(手前から)カレン ガーネット・レッドST(ボールペン)、ジェントルマン100(万年筆)、ル・マン100(あるいは200。ボールペン)、ル・マン200 ラプソディ ベルベット(万年筆)、レタロン ディープグリーン(万年筆)、ウォーターマン・エレガンス アイボリーGT(ボールペン)
初めてのウォーターマンは御守り代わりの「レタロン」
最初に買ったウォーターマンは「レタロン(フランス語で駿馬の意味)」という名のボールペン。フリーランスのライターになってしばらくしてからのことだから、1990年代の初め頃だったか。
ただ欲しかったというだけでなく、ライター=筆記具=ボールペンという連想ゲームの末に、お守り代わりに購入したのだ。
とくに「レタロン」はデザインが流麗で気に入っていた。どうせ買うなら定価で買いたかったし、ちゃんとしたところで買いたかった。結局、伊勢丹新宿店の文具コーナーで購入した。
「レタロン」のスターリングシルバーとゴールドプレートのボールペン。御守りがわりに金と銀とペアで持ち歩くことが多い。1990年代半ばに購入。
当時、モンブランのボルドー軸のボールペンを使っていたが、どこかで紛失してしまい、これを機に、昔から憧れていたウォーターマンが欲しくなったのだ。
その後、「レタロン」の万年筆や「カレン」のボールペンを購入し、さらに古い「ル・マン200」や「ジェントルマン100」のボールペンと万年筆を買い揃えていくなど、ますますウォーターマン熱は高まっていった。
1980年代初頭まであった「CF(カートリッジフィラー)」や「ウォータミナ」というモデルにも心惹かれた。しかしこれらのモデルは現在市販されているカートリッジやコンバーターが合わないため、しかたなく断念。
この「レタロン」の2本は、20年以上前に買った「ボッテガヴェネタ」のマルコポーロシリーズのペンケースに入れて携帯している。
その「ウォータミナ」のデザインを踏襲し、現代のウォーターマンらしさで仕上げたのが「ウォーターマン・エレガンス」だ。
アイボリーのラッカー仕上げにゴールドをあしらった上品で装飾的なモデルで、デザインはファッションデザイナーでもあるベアトリス・フォンタナ女史。ウォーターマンが向かうべき一つの道かなと思い、少々高かったが奮発して購入した。
カーブを描いた形で知られる「ウォーターマン・セレニテ」と替わるように登場したのが、この「ウォーターマン・エレガンス」だ。デザインの源泉は1980年代前半まで製造されていた「ウォータミナ」と思われる。短めのキャップや尻軸の形が似ている。
ウォーターマンとはどのようなブランドなのか
ご存知のようにウォーターマンは世界で初めて毛細血管現象を応用した万年筆を世に送り出した老舗メーカーだ。
あまり知られていないが、いち早く14金のペン先を作ったり、クリップを付けたり、カートリッジを開発して1935年に特許取得したのもウォーターマンなのだ。
そんな歴史的な背景から、ウォーターマンの万年筆には好んでカートリッジを使っている。カートリッジを使うと、なんだか素人のような、本格的ではない雰囲気すら漂う昨今である。
そんな行き過ぎた本格志向に「ウォーターマンならカートリッジを使っても文句ないだろ!」的な一石を投じている自覚もある。
「ル・マン200」をベースに軸をマーブル模様に仕上げた、優美な「ラプソディ ベルベット」の万年筆。小ぶりなサイズ感が日常使いにぴったりで気に入っている。
「ル・マン100」、「ル・マン200」は一昔前(1980年代~’90年代)のウォーターマンの顏だった。
ウォーターマンは、常にデザインと戦っている
発売当時は画期的だったに違いない流線型の「CF」だが、その曲線美は最高級ラインの「エドソン」に受け継がれ、「カレン」に脈々とそのDNAは継承されているのである。
他社が表層的なデザインに力を入れているのに対して、ウォーターマンは形そのものを作り出す数少ないメーカーなのだ。そういったモダンな発想もウォーターマンに魅せられている理由なのだと思う。
ウォーターマンは高品質を堅持しながらも、常にデザインと戦っている感じがする。
「CF」も当時としては画期的なモダンデザインだったに違いない。その後の、カーブを描いた「セレニテ」や四角形の「エクセプション」、直線を生かした「パースペクティブ」など、形というデザインを追求し続けている稀有なブランドなのだ。
しかしその一方でモンブランの「マイスターシュテュック146」「マイスターシュテュック149」やペリカンの「スーベレーン600」「スーベレーン800」といった誰でも知っている定番のロングセラーモデルが少ないのも事実。「カレン」と「エキスパート」がその役目を担っているのだが、他社と比べてインパクトも小さく、カラーバリエーションが多すぎる。
そろそろまったく新しいデザインの新作を発表してもらいたいところだが、その前にやはり「ル・マン100」と「ル・マン200」は復活させるべきだと思う。
この2種類と「カレン」を絶対的な定番モデルとして定着させ、その一方で、もっとぶっ飛んだモダンな最上級モデルの万年筆を手掛けてほしい。
ウォーターマンはインダストリアルデザインのDNAを継承するブランドなのだから、常に進化し続けなくてはならないのだ。
ーおわりー
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終わりに
モンブランやペリカンの万年筆の愛用者は多いと思うが、著名な作家が愛用していた歴史もあり、文学の匂いがするというか、ヘビーユーザーでないボクが使うのにはちょっと気が引ける。その点、ウォーターマンは以前からデザイン性が高くて他社ブランドにはない魅力があるのだ。しかも現代の万年筆の生みの親でもあり、ステイタス感もそれなりにある。とくにウォーターマンは機能性で語る筆記具ではない。持ち歩いているだけでも楽しいのだ。廃番になったモデルから現行品まで、すべて揃えてみたい衝動に駆られている。