チェコの香水瓶と「なくしたくない」から産まれるレトロ・チェコスロバキア

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文/金山 靖

撮影/深瀬典子(G.P.FLAG)

チェドックザッカストアからチェコのガラスとチェコ文化を学ぶ今企画。これまで、ボヘミアガラスやガラスボタンを紹介してきましたが、今回は「チェコの香水瓶」。
店主・谷岡さんによると放っておけば失われてしまうかもしれないチェコの文化のひとつだそう。そして、チェコの若い世代による「復刻」という動きが注目されているようです。チェコの職人技の結晶の香水瓶をご紹介します!

国をあげての輸出品として製造されていたチェコの香水瓶

MuuseoSquareイメージ

繊細さときらびやかさを兼ね備えた造形美で、写真映えもするため、SNSでも人気なチェコの香水瓶。チェドックザッカストアでも、香水瓶は注目されているアイテムのひとつです。
以前、エジプト香水瓶をご紹介しましたが、スリムで高さのあったエジプトの香水瓶とくらべると、チェコの香水瓶はコンパクトなフォルムで、懐中時計のよう。


「ガラスボタンやアートガラスと同じ用に、香水瓶もチェコが国の特産品として輸出用に作っていました。チェコ国内の街の雑貨店などではほとんど買えないですね。
以前、お店にふらっと立ち寄ったチェコ人から『この香水瓶、どこに売ってるんですか?』って聞かれたことがあるぐらい(笑)。
共産主義時代、チェコ政府は外貨を稼ぐため、ボヘミアガラスというガラス製品のブランドを立ち上げ、輸出に力を入れていました。この香水瓶もそのひとつですね」

3人でつくる香水瓶

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店内の目立つ場所には、手のひらにすっぽり収まるサイズのかわいい香水瓶が並んでいます。

「ベースとなるガラス瓶の部分は、工程順に3人の職人が手作りしています。
溶かしたガラスを型枠に流し込んで切る人、流し込まれた型枠を閉じて圧力をかけて形を作る人、出来上がったガラス瓶を冷ます人という流れです。
今もほとんど機械化されていないですね。全て手作業ですから、微妙に間違えている場合もあります。前にお店に届いた香水瓶は白い装飾だったのに、次に届いたのは紫だったとか(笑)」

香水瓶にも、ガラスボタンと同じチェコ人ののんびりした気性が表れているようです。

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深い瑠璃色が美しい香水瓶。装飾や形状もそれぞれです。

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グリーンが美しいマラカイトガラスは製品を問わず人気のカラー。マラカイトガラスの香水瓶も作られており、同じ種類の小物と一緒に並べたくなります。

細部までストーンが散りばめられた香水瓶

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香水瓶のなかには、全体に装飾が施されたものもあります。ガラスストーンをはめこんだり蓋をプレスしたりするのは、ガラスの香水瓶を作る3人の職人とはまた別の職人。

「蓋や装飾の金属パーツをプレスする職人、そして金属パーツを組み合わせてデザインを作り溶接して仕上げる職人がいます。
金属パーツをプレスする段階で、ガラスストーンがはめ込めるよう凹みがあり、そこにストーンを1個ずつ手で貼りつけています。金属部分は溶接ですね」

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小さいストーンがきれいに並べられた香水瓶。香水瓶は、蛍光灯の下では水色に見えるアレキサンドライトガラスが使われています。

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蓋の部分まで細かくストーンが貼られ、中世貴族の持ち物のように豪華絢爛。
このストーンを職人が1つずつ手作業で貼っていると考えると、この香水瓶にかけられた時間の重みが想像でき、より素晴らしいものに思えてきます。

重厚感たっぷり! チェコスロバキア時代のガラス香水瓶

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今は別の国となっているチェコとスロバキアが、まだ「チェコスロバキア」として1つの国だった頃の香水瓶。1960~70年代に作られたそう。チェコ時代の香水瓶とまったく違うデザインが印象的です。

「美しく装飾された大きな蓋と厚みのある本体というデザインは、1910~30年代にボヘミアで多く作られたデザイン。アートガラスとして世界的に評価され、ボヘミアガラスの名をあげるのに一役買いました」

チェコの失われつつある文化と復刻

共産主義時代は国によって守られてきたボヘミアガラス。ですが、資本主義国家となったチェコでは、ガラス職人は儲からない仕事として敬遠されるようになり、後継者不足に陥っています。
ガラス香水瓶やガラスボタンも例外ではありません。職人はみな高齢になり、放っておけばやがて失われる文化となっているのです。

「資本主義になったことで、チェコはすごい勢いで物価が上昇しています。また、職業が自由に選べるようになったことで、若者は儲かる職業につきたがるようになりました。ガラス職人はみんなお年寄りですから、今までののんびりしたスタイルを変えてまで、儲けようという気負いもありません。こういう流れは日本の伝統工芸と同じですね」

服飾品からコレクションへ立ち位置を変えたガラスボタン

服飾品からコレクションへ立ち位置を変えたガラスボタン

古き良き文化が失われつつあるチェコですが、嬉しい動きもあります。

「今チェコでは、30~40代の人たちが、チェコスロバキア時代のものをおしゃれだと見直す動きがあるんです。
ガラスストーンやジュエリーなどは、若い世代が中心となって、『ちょっと手が込んでいて作るのが大変だけど味があっていいもの』を作る会社が出てきたりもしています」

若い世代の職人さんが復刻したウランガラスの香水瓶。
100年前の香水瓶そのままの形だそうです。
ウランガラスは、かつてヨーロッパやアメリカで広く作られていましたが、今は素材であるウランが入手しにくくなったため、ほとんど生産されていません。
そのなかでチェコは数少ない現存するウランガラスの生産国のひとつ。失われるには惜しい文化です。

若い世代の職人さんが復刻したウランガラスの香水瓶。
100年前の香水瓶そのままの形だそうです。
ウランガラスは、かつてヨーロッパやアメリカで広く作られていましたが、今は素材であるウランが入手しにくくなったため、ほとんど生産されていません。
そのなかでチェコは数少ない現存するウランガラスの生産国のひとつ。失われるには惜しい文化です。

「チェコで40代ぐらいの世代は、共産主義時代の一番大変だったころが子供時代なので、あまり覚えていないんですよ。そういう人たちが大人になって昔のものを見ると、単純におしゃれだなと思うらしいんです」

日本でも、昭和レトロや平成レトロが若い世代でかわいいと思われる動きがあります。国が違っても、考えることは同じようです。

「共産主義時代のことは全部忘れよう、というわけではなくて、良かったところは認めていこうという考えなのだと思います。そういう活動をしている人がチェコで少しずつ増えているんです。ボヘミアガラスも、そういう若い人たちが新しいやり方で、次の時代を担っていってくれるかもしれません。そうなったら、チェコ好きとしては嬉しいですね」


ーおわりー

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CEDOKzakkastore

CEDOKzakkastore チェドックザッカストアは 東京、浅草にあるチェコのガラス製品などの美術工芸品やチェコの家具、チェコの絵本、絵画、リトグラフなどを扱うショップ&ギャラリーです。 1Fと3Fのギャラリーでは様々なイベントを展示・企画しています

チェドックザッカストア店長谷岡 剛史さんがお届けするチェコ・デザインの今!

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公開日:2022年2月3日

更新日:2022年2月16日

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