心を掴む魔法の瓶を求めて〜エジプトガラスが織りなす香水瓶の世界〜

心を掴む魔法の瓶を求めて〜エジプトガラスが織りなす香水瓶の世界〜_image

取材・文/金山 靖
撮影/米玉利 朋子(G.P.FLAG)

近年人気が出てきているという「エジプト香水瓶」をご存知でしょうか? 以前、たまたま町の雑貨屋さんで見かけましたが、一目で独特な世界に引き込む香水瓶の美しさは、どこか魔力を持っているようにすら感じました。香水瓶とは一体なんだろう、なにが人を惹きつけるのだろう。普段目にする機会が少ないエジプト香水瓶の世界を知るべく、海福雑貨のオーナー遠藤さんに香水瓶の由来や楽しみ方など魅力をたっぷり教えていただきました。

アパートを改造した店内に、アンティーク・ヴィンテージ雑貨がズラリ

相模原の住宅街にひっそりと佇む海福雑貨は、国内外から集めたアンティーク・ヴィンテージなどの販売をするお店。
ひとたび店内に足を踏み入れると、アンティークのガラス製品やヴィンテージのカップ&ソーサー、ペンダントなどアクセサリーがズラリ。窓際に飾られたガラス製品が木漏れ日に照らされているのも、幻想的な雰囲気で非日常感が漂います。

アパートの一部をリフォームした店舗は、レトロ感満載。店舗横の階段を上がった先には、1階よりさらにディープな海福雑貨分室もあります。

アパートの一部をリフォームした店舗は、レトロ感満載。店舗横の階段を上がった先には、1階よりさらにディープな海福雑貨分室もあります。

店内は、レトロなアパートの雰囲気を残す内装と相まって、掘り出し物が眠っていそうな古い宝物蔵を思い起こさせます。インテリア雑貨、輸入玩具、ステーショナリーなどが一面に並び、まるできらびやかな宝物に囲まれているよう。
雑貨ファンの好奇心をくすぐる品揃えは、店主の遠藤さんの好みが反映されているそうです。
そんな海福雑貨で、広くスペースをとられているのが、エジプト香水瓶です。

まるで魔法使いの道具よう 世界にひとつだけのエジプト香水瓶

海福雑貨には、倉庫にあるものも含め、約4,000個のエジプト香水瓶が揃います。
「人気が高いというのもありますが、僕自身、エジプト香水瓶が好きなんです。たくさん並んでいたら壮観じゃないですか」と遠藤さん。

海福雑貨には、倉庫にあるものも含め、約4,000個のエジプト香水瓶が揃います。
「人気が高いというのもありますが、僕自身、エジプト香水瓶が好きなんです。たくさん並んでいたら壮観じゃないですか」と遠藤さん。

エジプトの伝統工芸品として、エジプト土産の定番のひとつとなっているエジプト香水瓶。繊細さと妖艶さが共存したデザインは、近年の日本でも人気が高まっており、大手雑貨店でも取り扱いを開始しています。
元々は香水を入れて使うものですが、「現代のエジプト香水瓶は、ほぼインテリアとして使われています」と、遠藤さんは話します。
「窓際に2、3本並べて置いておくと日光に照らされて、幻想的な色合いになるんですね。香水瓶を通した光が部屋に入り、素敵な空間が演出できるんです。そんな非日常感ある雰囲気が、僕は好きなんです」
ファンタジーな部屋をつくりたい人が、魔法使いの道具のような雰囲気に一目惚れして買っていくこともあるそう。
「買っていく方の中には、香水瓶に特別な砂を入れたり、一輪挿しにしたりして使っているという声も聞きます。そんな使い方があるんだと驚きました。持っている人の数だけ使い方がある自由さもエジプト香水瓶の魅力ですね。
また、この香水瓶は、エジプトで職人が1つ1つハンドメイドで吹いて作っていて、同じデザインでも微妙に高さや太さが異なります。気になって手にしたものは世界に1つだけのデザイン。そう考えると、より愛着が湧きますよね」

MuuseoSquareイメージ

MuuseoSquareイメージ

エジプト香水瓶は、イスラム建築のモスクを思わせる、丸みのあるデザインが主流。
アトマイザーのように噴霧する機能はなく、棒状になっている上部のキャップをはずし、キャップについている香水を手にとって体につけるのが本来の使い方。
また、キャップをわざとずらして、香水の香りを漂わせ、アロマのようにフレグランスを楽しむ使い方もできます。

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エジプトのガラスについて

エジプトのガラスは香水瓶だけではなく、風鈴のように壁に吊るすガラスなども存在します。
伝統工芸であるエジプトのガラスについて遠藤さんに伺いました。
「エジプトはメソポタミアと並び、ガラス工芸発祥の地といわれており、後のローマ帝国など周辺の国に影響を及ぼしています。その技術が現代まで残り、エジプトをはじめシリアやモロッコなど地中海沿岸の国々では、今もガラス工芸品がお土産のスタンダードとして販売されています。
なかでも香水瓶が人気なのは、デザインもさることながら、メインの観光客である西欧諸国の人たちに香水をつける文化があることと、香水瓶が比較的小さめで持ち運びやすかったからのようです」

海福雑貨のエジプト香水瓶コレクション

店内の一角には、遠藤さんがエジプトから取り寄せた香水瓶が並び、その迫力に思わず圧倒されます。その中から、エジプト香水瓶の代表的なデザインや、遠藤さんお気に入りの香水瓶をいくつか紹介していただきました。
高さもフォルムも装飾もまったく異なりますが、色合いの鮮やかさや装飾の細かさ、キャップの意匠など、共通点もあり、見れば見るほどひきこまれます。

魔法使いのような雰囲気のスラリとした香水瓶

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「高さがあり、見栄えがするタイプ。装飾はシンプルですけど、棚の上やちょっと空いたスペースに置くだけで、存在感を発揮するんです」と遠藤さん。
装飾を抑え、その代わり全体に色を付けることでファンタジーな印象に仕上がっています。
「丸みがありながらスラリとしたフォルムは、中東のイスラム建築のように見えますよね。エジプトもイスラム文化圏なので、似たようなデザインが生まれるんです」
1本の香水瓶からも、その国の文化や嗜好性がわかる。香水瓶は実に奥深い。
「1個だけ置いても様になりますが、数本並べると魔法使いの部屋のような雰囲気になるんです。そんな部屋を作りたいと買っていった方もいました」

金箔の網目模様が流麗で印象的

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高さはそれほどありませんが、カラフルな色使いと網目状のデザインが異国情緒を感じさせるタイプ。
「金色の網目模様が目を引きますよね。この模様は、金彩という技法で装飾されています。網目の大きさがひとつひとつ異なるところに職人の手仕事が伺えて味わい深いですよね」
遠藤さんはこの網目模様の香水瓶がお気に入りの様子。ボトムにかけて広がりを持たせた優雅なタイプと、ボトムにいくにつれてスリムになっていき、シャープさを強調するタイプと、フォルムの違いで印象が大きく変わるのもユニーク。

金彩部分は、糸状に細くしたガラスを本体に網目状にはりつけ、その上から金箔で装飾をして作られています。網目の模様が不揃いなところが、どこか温かみがある印象。遠藤さんが気に入っていた理由がわかります。

金彩部分は、糸状に細くしたガラスを本体に網目状にはりつけ、その上から金箔で装飾をして作られています。網目の模様が不揃いなところが、どこか温かみがある印象。遠藤さんが気に入っていた理由がわかります。

繊細なフォルムが目をひく香水瓶

MuuseoSquareイメージ

コンパクトで、現代の香水ボトルに近いサイズ。
「下のふわっとした感じが印象的ですよね。ここはフレーク状のガラスを装飾して、植物のような繊細なフォルムを表現しているんです。植物をデザインすることが多いのもイスラム文化の特徴のひとつなので、どこかオリエンタルな雰囲気があって面白いですよね」
場所をとらないので何本も並べて華やかな雰囲気を演出できそうです。プレゼントに購入していく人も多いとか。

フレーク状に吹き付けられたガラスは、光が乱反射するため、光をあてると神秘的な美しさに。
「窓際に何本も飾ると、簡単におしゃれ空間になりますよ。インテリアに凝る人は、照明と組み合わせて飾っているそうです。こういうものを見ると、インテリア心をくすぐられますよね。つい、どうやって飾ろうかと考えてしまいます(笑)」。

フレーク状に吹き付けられたガラスは、光が乱反射するため、光をあてると神秘的な美しさに。
「窓際に何本も飾ると、簡単におしゃれ空間になりますよ。インテリアに凝る人は、照明と組み合わせて飾っているそうです。こういうものを見ると、インテリア心をくすぐられますよね。つい、どうやって飾ろうかと考えてしまいます(笑)」。

化粧道具という枠を超えた香水瓶の楽しみ

香水瓶に香水を入れる際、上部のキャップ部分を取り外して、香水を注ぎます。香水をつけるときはキャップの先についた香水を手に取るのが、香水瓶の本来の使い方。
「このキャップ部分にこだわっているのがエジプト香水瓶の特長のひとつです」と遠藤さんが教えてくれました。
「キャップ部分は動物や植物など、様々なモチーフが使われています。ハンドメイドなのでひとつとして同じものがなく、日本人にはよくわからないデザインも多いです(笑)。香水瓶のデザインに合わせて作られているキャップもありますが、ミニサイズの香水瓶やシンプルなデザインの香水瓶では、キャップデザインの自由度が高く、たまに面白い造形が見つかることがあるんです。そんなキャップに出会ったときは嬉しくなります」

さまざまなキャップの香水瓶。左から2つ目はスマイルマークのようにも見える。

さまざまなキャップの香水瓶。左から2つ目はスマイルマークのようにも見える。

「キャップのデザインから、モチーフを想像するのも楽しいんです。人間の顔かな? 実は動物の顔かも? と考えているだけで時間がたってしまうんですよ。オブジェのように抽象的なものもあるのですが、角度によって動物に見えたりするときがあるんです」
自分だけのアングルを見つける面白さもありそう。確かに、いつまでも見ていられます。
歴史ある化粧道具という枠を超えて、今や部屋を美しく彩るインテリアとして愛されているエジプト香水瓶。「お店で初めて香水瓶の存在を知り、その美しさに惹かれて買っていく人も多いです」と遠藤さんは話します。見た人を一瞬でトリコにしてしまうエジプト香水瓶があれば、部屋で過ごす時間がいつもよりちょっと豊かになりそう。


ーおわりー

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海福雑貨

海福雑貨は、神奈川県相模原市にある小さなお店。2007年5月、東林間の住宅街に開店しました。
置いているのは、輸入雑貨・アンティーク小物、アクセサリー、ものづくりに携わる様々なジャンルの作家さん達の作品で、その多くは一点もの。
異国の情景・時代を経てやってきたモノたちのロマンの集積、手仕事のぬくもり、そこに込められた暖かい気持ちが自然と伝わってくるお店です。
同じ建物の2Fには「海福雑貨分室」も併設。古いアパートを少しずつ侵食しながら、お店が拡がっています。
公式HPではさまざまな雑貨をオンラインで購入することも可能です。

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公開日:2021年9月3日

更新日:2021年9月8日

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