「集める」こと。「集まる」こと。5000本のPEZを集めたコレクターが語る2つの楽しみ方

文・写真 / 井本貴明

「PEZの楽しみ方」 シリーズ 1 回目。

PEZ(ペッツ)。
そのお菓子の構造は非常に単純だ。
キャンディーを収納し、手で持つ部分である「ステム」。頭部分の「ヘッド」。その2つを合わせて「ディスペンサー」と呼ぶ。PEZの醍醐味は、何と言ってもディスペンサーの種類が豊富なことだろう。アニメのキャラクター、映画の俳優、乗り物など、数え切れないほどのディスペンサーが世の中に存在する。その数に比例するように、世界中にはたくさんのPEZコレクターが存在する。
そんなPEZを14歳から集めはじめ、今では5000本を所有するPEZコレクター井上さんに「PEZの世界」についていろいろと聞いてみた。

コレクション・ダイバー【Collection Diver】とは、広大なモノ世界(ワールド)の奥深くに潜っていき、独自の愛をもってモノを採集する人間(ヒト)を指す。この連載は、モノに魅せられたダイバーたちをピックアップし、彼ら独自の味わいそして楽しみ方を語ってもらう。

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「手に入れることが出来る物は、すべて手に入れる」。ジャイアン的な発想から集めた5000本のコレクション!

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まずは、PEZの歴史を簡単に紹介したい。
1927年にオーストリアで生まれたキャンディーで、名前の由来はドイツ語のPfefferminz(ペパーミント)である。Pfefferminzの頭文字である「P」、中央に位置する「E」、最後の「Z」を繋げてPEZと命名された(海外では「ペズ」と発音する)。
発売当初はタブレット型のキャンディーだったが、1949年頃からディスペンサーと呼ばれる現在の形が誕生した。余談だが、発売された当時は「禁煙グッズ」と売り出された為に、ディスペンサーがライターの形をしているのだ。
日本では1972年から森永製菓が販売を開始し、ディズニーキャラクターからガンダム、キョロちゃんなどの日本独自のキャラクターPEZを販売している。

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1990年代、日本ではアメリカン・コミックス(アメコミと呼ぶ)のキャラクター人気が高まり、それと同時にPEZブームが訪れた。当時中学生だったPEZコレクター井上さんは、偶然手にしたファッション雑誌でPEZと出会った。
「14歳の頃です。雑誌Smartの『こだわりマイルーム』というコーナーで、モデルの方の部屋が紹介されていて、その部屋の棚にPEZが並んでいました。PEZが並んでいる風景がカッコよくて、自分の部屋にも並べたいと思い、集め始めました」
中学生だった井上さんは、近所にあるアメリカ雑貨の輸入店で、アメコミのキャラクターを中心にお小遣いの範囲でPEZを買い始めた。その後、コレクター熱は社会人になって加速し、一時は給料の大半をPEZにつぎ込んでいたのである。
「買える範囲で、新しく発売されたPEZは全部買っていました。昔のPEZもオークションサイトなどを利用して購入しました。手に入れることが出来るPEZは、全て手に入れるという感じでした」

PEZコレクションを「集める」楽しさ。井上さんが自身のPEZコレクションを紹介!

5000本のPEZを集めた井上さんに、いろいろな角度からPEZを紹介してもらおう。

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井上さんお気に入りのPEZ part1

「スノーマンのPEZ」
コレクションを集め始めた頃に発売されたいたスノーマン(雪だるま)のPEZです。最近のPEZはヘッドが大きいのが特徴ですが、昔のPEZはヘッドが小さくて、全体的なバランスがちょうど良くて好きです。

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井上さんお気に入りのPEZ part2

「コンベンション限定のPEZ」
世界各地でPEZコレクターが集まる「コンベンション」が開催されています。そこでしか入手できないコンベンション限定のPEZが好きです。主催者が自らデザインして作るので、独自の色が出ます。また、手で持つ部分のステムに開催情報などのプリントが入っている点も気に入っています。

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コレクター間で希少価値が高いPEZ part1

「PEZ PALシリーズ」
PEZが現在のように頭にキャラクターを付けて販売した1950年前後に出現した、人間のPALシリーズ。ボーイ、ガール、花嫁、花婿、医者、エンジニア、ナース、消防士、警察などの種類が存在、どれも愛らしい表情から、コレクターの間で人気が高い。現在は、復刻版として花嫁、花婿、青い帽子のボーイなどがPEZ Visitor Center限定で発売されています。

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コレクター間で希少価値が高いPEZ part2

「Japan PEZ GatheringオリジナルのPEZ」
PEZコレクターが集まる「コンベンション」では、主催側が自らデザインしたオリジナルのPEZを配布することが多い。原則、そのコンベンションに参加した人のみが入手できるので、コレクター間では価値が高い。井上さんが主催する「Japan PEZ Gathering」では、毎回自らデザインをしたPEZを参加者に配布している。

余談ではあるが、井上さんのコレクションの中で、私が見つけた面白いPEZも紹介したい。

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何だか似ていない、、、PEZ

「オーランド・ブルーム?パイレーツ・オブ・カリビアンのPEZ」
映画「パイレーツ オブ カリビアン」で登場するウィル・ターナー役のオーランド・ブルームのPEZ。本物は二枚目俳優として有名だが、PEZの世界だとちょっと間抜けな表情ですね。

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「こんな物まで!?」と思わせるPEZ

「KISSのPEZ」
ロックバンド「KISS」のメンバーがPEZになっています。とても精巧に作られており、ちょっと怖いですね。夜中に暗い部屋で目が合ったら、ビビること間違いなし。

PEZコレクターが「集まる」楽しさ。子供から大人まで楽しめるコンベンションとは?

井上さんは、2008年から自身のPEZコレクションを紹介するブログ「GO PEZ JAPAN!」を開設した。当初は、自分が持っているPEZを自慢したい、自分が持っているPEZを記録したいという思いから始まったが、ブログを続けることで日本中のPEZコレクターと繋がることが出来た。
「ブログを始めてから、PEZの情報交換などを通して、徐々にPEZコレクターとやり取りをする機会が増えました。そして、2010年にオフ会のような形で実際に集まりました。10名ぐらいが集まって飲みに行ったのですが、その時間がとても楽しかった。みんなWebでのやり取りのみで初対面なのに、PEZの話だけで大盛り上がりでした。あのPEZが好き、このPEZが嫌いとか。PEZの話だけで、ずーっと酒を飲んでいましたね」
この集まりから2年後。2012年に「Japan PEZ Gathering」というコンベンションの第一回目を開催する。日本各地のPEZコレクターが参加して、PEZのコレクション交換、情報交換などが出来る集まりで、ほぼ1年に1回のペースで開催をしてきた。
「コンベンションを開催する楽しみは、新しいことにチャレンジ出来ることです。毎回コンセプトを変えて、参加者が楽しめるように工夫をしています。次回ぐらいに、PEZコレクター検定を開催してみたいですね。参加するPEZコレクターに向けて『どれぐらいPEZを愛しているんだ?』と問いかけてみたい(笑)」

今回の取材でお邪魔した取材したコンベンションは第6回目であり、東京都千代田区の「アーツ千代田3331」(*文末参考)の展示室で2日間に渡り開催された。
「今回のコンセプトは『PEZだけの空間を作る』です。何千本というPEZをひたすら並べたかった。その為に適切な展示空間を探すのに苦労をしました。また、1日目を『大ペッツ博覧会』という形で誰でも無料で観覧できるようしました。違う目的でアーツ千代田3331に来た人や、近所の人にもPEZの魅力を感じて欲しかったので」
2日目に開催された「6th Japan PEZ Gathering」では、PEZコレクター30名ほどが集まり、PEZの交換や販売会、ビンゴ大会などで大いに盛り上がった。印象的だったのが、小さい子供連れの家族で参加している人が多い。1990年代のPEZブームから20年が経ち、それぞれの生活環境が変化したが、こうやって家族連れで参加できるコレクターの集まりはとても好印象である。

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こだわりのモノを集める人生。PEZから始めるコレクターズライフはいかが?

「新しいPEZが発売され続ける限りは、買い続けます。なので、現時点ではPEZコレクターとしてゴールはありません。当面の目標でいうと、アメリカのPEZ Visitor Centerと、オーストリアのPEZ本社に行ってみたい」
PEZコレクターとしての今後について問いかけると、こんな答えが返ってきた。また、PEZが置かれている現状についても興味深い考えを持っている。
「僕が集め始めた1990年代は、PEZブームだったこともあり、フリマや雑貨店に行くと必ずPEZが置いてあった。しかし、今ではブームが落ち着き、スーパーのお菓子コーナーぐらいでしか見かけない。これからPEZを集める始める人は大変だと思います。なので、ブログやコンベンションを通して、PEZの情報を提供し続けて行きたいですね」

PEZは、コレクタブルアイテムとして集めやすい物だと思う。価格は安い物から手に入り、保管場所も確保しやすい(数が増えると話は別!)。そして、何よりもディスペンサーの種類が多く、自分が好きなキャラクター(もしくは、子供の頃好きだったキャラクター)のPEZを見つけることが出来る。また、「アナと雪の女王」「スターウォーズ」「マジレンジャー」などのキャラクターのPEZも販売されているので、家族全員で楽しむことも出来る。

ミューゼオ・スクエアでは、物を集める楽しさを紹介している。こだわりの物があると人生が楽しくなるのは、私自身も体験している。もしも、これから何かを集めたいと思う読者の方がいたら、PEZはどうだろうか。

好きなPEZを一本手に入れる。
入手したPEZを飾る、眺める。
きっと、不思議な満足感を味わうはずだ。
そして、こう思うかもしれない。

”こだわりの物を集める人生は、やっぱり楽しい”

ーおわりー

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6th Japan PEZ Gatheringの様子。
会場では、ビンゴ大会、各自が持ち寄ったPEZの交換会などが自由に実施され、平和な時間が流れていました。子供から大人まで幅広い年代が参加しているのも特徴的。

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3331 Arts Chiyoda

取材に訪れた「6th Japan PEZ Gathering」は、東京都千代田区にある「3331 Arts Chiyoda」で開催されました。
3331 Arts Chiyodaは旧練成中学校を利用して誕生したアートセンターであり、地下1階、地上3階の館内には、アートギャラリー、オフィス、カフェなどが入居し、展覧会だけでなくワークショップや講演会といった文化的活動の拠点として利用されている。

トイ・フィギュアを一層楽しむために。編集部おすすめの書籍

WarmanのPEZガイド

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Warman's PEZ Field Guide: Values & Identification (Warman's Field Guide) (English Edition)

蚤の市やガレージセール、ショーなどに持ち運べ、その場で簡単に鑑定できる写真を何百枚も掲載したガイドがついに登場。

世界初で唯一のPEZ公式ヒストリアンであるショーン・ピーターソン氏と一緒に、PEZの旅に出かけてみませんか?

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PEZ: From Austrian Invention to American Icon (American Palate) (English Edition)

PEZはアメリカの定番商品であり、子供の頃の思い出の品でもあります。PEZの起源はオーストリアにあり、1927年にタバコに代わるものとしてペパーミントを圧縮したタブレットを販売したのが始まり。1952年にアメリカに到着すると、PEZはすぐに新しい方向性を示し、フルーツフレーバーや立体的なキャラクターの頭部をディスペンサーの上に載せました。現在、コネチカット州オレンジで生産されているPEZブランドは、世界80カ国以上で販売されており、年間6,500万個以上が販売され、世界中のコレクターやファンを魅了しています。世界初で唯一のPEZ公式ヒストリアンであるショーン・ピーターソン氏と一緒に、世界で最も愛されているインタラクティブ・キャンディの内側を見るための甘い旅に出かけてみませんか?

公開日:2015年10月9日

更新日:2021年12月6日

Contributor Profile

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井本 貴明

いろいろなWebサービス作っています。 浦和レッズ、ヨーロッパサッカー中心の生活。 何か面白い企画があったら、ぜひ仲間に入れてください! 好きな映画は、「LOST IN TRANSLATION」。

終わりに

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今回の取材は、PEZコレクターが集まる「Japan PEZ Gathering!」のイベントにお邪魔しました。
30名ほど集まった会場は静かな雰囲気で始まったのですが、各自が持ってきたPEZの交換会が始まると、ワイワイ、ガヤガヤと楽しい空間になりました。記事内にも書きましたが、年齢層の幅が広く、平和的な会なのは、きっと主催している井上さんの”ふんわり”した雰囲気が反映されているのだと思います。ぜひ、PEZに興味がある方は、次回のコンベンションに参加してみてください!

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