得体のしれない存在として描かれる怪獣たち。だが、画面を抜け出し、ソフトビニール人形(以下ソフビ)になるとかわいらしさが生まれる。お笑い芸人のなべやかんさんもソフビを愛する1人。中でもブルマァク、マルサンのソフビは力を入れて集めているそう。怪獣フィギュアを集めて36年というなべやかんさんに、ブルマァクフィギュアの魅力について伺った。
ガンプラブームの最中、世代ではない怪獣フィギュアの世界へ
なべやかんさんが怪獣フィギュアに興味を持ち始めたのは小学5年生、1981年のころ。当時はガンプラ(ガンダムプラモデル)が流行っていた。少年時代のなべやかんさんもガンプラが好きで改造方法や塗装方法の研究に余念がなかったが、一冊の雑誌で怪獣に興味をもつことに。
「ホビージャパンという雑誌のある号にメカゴジラをフルスクラッチで作ったという特集が載っていて。その記事を見てメカゴジラを直感で「かっこいい!」と思って、その日からガンダムではなく怪獣に惹かれるようになりました」
なべやかんさんが怪獣に興味を持つきっかけとなった雑誌「Hobby JAPAN」
しかし、第三次怪獣ブームがあったのは1978年〜1980年。ブームも過ぎ去っており、今と違い検索すればほしい情報が手に入る時代でもない。
「専門の雑誌もないので、おもちゃ屋や神田の古本屋に毎日のように足を運んでいました。引きこもっていたって、ビデオを見るしかないので。だったらあっちこっち行ってみようと」
ある日、足を使って情報を集めていた少年時代のなべやかんさんは一体の怪獣フィギュアと出会う。
「下北沢にあった2丁目3番地というおもちゃ屋で、ポピーという会社のキングザウルスシリーズを仕入れて売っていたんです。本当はメカゴジラが欲しかったんですけど、入荷していなくて。キングザウルスシリーズのゴジラだったら飾ってもいいなと思って購入しました」
「でも、メカゴジラがやっぱりほしいからお店に通うんです。最初ほしかったメカゴジラが手に入るまで1年近くかかりました。最初にメカゴジラを買っていたらこんなに集めることにはならなかったかもしれないですね」
ポピー キングザウルスシリーズ ゴジラ
お店に来るのは大学生や社会人ばかり。1966年~1968年にあった第一次怪獣ブームを経験してきた人が多く、そういった環境がなべやかんさんに与えた影響は大きい。
「お店に来ていた人はマニアの人が多かったんですが、ある時「僕らの世代は怪獣フィギュアと言えばマルサンやブルマァクなんだよ」と話を聞くことがありました」
「実際に見てみるとゴジラもデフォルメされてて、最初はとてもゴジラには見えなくて。でも、リアルではないデフォルメした造形美もよいなとだんだん思うようになりました。ブルマァク、マルサンの特有の飾ったときの存在感も気に入っていて、今では数え切れないほど所有しています」
解説:マルサンとは?
日本の玩具メーカー。正式名称はマルサン商店。初の国産プラモデルを世に出したことで知られている。1966年にウルトラマンに登場する怪獣たちのソフビを製作し大ヒット。1967年にはマルザンに名称を変更。ウルトラセブンの放送が終わったと同時に怪獣ブームも過ぎ去り、1968年に倒産。
解説:ブルマァクとは?
日本の玩具メーカー。雄牛のロゴがトレードマーク。石田幸太郎と鐏(いしずき)三郎、柴田豊の元マルサン社員によって1969年に設立。ウルトラマンやウルトラマンセブンの再放送が始まった際に、マルサン時代のソフビを再び販売し始めて売り上げを伸ばした。1977年に倒産したが鐏三郎により2008年に再興。2009年からはオンラインショップで復刻版ブルマァク製品などを販売している。
なべやかんさん所有のポップで可愛いソフビから一部をご紹介
その後、コレクター魂に火がついて数多くのソフビを収集するようになったなべやかんさん。棚にはところ狭しと怪獣たちが並ぶ。
「カラーリングはブルマァク、マルサンフィギュアの大きな魅力の1つです。怪獣ごとにたくさん色があるんですけど、どの色も好きで選べないですね」
ゴジラ
(左から)ブルマァクのハワイバージョン、ブルマァク製のもの、マルサンの量産型として発売されたもの、マルサンの初期(一期)に発売されたもの
尻尾のカーブも少しづつ違っている
パラゴン
発売時期によって色が違っているパラゴン。例えば、夏は湿気があるのでスプレーで吹かれた塗料に艶がない。
キングマイマイ
オリジナルの色は青色。黄色は「帰ってきたウルトラマン」で登場した怪獣「ツインテール」の、当時発売されていたソフビに合わせて塗られたサンプル品
「なぜ」という疑問を解消するのも、ソフビを集める上での楽しみ
コレクションを見せてもらっていると、ヴィンテージと復刻版とで色や見た目が違うことに気がついた。例えば、快獣ブースカならば復刻版ではピンク色なのに対し、ヴィンテージはオレンジ色だ。
快獣ブースカのソフビ
「左端のピンク色は復刻版。真ん中はマルサンの初期に作られたブースカで、顔と胴体を変えてのちに作られたものが右。右のブースカは女の子にも買ってほしいということで、当時ピンク色も出ていたんです。だったら、初期のブースカの見た目でピンク色があってもよいんじゃないかということで復刻される時にピンク色になったんです」
怪獣ソフビの一体一体に「なぜこの色なのか」という理由があるそう。そういった「なぜ」という疑問を解消するのも、なべやかんさんがコレクションを続ける理由のひとつだ。
「マルサンのゴジラの足の裏には、版権刻印がついているんです。両足についているものと、両足ともにないものを持っているんですけど、片足しか刻印がないものも含めると4パターン存在します」
両足に版権刻印があるゴジラ
「なぜ4パターンもあるかと言うと、ゴジラは人気があるから何十万個と作られたんですね。ソフビは頭部や足などバラバラに金型で作って後で組み合わせていました。刻印がないからといって偽物というわけではないんです」
外に出たからこそ得ることができた、ソフビの知識
なぜ、そこまで知識があるのだろうか。どうやって知ったんですかとたずねてみる。
「ブルマァクの創業者である鐏三郎さんに電話して聞いたんです」
底知れない探求心を持った少年はどこにでも出向いた。自分の所有していないソフビを持っている人がいると聞けば、その人を知っている人を通じて電話をかけ、所有するコレクションを見せてもらったりもした。特撮の撮影現場にもたくさん足を運んだ。つながりをもてばたどっていき、いつしか雑誌「怪獣倶楽部」のメンバーとも知り合い、ブルマァクの創業者である鐏氏までたどり着いた。
「つながりをもつためには足で稼がないと」。
実際にソフビを企画をしていた鐏氏から聞いた話だとしたら、まず間違いはないだろう。
真偽のわからない情報が出回っているから、本当のことを伝えたい
「ポピーしか知らなかった人間がブルマァクを知ってしまうのもそうですが、「新しいことを知る」のは刺激的ですよね」
そう話すなべやかんさんには、近いうちにやりたいことがあるそう。
「ブルマァクフィギュアを含めた、アンティークおもちゃに関する本を作ろうと思っているんです。昔は下北沢のそこかしこにアンティークおもちゃを取り扱うお店がありました。オムライスに2丁目3番地、懐かし屋、ヒーローズ。でも、すべてなくなってしまった」
「ショップがなくなると詳しい専門知識を持っている人とコミュニケーションを取る場がないから、情報の真偽がわからなくなってしまう。だから、偽物なんかが世の中に出回ってしまっている。小学生だったころよりも、今はわかっていることがたくさんあるので、本当のことを書籍を通し伝えたいです」
コレクションが隙間なく並べられている棚に目を向けてみると、怪獣たちの表情がそれぞれ違うことに気がついた。塗装のばらつきがあったり、部品の組み合わせが異なっていたりする。同じではないからこそ、「なぜ違うのか」という疑問が生まれ、それを知りたくなる。なべやかんさんのコレクションルームからは、探求する楽しみがにじみ出ていた。
ーおわりー
トイ・フィギュアを一層楽しむために。編集部おすすめの書籍
なべやかんさんのコレクターとしての姿をもっと知りたいかたは必見!
懐かしのウルトラシリーズとゴジラシリーズの希少怪獣ソフビを一挙614体掲載
終わりに
コレクションの棚を見せていただいた時、ハローマック(2009年に撤退したおもちゃ屋)のチラシを見てワクワクしていた子どもの頃の記憶が蘇ってきました。まるで夢のような部屋!怪獣一体一体の特徴をお話できるなべやかんさんの探究心にも感服。カラーリングのお話をはじめ「そうなんだ!」という驚きが多く、目が輝いてしまいました。