トルコのガラスとトルコの伝統文化

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文/金山 靖
撮影/米玉利朋子

地理的に、アジアとヨーロッパの文明どちらも入ってきやすいことから、東西文明の十字路と言われるトルコ。前回は、トルコのガラス産業について、ガラスカップに焦点を当て、トルコ人のお茶の文化とともにご紹介しました。

今回はトルコの代表的なガラス産業のひとつトルコランプをはじめ、日本ではあまり知られていないトルコの伝統文化についてご紹介します。今回も、トルコ雑貨専門店「セヴィンチエイト」の小坂さんとブルジュさんに教えていただきました!

精緻なモザイク柄が幻想的な光を生み出すトルコランプ

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トルコのガラス製品で有名なものといえば、トルコランプ。トルコに詳しくない人でも、トルコランプだけは知っているという人は多いのではないでしょうか。トルコランプはモザイクランプとも言われており、ランプシェードが細かいモザイクになっているのが特徴です。トルコランプのルーツはオスマン帝国時代にさかのぼり、電灯が普及する前に使われていた様々な照明ツールの中のひとつである石油ランプが、今のトルコランプの原型と言われています。

形状、デザイン、ひとつひとつに意味があるトルコランプ

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トルコランプの形状について、小坂さんが説明してくれました。

「トルコランプの原型である石油ランプは、中で火を灯していました。風で火が消えないように丸い形状になったと言われています。この形状にはもうひとつメリットがあるんです。丸みのあるシェードを通した光は、ぼやっとした柔らかい感じになるんです。その光はタイルや絨毯などに反射して、幻想的な雰囲気を生み出します」

モザイクアート自体の歴史は大変古く、それがローマ帝国時代にヨーロッパや地中海一帯に広まったようです。イスタンブールも東ローマ帝国の支配下にあったため、モザイクアートの文化はトルコでも古くからありました。時は流れ、オスマン帝国時代に皇帝の宮殿を飾るためなどの理由から、石油ランプとモザイクアートが組み合わさり、現在のトルコランプになったようです。

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モザイクのデザインにも意味があることを、小坂さんが教えてくれました。

「星や月のデザインが多いですね。イスラム文化からきているのですが、幸せが訪れるなどの意味があるんです。トルコの国旗にも星と月は使われていますよね。星の形にもいろいろ意味があって、角が6個ある星は六芒星といって預言者ソロモンの印章の意味があります。四角と四角を組み合わせた八角形の星は物質世界と精神世界を表しています。つまり現世と来世ですね」

一見、神秘的な印象を与えるモザイクのデザインのなかには、幸せを願うトルコ人の思いがこめられているのです。

日用品として使われるトルコの香水瓶

トルコでもガラス製の香水瓶は作られています。エジプトの香水瓶は土産物として作られていますが、トルコでは現地の女性が家に置いて、香水を入れたりインテリアとして飾ったりしているそう。エジプトの華美な香水瓶と比べると、シンプルで実利的なデザインに見えるのは、普段の生活で使われる日用品だからかもしれません。

「トルコでは、香水瓶はお土産物屋さんではあまり見かけないですね。こういった香水瓶はあまり大きくない工房で作られていて、日用品や雑貨みたいな感じでお店に並んでいます。トルコの女性はおしゃれなので、こういうきれいなものが好きな人は多いと思いますよ」と小坂さん。ブルジュさんがさらに詳しく教えてくれました。

「イスタンブールとか、大きな街では、路上に小さいお店があって、そこで香水瓶とか、ガラス製品を作っているおじさんが結構います。でも、この人たちは観光客相手に作っているんだろうと思います」

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日用品として使われるトルコの香水瓶はシンプルなデザインで、安定感があり香水溜まりも大きめ。トップの部分は余計な装飾がなく持ちやすい感じ。全体的に使い勝手がいいように作られているのがわかります。とはいえ、インテリアにしても十分映えるデザインはギフトにもピッタリ。香水瓶は、イスタンブールの有名な市場、グランドバザールでも売られていますが、もしトルコでこんなきれいな香水瓶を見かけたら、きっと手にとってしまいますね。

トルコの伝統的な手芸文化

トルコ人の特徴について、「トルコ人は手先が器用な人が多く、女性は家で手芸をしていたりします」とブルジュさん。その言葉通り、トルコには細かい手芸製品が多いようです。代表的なのがキリム。毛足のない平織りの織物のことで、羊や山羊などを連れいてた遊牧民の女性たちが身近なウールやコットンを使って織り上げたのがルーツ。

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キリムはカーペットより薄手で持ち運びしやすく、いろんなことに使いやすいのが特徴です。このデザインにも意味があると小坂さんは話します。

「植物的な幾何学模様はイスラム教の文化からきています。イスラム文化は、いろんなことを幾何学模様で表現していて、『家を守ってもらえますように』とか、それぞれに意味がこめられているんです」

キリムは平織りなので絨毯やラグとして使われることが多く、トルコでは世代を超えて使用されます。長年使って傷みが出てきたキリムは新しいものに取り替えられますが、その際、古いキリムの傷んだ部分をカットしたり縫って補修したりして、きれいな部分だけを縫合し、キリムクッションカバーとして再利用されることがあります。手先が器用なトルコ人ならではですね。

鮮やかな植物紋様が施されたものは他にもあります。トルコのシルク産地ブルサの肌触りの良いシルク製のスカーフ。トルコの国花、チューリップが全体にデザインされた色鮮やかな1枚。イスラム文化独特の植物モチーフは、日本人には新鮮に映りますね。形状に見覚えのあるハンドバッグも、イスラムの装飾がほどこされると、グッと異国情緒が漂います。

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こういったトルコの小物は、意外な人たちが買っていくそうです。

「着物を着る人が、トルコのバッグや小物を着物に合わせる用に買っていきます。普通のデザインのバッグやスカーフより合わせやすいみたいです。日本の着物も自然がデザインされていることが多いですし、イスラムの植物モチーフのデザインは、日本に通じるものがあるのかもしれません」

実はトルコで一番有名なガラス製品、ナザールボンジュウ


店内をめぐるうち、珍しいものを発見しました。「ナザールボンジュウという、トルコのお守りです」とブルジュさん。小坂さんは「もしかしたら、これがトルコのガラス製品で一番有名かもしれません」と話します。ブルジュさんが詳しく教えてくれました。

「魔除けのご利益があるお守りです。トルコでは、ほとんどの家にこれが飾られていますね。小さいものはキーホルダーにしたりして身につけたりもします。中心の丸は悪いものを見る目です。災害や事故から守るというよりは、人の悪意から守ってくれるという感じです。赤ちゃんが生まれると、ナザールボンジュウをつけたりしますし、新しく店がオープンしたときも、ナザールボンジュウを飾りますね」

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ナザールボンジュウはガラス製。割れてしまうのでは? と不安になりますが、それにもちゃんと意味があるのです。

「ナザールボンジュウが割れたときは、誰かの悪意の身代わりになってくれたときと言われています。だから、トルコ人は、ナザールボンジュウが割れても不吉には思いません。割れてもいいものなんだよと考えているんです」

日本のお守りは汚れたり傷ついたりするとよくないようなイメージがありますが、トルコでは、お守りが割れたら、それで悪いことを避けられたとポジティブに考えるわけです。価値観の違いも面白いですね。

ナザールボンジュウは色々なところに使われています。キリムにナザールを描いたり、ナザール模様のトルコランプがあったりするのを見ると、ナザールボンジュウがいかにトルコ人の生活に浸透しているかが伺えます。

(ナザールボンジュウ柄のトルコランプ)

(ナザールボンジュウ柄のトルコランプ)

ここまでトルコ文化について詳しくお話を聞くうちに、小坂さんがトルコ雑貨専門店を始めたきっかけに興味が湧いてきました。最後に、トルコに興味を持ったきっかけを伺いました。

「最初のきっかけはトルコ旅行でした。もともとは会社勤めをしていたのですが、そのときに有給休暇を使って、世界一周の旅に出たんです。そのとき、トルコに初めて行きました。ずっと行ってみたいと思っていたんですが、トルコは他に行った国と全然違いましたね。雰囲気やいろんなものの色使いが独特で、すごく素敵だと思ったんです。当時は、まさか、お仕事になるとは思いませんでしたが、色んなご縁に恵まれ、お客様にも支持して頂き、お陰様で10周年を迎えられるまでになりました。これからもトルコの素晴らしさを伝えられたらと思います」

異文化を知り、生活に取り入れる楽しさ

普段、接点がない国の特産品に触れるのは楽しいもの。海外旅行でお土産を選ぶ感覚に似ています。そこでもう一歩踏み込んで、どうしてこのアイテムが誕生したのか、どうしてこんなデザインなのかを知ると、その国の文化や価値観に触れられて、より一層愛着が湧くはずです。今回ご紹介したトルコのガラス製品や伝統的な特産品で気になったものを見つけたら、その成り立ちと歴史に思いを馳せてみてください。そうすれば、トルコがより好きになりますよ。

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公開日:2022年6月16日

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