ヴィヴィアン・ウエストウッドといったイギリスのデザイナーの服に憧れていたそうだ。福岡の人はお洒落だから納得がいく話だ。

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1990年代半ばといえばヒップホップや裏原系のブランドが台頭してきた時期なのだが、ストリート系のファッションにはまったく興味がなかったという。

その後上京し、文化服装学院へ入学。その頃にはベルギーのアントワープのドリス・ヴァン・ノッテンの服が好きだったそうだ。そういう背景があるため日本の有名デザイナーズブランドに就職を希望したのだが、不採用。その時、後(2014年)に株式会社KIRINTAILORSを立ち上げることになる上山善史さんの誘いもあり、銀座の老舗テーラーの壱番館に入社する。

デザイナーではなくテーラーを選んだ理由は、大好きなアレキサンダー・マックイーンも、若い頃にサヴィル・ロウのテーラーでアシスタントをしていたという職歴を知っていたからだという(笑)

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あらゆるテーラーの縫製に徹した10年間が今のKIRINTAILORSを支える。

3年間働いた後に独立し、現在のKIRINTAILORSの前身となる麒麟を立ち上げる。

10年間にわたって他店テーラーやサルト、ハイブランドの縫製やパターンなどをこなしていく。当然、各テーラーに合わせて縫製やシルエットを変えなくてはならない。こうして幅広いテーラーリングを吸収し実力をつけていったのである。また、この時期に自分はデザイナーほどの世界観はもっていないことを実感したという。むしろテーラーこそ天職だと確信したのだろう。

江利角さんはテーラーには違いないが、前述したようにモダンで洗練された服が好きなのだ。伝統的なテーラーリングに敬意を払いながら、野暮ったさを排除した、現代にフィットした服を追求する新しいテーラーなのである。

江利角さんが編集した雑誌のような仕上がりのKIRINTAILORSの紹介パンフレット。

江利角さんが編集した雑誌のような仕上がりのKIRINTAILORSの紹介パンフレット。

カッチリとした肩周り、それでいて着心地が柔らかいKIRINTAILORSのテーラリング。

もちろんテーラーなのでお客さんの好みを伺って、体型補正はしっかり行う。そのうえで、KIRINTAILORSらしさを反映させているのだ。

具体的にKIRINTAILORSらしさを「ビスポークオーダー」で説明すると、肩周りはカッチリと作り、肩より下の部分はやわらかく。袖山は低く作って動きやすさを追求している。

スーツを見たときのアウトラインはカッチリと見えるが、着るとやわらかさを感じられるそうだ。抽象的な表現だが、「やわらかくて、軽くて、動きやすい」というのが表現としてわかりやすいと思う。また、肩から上襟にかけて、カーブを描くように上襟を登らせることも多い。

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ビスポークで仕立てたダブルのストライプスーツ。

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生地がフランネルということを考慮して、肩パッドや胸増芯はあえて控えめにしている。お客様の好みを反映させながら、生地と副資材とのバランスをトータルで考えて仕立てるという。

お客さんが重厚なスーツがほしいという要望があれば対応してくれる。あくまでハウススタイルが、ということだ。

「ビスポークオーダー」で使われる芯地はイタリアのものを中心に、国内製など使い分けている。ちなみに江利角さんも型紙を引くのだが、型紙に特化したスタッフがいて、パターンのレベルも相当高いようだ。

「ビスポークオーダー」は縫製工場製ではなく、お客さんの型紙製作から始まり、仮縫い、中仮縫いの工程を経て、職人がすべて縫い上げるオーダーのことだ。

完成度の高い「パターンオーダー」のために。ひと味違うKIRINTAILORSの手法。

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一方の「パターンオーダー」はゲージと呼ばれるサンプルを着用して、体型補正を行っていく。詳しくいうとジャケットの生地にピン打ちして、着用感を高めていく工程だ。オーダーシートに必要な採寸データ、補正データを記入して、選んだ生地と一緒に国内の縫製工場へ送るのである。

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ここまでは一般的なテーラーと似ているが、KIRINTAILORSの「パターンオーダー」はひと味違う。ベースとなる型紙はKIRINTAILORSが引いたものを使っているのだ。

たいてい縫製工場が用意した型紙を使うのだが、テーラーが納得したものを使えるというのは、テーラーにとっての理想的なスーツに近づけられるということだ。

さらに使用する芯地もKIRINTAILORSが芯地屋さんに注文したオリジナルの出来芯を使っている。選んだ服地やお客さんの好み、体型に合った芯地を使えるのだ。だから完成度の高い「パターンオーダー」なのである。

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KIRINTAILORSだからこそ実現できるオーダー。「カジュアルウェアもかっこよく」

とてもKIRINTAILORSらしいのがカジュアルウェアのオーダー「カジュアルオーダー」も行っている点だ。ダッフルコートやピーコート、ブルゾンなどもオーダーできるのだ。しかも「ビスポークオーダー」と同様に仮縫い、中縫いの工程も行う本格的なオーダーなのだ。

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英国HAINSWORTHの生地を使ったブルゾン。

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スーツだけでなくブルソンなどのカジュアルなアイテムもビスポークすることができる。カジュアルな中にもすっきりと洗練された雰囲気が漂う仕上がり。

ビスポークだけでもなく、パターンオーダーだけでもない。新世代のテーラーが見据えるその先は。

「将来はビスポークとパターンオーダーの中間のようなオーダーも展開したいですね。10人ほどの規模のアトリエで、麒麟時代にやっていたことを応用したいですね。従来のテーラーとは違った新しい方法を模索しています」と江利角さん。

江利角さんはまだ30代。次世代テーラーと呼ばれる40代のテーラーたちとは違うビジョンを掲げているようだ。古い業界に風穴を開けているようで、それがまた心地良いのだ。

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KIRINTAILORSならではのオススメ生地。ROYAL GUARDも着用する英国ブランド「HAINSWORTH」

英国の「ハリソンズ・オブ・エジンバラ」などの生地がメインなのだが、イタリアのドラッパーズの「BLAZON SUPER140’S」も人気が高いとのこと。生地重量が250gなのでスリーシーズン対応できる優れもの。

珍しいところではイギリスの「HAINSWORTH」のTRUE HERITAGEというコレクションは近衛兵の制服に使われているヘビーウェイトな生地なのだ。コード地としても面白い。

同じくイギリスのハダスフィールドの「MARLING&EVANS」の生地は、ノンケミカルをウリにしているだけのことはあり、ナチュラルなカラーリングが特徴だ。日本での展開もほとんどないという。

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HAINSWORTHは英国近衛兵の制服に使われる生地で有名な生地ブランド。連隊によって使われる色や素材が異なっている。
TRUE HERITAGEは色によって異なるが基本的にメリノウールを使った400~600gms台のヘビーウェイトな生地。VIVID HUES MELTONはメリノウールを使った340gmsのヘビーウェイトなメルトンだ。

英国空軍(Royal Air Force 、略称:RAF)の儀式用の素材としても使われる生地、RAF Blue Barathea。

英国空軍(Royal Air Force 、略称:RAF)の儀式用の素材としても使われる生地、RAF Blue Barathea。

ハンガーにもKIRINTAILORS独自の美意識を。

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イタリアの「マイネッティ」のサルトリアーレハンガーを使っているテーラーが多いのだが、KIRINTAILORSは豊岡で生産する中田ハンガーのものを使って、「KIRINTAILORS」のロゴ入りプレートを留めている。ちょっとサヴィル・ロウのような雰囲気でカッコいいのだ。内装同様に、美意識の高い江利角さんらしくて面白いと思う。

ーおわりー

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クラシッククロージングを一層楽しむために。編集部おすすめの書籍

現在の変貌する紳士服の聖地「サヴィル・ロウ」を象徴する全11テーラーを紹介

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Savile Row(サヴィル・ロウ)A Glimpse into the World of English Tailoring

世界で唯一無二「紳士服の聖地」とよばれるサヴィル・ロウ。そこで生み出されるのは世界最高レベルのテーラリング技術を持つ、熟練した職人たちの手によるビスポーク・スーツである。ファッションやトレンドを超越し、世界中の男たちを魅了してきた、永遠に生き続けるスタイルがそこには存在する。英国王室御用達に輝く老舗から、新進気鋭の新しいテーラーまで、時代の流れの中で大きく変貌を遂げるサヴィル・ロウの実像を、現地取材を通じて映し出した、日本初のヴィジュアルブック。

アラン・フラッサーによる、スタイリッシュに見えるために知っておくべきこと

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Dressing the Man: Mastering the Art of Permanent Fashion

「うまく着こなすことはそれほど難しいことではなく、本当の課題は適切なパーソナライズされた指導を受けることができるかどうかにある」とフラッサーはいう。服を着こなすということは、プロポーションとカラーの2つの柱を軸にしている。「恒久的なファッション性」は、読者への目標でもあるが、個人的なトレードマークのセットに責任を持つことから始まるものであり、季節ごとにランダムに提供されるファッションの流行ではないと考えている。

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THE KIRINTAILORS SHOP

江利角 卓也氏と上山善史氏の二人が主催する東京・自由が丘にあるテーラー「THE KIRINTAILORS SHOP(ザ キリンテーラーズ ショップ)」。伝統的なメンズテーラーリングを軸にモダンかつシンプルなスーツ・ジャケット作りを心がけている。メンズスーツの他にもカジュアルテイストのアイテムや、レディースアイテムにも柔軟に対応可能。顧客の要望に迅速かつ柔軟に対応するために、テーラーが在駐しアトリエ機能も併設している。


●KIRINTAILORS パターンオーダー
スーツ価格9万5000円~、中心価格帯13~15万円。
ジャケット価格6万9000円~。
納期1ヶ月(時期により~2ヶ月)。

●KIRINTAILORS ビスポークオーダー
スーツ価格29万円~。
スリーピーススーツ価格35万9000円~。
ジャケット価格20万1000円~。
納期3ヶ月~。

※詳細についてはお店へお問い合わせください。

公開日:2017年2月12日

更新日:2022年5月2日

Contributor Profile

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倉野路凡

ファッションライター。メンズファッション専門学校を卒業後、シャツブランドの企画、版下・写植屋で地図描き、フリーター、失業を経てフリーランスのファッションライターに。「ホットドッグ・プレス」でデビュー、「モノ・マガジン」でコラム連載デビュー。アンティークのシルバースプーンとシャンデリアのパーツ集め、詩を書くこと、絵を描くことが趣味。

終わりに

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じつは麒麟として頑張っていた時に名刺交換だけはしていて、いつか取材したいと思っていた。ちなみに麒麟というのは屋号のようなもので、そこに数人のテーラーが集まり、自分たちの仕事をしていたという話だ。ようやく取材できて本当に嬉しい! 自由が丘という場所もいいし、THE KIRINTAILORS SHOPの外観も内装も好みなのだ(笑)。言い忘れていたが、オリジナルのネクタイと、オリジナルのコーヒーも販売している(笑)。店内でコーヒーを飲んでいたら、一瞬、「カフェっぽい」と思ってしまうほどのリラックス感なのだ。また遊びに行きたいお店だ。

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