たくさんのファンを虜にするアンティーク『ガラス瓶』
海福雑貨では香水瓶など人気ですが、ガラス雑貨愛好家でコレクションもしている店主の遠藤さんがさらに熱を上げているのが、ガラス瓶だそう。カラフルなガラス瓶が並び華やかな雰囲気だった1階とは異なり、2階の分室には古い宝物蔵のような神秘的空間に、たくさんの古いガラス瓶が並べられています。
「2階は僕の趣味嗜好がより反映されたものが揃っています。ここに置いているものはいくらでも語れますよ(笑)」と遠藤さん。
熱狂的なファンが大人買いしていくガラス瓶の魅力を知る
窓際に、ひときわ大きくスペースをとられているガラス瓶。
「ガラス瓶はボトルディギングといってガラススポットで掘ることが好きな人もいれば、骨董市で購入して集めることが好きな方もいて面白い世界です。
ガラス瓶は人気が高いので、うちでもたくさん置いています。多いときは棚一面ガラス瓶になることもあります。それをコレクターの方が一気に買っていかれたりするんです。ガラス瓶って、一つひとつ歴史があるんですよ。文字がエンボスされていたりラベルが残っていたりすると、当時どんな風に使われているか想像できて、いつまでも見ていられるんです。単純に色や形がきれいなものもあり、飾り甲斐があるのもいいですよね」
経年変化を楽しむガラス
紫色の瓶はデザートグラス。もとは透明だった瓶が、経年変化で紫色に変色したそう。
「約100年前に作られた瓶が、長い時間紫外線にさらされると、この色になるんです。ひとつひとつ色合いが違うので、どんな変遷を経てこうなったか、想像するだけでも楽しいですよね。デザートグラスはアメリカの蚤の市やアンティークショップでよく売られているほど人気です」
経年変化でさまざまな色に変色したガラス瓶。並べると壮観。
デザートグラスとは
19世紀後半から20世紀初頭、主にアメリカで作られたアンティークガラス瓶が、70~80年の時を経て、変色したもの。ガラスに配合された酸化マンガンが長期間紫外線にさらされ、紫色に変色する。日本でもファンが多く、状態がいいものは高価で取引されることもある。
当時の様子を想像して楽しむガラス
デザートグラスだけでなく、ガラス瓶には歴史やストーリーを感じさせるのが特徴です。もともとは製品として生活や仕事の中で使われてきたものなので、瓶から当時の様子が浮き彫りになってきます。ビンテージ品やアンティーク品であれば、時代感がより深く浮き上がるのも面白いところ。
遠藤さんの解説とともに、ひとつずつ見せてもらいました。
「1900年代初頭、アメリカ製の薬瓶です。薬瓶は文字がエンボスされていることが多く、デザインが面白いですね。お客様にも人気です。深い青がかわいいですよね」
この瓶はアメリカの製薬会社が製造していた鎮痛剤ブロモセルツァーの瓶だったようです。ブロモセルツァーは、主に胸焼けや胃のむかつきを和らげるために使われていたそう。こんなガラス瓶の中に薬が入っていたなんて今では想像がつきません。
「こういう瓶は、窓際において青い光の影を部屋に作るときれいですよ。デザートグラスと並べるとより美しくなるので、デザートグラスと一緒に買っていく人もいます」
「養蚕業の人が、蚕を育てるために使っていたガラス瓶です。水を入れて桑の枝をキャップの穴から刺し、桑の葉が枯れないようにして、蚕に与えていたそうです。エンボスに桑の字が見えますよね。国産の瓶は、日本の歴史を思い出しながら鑑賞できるので、海外の瓶とは違う楽しさがあります」
昭和初期、養蚕業界では生き生きとした桑の葉を蚕に与えたほうが良い糸が出るという考え方があったそう。そこで、茎を水に浸し、枯れにくくした桑の葉をつくるため、この瓶が作られたようです。「育蚕條桑水揚器」が正式名称のようです。養蚕業といえば、世界遺産・旧富岡製糸場が有名ですが、もしかしたら、富岡製糸場でもこの瓶が使われていたかもしれないと思うと、ちょっと親近感が生まれますね。
「1910年代、アメリカ製の香水瓶です。当時人気だったフランス人デザイナー、ルネ・ラリックがデザインし、コティ社で販売されていました。今の香水ボトルと似ていて、重厚感があります。どっしりとした瓶もインテリアとして目立つので、人気です」
コティ社はパリで創業し、世界最大の香水会社として現存しています。
「植物っぽい装飾が描かれていて、下にエンボスの文字も見えるし、何が描かれているか考えていくと、この香水瓶が使われていた時代にタイムスリップしたような気持ちになれるんです」
ルネ・ラリックはアール・ヌーボー、アール・デコの芸術家としても知られた存在。ミュシャなどが活躍したアール・ヌーボーや、ニューヨークのエンパイア・ステート・ビルディングに代表されるアール・デコ。この時代は、一般人が使う香水瓶さえ、装飾にあふれた時代だったのです。
「アンティークの赤ちゃん用に使われていたガラス瓶。NOV30THとエンボス文字が読めます。11月30日に記念したものなのかもしれません」
「19世紀につくられたインク瓶。おそらくイギリス製だと思います。ところどころ気泡が入っていて、この手作り感に味があるんです。スクエアなのでインテリアとして飾りやすいですし、一輪挿しに使っても面白いと思います。100年以上前に作られたものなのに、今も使える実用性がすごいですよね。変わった瓶を見つけたとき、何に使えるかな? と考えるのも楽しいんです」
当時はインクにペン先を付けて使う、付けペンが一般的で、事務用品としても使われていました。一般家庭の書斎から会社の事務所まで、多くの人が様々な場所でこのようなインク瓶を使っていたそう。19世紀を生きたフランスの詩人ボードレールやイギリスの文豪ディケンズも、同じようなインク瓶を使っていたのでしょうか。
ストーリーを語るガラス瓶を生活に取り入れる
遠藤さんのお店には他にも古いガラス瓶が並ぶ。その一つひとつに歴史が刻まれている。
生活や仕事の道具として作られた古いガラス瓶には、インテリアとして作られたガラス瓶とはまた異なる魅力があります。
日々使われ、長い年月を経たからこその変色や傷、汚れもその瓶の個性なのです。
「ライトを照らしたり日の当たるところに飾ったりするときは何本か並べたほうが楽しいですけど、気に入った瓶を1個だけ、玄関や机の上に飾ってもアクセントになりますよ。部屋にいてふとガラス瓶が目に入るたびに、その歴史やストーリーが思い出されるんです」と遠藤さんはガラス瓶の楽しみ方を話します。
自分以外の歴史を追体験するような力が、古いガラス瓶にはあるのかもしれません。
ーおわりー
海福雑貨
海福雑貨は、神奈川県相模原市にある小さなお店。2007年5月、東林間の住宅街に開店しました。
置いているのは、輸入雑貨・アンティーク小物、アクセサリー、ものづくりに携わる様々なジャンルの作家さん達の作品で、その多くは一点もの。
異国の情景・時代を経てやってきたモノたちのロマンの集積、手仕事のぬくもり、そこに込められた暖かい気持ちが自然と伝わってくるお店です。
同じ建物の2Fには「海福雑貨分室」も併設。古いアパートを少しずつ侵食しながら、お店が拡がっています。
公式HPではさまざまな雑貨をオンラインで購入することも可能です。
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