サッカーのユニフォームに宿る不思議な力とは?

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取材・文 / 井本 貴明
写真 / sonoda satoshi

1994年、真夏のアメリカ。
灼熱のピッチで、青色のユニフォームを身にまとったポニーテールの男は右足を振り抜いた。
ボールがゴールマウスの遥か上に飛んだことを悟った瞬間、その男は腰に手を当てて視線をピッチに落とした。その横では黄色のユニフォームの男たちがお祭り騒ぎをしている。

私が初めて観たワールドカップでのラストシーンだ。

その映像に映る青色(アズーリ色)と黄色(カナリア色)は、はっきりと覚えている。今でも、イタリア代表、ブラジル代表のユニフォームを目にすると、そのシーンが蘇ってくる。

サッカーのユニフォームには、ウエア以上の”何か”が存在すると昔から思っている。
その”何か”が知りたくて、サッカーのユニフォームをコレクションにしているchibaggioさんを訪ねてみた。今回はサッカーを愛してやまないChibaggioさんに、こだわりのユニフォームコレクションについて聞いてみた。

コレクション・ダイバー【Collection Diver】とは、広大なモノ世界(ワールド)の奥深くに潜っていき、独自の愛をもってモノを採集する人間(ヒト)を指す。この連載は、モノに魅せられたダイバーたちをピックアップし、彼ら独自の味わいそして楽しみ方を語ってもらう。

カナリア色のユニフォームとの偶然の再会

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chibaggioさんとは、共通の知人を通して知り合った。サッカーユニフォームのコレクターであり、30枚〜40枚ほどのユニフォームを所有している。また、自身も幼少時代からサッカーをしており、中学時代にはドイツのジュニアユースチームへ約2年間のサッカー留学をした経験もある。

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「初めて買ったユニフォームは、1994年のブラジル代表のユニフォーム。周りの友達がイタリア代表のユニフォームを持っている人が多かったので、僕はブラジルにした」

chibaggioさんが中学2年生の頃の話だ。そう言って、引き出しからカナリア色のユニフォームが出てきた。

まさかの偶然。私が初めて買ったユニフォームは、1994年のイタリア代表のユニフォームだ。冒頭で話した黄色(カナリア色)のユニフォームを目の前にして、不思議な縁を感じる。

サッカーユニフォームの楽しみ方とは?

chibaggioさんのユニフォームの楽しみ方は、大きく3つ。

1:壁に飾り、眺めて気分を上げる。

chibaggioさんの部屋では、綺麗にユニフォームが壁に飾られている。3ヶ月に1回、持っているユニフォームを気分に合わせて取り替えるそうだ。現在は、ドイツ代表やバイエルンなどのドイツ関連がたくさん飾られているが、その前は、スペイン代表、バルセロナなどが多かったらしい。

2:フットサルや、息子とサッカーをする時にスポーツウェアとして着る。

フットサルで着るユニフォームはほぼ決まっている。よく着るのはアルゼンチンのアウェーの紺色、レアルマドリーのアウェーの紺色。白色のユニフォームは着ない。理由は、フットサルで汚れても目立たないようにするため。

3:試合観戦の時に着る。

日本代表の試合の時には、サムライブルーのユニフォームを身につけて、自宅のテレビやスポーツバーで応援をする。2014年のブラジル大会では、初めて息子とお揃いのユニフォームを着て日本代表を応援をした。

歴代の日本代表ユニフォーム。一番古いのは、98年のワールドカップ予選。伝説となったジョホールバルの奇跡で着用したモデル。

歴代の日本代表ユニフォーム。一番古いのは、98年のワールドカップ予選。伝説となったジョホールバルの奇跡で着用したモデル。

lotto、DIADORA、kappa、umbro。懐かしい時代のユニフォーム。

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壁に飾ってあるユニフォームの中で、1つだけ見たことのない白と水色が基調のユニフォームがあった。

「高校時代に住んでいた札幌がミュンヘンと姉妹都市だったので、サッカー留学に行ける機会を手に入れました。最初は、バイエルンミュンヘンでプレーできると思っていたのに、ミュンヘンに着いたら、同じ街にある別チームであるTSV1860ミュンヘンにレンタルされた。聞いたこともないチームでショックでした」

白と水色のユニフォームは、20年ほど前のTSV1860ミュンヘンだった。実際に自分が所属したヨーロッパクラブのユニフォームが飾られているコレクターの部屋は、そうはないだろう。

chibaggioさんとサッカー談義をしていると懐かしい単語が聞こえてくる。

「ロット、ディアドラ、カッパ、アンブロ」

この単語の意味が理解できる人は、相当な昔からのサッカー通だろう。これらは、サッカー用品のスポーツメーカーだ。lotto(ロット)、DIADORA(ディアドラ)、kappa(カッパ)、umbro(アンブロ)という名前で、昔のユニフォームの右胸には刺繍されている。

chibaggioさんは、世界のサッカー選手が着ているユニフォームを通して、それらのスポーツメーカーの存在を知った。そして、メーカー毎にユニフォームの形やデザインに特徴があり、それが楽しかったと言う。

現在のサッカーシーンは、Nike、Adidas、PUMAのユニフォームがほぼ占めており、似たような形になっている。昔からのサッカーファンとしては、少し残念である

デザインから選ぶ、好きなサッカーのユニフォーム

オランダの代表のユニフォーム。年代ごとの違いを説明してくれた。

オランダの代表のユニフォーム。年代ごとの違いを説明してくれた。

ユニフォームをデザインの観点から聞いてみた。
chibaggioさんが一番好きなデザインは、オランダの1992年のユニフォームだ。オレンジの生地の中に透かしで、オランダサッカー協会のライオンのロゴが入っている感じが好きなのである。

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「オランダは、8年の間、ほとんど同じようなデザインを採用しています。しかし、よく見ると透かし部分のロゴが変化している。こうやって、国として統一されたデザインを長い間採用し、その中で少しづつ変化をしている国は好きですね。オランダ以外ではイタリア代表のユニフォームもデザイン的に好きです」

ちなみに、私はデザインで言うと、ストライプ柄、ボーダー柄が好きだ。ユベントスの黒x白のストライプ柄、セルティックスの緑x白のボーダー柄が好みである。セルティックス時代の中村俊輔が少し大きめの長袖ユニフォームを身にまとい、オールド・トラフォードでFKを決めた試合は、最高だった。

あの選手の好きだったプレーが思い出される、記憶のスイッチ。

最後に、サッカーのユニフォームを集める魅力を聞いてみた。

「好きなシーンを保存できることですね」

chibaggioさんは、好きな選手のプレイ姿を記憶に残したかった。DVDやYouTubeで保存することも考えたが、ユニフォームに”保存”することを選んだ。

「ユニフォームを眺めると、その選手の得意なプレー姿が思い出される」

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そう語りながら、手にしたオランダのユニフォーム。背中には背番号3が付いている。chibaggioさんが大好きな選手、フランク・ライカールトのユニフォームだ。

「ライカールトは、マルコ・ファン・バステンルート・フーリットと比べると地味なプレースタイルだが、チャンピオンズリーグ決勝やTOYOTAカップなどの大事な場面で点を取っているので、勝負強いイメージがある。僕も現役時代はボランチをやっていたので、後ろから全線に駆け上がって点を取るライカールトが憧れでした」

きっと、chibaggioさんの頭の中では、短めのドレッドヘアーをしたライカールトが中盤で相手からボールを奪い取り、そのまま全線に駆け上がってゴールを決めているシーンが思い出されているのだろう。

chibaggioさんが持っているユニフォームをあらためて眺めてみる。
ロナウジーニョがライン際で仕掛けるエラシコ
いつも襟を立て、王様のようなプレーをするエリック・カントナ
パベル・ネドベドの戦車のような力強いドリブル。
デンマーク相手に叩き込んだ、本田の無回転のフリーキック。

ユニフォームの一枚一枚から、様々なシーンが蘇ってくる。

私が疑問に思っていた、サッカーのユニフォームが持っている不思議な力の正体が分かった瞬間である。

ーおわりー

左からカメラマン、chibaggioさん、ライターの3人で。各自持参したお気に入りのユニフォームを着て撮影。

左からカメラマン、chibaggioさん、ライターの3人で。各自持参したお気に入りのユニフォームを着て撮影。

みんなで”ラウール”のポーズ。

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公開日:2015年6月24日

更新日:2021年11月25日

Contributor Profile

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井本 貴明

いろいろなWebサービス作っています。 浦和レッズ、ヨーロッパサッカー中心の生活。 何か面白い企画があったら、ぜひ仲間に入れてください! 好きな映画は、「LOST IN TRANSLATION」。

終わりに

井本 貴明_image

サッカー好きの僕にとって、楽しい取材でした。
chibaggioさんは僕と同世代なので、好きだった選手にも共通点がたくさんあり、長い時間、サッカーの話をしていました。
僕も昔はユニフォームを買っていたのですが、気づいたら実家に置いたまま。久しぶりに、昔のユニフォームを眺めたい気分になりました。ちなみに、僕が好きな選手はイニエスタです!

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