目の前で仕上がっていくライブ感がたまらない。 インク工房で自分だけの色を作ってきました!

取材日: 2015年12月4日

取材/廣瀬 文
写真/齋藤 創太

目の前で仕上がっていくライブ感がたまらない。 インク工房で自分だけの色を作ってきました!_image

メールやSNSでメッセージのやり取りをすることが多くなった今だからこそ、手書き文字にありがたみを感じる今日この頃。今回は手書き文字によりオリジナリティを加えてくれるだろう”自分だけのカラーインク”を作りに行ってきました。プロのインクブレンダー・石丸 治さんの登場です。

話術師のように軽快! 色の魔術師がナビゲートする色を創造する楽しさ

こんにちは。たまに取材でとった自分のメモが解読できないときがあります(た、達筆すぎて……)、編集部員Aです。

最近ではFaceBookやツイッター、メールで挨拶(お正月とかね)や近況報告ができてしまうデジタル化の進んだこの世の中。そのときの感情をリアルタイムで共有できるという面白さももちろんありますが、手紙やハガキに一筆したためて交わすコミュニケーションも文字にその人の個性がにじみでるようで面白いなぁと。手紙やハガキをもらう機会は減っても貰うとやっぱり嬉しい!

年賀状に限らず、誕生日カードや挨拶状、自宅の書き置きにしても、添えられている手書き文字に逆に新鮮さや温かみを感じる。そんな感覚ありませんか?

自分が書く立場のときは、限られたスペースに入れるワンフレーズにも何かしら自分らしさを出したい。手書きにこだわるなら、万年筆のペンタッチも味があるなぁ。

そんなことを考えていたところ、万年筆用のインクを作ってもらえるというイベントを発見! 万年筆を使って自分色のインクでしたためる。出来上がりを想像するだけでも気持ちが高まります。せっかくの機会だからこの連載名の目利き淑女っぽい色を作ってもらいたい!

MuuseoSquareイメージ
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今回お邪魔したのは、玉川髙島屋S・C南館にある伊東屋さん。 万年筆をはじめとした高級文房具から、伊東屋ブランドのオリジナルアイテム、カジュアルな筆記具まであらゆる種類の文具を取り揃える文房具専門店。ここ玉川店は2フロアの広いスペースで展開されています。

お店の一角で不定期に開催されるイベントが、万年筆の老舗ブランド・セーラー万年筆が主催する「インク工房」。インクブレンダーと呼ばれる調合のプロが、お客さんのリクエストに答えて即興でブレンドしてくれるというものです。

インクブレンダーはこちら、石丸 治(いしまる おさむ)さん。これまでなんと1万色以上ものインクを作り出してきた、その道のプロ、言わば色の魔術師のような方です! 

黒ベストに蝶ネクタイ姿。シェーカーを振るというスタイルがまるで老舗バーのバーテンダーのようでもあります。このスタイルはもしや、インク調合師の方みなさんそうなんでしょうか?

石丸さん(以下I):「(笑)違いますよ。シェーカーで調合するようになったのはここ10年くらいです。もともとは理科の実験で使われるようなメスシリンダー(懐かしい響き!)で測ってビーカーで混ぜて作っていたんですが、毎度毎度メスシリンダーを掃除するのも大変。この手間がなんとかならないものかなぁと考えていて、メジャーカップとシェーカーを使うことを思いついた。昔アルバイトでバーテンダーをやっていた経験がここで活かされましたね(笑)。この服装もイベントが開催されるようになってから、シェーカーでふるスタイルに揃えてみたんです」

編集部員A(以下A):「テーブルを挟んで座っていると『マスターいつもの頂戴』って言いたくなりますね(言ったことないけど)。しかし、バーテンダーのようにリクエストにこたえて即興で色を作るというのは難しくないんですか?」

I:「大学を卒業して就職してから、ずっとインク研究一筋。長いですよ。僕が若手として入社した当時、キャンディというカラーインクの万年筆が爆発的にヒットしてたんですね。
もともと、黒とか紺とかしかなかったところに、赤や緑のカラフルな色味が12色。次々と舞い込む発注を当時、僕と上司、少ない研究部員でこなしていたから。今改めて計算してみると1晩で一人で数千万円(⁉︎)の商品を作り出してたんじゃないかな(笑)。その経験があったから、即興でも作れるくらいになりましたね」

◆キャンディ万年筆とは◆
1976年にセーラー万年筆より販売されたカラフル軸の万年筆。1978年の発売開始2年弱で400万本を売ったという大ヒット商品。当時の万年筆軸には森の住人であるキャラクター・スマーフがプリントされていたものも。2011年にセーラー万年筆100周年を記念して「クリアーキャンディ」という名前で復刻された。

A:「やはり鍛え抜かれた経験があってこそのこのスタイルなんですね。そんな中でも難しいリクエストってないんですか?」

I:「あまりにも抽象的なイメージのリクエストだったり、お客さんの中で欲しい系統の色味が決まっていない時はちょっと難しいかな」

A:「すいません。私はまさにそんなお願いをしようとしています(笑)目利き淑女っぽい(違いのわかる女性の)イメージの色で……」

さて、ぼんやりとしたイメージの人、迷ってしまった人にはこんなお助けシートがあるようです。このシートも石丸さんが独自に占星術やカラーを勉強して編み出したもの! 色のネーミングも石丸さんのセンスが光ります。

迷い多き女性にはありがたい解説付きお助けシート! 金運アップもきになるな……。

迷い多き女性にはありがたい解説付きお助けシート! 金運アップもきになるな……。

こちらはカラーチャート。色の掛け合わせで出来上がる色味をチェックできます。

こちらはカラーチャート。色の掛け合わせで出来上がる色味をチェックできます。

I:「例えば、就職お祝いに送る場合は、成功運の上がるセイフティブルーとかね」

ちなみに同じ色で”記憶力”のパワーの意味もあるのか。最近物忘れがひどい私にはもってこいですね……。そして、なにやら気になる紙の束が……

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A:「これは何ですか?(一番右の紙)」

I:「これは紅酔鯨(べにすいげい)という名前の色です。酔鯨というのはゆったりと酔っ払ったクジラを意味するんですが、幕末の土佐大名・山内容堂(ようどう)という人のニックネームです。頭のキレる人だったけれど、それを隠すために日がなお酒を飲んでうつけを装っていた。その人を慕い尊敬する人たちが彼をそう呼んでいたんです。僕も彼のことが好きで、彼をイメージして出来上がった色がこの紅酔鯨です」

A:「面白い!で、実際書いてある文章、歌詞みたいなものは何ですか?」

I:「(笑)そうそう、これは僕の好きな歌のワンフレーズです。この歌も容堂のことを歌ってるんです。好きな曲から色をいろいろと想像する時間、そして、色に名前をつける瞬間も楽しいんです。僕の趣味創作のひとつですね」

そう語る石丸さんの表情から、このお仕事が好きなんだなぁということが感じられます。そしてこの歌詞と名前のチョイス、石丸さんのお酒も好きっていうのも感じられます(笑)。紅酔鯨ペーパーのお隣、横書きに英語で”All the leaves are brown 〜”とつづられたこちら、ピンと来る方はいるかも⁉︎ 60年代に活躍したアメリカのフォークグループの名曲の一部です。これは冒頭のフレーズから、茶色をベースとした色をつくったんだそう。

気になる単語を元に、自分だけのオリジナルインクを作る

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楽しそうに話してくださる石丸さんを前に、私も自分なりに作りたいイメージを色に落としていきたくなってきました!

I:「ちょっと一筆という使い方をされるなら、自分らしさ、好きなものを色にも出していった方がよろしいかと」

石丸さんの言葉に、胸の内に抑えていたもの、作ってみたいもののイメージが一気に解き放たれました(笑)

A:「石丸さん。私、青味がかった色が好きなんです」

I:「では青をベースに色味を調整していきましょう」

A:「私が色で表現したいのは”coquettish(コケティッシュ)”なんです」

目利きのイメージは何処へやら⁉︎  私の中で、目利き=冷静にものごとを見つめる=華やかな鮮やかさよりは少し落ち着いてはっきりとした色味という連想に。ブルーがベースなら紺やダークブルーを想像しますが……、実際に好きな色味とはちょっと違う。
ということで、かなりの方向転換です。

ちなみにこの時点で私は、このコケティッシュという言葉に、セクシーではないけれど少しファニーで小悪魔っぽい色っぽさを表す意味があると思っていました!(のちに、若干違うということが判明……)私の中でコケティッシュなアイコンといえば、若かりし頃のジェーン・バーキン(溢れそうな大きな瞳!ただの白Tシャツ姿もガーリーに見えるなんて!)ジーン・セバーグ(当時の流行りの真逆を行くような短髪のセシルカット。なのに中性的な色っぽさ)、そして加賀まりこ(あの何を考えているかわからない挑発的な瞳で上目遣いされたら……)。彼女たちは決して受け身ではなくて、自分なりの美学が意志があるようなところにも惹かれます。自分には真似できないものであり、憧れのアイコンが持ち合わせるエッセンス。せめてインクの色と文字で表現してみたい、そんな欲が密かにあったのです。

I:「なるほど。ご提案ですけれど、私が作った色の中にミステリアスブルーというものがあるんですが、これがちょっと艶かしいんです。その色からスタートしてアレンジしていきましょうか」

石丸さんが手際よく、まずはベースとなる青・スカイブルーのインク(WXブルー)を手に取り調合をスタート。

石丸さんが手際よく、まずはベースとなる青・スカイブルーのインク(WXブルー)を手に取り調合をスタート。

そこにほんのりと緑ベースの色味をスポイトで数滴パレットの上に垂らし、くるくると馴染ませます。作業中、見つめた石丸さんの指先はインクで染まっていることに気がつきます。これが10,000色の色を生み出してきたまさにプロの手なんだなぁと思わず見入ってしまいました。

I:「今日は、まだ仕事始めだから綺麗なほうよ。せっかくなら夕方に見てもらえたらもっと染まって見応えがあったかもしれませんね(笑)。では、こちらの色味から試してみてください。ミステリアスブルーのそのものだと面白みがないのでちょっと調整してみました」

A:「では、失礼します」

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I:「書いた瞬間は青い、でも紙にしみこんでいくとだんだんと緑があらわれてきます。僕なりにイメージするなまめかしさをプラスしてみたんですが」

A:「綺麗ですね〜。でも欲をいったらもう少し明るさと淡さが欲しいんですが」

I:「澄み切った明るいエメラルドグリーンも綺麗だけど、可愛らしい印象が強くなる。
艶かしさは弱くなりますね」

A:「なるほど、陰りがある方が艶っぽい……でしょうか。でも明るすぎずとも、もう少し可愛さが欲しい!(ジーン・セバーグに近づけるためにはもう少し可愛らしさを)」

I:「え、追加しちゃいますか?(笑)そうですね、もう少し可愛さを……。(お話をしながらパレットの上で微調整してくれます)では、書いた瞬間はかなり明るいブルー、染み込むに連れ落ち着いてくるこちらはどうですか」

MuuseoSquareイメージ
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A:「いいですね。……、でも、今度は逆にもう少し色に複雑さが欲しいかな〜。何が足りないんだろう」

I:「では、ほんの少しだけグリーンを足してみました。どうでしょう?」

A:「いいですね、いいですね!ガーリーだけど甘すぎない、そして色自体に主張もある感じ。自分なりのコケティッシュのイメージ色だと思います。これにします!」


石丸さんがメモを取っていた、色の配合比率のもとにボトルにつめるインクを作ってもらいます。ここでメジャーカップが登場。バーテンダー石丸さんが手慣れた手つきでインクをシェーカーへ。さあ、ここからシェイクタイム。

今日はいつもより多めに振っていただきました(笑)

今日はいつもより多めに振っていただきました(笑)

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ボトルに注いで、ラベルを貼って……。
出来上がり! をその場でいただきました! 

その色の名も「coquettish(コケティッシュ)」
石丸さん今までこの名前の色は作ったことがないそうです。(やった!)

さて早速、ブレンドしていただいたので、私も石丸さんに習ってこのインクで
コケティッシュなイメージの歌の歌詞や映画のセリフをしたためてみたい……。

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思い描いたイメージを色に落とし込む。石丸さんの軽快なトークにのせて、表現したいものが具体的な色として仕上がっていく過程はとてもスピーディ。ちょっとしたリクエストを汲み取ってすぐに調整してくれるのでオーダーしているこちらの気持ちもどんどんと高揚していきます。出来上がったインクは、石丸さんの作品でもありますが、オーダーして実現させた私の作品とも感じられてまさにリピート間違いなしのオンリーワンインクボトルです。
既製のカラーインクを使うのも楽しいものですが、自分のアイディアをもととしたものになるとまた格別。より自分の文字にも想いがこもる感じがします。サラサラとペンも走る走る。


このインクで誰かに手紙を送ってみたい! 自分の日記をつづるのも良さそう!
改めて、色の持つパワー、手書きをする楽しさを実感しました。

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File

セーラー万年筆インクブレンダーによる「インク工房」

インクブレンダー石丸さんが店頭で好みの色を調合してくれる、不定期開催の人気イベント!次回開催予定の詳細はセーラー万年筆のHPに掲載される”イベント情報”でご確認のうえご参加ください。
セーラ万年筆HP:(https://www.sailor.co.jp/

伊東屋 玉川店

普段使いからプレゼントまで、お気に入りの文房具を探すならこちら。2フロアの広々とした店内に目を引くアイテムがずらり。セーラー万年筆はもちろん、カラーインクのアイテムも取り揃えています。
東京都世田谷区玉川3-17-1 玉川髙島屋S・C南館3・4F
03-3708-1721
<月曜日~日曜日>10:00~21:00
伊東屋HP:(http://www.ito-ya.co.jp/

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