手書きをする機会自体が減ってきている昨今に、敢えて手書きをすることの面白さ、こだわりの筆記具を使うことの楽しさはなんだろう? 今回は、ステーショナリーディレクター土橋正さんをはじめ筆記具に一家言をお持ちの3名が集結。万年筆、シャープペン、ボールペン個性際立つラインナップを手に三者三様の筆記具愛を語っていただいた。
カラフルとモノトーン。キャラクターの違いが対局な筆記具セレクトに表れた⁉︎
最初に皆さんの自己紹介と、筆記具とどう付き合っているか教えてください。
土橋正です。文房具メーカー向けに商品企画やPRのアドバイザーをしたり、お店ではコーナーを作ったり、文具に関連する文章を書かせていただいたり、「ステーショナリーディレクター」という肩書きで活動しています。
こんにちは。飯野高広です。自分にとって文具は、体の一部、言葉の一部という言葉に尽きるのかな。そうなると、どういうものを選ぼうかなというのが必然、シビアなものに考えてしまいがちなものです。そういうとても大切なものです。
ちゃんとしてるな。倉野路凡です。僕にとっては文具は趣味ですね。ライターという職業ですが、実際、メモ代わり程度にしか使いません。自分の好きな形とか色とかを見つける喜びというのか、腕時計とか靴と変わらないように、生活の一部、自分の一部と考えています。
家で思いついたことを書きとめたり、ちょっと色を塗ってインクを出して楽しむ、みたいな遊び方をしていますね。
インクが滲むでしょう。あの感覚はボールペンでは味わえないし、他の筆記具では味わえないので、リラックスするための道具みたいなところはあります。
ちなみに今日のラインナップ、飯野さんは絶対、「
仏壇万年筆」(黒軸ボディに金クリップの組み合わせ)ですよね……。
飯野さん持参の万年筆たち。黒軸ボディに金クリップの組み合わせ、通称:仏壇万年筆がお気に入り。
仏壇(笑)。倉野さんのカラフル系と飯野さんの黒い系、対極ですよね。
対極なんだけど共通項があって、それは「金」なんだよね。
ブレザーの金ボタンと一緒で、世代なのかなという気もするし、最近またブレザーのボタンもゴールドが戻ってきているし、それに合わせて万年筆もまた戻ってきているかなと。
倉野さん持参の筆記具たち。
そうそう。なんかわかります。
あと、二人とも(飯野さんと倉野さん)基本的にイタリアものにいかないんです。
基本的にイタリアものって樹脂系じゃないですか。レジンとかセルロイドとか。それを削り出して作っていて、カラフルなんですよ。みんなそれを見て「すごくきれい」だとか、「やっぱり色が違う」と言うんだけれども、シルエットをよくよく見ると、そんなに「追求」していないんですよ。
そう。正直、色でごまかしているところがあるんじゃないかって。
その点、カランダッシュ(スイス)とかウォーターマン(フランス)、エステーデュポン(フランス)、ファーバーカステル(ドイツ)とかを見ると、「おお、このライン出してきたな」っていう流線型の美しいもののがあるんですよ。それはだいたい金属ベースでラッカー仕上げなんです。
倉野さん的には、万年筆そのものがもっているデザインが気になるんですね? 飯野さんは、どうですか?
私は軸の材質とかには、実はあまりこだわっていないんですよ。デザインの全体的なバランスで見てますね。
例えば、私が気になるのはキャップリング。イタリアの万年筆ってキャップリングがものすごく装飾的なものが多いんです。デルタの「ドルチェビータ」の茨の冠みたいな模様とか、アウロラの「オプティマ」のいわゆるラーメン模様(本来は「グレカパターン」という名の模様。魔除けの模様として古代ローマでは建物の外壁に多用されていた)とか、気持ちは分かるんだけど装飾過多なキャップリングを見るとしんどくなる。もうスッキリ3本線でいいじゃないかと。
持っていて自然というか、安心して変に心を動かされないで、大脳直結で受け付けられるていう。
一本で戦いきりたいから、シャープペンでもボールペンでもなく万年筆。
僕が前に飯野さんに「万年筆で白色とかどうかな?」って聞いたら、「それは白物家電ですよ」とおっしゃったんですよ。「白色って家電でしょう?」という意見で、なるほどというか、確かに筆記具で追求するものではないなというのが正直あります。白だと華やかっぽいですが、意外と落ち着いているんです。だから、飯野さんの影響じゃないけれど、白物には手を出すなと(笑)。
筆記具に季節感とか求めないじゃないですか。オールシーズンだよね。夏用の筆記具ってあるんですか?
季節という概念は、ペンでは考えたことないですね。一般的にはオールシーズンですね。
私は飯野さん派で、視界の邪魔にならないものを選びますね。私の万年筆とのかかわりは、原稿書く専用のツールみたいな。WEB掲載の記事も本も、依頼された原稿や草稿はすべて手書きなんですよ。
私にしか読めない原稿ですね。一気に集中して書いていくので、ボディも落ち着いた色で思考の邪魔にならないもの、書き味もスムーズなものが多いですね。
原稿を書く時はスピーディに書きたいので、シャーペンやボールペンではなくて万年筆です。筆圧がなくてもサーッと書けるので。
やっぱり筆跡がどんどん変わっていっちゃうので、途中で替えたりしなくちゃいけなくなっちゃうんですよ。削らなきゃいけない。
やはり、一本で闘いきりたいんです。アイデアをノートに書く時には2Bの鉛筆を使いますが、原稿の時には使ったことないですね。
純正品しか使わない! 使いやすさを最優先した潔いインクセレクトの理由とは。
土橋さん愛用のインク。写真一番左は原稿校正用に使用するというパイロット「レッド」、パイロット「ブルー」、ペリカン「ロイヤルブルー」
インクの色はいろいろ試した結果、私はブルーに落ち着きました。すべての万年筆に純正のブルーを入れるというルールを決めると、もう迷わなくなりますね。インクが切れた時に、「これ何入れたんだっけ?」って思い出せないと、洗わなければいけなくなっちゃうので。
あと、プラチナ万年筆の社長から聞いた話で、「自分たち(プラチナ)は、ペン先とペン芯が万年筆の心臓部で、何のインクで一番性能が発揮できるように作ってあるかというと、当然自社インクで性能が上げられるように作っている」という話を聞いて。
スピードライティングの性能を上げるためには、純正のほうがいいのかなと。スローライティングでは、そんなに気にしなくてもいいと思うんだけど。ということで、私はブルーに決めちゃいました。
そうそう。楽しむというよりも、本当にひたすら書きやすく書くためにみたいな付き合い方。
黒、ではなくてブルーが心理的にも使いやすい。
飯野さん、いろいろなインクの色を試しているじゃない?
いろいろな色ではないですよ。ある一色だけ(笑)。ブルーブラック。
飯野さん愛用のブルーブラックのインク。セーラーのインク工房で作成したオリジナル品、ペリカン「エーデルシュタイン タンザナイト」、カランダッシュ「マグネティックブルー」。
これはもう完全に刷り込みです。親の刷り込み。親父が使っていたのがパーカーのスーパークインクのブルーブラック(飯野さん曰く、現行のパーカーのクインクの同色とは成分も色味も全く別物)だったんですよ。要は男の子は文章を書くときはBB(ブルーブラック)なんだっていう。
僕は基本的にウォーターマンのミステリアスブルー(旧ブルーブラック)かセレニティブルー(旧フロリダブルー)のカートリッジを使っています。(ちなみに、
カートリッジ式の万年筆を考案したのもウォーターマン!)
ブルー系が多いです。黒は怖いんですよ、僕。万年筆ボディの黒はまだいいんですけどね。黒い靴もあまり履けない。黒って攻撃的で暴力的な感じがすごくするの。安心感を求めるのはやっぱりブルー系なんだと思いますよ。
このブルーブラックも、ちょっと置くと、緑がかるっていう。
細字だと結構ブルーに近いけど、太字だと変わるって面白いね。そこがミステリアスなんだよね。
刷り込み式に父から教わったパーカーデビュー。
一番最初に見た万年筆は親父のやつなんですよ。アメリカ製ではなくイギリス製のパーカー61です(パーカーはもともとはアメリカの筆記具メーカー。さまざまな経緯を経て現在は資本はアメリカ、本社はイギリス、主要工場はフランスにある)。
刷り込みってありますね。万年筆は親父から教わっていないですけど、ビールの銘柄は引き継いでいる。冷蔵庫を開けると必ずキリンのラガーがあって、今もどっちかというとキリンが好きみたいな。デビューを飾ると影響が濃いかも。
最初からいい万年筆を使うのって、その後の万年筆人生をよくするかもしれないですね。
手に入りやすいものから順番にっていうのも、ありだと思うけど、最初に何を見たかでその分野への興味は変わるかもしれない。
私が中学入学の時に親父からもらった入学祝いも、やはりパーカーの「45」でした。入学から暫く過ぎて、英語の授業で筆記体を習う時に、自分が持っている万年筆、もしくはそれに類する筆記具を持って来いと言われたんです。当然私はそれを持って行ったんですが、中にはいるんですよ…。
奥の万年筆は飯野さんが中学入学のお祝いに貰ったパーカー45、手前の万年筆は父親から受け継いだパーカー61
いるんですよ、モンブランの149とか146を持ってくる奴が!そいつのお父さんの書斎に眠っているとか。あとは、倉野さんが 大好きだったウォーターマンの「
CF」とか。もっと初期のは高かったんだから。そういうのを見ると、なんとなくグラグラグラッときました。13、14歳の野郎でも。(笑)
男性がピンクのシャツに合わせて。同僚の着こなしに憧れて購入したモンブラン。
土橋さんの最初の万年筆はどんなものだったんですか?
最初はモンブランのバーガンディ色のもの。新入社員で1~2年ぐらいですぐ買いました。やっぱり万年筆にすごく憧れがあって、書くよりも持っていることのほうが多かったかも。
当時、営業をやっていたので、お客さんに資料を送るときの送付状には、これを使って書いていました。
モンブラン「マイスターシュテュック144」のバーガンディ色。
万年筆に憧れがあったというのは、もともと何がきっかけですか?
明確な何かというきっかけはないけれども、当時「モノマガジン」とかいろいろなモノ系の雑誌に今と同じように定期的に万年筆の特集があって、きっと倉野さんの記事も読んだのかな。それを見て、いつかは万年筆。モンブランは最初から欲しかったので。
やっぱり憧れですね。これを買ったときに、同じボールペンとシャープペンもまとめてワンセットで買いました。一般的には、男性はブラック。女性はバーガンディを選んでますけど、あえてバーガンディを選びました。
これは理由が明確で、当時外資系で働いていたんですけど、同僚のアメリカ人がピンクのワイシャツのポケットにこのバーガンディのボールペンを差していたんですね。それが彼の肌の色とすごく合ったんですよ。それに憧れて、全然肌の色が違うにピンクのワイシャツを着て差して……。
みんな黒を使っていたので。ちょっと人と違うことをするのが好きだったんです。別に黒を否定するわけじゃないですけど(笑)。
当時、パソコンとかもなくて、時計と万年筆で自己主張、みたいな世界でしたね。
飯野さんは最初に手にした1本はお父さんのでしょ? 自分で買ったのは?
自分で買った最初のものは、多分パーカーの「デュオフォールド センテニアル」です。
飯野さんが初めて購入したパーカー「デュオフォールド センテニアル」万年筆(手前)。同じラインのボールペン(奥)。
1987年です。パーカーは翌年が創立100周年で、それを記念して売り出したモデルです。だから当時は「デュオフォールド100」って言っていた記憶も…
定価が4万で、アメ横で実質2万8千円位だった記憶があります。
ただ、部品を交換交換しつつ、それこそ今の部品じゃ使えないものがあるから、それこそオークションとかでニブ軸(ペン先とペン芯)を目当てに万年筆を一つ買うとか。
それでニコイチにして(2つのモノを合体させて)使ってたの?
やっぱり親父がパーカー使いだったから。ずっとパーカー、パーカー、パーカーできているから。
そう、思いますよね。なんか、「買ってみよう」だったんですよ。
御守り代わりに名入りで購入した、ウォーターマン「レタロン」
僕は親父が持っていたのを引き出しから盗んだ。で、使ってみたのが最初です。
それと、70年代にセーラー万年筆から発売されて(当時1本600円)流行ったいろいろな色の
キャンディ、そのオレンジ色を姉からもらい受けて使っていました。このオレンジと部屋のオレンジのチェストが妙にあってそれからオレンジ好きになったの。
自分で意識して買ったのは、これかな。ボールペンなんだけど、ウォーターマンの「レタロン」。これは多分一目惚れして、百貨店でちゃんと買いましたね。
ウォーターマンの「レタロン」
これはライターをやり始めた頃なので20年以上前かな。自分の名前も入れてもらって。これをお守り代わりにしようと思って。
これ、高級なボールペンの特徴で、まわして芯をくり出すときの重みが独特ですよね。
当時としては上位モデルだったので、分解して構造を覗くと中もきっちり作られてる。
あとから万年筆の「レタロン」も買ったら、これがすごく書きやすくて。ウォーターマンって全部パチン(かんごう式)なんですよね。そこが力みすぎてないのがいい。
ウォーターマン「ルマン200 ラプソディ」ウォーターマン「レタロン」カランダッシュ「レマン」
万年筆の旨味を味わうために決めた早めの名品デビュー。
私、モンブランデビューをしてから、次に146にいったんですよ。入社2、3年目で、25〜26歳ぐらいの時。
万年筆のいろいろな本を読むと、どんどん書き癖がペン先に馴染んでいって、より書きやすくなっていくとある。ならば、いい万年筆を歳を取ってからスタートすると、そこからならし運転がはじまって、本当に書き味がいいのが人生の最後だけになってしまうから、早めにデビューするのに越したことはないんだと。
20代の中盤ぐらいで分不相応なのは明らかなんですけれども、それを目的に買いました。最初はすごく書きづらくて、やはり自分が追いついてなかったのかな。でも我慢してずっと書いていったら、数年後くらいからグッと書きやすくなりました。だから、ちょっと高かったけど買ってよかったなって思いますね。
土橋さんが理想の書き味を求めて若い頃に購入したという、モンブラン「マイスターシュテュック146」ブラック。
これは黒にしたんです。なぜか。保守的になりました(笑)
いくら良いと知ってはいても、手を出せないモンブラン、ペリカン。
モンブランとペリカンって、文豪が愛用していたイメージがあって、それに対するコンプレックスがすごくあった。僕みたいなこういうチャラい人間が使うとダメなんじゃないかって、今も思っていて。だからモンブランとペリカンはいくらいいといっても、僕ごとき使っちゃだめだろうと(笑)。それだったら、自分に波長が合うのは、基本ウォーターマンしかないっていう…。
キャップのヘッドマークに「W」のマークが入っているのがウォーターマンの証。
そっちにある意味逃げたのかな。こっち(モンブランやペリカン)のほうには行けないんですよ。
過去のいろいろな作家さんをみていると、大抵モンブランの149を愛用して、おまけ程度にウォーターマンを使っている。ウォーターマンでちょっと息を抜いてますよみたいな感じで。
多分、モンブランやペリカンを持つと自分が苦しくなるだろうっていうのはわかっていたからね。
それを思うと、本当にただの筆記具だけではない重みがあるような気がします。
ステーショナリーディレクターがいきついた、1役1本の万年筆の使い方。
土橋さん、普段愛用のものについてもお話しいただけますか。
実は普段愛用しているものはモンブランではないんです(笑)。
ペリカンの800とパイロットのカスタム823と、パイロットのキャップレスの3本です。
私は、万年筆に限らずペンには用途を決めています。書くといってもいろいろな「書く」がある。その「書く」を多機能ペン1本で済ませるのではなくて、それぞれの専用ペンを決めて、それで書くようにしているんです。
たとえば、このキャップレスはノックでペン先が出てくるものですけど、朝一の「今日、何をやる」というToDoリストを書く時専用のものなんです。
以前はボールペンでやったり、用途を厳密に限らず、「なんでもいいや」で書いていた時期があったんですが、1日のスタートを万年筆で決めたいと思ったんです。ToDoリストを万年筆で書こうと思ったときに、一般的なキャップ式だと面倒くさいんですよね。
万年筆って、持っていても、結構「死蔵」させてしまう、使う機会がないというのがあるけれども、ただToDoリストを書くという用途一つ決めるだけでも、1日10分ぐらいは書く時間があるので、しっかりと一本の万年筆と向き合うことができるんです。
土橋さん愛用の3本は左から、ペリカン「800」とパイロット「カスタム823」と、パイロット「キャップレス」
キャップレスは書斎に置いていて、だいたいToDoリストを書くのはリビングのソファで書くんです。
1日やることを書き出すATOMAのメモ帳とパイロット「キャップレス」の組み合わせ。
ノック式なので思いついたことをすぐにメモに落とすことができる。
そうです。ToDoを全部まとめて書いているものですね。あともう二本はペリカンM800とパイロットのカスタム823。ペリカンM800の方は
フルハルターの森山さん(東京・大井町にある万年筆専門店、店主。大手万年筆メーカーの品質管理アフターサービス部門を長年担当していた経歴の持ち主。使用する人にあったペン先に研ぎ出した万年筆を販売してくれる)のところで最初にデビューしたものです。どちらも原稿執筆専用の万年筆です。思考のスピードについてきてくれる万年筆です。
原稿執筆専用として愛用するとパイロット「カスタム823」(左)とペリカン「800」(右)
フルハルター森山さんにペン先研いでもらったことで「初めから手に紙に脳にフィットする書き味でした」と土橋さん。
日に日に進化するのが面白い! ペン先調整で味わえる格別な書き味。
最初の書き始めから気持ちいいという感覚でしたね。市販のものだと、ちょっと探りながらだんだん良くなってきたかなっていう感じなんですけど、これはもう最初から自分の角度にピタリといいところが分かっているみたいな感じで、それが書くとさらによくなってくるので、果たしてこの書き味はどこまでよくなってくるんだろうというのがありますよね。
だと思います。それは森山さんにも言われて、「今、とりあえずスタートラインに立つために調整しましたと。あとは、書くほどにもっとよくなってきますから」って言われた意味がよくわかりました。
そうです。原稿を書くので、ヘビーユースをする人はフルハルターさんで研いでもらうというのはいいかなと思います。最初からいい書き味で万年筆生活を送れるので。
うっとりする書き味は実は脳をロスさせている⁉︎ 愛好家が求める無になれる万年筆。
自分の場合のお気に入りは、ペン先がB(Broad=太字)の場合はやっぱりペリカンM800の仏壇。さっきも言ったとおり、視界の邪魔にならない。それが一番素直にいい。
ペリカン「M800」、オノト「マグナクラシック」、パーカー「デュオフォールド センテニアル」
800は本当にバランスがいいですね。バランスがいいものって、使っていて「あ、気持ちいい」ということがない。存在が消えるんですね。
気持ちがいいというのは、私は逆に脳をロスさせている気がします。考えるということよりも、気持ちいいという気持ちに脳を使っちゃっているから、考えるパフォーマンスをちょっと食っちゃっている。
スローライティングにはいいと思うんですけれども、スピードライティング的には弱点なのかなと思います。
書き殴るんだと、とにかくワーッと誤字脱字なんて関係ないんですよ。そうなると、あんまり意識がいかないですむペンとなると、気が付くと、まずボディとしては800になる。さらに気が付くと、仏壇になる(笑)。
丸善で去年買ったM(Medium=中字)オノト「マグナクラシック」ですね。ちょっと考えながらお手紙を書くとき一番使う頻度が高いのは、F(fine=細字)のパーカーの「デュオフォールド」の87年製かな。
例えば打ち合わせの時にパーッとサクサク細かく何かを書いていくときに向いています。土橋さんほどではないですけど、ニブの太さに応じて自分は使い分けています。
これは宛名書き用。中屋万年筆の輪島漆塗り「シガーモデル ロングサイズ」です。
装飾の一切ないつるりとしたフォルムが特徴。
土橋さんは試し書きの段階でその書き味にうっとりしたという。
使い心地いいですよ。漆って気持ちいいなと思いますね。これ、極太なんですよ。太くなればなるほど、接地面積が広いので書きやすいんですね。試し書きで極太とかをやると、天にも昇るような気持ちになるのに、買って家に連れて帰ると、意外に極太って使うシーンがないんですよ(笑)。
なので、もっぱら宛名書き専用になっています。
愛好家ならではの楽しみ方⁉︎ ルーペで覗くペン先の世界。
私、ルーペでペン先を見るんですよ
別に調整も何もしないんですけど、さあ書くっていう時に、ルーペで見てから書くんです。それは目的が二つあって、ペン先がどんどんいい感じでこなれていく状態になってきたぞという確認作業と、あとは意外にペン先が繊維を巻き込んでいて、書いたときに太い線になっちゃうことがあります。それのチェックです。
繊維の少ないティッシュ(キムワイプ)で拭きます。ルーペって面白いですよ。普段見たことないところが見られるので。
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