卸は通さず、通販もしない江ノ島の古着屋「ACE GENERAL STORE」。大事にしていることは、「時代と感性、そして仲間」。

卸は通さず、通販もしない江ノ島の古着屋「ACE GENERAL STORE」。大事にしていることは、「時代と感性、そして仲間」。_image

取材・文/伊藤 太成 写真:佐々木孝憲

観光客で賑わう湘南・江ノ島。そのど真ん中に一風変わった古着屋がある。

平日でも沢山の人が訪れる商店街から1本道を入ると、日本離れしている建物が目に入る。非日常への一歩を踏み出すかのように扉を開けると、木が基調となった店内にはレコードが流れており、温かみを感じる電気が灯っている。

MuuseoSquareイメージ

「ACE GENERAL STORE」の店内にはリペイントが施された古着やデニムを中心に、陶器をはじめ雑貨なども並べられている。商品は卸を通さず、基本的にオーナーのYOTAさんが買い付けしたモノを販売しているそう。

お店ではコーヒーも提供している。ハンドドリップで一杯一杯いれてくれるコーヒー豆は、同じ湘南に店を構えるi don't know coffee roasterのものをセレクト。レコードも自分でチョイスするなど、店長のYOTAさんのセンスが随所で光っている。

驚きなのはYOTAさんがさまざまな価値観をミックスさせたこのお店を20代前半でオープンさせたことだろう。その美意識はいったいどこで培われたのだろうか?

祖父の代からの建物を受け継いでオープンさせたというACE GENERAL STORE。オーナーのYOTAさんにお話を伺った。

MuuseoSquareイメージ
MuuseoSquareイメージ

リメイクとは、洋服に新たなパワーを吹き込むこと

ーー コーヒー、ありがとうございます。

いえいえ。


ーー レコードがかかっていたり、天井が高かったりしてすごく落ち着きます。

最高にイケてて落ち着く友達の家にきたような雰囲気を味わってほしいと思ってます。

緊張しながらモノを買いに来るんじゃなくて、レコードでも1枚聞いて、コーヒーでも飲んで帰ってもらえたらなって。

他の店よりもちょっと見にくい部分があったりするけどね。ディグする楽しさを感じてもらえたらうれしいかな。置いてあるモノ一つ一つからパワーを感じられて、かつトータルで見た時に「うわ。仕上がってるなこの空間」って感じてほしいですね。

MuuseoSquareイメージ

ーー Instagramにもよくアップされていますが、ACE GENERAL STOREで販売されている古着にはシルクスクリーンプリントが施されていたり、刺繍されていたりと手を加えられているものが多いように感じます。特にミリタリー系のアイテムには必ず加工が施されているように見えました。

自分はミリタリーモノが好きなんです。圧倒的にタフだから。

やっぱり、人の命にかかわる洋服だから普通の洋服の何倍も手が込んで作られている。ポケットの位置とか実用的だし、ついてるボタンとか壊れないようになってるし。

でも、人間同士が殺し合うためにお互いタフな服を作っていたという背景には全く共感していません。だから、今後も背負っていけるPEACEなメッセージとかポジティブな考え方とかをそこに入れる必要がある。入れた方が恰好いいとかじゃなくて、入れないとダメだと思ってます。

MuuseoSquareイメージ

MuuseoSquareイメージ

YOTAさんが取材当日に着ていたミリタリーウェア。シルクスクリーンが施されている。

ーー リメイクする際のデザインのコンセプトと伝えたいメッセージはどうやって決めているのでしょうか。

うーん。それは毎回違うからなあ。昨日観た映画からインスピレーションをもらうこともあるし、先週見に行った誰かのライブかもしれない。

リメイクしていて面白いことはあります。バチバチにリメイクしたシャツを作るときに、少し過激なメッセージ込めたりすると服のパワーが強すぎて着れない人が出てくるんです。

逆に、ハマる人には「俺が普段考えてることが洋服になってる!」という出会いがおきる。無地のシャツだったら絶対そんなことおきないと思うんですよ。

MuuseoSquareイメージ

旅先なんかで拾ってきた昔の洋服とかに、絵具と筆を使って新しい要素を加える。そうすると、洋服に新しいパワーを吹き込むことができる。ゴミとして捨てられるしか道がなかったモノがなにかのシンボルになるかもしれない。

なにも資源を無駄にしてないし、リメイクすることは単純にいいことですよね。

ヴィンテージという名前の冠に踊らされるつもりはない

ーー お話を聞いていて、フラワームーブメントを思い出しました。取り扱う古着もその年代のモノが多いのでしょうか。

取り扱っている洋服は60〜70年代の洋服が多いんですけど、別にその年代に特別な憧れを持っているわけではないです。ヒッピーカルチャーだったり当時のロックカルチャーが好きだからというのもあるけど、単純に質がいいと思っています。

70年代後半80年代に入ってくると、(洋服)業界全体が大量生産に入っていくんです。ちなみに、40年代50年代になるといわゆる超ビンテージのような扱いになってきて、服の値段は跳ね上がってくる。

MuuseoSquareイメージ

(ニューヨークとカリフォルニア)両方住んでた経験から言うと、カリフォルニアにはアースカラーがベースになっている洋服が多いのに対し、ニューヨークに行くとビビッドでバチバチな色使いの洋服が多いんです。

土地毎にそれぞれのいい所と面白さがあるから何処が一番だなんて決して言えないし、現場で生まれてる色んなドラマとか色んなカルチャーは端的に表せない。

けど、痕跡は洋服とか建物に残るんですよ。もっともっと世界中巡って何十年とか経って、世界中のカルチャーにまつわるものが集まってる店になったらヤバイと思ってます。

今はまだ若いから、行ったことのある場所、よく把握できてる場所に通ってるだけです。最終地点だとは全く思ってません。

MuuseoSquareイメージ

自分たちがやってる音楽とか、好きな音楽をミックスしたテープとかも作ろうとしています。でも、テープを作っても再生する機器がなかったりする。

だから調子のいい新品のカセットデッキを仕入れてきて、仕入れてきたままの値段で売ろうかなと。合わせてテープを買ってくれたらうれしいですね。安く仕入れてきたものをそれなりの値段をつけて売って、お金を回収するビジネスの為に古着屋をやっているわけではないんです。

基本は自分や仲間が仕入れたものを売っている感じで、卸からの仕入れはほとんどやらないです。

2020年に入ってもまだ大量生産方式で服を作っているとしたら、洋服業界全体が大きな間違いを犯している

ーー なぜ仲間のモノを置くことにこだわるのでしょう。

まあ友人といえば友人なんだけど、単に仲がいいから置いてるわけではないです。顔も知らなくて、どういうふうに作ってるか知らないモノは置けないだけ。何かやってる仲間が自然と集まってきて、自分へのリスペクトを感じると、相手が作ったモノも凄くいいなと思えるものになるんです。

ACEにおいてあるレザー財布とかシルバージュエリーは日本一のクオリティーを誇っていると思います。ちゃんとしたものを一生大事にしてほしいと願いながら作ってる。逆に、(製作者の)想いが伝わってこないアイテムを人に提供することはできない。それだけです。

MuuseoSquareイメージ

ーー 仲間が自然と集まってくるんですね。

うーん。例えば大量生産への懸念とか、自分たちの世代っておそらくみんな同じことを考えているんですよ。「いま経済を回している人たちを信用できるのか?」とか、「スーパーで売ってる野菜は安全なのか?」とか、「1000円とかで売られてる洋服、一生大事にできるのか?」とか。

別に大量生産されたもの全てがダサいなんて思ってないですよ。家具で言ったらチャールズ・イームズみたいに大量生産をすることで、業界に革新をもたらしていることもあるし。アンディ・ウォーホルがシルクスクリーンでアートを大量生産して、バラまいたことによってポップカルチャーが生まれたこともありましたよね。



ただ、クオリティーの低いモノが多いとは思います。

大量生産品すべてを否定してるわけではないんだけれど、ちゃんと明確な理由をもって大量生産をしていないと、見返りが利益だけになってしまう。それって中身が詰まったクリエーションとは言えない。

もっというと、安い値段で服を提供できているシステムは、少なからず地球のどこかで誰かが過酷な環境で働いているから成り立っている。

それは無しだと思う。それなりのコストが発生したとしても、大切にしたいと思う人が一生使えるようなモノを作る必要があると思う。

50年前ぐらいだったら夢が広がった話かもしれないけど、2020年になる段階でまだ大量生産で服を作ることがベースにあるんだったら、洋服業界全体が大きな間違いを犯している。

だったら利益が減っても、いいものを作り、「何がいいものなのか」という価値観を受け手に伝えていく必要がある。だから大量生産はもういいんじゃないかな。



信用できるものは自分たちで作るしかない。信用できる人たちで、皆で一緒になって、つながりを大きくしていくしかない。 もしかしたらこれから古着屋ではなく、音楽スタジオになってるかもしれないし、服を作るアトリエになってるかもしれないし、いきなりビーガンの飯屋になってるかもしれません。

今後どうするかなんてのはいま決めたくはないので、時代と、自分の感性と、一緒やっている仲間たちの好みに常に寄り添っていくと思います。

MuuseoSquareイメージ

ACE GENERAL STOREは一言で言えば「古着屋らしくない古着屋」だ。オーナーのYOTAさんの古着や洋服に対するリスペクトから生まれる店作りやこだわりは、同じ志を持つ人たちの心を刺激してくれる。

「拘りのない人生なんて意味がない」

ホームページに書かれている一言は、まさにお店やYOTAさんの姿勢を表している言葉だ。今の日常から一歩踏み出したいと考えている人は扉を叩いてほしい。


ーおわりー

MuuseoSquareイメージ

ワーク・ミリタリー・ストリートを一層楽しむために。編集部おすすめの書籍

ヴィンテージ・Tシャツを通して感じられる、時代を彩るカルチャーをたどる旅へようこそ

41uy9jhwmpl. sl500

VINTAGE MUSIC T-SHIRT SCRAP

音楽プロデューサー/DJの井出 靖が90年代後半から徐々に収集し始め、その時々に記録として撮影していたレア・Tシャツの画像約580点を納めた「VINTAGE MUSIC T-SHIRT SCRAP」。
3年前に発刊してロング・セラーを記録している「VINTAGE POSTER SCRAP」同様、所謂コレクター向きの内容ではなく、音楽プロデューサーならではの視点で集められたヴィンテージ・Tシャツの数々を12のカテゴリーに分けて紹介。

Tシャツ好きにはたまらない一冊

51 s6dynvvl. sl500

Vintage T-shirts: 500 Authentic Tees from the '70s and '80s

Vintage T-shirtsは、あらゆる形態のTシャツへの強い愛と、それらが蘇らせるノスタルジックな記憶に敬意を表しています。取引されたり、恋人にあげたり、ボロボロになるまで着たり、カスタマイズしたり、切り刻んだりしたTシャツは、今日では子供からお年寄りまで誰もが着ることのできる、どこにでもある衣類のアイテムです。

この本では、音楽、テレビ、映画、広告、スケートやサーフィン、エンターテイメントなど、ポピュラーカルチャーの世界を視覚的に旅することで、Tシャツを長く愛される定番アイテムにしています。さらに、Tシャツファンやマニアのコレクションやバックストーリーを紹介する見開きのコレクタープロフィールも掲載されています。

File

ACE GENERAL STORE

江ノ島電鉄線、江ノ島駅から徒歩3分。賑わう商店街から1本入った場所にあるGENERAL STORE。リペイントが施された古着やデニムを中心に、陶器をはじめ雑貨なども取り扱う。商品は卸を通さず、基本的にオーナーのYOTAさんが買い付けしたモノを販売している。コーヒースタンドも併設されており、豆は同じ湘南に店を構えるi don't know coffee roasterのものをセレクト。日々その価値観に共感する仲間たちが集う。

公開日:2018年5月26日

更新日:2021年11月16日

Contributor Profile

File

伊藤 太成

湘南在住のフリーライター兼ディレクター。日々の仕事や生活を通して、様々なカルチャーの魅力を伝える活動を行っている。特に旧車やヴィンテージカルチャーを愛しており、学生時代から空冷フォルクスワーゲンを乗り継いでいる。現在の愛車は74年式のフォルクスワーゲン TYPEⅡ・ワーゲンバス

終わりに

伊藤 太成_image

何かと他人の流行に流されやすい。それがわかっていても一歩が踏み出せない…。そんな悩みを持つ人が多くいる社会において、豊かな人生を送るためにはどうしたらいいのか。その一つの答えが、「拘りを捨てないこと」。今回のインタビューを通して改めて実感した次第です。

Read 0%