熟練シェイパー・小川昌男さんによるサーフボードに込められた40年の技と想い ーサーフボード【orca】制作レポートNO.1ー

熟練シェイパー・小川昌男さんによるサーフボードに込められた40年の技と想い ーサーフボード【orca】制作レポートNO.1ー_image

文/ミューゼオスクエア編集部
撮影/深瀬典子(G.P.FLAG)

LIGHTNING BOLT(ライトニングボルト)とMuuseo Factoryのコラボで生まれた限定のサーフボード【orca】。
【orca】はシェイピングには小川昌男さん、ピンラインやボルトマークのペインティング・コーティングには和田浩一さんと、お二人のベテラン職人の手により誕生した特別なボードです。【orca】が出来上がるまで、その製造工程を2回に渡り取材いたしました! 【orca】を作り上げた職人の技をじっくりご覧ください。
第一回は「OGM Shape」小川昌男さんのシェイピングをご紹介します。中々目にする機会のない貴重なシェイプシーンと、サーフボードに込められた想いをお伝えします。

作り出すのは自由自在の「マジックボード」

サーファーが波を求め集う湘南の七里ヶ浜海岸。そこから歩くこと数分、海風を感じるお店でシェイピングを行っているのが小川昌男さん。今回【orca】の制作を手がけるひとりです。

ライトニングボルト×Muuseo Factoryのサーフボード【orca】

ライトニングボルト×Muuseo Factoryのサーフボード【orca】

小川さんはかつてライトニングボルトの日本チームライダーでもあったベテランシェイパー。40年前にOGM Shapeを立ち上げて以来、サーフボードのシェイピングを行ってきました。
小川さんが作り出すサーフボード・通称「マジックボード」は、自分自身に合った、自分の手足のように自由に操作できる「魔法のサーフボード」を理念としてシェイプされたボード。
過去にイベントでシェイピングの実演を行った際は、小川さんの技を間近で見ようと人だかりができたそうです。

小川さんが行うのはサーフボードの元となる発泡ウレタンを手で削っていくハンドシェイプ。独自のシェイププログラムを開発していたこともあり、マシンシェイプをすることもあるそうですが、現在はハンドシェイプが多く、今回の【orca】もハンドシェイプによって制作されます。

マシンシェイプとハンドシェイプの向き不向き

サーフボードのシェイピングは、「マシンシェイプ」と「ハンドシェイプ」というふたつの方法があります。
マシンシェイプはその名の通り、プログラムをもとに機械が削っていく方法。
ハンドシェイプは専用のプレーナーや、やすりを用い、手で削っていく方法。
小川さんによるとふたつの削り方は向き不向きがあるそうです。
「初心者用のボードはある程度型が決まっているから、マシンシェイプが合っています。それに比べてハンドシェイプはお客さんの要望を反映することに向いていますね」

シェイプによって変わる「上達するサーフボード」とは

小川さんが行うシェイピングの特徴は、ユーザーさんのそれぞれの体格や筋力にあった特別なサーフボードをつくること。
「サーフボードは体格や目的によって一人ひとり異なったデザインとなります。例えばラグビー選手のようながっしりとした体系の人は、センター(サーフボードの中心)の厚さに対してレール部(両サイドの側面)を厚くすることでパワーを使えるようなボードになる。
逆に体重はあるがパワーが少ない人はセンターを厚くしてレールを薄くすることで、脚力がなくてもコントロールしやすい板になる」

ハンドシェイプのための設計図を作っていく。
PC画面の二段目がサーフボードを横に割った断面図。山の頂点がセンターの厚さで側面がレールの厚さ。

ハンドシェイプのための設計図を作っていく。
PC画面の二段目がサーフボードを横に割った断面図。山の頂点がセンターの厚さで側面がレールの厚さ。

「体格以外にも、その人がどうしたら上達するのかを考えます。サーフボードはテイクオフ(波に乗り立ち上がること)できなければ上達しないので、依頼主が現状よりも波を捕まえやすくなるようにシェイプします。そのためにお客さんにサーフィンをしている動画を持ってきてもらったり、時には一緒にサーフィンすることもありますよ」
小川さんはサーフィンのジャッジを長年勤めたこともあり、その経験を生かして乗り手に何が不足しているかを見極めシェイピングに反映しているのです。

シェイプ開始! 乗り手によって変わる削りを追う!

今回ミューゼオは『小さな波でも早く乗れて、コントロールしやすい小柄な女性用のボード』を小川さんにお願いしました。さて、小川さんはどんなボードを作るのでしょうか。

「女性でもコントロールできる大きさを考えると2.2mくらいが良いかと思います。
ショートボードは小回りがきくボードで、試合に出るようなサーファーが好みます。逆に今回つくるミッドレングスボートは、小さな波でもすぐに乗れる利点があります。七里ヶ浜は波が小さいので長めのボードに乗っている人が多い。2.2mくらいのボードだと小さな波でもずっと乗っていられますよ」
そう解説しながら小川さんは設計図をもとに次々とボードの厚さなどを決めていきます。

MuuseoSquareイメージ

MuuseoSquareイメージ

設計図をもとにアウトラインを引いていく小川さん。
シェイプするアウトラインを引く為のテンプレートを使用。このテンプレートはシェイパーによって異なる経験がつまったものだ。

シェイピングポイント①レールの厚さで決まるボリューム

まずはセンター(真ん中)とレール(側面)を削っていきます。小川さんによると、真ん中とレールの厚さのバランスでボード全体のボリュームが決まってくるそうです。
「長さがあるボードなので、板自体の強度をあげるため真ん中は厚く、そのかわりレールは薄くしてます。
レールを薄くしておくとサーフボードを傾けた時に水に沈みやすくなるんです。海ではサーフボードを傾けて曲がるので、体重が軽い人でも楽に曲がることができるんですよ」

MuuseoSquareイメージ

MuuseoSquareイメージ

センターとのボリュームを考えながら細かくレールを削っていく。コントロールのしやすさや全体のボリュームに関わってくる慎重な作業だ。

ちなみに小川さんがシェイピングに使用するのはさまざまな粗目のやすりと『Skill100』というプレーナー。『Skill100』は現在は販売されていない貴重な削り機だそうです。

小川さんが愛用するプレーナー。プレーナーで全体を削り、やすりで細かく丁寧に調整していく。
小川さんは簡単そうに削っていくが、滑らかに削るのはなかなか難しい作業だ。

小川さんが愛用するプレーナー。プレーナーで全体を削り、やすりで細かく丁寧に調整していく。
小川さんは簡単そうに削っていくが、滑らかに削るのはなかなか難しい作業だ。

シェイピングポイント②ノーズの幅で変わる安定性とコントロール性のバランス

レールを削るのと同時に、小川さんはボードの先端も削り始めます。
「ノーズ(サーフボードの先端)の幅は重要なポイントです。ノーズが広くなるほど、長方形の畳のようなカーブのないボードになっていきます。ノーズが広く長方形なボードは安定感があり立ちやすいですが、曲がりづらくコントロールしにくいんですね。だからその兼ね合いが重要なんです。
今回は十分な長さがあってもともと安定しやすいので、『立ちやすさ』よりも『立ったあとの動きやすさ』を考えて削っています」
「安定性」と「コントロール性」、相反する性能ですが小川さんはどちらも両立するようにノーズを細かく削っていきます。

MuuseoSquareイメージ

MuuseoSquareイメージ

少しずつノーズを削っていく。今回は立ったあとの動きやすさを重視した削り。みるみるうちに美しいカーブになっていく。

シェイピングポイント③水の流れを操る重要なコンケーブ

これまでレールやノーズなどを削ってきましたが、もうひとつ「コンケーブ」というサーフボードの特性を決める重要なシェイプポイントがあるそうです。あまり聞き慣れない言葉ですが、サーフボードのボトム(水面側)を削り、凹ませることでさらにコントロールしやすいボードをつくることのようです。

ボードの裏側を削って縦に「コンケーブ」と呼ばれる溝を入れていく。

ボードの裏側を削って縦に「コンケーブ」と呼ばれる溝を入れていく。

コンケーブとは

サーフボードのボトム(水面側)に入れる溝のこと。溝によって波の流れを調整する役割があり、スピードやコントロール性を高めるために用いられる。
コンケーブの入り方により様々な種類がある。代表的なコンケーブは以下。

シングルコンケーブ…ボトムの中心に窪みがある状態
ダブルコンケーブ…ボトムの中心線からみて両側に窪みがある状態
Vコンケーブ…ボトムのテール側に向けてVの形で窪みがある状態

「今回はノーズ側はシングルコンケーブではじまり、真ん中をすぎたあたりでダブルコンケーブ、最後はVコンケーブにしてみました」
どういうことかというと、ボードの頭側は中心が凹んでいるが、後ろ側にいくにつれ凹みが両側にうつり、その凹みが一番うしろでVの形に集結する、ということ。
小川さんは全体を満遍なく削っているように見えましたが、3つの溝が全てひとつにつながるようにプレーナーの圧を変えながら削っていたのです。

専用の器具でそれぞれの箇所のコンケーブの入り方を確認。
気づけばボトム側に入っていたイラストは全て削れて消えている。

専用の器具でそれぞれの箇所のコンケーブの入り方を確認。
気づけばボトム側に入っていたイラストは全て削れて消えている。

「シングルコンケーブはスピードがあがるのですが動きが重くなる。そこに途中からダブルコンケーブにすることで若干ボードのスピードは落ちるけれど、コントロール性をあげることができるのです。大きいボードなのでコントロールのしやすさを考えました」
コンケーブはシェイパーによって考えが違い正解はない、と小川さんは言います。今回入れたコンケーブは、乗り手の上達のため小川さんの経験と考えが反映されたものなのです。

終始、目にも止まらぬ速さで削られ、サーフボードはみるみるうちに美しいカーブとなりシェイピングは全て終了。シェイパーを数多く見てきた方も「ハンドシェイプでここまで早く削る人はなかなかいない」と言うのも頷けます。

小川さんが辿りついた「40年で培った三次元の技」

ここまで様々なシェイピングのポイントを紹介してきました。しかしシェイピングはその理論通りに作ればいいというわけではないようです。
「技術として習得が大変だったのは?」と聞くと「要求に対してストレートに削りすぎず、トータルで考えることかな」と興味深い答えが返ってきました。
「40年シェイプをやってわかってきたことは、ひとつ良い特徴をつくると、同時に3つ悪い点が発生するってことです。例えば、『動かしいやすいボード』という要望に対して、テール(後ろの部分)を狭くすれば女性には動きやすいボードになるけれど、同時に波に乗る速度が遅くなったり加速度が低くなったりと悪いところが出てくるんです。
要求に対してストレートに応えるのではなく、全体のことを考えることが大事ですね」
今回のシェイピングで気をつけたポイントを聞くと、「最初に設計図を作りましたよね。ノーズの幅、レールの厚さ、ワイデストポイント(一番広い部分)の位置などを数値で決めたんです。でも実際にはその通りに削ることはありません。
レールの厚みひとつとっても、ノーズ側が薄くて、センターあたりで厚くなってテール側(うしろ側)で薄くなるなど、それぞれのラインを繋ぎながらバランスも考えなくてはいけない。サーフボードは全てカーブだから全部が繋がっていないといけない。これも全体のバランスという話ですね」
それを聞いて、小川さんがシェイピング中、何度も目視で確認していたことを思い出します。その様子を興味深く見ていましたが、設計図にはない全体のバランスを確認していたのか! と納得してしまいました。

MuuseoSquareイメージ

MuuseoSquareイメージ

削りながら何度もボードを目で確認する小川さん。
「設計図はあるけどあくまで目安ですね。設計図をもとに目で確認して削っていきます」

「以前はそこまで注意していなかったんです。昔は『テールはこの長さ』『レールはこの厚さ』など部分的に見て作っていた。それが今は『無理して広げてバランスがくずれちゃうくらいなら、広げない方がいいな』とか、逆に『広げたことを厚みのほうでカバーすれば浮力がつけられる』『広くしなくても縦に厚くすれば……』など三次元的に綺麗につながったものを作りたいなと考えるようになりました」
今回の小川さんには「女性が乗りやすいボード」とお願いしましたが、小川さんの中では良いところ・悪いところ・そして全体のバランスなど計り知れないほどの計算が行われていたわけです。まさに熟練の技というほかありません。

シェイピングに込める気持ちはただひとつ

小川さんがシェイプを始めたのは「自分が乗る板を作りたい」と思ったことがきっかけ。
「新しいデザインを思いついた時や、一般的に流行しているデザイン、昔のリバイバルの板というものがありますが、そういうボードって乗ってみないとわからない。出てきたらすぐに作って乗って確かめる。乗り味を知らないことには説明できない」
小川さんは乗り味を知るため、今でも自分用の板を1年間に20本制作しているそうです。

シェイプ前

シェイプ前

シェイプ後

シェイプ後

シェイピングのBefore&After
一枚の発泡ウレタンが美しいカーブのサーフボードへと変身した。
乗り手の体格や要望に沿ってシェイピングは変わっていく。
「今回は、ボードの大きさの割に体格が小さめの女性なので、コントロールを軽くすることを考えました」

【orca】のボディには小川さんのサインが入っている。小川さんがシェイピングした証だ。

【orca】のボディには小川さんのサインが入っている。小川さんがシェイピングした証だ。

お客さんに寄り添ってシェイピングする理由を尋ねると「うまくなってほしいから。ここにきてくれた人に対して僕は返すだけ」そう爽やかに笑う姿に、「小川さんにシェイピングを頼みたい」というサーファーたちの気持ちがわかった気がしました。

このあと行う職人・和田浩一さんによる樹脂ピンラインの記事も公開中! 是非ご覧ください。
小川さんのシェイピングによる【orca】はMuuseo Factoryで発売中です。ぜひご覧ください!


ーおわりー

File

OGM Shape

OGM Shapeはサーフィンを100%楽しむための本当にぴったりのサーフボードを提供するという理念のもと設立。
自分に合っているサーフボードは簡単に乗ることができ、ボトムターンもカットバックも思いのまま。そんなボードを「マジックボード」と呼び、乗り手に適したボードをシェイプする。
今乗っているボードを持っていく、あるいはライディングの動画を見せることで、上達するためにぴったり合ったサーフボードをシェイピング。また上達するちょっとしたコツも教えてもらえます。
理想のスタイルを目指したい方、試合で勝ちたい方、初心者の方も歓迎しています。

サーフィンを詳しく知る編集部厳選書籍

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サーファーになる本 改訂版 (エイムック 4672)

クールなサーファーとは?
3年前に発行し話題となった「サーファーになる本」の改訂版。五輪競技化で注目を集めているサーフィンの魅力は、スポーツやライフスタイルとして、またはカルチャーや生き方そのものとして、多くの人に影響を与えています。この流れと共に、サーファーになりたいと考えている人々や少しだけかじっているビギナー層へ向け「サーファーが備えておきたい三大要素」を“楽しく、わかり易く、かっこよく"お届け。道具の選び方やステップアップの近道、サーファー独自の用語から振る舞い方までを、きめ細かく解説していきます。小誌は、モデル・先生役の市東プロと編集部が自信をもっておすすめする究極のHOW TO本です。

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サーフリアライゼーション―サーフィンの神様、ジェリー・ロペスが綴るライフスタイルストーリー

日本にも多くのファンを持つ「サーフィンの神様」ジェリー・ロペス(Gerry Lopez 1948-)。
彼の生い立ち、サーフィンを始めたきっかけ、大切な友人たち、旅の話……数々の成功と経験から得た教訓と、悟りの境地ともいえる理解を、「サーフィンの神様」自らが綴った自伝的著書

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サーファーへ 100の言葉

本書「サーファーへ 100の言葉」はサーフィンに傾倒するサーファー達が口にした波乗りと人生に“効く"言葉を厳選して一冊にまとめている。サーフィンに夢中になっている人も、海から遠ざかってしまった人も、はたまたサーフィンに興味がある人も、ぜひ手にとってほしい。それらの言葉はあなたが波乗りという行為に対してどう立ち振る舞うべきかの思慮を深め、サーファーがどんなマインドを持った人達なのかを理解する一助になるに違いない。「もし迷ったら、パドルアウトすればいい」とはレジェンドサーファーであるナット・ヤングの言葉だが、何かで立ち止まった時、思い悩んだ時、あなたの背中を優しく押してくれるサーファーならではのエールを、ぜひ本書から受け取って欲しい。

公開日:2021年10月4日

更新日:2021年10月21日

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