お店の内装はすべてDIY。“個人商店”の魅力を発信し続ける十条の古着屋「PEG」

お店の内装はすべてDIY。“個人商店”の魅力を発信し続ける十条の古着屋「PEG」_image

取材・文 / 松田 佳祐
写真 / 中村 優子

北区・十条には、街の人たちから愛されている古着屋がある。


お店の名前は「PEG(ペグ)」。この地に根を張り、早10年。オーナーの冨田広志さんは、古着を愛し、個人商店を愛し、そしてこの街を誰よりも愛している熱い人物だ。

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その想いが高じ、自分で内装まで手がけたという自慢のお店には絶えず街の人たちが集まってくる。

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冨田さんは言う、「人々にとって洋服は“娯楽”。それなら楽しく買い物をできる方が良い」。人との繋がりを大切にし、街に杭を打つようなお店づくり。その秘訣をたずねた。

勤めていた古着屋が閉店……。若気の至りで独立し、DIYに目覚める

「PEG」をオープンして以来、昼は現場仕事、夜は古着屋というハードな生活を送っていた冨田さん。しかし、そのおかげもあってプロ顔負けの大工技術と人望を手にいれた。その集大成とも言えるのが一年半ほど前に移転リニューアルした現在のお店だ。


「今のお店は、スケルトン状態から全部DIYで作りました。まずは天井に色を塗るところから始まり、壁を全部立ち上げたり、ガス管のラックを設置したり……。店内の中央にある棚は幼馴染の父親に手伝ってもらいましたし、ショーケースのガラスはサッシ屋で働いていた時の繋がりで安く仕入れられました。床の生コンクリートは土建会社の親方と二人で塗りましたね。本当に色々な人たちとの繋がりがあってこそ完成した店です」

幼馴染の父親の力を借りて制作した棚

幼馴染の父親の力を借りて制作した棚

ガス管を改造して作った洋服ラック

ガス管を改造して作った洋服ラック

サッシ屋時代の繋がりで仕入れた特製のガラス

サッシ屋時代の繋がりで仕入れた特製のガラス

店内の所々にDIY道具が鎮座

店内の所々にDIY道具が鎮座

そもそも冨田さんが若くして自身のお店をオープンしたのは、やむを得ない事情があったからなのだそう。


「高校時代に古着が好きになり、大学に入ってからは古着屋でアルバイトを始めました。そこの店長に、『新しいお店を出すから任せたい』と言われたのを鵜呑みにして、就活もせずにダラダラ過ごしていたら急遽その話が頓挫したんです。ですが、路頭に迷っていたら、先輩の古着屋から『売上の悪い店があるからそこに入って欲しい』とお声が掛かりました。そして、店長として配属されたのが十条の店舗だったんです」

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「ところが、働き始めた年に僕のお店が閉店することになって……。その当時、24歳だったんですが、ずっと30歳までには独立したかったので、若さのせいにして自分のお店をやることにしたんです。で、これまで働いていたお店の内装を全部真っさらにしてもらい、お金がなかったので自分で一からコツコツ作ることにしたんです」

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そういった理由で、勢い任せにお店をオープンした冨田さんは、日々少しずつ内装を整えていったという。そして、ひょんなことからDIYの技術を向上させながら、お店の運営資金を稼げるという一石二鳥の仕事と出会うことになる。


「そもそも、始めに借りた物件の建物自体が古くて、夏場は冷房がまともに効かなかったんです。だから、夕方からオープンしていたんですが、それを知った地元の先輩が『それなら俺の仕事を手伝ってくれ』と言ってきて。その仕事内容が、いわゆる土建系の仕事だったので本格的な工具を買ったら地元で噂になりました(笑)。おかげさまで現場仕事がたくさん舞い込んできたので、いろいろな仕事に関わるうちに内装を作る技術レベルがどんどん上がってきたんです。そこにもともとのDIY好きも高じて、自分の店を手作りすることにこだわりを持つようになりましたね」

すべての服に袖を通して判断する、冨田流の買い付け方

冨田さんが自身のお店を通じて伝えたいのは、“個人商店”の面白さだという。だからこそセレクトには一切の妥協せず、古着を買い付ける際にはすべての服に袖を通すのがモットーだ。


「うちは、仕入れの時点で一点一点に袖を通して買うというやり方を貫いています。着た時のシルエットを確認するという目的もありますが、パッと見は変な服でも着てみたら以外にかっこよかったということも少なくないんです。逆に言えば、見た目のデザインが良くてもサイズや状態を鑑みて着られないようなものは買わないようにしています」

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「一回の仕入れで約3000点の中からフィルターをかけて残るのが300点。それにすべて袖を通し、残った100点ほどを月に一度のペースで買い付けています。シャツの場合は羽織るだけなのでまだ楽ですが、さすがに何百枚ものTシャツに袖を通すのは大変な作業ですよ(笑)」


買い付けてお店に並べるというだけでも大変な作業だが、お客さんのためにやるべきことはまだまだ尽きないという。


「買い付けた洋服を1点1点チェックして、リペアが必要なものには手直しをします。それから洗濯して、アイロンをかけてから店頭に並べています。自分で言うのもなんですが、商品には半端なく愛情を注いでいますよ」

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そんな手間暇のかかる買い付け方法を貫いているからこそ、他の古着屋にはないような珍しい洋服を見つけることができるのだそう。


「うちの基本スタイルはアメリカ古着とヨーロッパ古着のミックスです。もちろん、オーセンティックで普遍的な洋服も揃えていますが、一番の強みは“おもしろ古着”だと思っています。一点ごとに袖を通しているからこそ、他の古着屋さんが見落としがちな、『なにこれ?』と思わせるような一点物を仕入れることができるんです」

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「たとえば、この1970年代製のペインターパンツ。そもそも赤のペインターパンツって珍しいですよね。しかも、MADE IN USAですし、1960〜80年代にかけて使われていた“42タロン”と呼ばれるジップを使っているんです」

42タロンジップを採用

42タロンジップを採用

MADE IN USAの表記

MADE IN USAの表記

「このシャツも、シャンブレーというカジュアルな生地にもかかわらず、比翼の前立てなど、ドレッシーなデザインに仕上げています。裾もボックスシルエットですし、 肩から袖にかけてのディテールもかなり珍しいと思います」

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比翼の前立て

比翼の前立て

肩から袖にかけての補強

肩から袖にかけての補強

「いわゆるヴィンテージ古着はそれなりの金額を出せば買うことができますが、うちで扱っているのはただお金を払えば手に入るヴィンテージではないんです。洋服はお客さんにとって娯楽だと思うので、後々価値が上がるかもしれないモノや一点モノのように、ワクワク感のある方が良いと思っています。数年後に見返して、『PEGで買い物をして良かった』と思えるものを届けられるように日々努力しています」

“街の古着屋”には、ジャンルの垣根を超えて人が集まる

冨田さんが目指しているのは、その街に根付く古着屋。そして、個人商店ならではの魅力を伝えていくのが使命だという。


「昔はいろいろな駅にその街を象徴するような古着屋があったんです。僕もそういうお店で買い物をして育ったので、個人商店だからこそできる良い意味で偏った買い付けや、オーナーのセンスが全開なお店づくりに面白さを感じていました。ところが、次第にそういうお店が減ってきたんです。どの業界でも一定のサービスや安心感を提供してくれるチェーン店が重宝されがちですが、そのお店ならではの価値観やサービスを提供する個人商店にも魅力があると思うんです。それを伝えたいというのが、古着屋を続けている一番のモチベーションですね」

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商店街文化が根強い十条の街には、PEGのような個人商店が沢山ある。そういったお店の経営者たちが次第に冨田さんの人柄や姿勢に共感し、PEGに集まるようになってきたのだとか。


「もはや、PEGは十条の経営者の溜まり場みたいになっていますよ。多い時は店先に8人くらいいますからね。表にある室外機カバーが夜にライトアップされて、“角打ちコーナー”みたいになっています(笑)。せっかくなら、そういった繋がりを生かして、お客さんがPEGを起点にいろいろな個人商店を知るきっかけになればいいと思っています。そうなれば街としての動線にもなりますし、その結果、個人商店の魅力が伝わればいいなと!」

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冨田さんのお店は間違いなく、十条を象徴する古着屋として街の人たちから愛されている。そして、時代がどんなに変わろうとも、街の個人商店を支える“杭(PEG)”としてのスタンスは変わらない。

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「実は駅前の再開発が問題になっていて、うちの店を含む駅前の物件が2年以内に立ち退きをしなければいけない可能性があるんです。駅前の辺りを全部綺麗にして、140メートルのビルを建てるらしいですね。その時はその時で仕方ないですが、いずれにせよまた十条のどこかに移転してお店を続けるつもりです。次は、古着はもちろん、料理やコーヒーも提供できて、今以上に溜まり場になるようなお店を作りたいと思っていますよ」

ーおわりー

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File

PEG

JR埼京線に乗り「十条」で降車。北口改札を出たら直進し、左折して30秒ほど歩いた先にある古着屋。目印になる室外機カバー(なんとオーナー冨田広志さんの手作り!)は、まるで立ち飲み酒場のカウンターのような出で立ち。夜になると人々が集まり“角打ち”を始めることもあるのだそう。ラルフローレンを始めとするアメリカ古着や、ヨーロッパの古着をセレクトし、男くさいワークウェアなども数多く取り揃える。店内の奥にある“VIPコーナー”には、オーナーの趣味でもあるギターが鎮座。試奏OKだが、近隣住民の迷惑にならないよう音量には細心の注意を払うべし。

公開日:2018年9月8日

更新日:2021年11月9日

Contributor Profile

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松田 佳祐

1987年生まれ。新潟県三条市出身。大学在学中にセレクトショップに勤務し、洋服のカルチャーと小売業の仕組みを学ぶ。卒業後、フリーランスの編集・ライターとして活動をスタート。数々のファッション・ライフスタイル誌に携わる。その後、編集プロダクション・広告代理店・デザイン会社を経て2017年に独立。現在は、フリーランスの編集者/コピーライターとして活動。

終わりに

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「うちは、溜まり場なんですよねぇ」というオーナーの言葉通り、インタビュー中にも馴染みのお客さんがドンドン立ち寄っていきました。街の肉屋、街の魚屋、街の八百屋なんかはありますが、“街の古着屋”というのは最近ではなかなか見かけません。もし自分の住んでいる家の近くに「PEG」のようなお店があったら、用事がなくてもついつい立ち寄ってしまうんだろうと思います。まして、店前で角打ちできるスペースまで設けられているならなおさら……。常連さんにはもちろんですが、一見さんにも丁寧に接客してくれる上に、もれなく耳寄りな十条情報も付いてきますよ。

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