ロックな日にオープン。空間の細部にまで行き渡る岡田さんのテイスト。
4年前の2012年6月9日に、クリエイティブディレクターの岡田亮二さんによって外苑西通り沿いにオープンしたテーラーが、今回紹介するLOUD GARDEN(以下ラウドガーデン)。
オープンした日にちからもわかるように、岡田さんはロックが好きなのだ。
そんな世界観をところどころに反映させたウィンドウや店内のディスプレイは、アバンギャルドなテーラーという言葉がよく似合う。地元に住んでいるお客さんも当初はレコード屋さんと勘違いする方も多かったとか。
最近のテーラーは路面店ではなくビルの上の階にある場合が多く、たいていは予約制。お客さんが来店したときに店舗になり、通常は仕事場として工房になっている。
ラウドガーデンが路面店にこだわる理由は、これまでのテーラーとは異なり、提案型のテーラーだからだ。つまり春夏と秋冬の年2回、コレクションブランドのように新作を発表する。新作と言っても既製品ではなくオーダーメイドの服だ。たとえばシーズンごとに新作10型(コート、スーツ、ジャケットなどの重衣料)ほどを岡田さん自らがデザインし、すべてサンプルを作る。
そのサンプルをウィンドウディスプレイしたり、店内でトルソーに飾ったりするのだ。
新作のお知らせは、ダイレクトメールや、年4回郵送しているイラスト入りのカタログ(A4サイズの二つ折り)で知らせているのだ。このカタログのテキストも岡田さんが担当。できる限り自分の世界観を妥協しないで表現しようとしているのだ。
ラウドガーデンの近くには住宅街も多く地域密着型なところがある。そのため地元のリピーターが多いのだが、路面店のため、ふらりと新規のお客さんが入ってくることもあるという。そのため、テーラーでは珍しく予約制ではない。どちらかというとテーラーと普通のブティック的な要素を兼ねている感じである。
ショーウィンドウを前に「ここは何のお店だろう」と足を止める人も少なくない。
棚には生地バンチブックとともに岡田さんの愛するアーティストのCDや写真集が並ぶ。
毎シーズン発行しているカタログ。デザインや写真、文章も全て岡田さんが手がけている。
ラウドガーデンの定番柄・ハートカモがフレーム内側に施されたアイウェア。
もし気に入ったモデルがあれば、そのデザインと同じものを、あるいはその新作モデルを参考にして似たデザインのものをオーダーするしくみだ。
新作の中には変わらないベーシックな定番のスーツもあるが、前作のモデルのボタン位置やゴージラインを少しアレンジしたり、ラウドガーデンらしい遊び心をどこかに反映させたモデルが多い。
サンプルの素材にはそのシーズンの新しい服地を使い、あくまでも岡田さんの考える“旬のデザイン”と“旬の服地”を提案するのである。そのため、縫製を国内の優秀な縫製工場に出すことで、お客さんがその季節内に着用できるように一ヶ月半でお渡ししている。この発想は普通のテーラーにはない。
もちろんテーラーであるから、注文主の体型に合ったものを提供している。初めてのお客さんの場合、じっくり話し合い、どんなスーツやジャケットにしたいか時間をかけて決めていく。
サイズの合うゲージ(試着用のサンプル)を着てもらい、岡田さんが体型補正をしていく。具体的には余分なシワをピンで留めていき、美しいラインのスーツを完成させていく。その補正データをオーダーシート(補正の指示書)に書き込んでいき、お客さんだけのスーツを完成させるのである。通り沿い側にウィンドウがあるため自然光の下で服地の色柄を確認できる。細かなことだがお客さんには有り難い。
ウエスト中心部の生地の切り替え、首元と裾のカッティングが英国国旗を彷彿とさせるデザイン。
先ほどラウドガーデンらしい遊び心といったのは、たとえばポケットや服地の切り替えを中心に向けることで、“ユニオンジャック”に似せたデザインを取り入れるなど、どこかにロックテイストを反映させているのだ。
ちなみに以前、岡田さんは英国王室御用達(ロイヤルワラント)のGieves&Hawkes(ギーブス&ホークス)の日本での企画をやっていたこともあり、現在でもイギリスのスーツがデザインのベースだ。
一見するとアバンギャルドにも映るが、伝統的な縫製やカッティングからは外れていない。ディテールでは、シングルブレストのピークドラペルやカッタウェイフロント、直線を生かしたシルエットなどを反映させている。
「1990年頃にアメリカのヴィンテージウエアが好きで古着屋で働いていた時期がありました。当時は紺ブレ(ネイビーのブレザー)ブームということもあり、ブレザーやツイードといったイギリス源流の古着にも触れる機会がありました。大学生のときに音楽が好きだったので、ラウドガーデンで提案しているモデルも、クラシックなブリティッシュスタイルとロックのテイストがミックスしているのだと思います」と岡田さん。
◆ギーブス&ホークスとは◆
1771年に設立された英国王室御用達の老舗テーラー。メンズテーラーの聖地ともいわれる紳士服仕立街「サヴィル・ロウ」の一番街に本店を構える。
取材当日の装いはダークカラーの一見落ち着いた印象の3ピース。ジャケットを脱ぐとベストの背中に真紅のバラが咲き誇っているようなデザインが登場する。
ジャケットの裏地はもちろんのこと、ポケット、襟裏、袖ボタンなど「こんなところにも!」と見つけて嬉しくなるようなところにまで岡田さんのこだわりが詰まっている。
◆カッタウェイフロントとは◆
前裾を大きく切り落とした(Cutawayカッタウェイ)スタイル。イギリス貴族の乗馬服に由来するモーニングコートのデザイン。
才能溢れるデザイナーが集い、新しいものが生まれる場をつくりたい。
ビスポーク靴職人 厚井康宏さん
ラウドガーデンのユニークなところはデザインだけではない。オープン当初考えていたことは、若い職人の才能が競い合うような空間にしたかったそうだ。
取材当日もエスモードジャポンの若いデザイナー志望の方のワンピースが飾られていた。また、ビスポーク靴職人の厚井康宏さんの受注会(隔週金曜日)とリペアを行っていた。ビスポークシューズ(仮縫い付き、フルハンドメイド)19万円+税~。ともにオーダーメイドでの受注なのだが、若いデザイナーや職人にもチャンスを与えている場所になっているのだ。
その背景には以前の職場で運よく自らデザインした作品を、Pitti Immagine Uomo(ピッティ・イマジネ・ウオモ)に出展できたという経緯がある。だから若い人にもチャンスを!なのである。ただし1アイテム1アーティストと決めているそうだ。
「僕自身が音楽好きということもあり、普通のテーラーとは少し違うお客様が多いかもしれません。僕もそうですが、お客さんもスーツをオーダーするプロセスを楽しんでいる感じがします。お互いに、ああしよう!こうしよう!とか意見を出し合って、まるでジャムセッションのようです(笑)。もちろん普通のビジネススーツをオーダーされるお客様も多いです。初めてのお客様が来られてもいいように、毎日お店には出ています」と岡田さん。
◆ピッティ・イマジネ・ウオモとは◆
イタリア・フィレンツェ(Fortezza da Basso)で開催される世界最大級のメンズファッション展示会。世界各国のバイヤーが買い付けや若手発掘に来る場。
クラシッククロージングを一層楽しむために。編集部おすすめの書籍
現在の変貌する紳士服の聖地「サヴィル・ロウ」を象徴する全11テーラーを紹介
男性の多様性を称えるファッションの写真集
LOUD GARDEN
LOUD GARDEN(ラウドガーデン)の特徴は、ズバリ遊び心。テーラーと普通のブティック的な要素を兼ね備えており、店内に展示しているモデルはイギリスのスーツがデザインのベースとなり、そこに店主こだわりのロックテイストが反映されている。一見アバンギャルドのようだが伝統的な製法やカッティングを行っている。オーダーを受けたアイテムは、その季節内に着用できるように、なんと一ヶ月半でのお渡しもしているという。これは普通のテーラーでは考え難い期間である。また、お店はテーラーでは珍しく予約制ではないため初心者でも来店しやすいおすすめの一店である。
終わりに
岡田亮二さんの取材は、以前お勤めのお店に数回、ラウドガーデンは2回目。岡田亮二さんの趣味は音楽。“無人島に持っていく究極の一枚”を探し求めているため、年間200枚も300枚もディスクを買い求める日々だそうだ。憧れのニック・ケイヴとブルース・スプリングスティーンにラウドガーデンのスーツを着てもらうのが彼の夢なのだ。彼はロックな人なのだが真面目な人でもある。だから毎日ブログを更新したり、せっせと指示書を書いたり、とにかく忙しい人(笑)