怖いがゆえに惹かれる物がありました。初めて怪獣映画を観た時は、家に帰りすぐにその怪獣の絵を描いたぐらい熱量がありました
怪獣ミュージアム館長の原坂一郎さん。元怪獣博士というだけあり、豊富な怪獣の知識を教えてくれました。
Muuseo(以下mso):怪獣ミュージアムの成り立ちを教えてください。
怪獣ミュージアム(以下原坂):僕が4歳の時に初めて、何も知らされない状態で「モスラ」という映画を家族で観に行きました。その映画でモスラを観て「この世にこんな動物がいるのか!」「何だこの大きな卵は!」と驚きましたね。怖いがゆえに惹かれる物がありました。コワカッコイイみたいな感じです。
映画館から家に帰り、すぐにモスラを思い出しながら絵を描いたぐらい熱量がありました。
翌年、「キングコング対ゴジラ」という、当時の日本人の8人に1人は観たと言われるほど人気のある映画を見ました。ゴジラを観て、もっと驚きましたね。さらに興味を持ちました。さらにしばらく経って、キングギドラが出てくる映画を観ました。3つの顔がある怪獣なのですが衝撃を受けるほどカッコ良く、今でも自分の中で一番好きな怪獣です。
そうこうするうちに、「ウルトラQ」という怪獣がたくさん出る30分のテレビ番組が始まり、続いてウルトラマンが始まって、やっと世間に怪獣ブームがやってきました。日本中が怪獣ブームになった頃には、私は怪獣博士になっていましたね。当時は日本各地に怪獣博士と名乗る少年がたくさんいましたが、私がメディア公認の第一号のはずです。なにしろ、怪獣の爪やキバなどの一部分でも名前が分かる。怪獣を見ると登場した放送日が言える、放送順が言える。怪獣の身長、体重が言える。そしてユニークだったのが、20秒でその怪獣の絵を描く事が出来ました。そのようにして「ちびっこ怪獣博士」としてテレビや新聞に引っ張りだこだったんですよ。
怪獣ブームが訪れてからは、怪獣のノートやレコード、本、図鑑、写真集等のグッズがたくさん発売されたので、片っ端から買って行きました。誕生日やお年玉では、必ず怪獣のグッズを買っていましたね。
そして、買った物を捨てなかった。これがコレクターとしての重要なポイントですね。
僕は「怪獣」と同じぐらい好きだったのが「子供」だったので、大学を卒業した後、保育の世界に入りました。当時では本当に珍しかった男性保育士となったのです。
保育の世界でも怪獣好きは大いに役に立ち、子供と一緒に怪獣の歌を歌ったり、ピアノを弾いたり、怪獣の塗り絵を作ったりしていました。
その保育園を23年間努めたあと独立し、「KANSAIこども研究所」を立ち上げました。その事務所を作る時に「自分らしいもの」そして「子供が喜ぶ事務所」を作ろうと思い、デザインは3分で思いつきました。とてもユニークな外観の建物が出来あがり、2階のフロアが空きましたので、昔からやりたかったミュージアムをやろうと考えました。
怪獣グッズは小学生時代から集め続け、倉庫や自分の部屋に飾っていました。昔から、それらを一堂に飾りたいと思っていたので、私設ミュージアムが出来た事で私の夢が叶いました。
今年で怪獣ミュージアムを開設して、10年目になりますね。
子供の頃から、リアルタイムで購入して集めました。僕は当時の子供のお小遣いで買える範囲の物だけを買っていました
約1000体のフィギュアが展示されています。自分の好みの怪獣を探すのが楽しい
mso:怪獣ミュージアムに展示してあるコレクションの数はどれぐらいになりますか?
原坂:人形で1000体。本、雑誌、プロマイド写真、ソノシート、ポスターなどの紙物が合わせて4000点ぐらい。なので、全て合計で5000点程になります。
mso:どのようにしてコレクションを集めたのですか?
原坂:子供の頃から、リアルタイムで購入して集めました。僕は当時の子供のお小遣いで買える範囲の物だけを買っていました。
以前、ブリキおもちゃコレクターである北原照久さんと講演で一緒に仕事をした事があるのですが、控え室で北原さんから、「原坂さんが羨ましいです。あなたは自分の手垢が付いているコレクションを並べている。私は自分が大人になってから集めたコレクションが大半ですから」と言われました。この言葉を聞いた時は、とても嬉しかったですね。
mso:一番最初のコレクションを教えてください。
原坂:昭和41年夏、マルサンというプラモデル会社から「怪獣ソフトビニル人形」が発売されました。当時、爆発的に売れた大人気の商品です。その初版で売り出された13種類の中の1体である「パゴス」という怪獣人形を買ったのが一番最初です。オモチャ屋で350円で買いました。今では数万円の価値になっている事に驚いています。
映画のシーンを再現した展示もあり、怪獣好きにはたまらない空間
mso:怪獣コレクターとしてゴールはありますか?
原坂:ゴールは無いです。
あえて言うのなら、まだ所有しているコレクションの2割を自宅に保管してあり、展示スペースの広さの関係で怪獣ミュージアム内に展示が出来ていません。なので、いつか全てのコレクションを陳列して、一度に眺めたいと思っています。自分が集めたコレクションを並べて、好きな時に眺める。これがコレクターとしてのゴールですね。
コレクションを「仕まう」「出さない」「人に見せない」というコレクターは少し残念な気がします。
僕からそのようなコレクターの方へのお勧めは、全量の1%でいいので自分が持っているコレクションを展示するスペースを作ることです。そして、週代わりや月代わりでそのスペースの展示を入れ替える。そうすると100週で全てのコレクションを眺めることができます。このやり方がお勧めです。
mso:怪獣ミュージアムの展示方法として工夫している点はありますか?
原坂:人口密度を高くしない事です。フィギュアを売っているお店で、1つのショーケース内にフィギュア同士が触れ合うぐらいギュウギュウに詰められて並んでいるのを観た事があります。それでは人形の特徴、見栄えを奪っていると思います。展示数は減ってしまいますが、数cmずつ間隔を置いて展示するだけで、全く見栄えが違ってきますね。
キズあり、セロテープの跡があっても多少はOKです。このようにして使われてきたコレクションには当時の”空気”が伝わります。それが好きです
怪獣ミュージアムの外観。関西のテレビ番組の中で、館長は「となりの人間国宝」に、建物は「わざわざ遺産」に認定されています
mso:今、一番探しているコレクションは何ですか?
原坂:必死に探している物はないですが、欲しい物は一杯あります。昭和41年の怪獣ブームの時に売られていたプラモデルなんかは全部欲しいですね。
mso:コレクションを集める上で、ポリシーはありますか?
原坂:欲しくても高すぎるものには手を出さない。お金に物を言わせない。安ければ多少難ありでもOKです。コレクターの中には状態にとてもこだわる人がいますが、私はあまり気にしないですね。キズあり、セロテープの跡があっても多少はOKです。それらのコレクションから当時の”空気”が伝わります。それが好きです。なので新品同様でなくてもいいです。
mso:怪獣人形の魅力とは何ですか?
原坂:「旧友との出会い」かな。毎日、クラス会を開いているようなものです。一匹、一匹に当時の思い入れと愛着があります。心のコミュニケーションですね。なので、平成のウルトラマンの怪獣のような思い入れのない人形は要りません。
身近に動物のグッズを置いて癒されるのと同じで、好きな怪獣人形を置いて癒されているんだと思います
ぜひ、好きな怪獣を見つけて、身近に置いてみてください
mso:「怪獣ミュージアム」に行きたい人は、どのような手順が必要ですか?
原坂:私に事前に連絡をして頂き、まずはその情熱を確認しています。過去に「今から行っていいですか?」と、あいさつも何もなしで用件のみの突然の依頼もありました。常識やマナーのない人はアウトですね。
mso:今後の展開を教えてください
原坂:まだ未定ですが、さらに展示スペースを増やしたいです。現在の怪獣ミュージアムは15平米しかないので、広げたいですね。
mso:最後になりますが、怪獣コレクションに興味がある方へメッセージがあればお願いします。
原坂:最近、オフィスの自分の机の上に「怪獣のミニフィギュア」を置いている方が多いと聞きます。それは、怪獣が ”癒し”であるからだと思います。「怪獣」と言うと怖い印象ですが、象、キリンのような動物と一緒だと思います。身近にキャラクターのグッズを置くと癒されるのと同じで、好きな怪獣人形をひとつでも置いておくと癒されるんですよ。
なので、自分のすぐ側に怪獣を置いて欲しいです。怪獣好きと言うと男性のイメージがありますが、どんな女性でも好きな怪獣はいるはずです。ピグモンやカネゴンなんかは女性に大人気ですよね。
好きな怪獣をすぐ側に。きっと守護獣になってくれますよ。
ーおわりー
怪獣ミュージアムの館内。人形だけではなく、雑誌、ポスター、ソノシートなど怪獣に関連する様々なグッズを展示
大迫力のシーンが忠実に再現。怪獣の表情にも注目です!
原坂さんが大学生の頃にコロッセオのメンバーの一員として出版した雑誌。当時は、マニアの間でとても売れたそうです
映画やドラマのシーンを再現したジオラマ風の展示が多く、怪獣好きならワクワクします
ウルトラマンの有名なあのシーンも、このように再現!
もちろん「ゴジラ」だって、たくさん展示されています
玄関ポストには、怪獣の人形が!「ポストマンの癒しに」だそうです。
子供が自由に触れるソフトビニルの怪獣人形も用意。親子で楽しめるミュージアムですね
原坂さんが小学校時代に書いた怪獣漫画。怪獣の描き方は躍動感があり、小学生とは思えない完成度でした
小学生時代から集めているソノシート。中には数万円もする貴重な物もあります
怪獣ミュージアム
怪獣ミュージアムは子供コンサルタントとして知られている原坂一郎さんが設立した私設博物館。
怪獣、ウルトラマン、ゴジラなどのフィギュア、雑誌などのコレクションが合計5000点ほど展示されている。
フィギュアの展示は、映画のシーンをジオラマで再現したものもあり、特撮好きな怪獣、ウルトラマン、ゴジラなどのフィギュアが1000点。雑誌、ポラマイドなどを合わせると合計5000点ほどのコレクションを展示している。フィギュアの展示は、映画のシーンをジオラマで再現した物もあり、特撮好きな方が楽しめる展示内容になっている。 怪獣ミュージアムの訪問は、必ず事前予約が必要になる。
トイ・フィギュアを一層楽しむために。編集部おすすめの書籍
懐かしのウルトラシリーズとゴジラシリーズの希少怪獣ソフビを一挙614体掲載
円谷プロの全怪獣をすべて収録した大図鑑!
円谷プロ全怪獣図鑑
2013年4月に創立50周年を迎える円谷プロダクション。
「ウルトラマン」「ウルトラセブン」などのウルトラシリーズをはじめ、「ミラーマン」「快獣ブースカ」など数々の特撮作品を世に送り出してきました。
これらの作品に登場し、鮮烈な印象を与えた第2の主人公ともいえる存在が怪獣たちです。「バルタン星人」「エレキング」など、この50年間に生み出された怪獣は約2500体!
この大図鑑では、そのすべてを日本で初めて収録します。
「ウルトラシリーズ」はもちろん、今まであまり取り上げられることのなかった「ミラーマン」「ジャンボーグA」「アステカイザー」などの作品の怪獣・怪人も収録。さらに最新作の「ネオ・ウルトラQ」の怪獣も、どこよりも早く紹介しています。また怪獣の細かいバージョン違いや、宇宙人の円盤、人間に化けているときの姿など、ファンにはたまらない詳細な情報も掲載しています。
見ているだけで子どもの頃の興奮が甦る、大人のための大図鑑です。
終わりに
神戸市にある「怪獣ミュージアム」。
館長の原坂さんは子供教育の分野でとても有名な方で、よく講演をされるそうです。その影響なのか、怪獣の説明や思い出を語るのがとても上手で、聴いているとすぐに怪獣ファンになってしまいました。
ミュージアム内は、多くの人形や雑誌、ポスターが並べられています。館内の展示方法に工夫がされており(*詳細はインタビュー参照)、見る側としては当時の映画のシーンや思い出が甦ってくるので、タイムスリップをした感覚を味わえると思います。
そして印象的だったのが、小学生時代に買った集めたコレクションが残っている事です。コレクターの中には、大人になってから集め始める、買いなおす方が多いのですが、原坂さんはリアルタイムに当時の値段でコレクションを購入しています。なので、1個1個のコレクションに対して、思い出を語られている姿を見て羨ましかったです。
そんな原坂さんの「怪獣ミュージアム」に興味がある方は、連絡先にあるメールアドレスにその”想い”を書いて、送ってみてください!