ポーリッシュポタリーをはじめとする中欧・東欧の雑貨を集め続けて分かったこと

文/ 井本貴明
写真 / 山川譲

日本では、北欧雑貨が人気だ。では、中欧・東欧の雑貨と聞いて思い浮かぶものがあるだろうか?あまりイメージが湧かないのが正直なところ。今回はポーリッシュポタリーをはじめとする中欧・東欧のグッズを集めている橋下さんに魅力について聞いてみた。

コレクション・ダイバー【Collection Diver】とは、広大なモノ世界(ワールド)の奥深くに潜っていき、独自の愛をもってモノを採集する人間(ヒト)を指す。この連載は、モノに魅せられたダイバーたちをピックアップし、彼ら独自の味わいそして楽しみ方を語ってもらう。

「私は、ここに呼ばれていた」ハンガリーで感じた不思議な感覚

中欧は「中欧ヨーロッパ」、東欧「東ヨーロッパ」といわれるが、実は厳密な定義がない。便宜的に使われており、ざっくり言うとドイツより東側、ロシアより西側を指す。日本人にとって知名度が高い国だとルーマニア、チェコ、オーストリアなどがある。2016年1月からは、成田ーワルシャワ(ポーランド首都)への直行便が予定されている。

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中欧・東欧グッズを集めている橋本さんが初めて訪れたのは、社会人になった後のことである。長期休暇を使って、まずはフランスやイタリア、ドイツを訪れ、次第にオーストリア、チェコと東に向かっていくことになり、ハンガリーに訪れた時に「私はここに呼ばれていた」という不思議な感覚を体験したと振り返る。

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「観光客やお客さんとして来た感じじゃなく、もともと住んでいたような居心地の良さを感じたんです。その後、ルーマニアに行って、中欧・東欧の魅力にハマってしまいました。スペインやフランスなど光の当たるきらびやかな国と違う、スポットの当たらない静かな魅力に惹かれました」

「中欧・東欧は洗練されて“いない”んです。ぽってり野暮ったかったり、褪せたような色合いだったり、隙みたいなものがある。輝いていないんですよ(笑)。そこに強く惹かれましたね」

それ以降、毎年のように、長期休暇を利用して中欧・東欧の国を訪れるようになった。

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ザリピエ村で味わった思い出を、コレクションで記録する

中欧・東欧の国を訪れるうちに、その国々の食器、布、お菓子、人形などを集めるように。橋本さんにとってコレクションを集めることは、「記録」をすることでもあった。集めてきたコレクションを見ると、その土地の思い出が蘇ってくると言う。

「ポーランドのザリピエ村で買ったお皿は思い出深いです。ザリピエ村には、カラフルなペイントがしてある30軒ほどの家が集まっています。テレビで見かけて『行ってみたい!』と思ったんですけど、観光地じゃないんです」

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ポーランドのザリピエ村で購入したお皿。カラフルな色づかいが特徴的。

「ザリピエ村までは最寄り駅まで二時間。最寄り駅からはタクシーで一時間かけて行きました。英語は通じず身振り手振りで何とかたどり着きました。困った私をみかねて、タクシーのドライバーが村の人に『日本人が来たから案内してあげてよ』って頼んでくれました。お皿を見ると、ザリピエ村に行ったその時の苦労したことや、村の人の優しさをを思い出すんです」

橋本さんだけの記憶を閉じ込めたお皿は、単なるコレクション以上の価値があり、それぞれのアイテムと橋本さんの絆を感じさせる。

欲しいモノを求めて旅行先を決めることもある

橋本さんは、読んでいた雑誌で、ポーランドで有名な陶器「ポーリッシュポタリー」を見かけた。そして、どうしても欲しくなり、休暇を利用してポーランドまで足を運んだ。

ポーリッシュポタリーとは

ポーランドのボレスワヴィエツ周辺で製造されている陶器。同じ地域ででた陶土を使用し、一点一点スタンプで絵付けをされているのが特徴的。美しい絵柄によって、食卓が華やいで見える。複数の窯元によって製造されており、もっとも歴史がある窯元は「ザクワディ・ツェラミチネ・ボレスワヴィエツ」。花瓶やボウル、プレートやマグカップなどさまざまな生活用品が作られている。

そして、橋本さんは休暇を利用してポーランドを訪れた。街から外れた工場へ行ったのだが、工場内の見学は不可能だと言われる。しかし、工場内をどうしても見たくて、工場の人と交渉をした後に見学を許されたのである。
そうやって苦労して手に入れたコレクションは、さらなる愛着が加わるのだろう。

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この柄は伝統的なクジャクの目。ひとつひとつおばちゃんがスタンプで絵柄をつけていくので、ふたつと同じものが存在しない。

余談ではあるが、中欧・東欧というと、どうしても内戦などの暗いイメージを持っている人も多いと思う。しかし、橋本さんが実際に見てきた経験からは、徐々に良い方向に向かっているという印象を持ったという。

「2006年にクロアチアのアドリア海の真珠と言われるドゥブロヴニクに行ったときは、ロープウェーが戦争で破壊されたままでした。でも、いまはもう傷跡はありません。どんどん環境や治安は少しづつ良くなっているんです」

「どこか地味で素朴、不器用で親しみやすさがある」B級の魅力を感じる中欧・東欧

橋本さんが、中欧・東欧の中で一番好きな国を訪ねてみた。

「ルーマニアが特に好きです。日本だとドラキュラ伯爵や新体操のコマネチ選手で有名ですよね。それ以外はあまり知られていない、レアな魅力を持っています (笑)。実は木材を扱うのがうまい国なんです。ルーマニアのマラムレシュの木造教会群は世界遺産に登録されていて、世界的にも有名です」

「あと『陽気なお墓』の話を聞いたことがありませんか? 墓標に生前どんな人物だったのか、どのような仕事をしていた人なのかが詩と絵でわかるようになっているんです。墓標は日本の墓石とはまるで違っていて、白い鳩や花なども描かれカラフルなんです。生前女遊びが激しい人とか怠け者だった人は黒い鳩が描かれてしまうというユニークさを取り入れるなど、生と死が近く、死者にも親しみを抱いていることが墓標を見るだけで伝わってきますよ」

「日本はもちろん、ヨーロッパの洗練された国とも違う雰囲気、感性に強く惹きつけられたんだと思います。どこか褪せた色を好む東欧の中でも、ルーマニアの色遣いは派手です。でも、どこか色彩感覚が日本や西欧とも違うんです」

中央の女性が微笑んでいるお菓子のパッケージ。橋本さんは「隙のありすぎるイラストに引き寄せられた」と語る。

中央の女性が微笑んでいるお菓子のパッケージ。橋本さんは「隙のありすぎるイラストに引き寄せられた」と語る。

「もともと、私は学生時代から少し天邪鬼だったかもしれません(笑)。映画もいわゆるハリウッド作品やヒット作、メジャー作ではなく、B級と呼ばれる映画が好きでした。東欧はまさにB級の魅力があるんです。お菓子のパッケージに描かれている女の子も一般的な『かわいい!』じゃない。どこか地味で素朴、不器用で親しみやすさがあるんです」


ルーマニアの魅力を「B級の魅力」と表現していることに強い印象を受けた。世の中にはB級を好む人が一定層いる。そう言う私も、B級グルメが好きだ。そして、映画監督タランティーノが作るB級映画も好きである。私にとってB級とは褒め言葉であり、緊張をせずに自然体で接することができる魅力があると感じている。

イタリア、フランスなどの完成された観光地に飽きたのなら、中欧・東欧がおすすめだ。

ーおわりー

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ハンガリー、ポーランド、チェコ、各国の陶器の特徴や可愛らしさを紹介。
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中でもポーランドの伝統工芸(ポーリッシュポタリー)は、スタンプで模様を付けた手づくり陶器で、若い女性に人気を集めています。
陶器の種類も、皿やリンゴポットだけでなく鍋などもあり、日本に入ってきていない現地の器も紹介します。
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ポーランドの器の魅力と使いこなしがわかる本

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ポーランドの大人かわいい器で“幸せ暮らし”

ポーランド食器を使いこなす鳴川さんの食回りのライフスタイルを紹介。日本の暮らし、季節に合った食卓および料理(レシピあり)、暮らしのこと。現地の家庭訪問(2軒)の取材日記、製造元紹介も。

公開日:2016年1月1日

更新日:2022年1月5日

Contributor Profile

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井本 貴明

いろいろなWebサービス作っています。 浦和レッズ、ヨーロッパサッカー中心の生活。 何か面白い企画があったら、ぜひ仲間に入れてください! 好きな映画は、「LOST IN TRANSLATION」。

終わりに

井本 貴明_image

今回の取材は橋本さんのご自宅で撮影。記事内では紹介できていないグッズが部屋中にありました。驚いたことに、橋本さんが20代の頃はモノを溜め込む性格ではなかったのです。中欧・東欧に行きはじめてから、モノを集めるようになったそうです。実際にはモノだけでなく、旅行に行った時の写真、地図、切符などを綺麗にスクラップしていました。後で見返した時に、旅の思い出が蘇ってくるのはいいですね。僕は旅行に行ったら、現地で使った地図や切符を直ぐに捨ててしまうので、次回からはスクラップしようと思います!

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