「実はスポーツ観戦が好きなんです」というミューゼオ・スクエアでお馴染みの服飾ジャーナリスト飯野高広さんは、スポーツウェアを見るのも好き(というか、観戦するのもユニフォームを見るのが目的だったりする!)。そんな飯野さん、小学生の時に読んだスポーツ誌の裏表紙に掲載されていたサッカーパンツの広告から、『ギャバジン』という言葉を覚えていたそう。
「キャッチフレーズは、『君はギャバジンをとるか、ポプリンをとるか』だったかな。当時はどんな意味かわからなかったけど、高校生の時に父から受け継いたトレンチコートの生地を見てハッとしました。サッカーパンツの生地と似ているなーって。そこで繋がったんですよね。あの言葉(ギャバジンやポプリン)は、生地のことだったのか!と」
今回は、そんな多方面で採用される「ギャバジン」の特徴や成り立ち、お手入れ方法などを解説していきます!
ギャバジンってどんな生地?特徴と語源
ギャバジンは、主にコットンまたはウールでできた、目の詰まった緻密で丈夫な綾織物です。経糸を緯糸の2倍の打ち込み本数にして「2/2綾織り」にし、クリア加工を施して仕上げます。60〜65度くらいまでの角度の急な綾線が見てとれ、表面の綾線が裏面よりはっきり浮き出ているのが特徴です。
コットンギャバジンは経糸、緯糸ともに双糸を用いることが多く、ウールギャバジンは経糸に梳毛の双糸、緯糸にはそれと同じ太さの糸か、少し太めの糸を用います。また、一般的にウールギャバジンは秋冬向けのアイテムが多く、コットンギャバジンは糸の太さ次第で、オールシーズン対応できる汎用性があります。
ギャバジンの名は、中世スペインで巡礼者が着ていた「ガバルディナ」が由来だと言われています。
バーバリーが生みの親!ギャバジンの誕生ヒストリー
現在、織物の一般名称として知られているギャバジンですが、かつてはバーバリー社の商標でした。1888年、創始者のトーマス・バーバリーが、通気性に優れ、丈夫で悪天候にも対応できるレインコート素材として考案。特許を取得したコットンの綾織物で、1902年「ギャバジン」として商標登録されました。
トーマス・バーバリーは、羊飼いや農民が汚れを防ぐために羽織っていた上着が汚れにくく洗いやすい、さらには肌触りがいいことに着目。ギャバジンはその上着をヒントに、科学的な視点を取り入れて作られました。
綿糸に防水加工を施して綾織りにし、その後もう一度防水加工を行っているため、防水性が非常に高い生地です。また湿度が上がることでより目が詰まるという特性もあり、水分が内側に染み込まないようになっています。気温の差に合わせ繊維が収縮するので、夏は涼しく冬は暖かく年間を通して快適に過ごすことができます。
日本では防水加工・樹脂加工を施したコットンギャバジンを「バーバリー」と呼び、その他のギャバジンと使い分けているようです。一般的なコットンギャバジンは30〜40番手の双糸で織られていますが、「バーバリー」は50番手以上。一般のものより細い糸で緻密に織ったキメの細かい生地となっています。
ギャバジンとチノクロスの違いとは?
ギャバジンの主な特徴と成り立ちがわかった上で、もう一つ知っておきたいことがあります。それはギャバジンとチノクロスの違い。前項と重複する部分もありますが、この違いを知っておくとさらにギャバジンのことがわかるはず!
ギャバジンとチノクロスは、共に「綾織」「経糸を緯糸の約2倍打ち込む」と非常に似ている生地で、混同しがちです。しかし、以下の3点で決定的に異なります。
①綾目の角度
ギャバジンは60~65度と鋭角的です。一方、チノクロスは多くは45~50度前後と、ギャバジンのそれよりやや角度が緩め。
②表面と裏面との見え方の差
ギャバジンは「2/2綾織」。つまり経糸が緯糸に「2本上:2本下」と交差するので、経糸と緯糸の「(綾目ではなく)見える割合」は生地の表裏で同一です。対して、チノクロスは「3/1綾織」。「3本上:1本下」と交差するので、生地の表面には経糸が三対一の割合で多く表われ、逆に緯糸はその割合で裏面に多く表れます。
③綾目の向き
ギャバジンは通常、経糸も緯糸もやや細めの双糸で織り、強度や捻じれ、それに風合い等を考慮して通常は正綾(右綾)で織るので、生地の表面から見て綾目が「ノ」の字状に現れます。チノクロスの場合は、(通常は)経糸も緯糸もやや太めの単糸で織り、それらを考慮し(通常は)逆綾(左綾)で織るので、生地の表面から見て綾目が「逆ノ」の字状に現れます。
※ただし同じチノクロスでも経糸・緯糸共に双糸で織って、綾目が正綾に現れるものもあります。これを日本では「ウェストポイント」、海外では「ユニフォームツイル」と呼称を分けていますが、チノクロスと同様の用い方をされることが多いです。
大まかに言うと、
・綾目が細かくて鋭角的で、正綾なら「ギャバジン」
・綾目が太くて45度程度で、逆綾なら「チノクロス」
・綾目が中庸で45度程度で、正綾なら「ウェストポイント」
ということです。
「ギャバジン」アイテムのお手入れ方法とは?
「コットンギャバジンのパンツを裾上げしてもらい、洗濯したら丈が足らなくなってしまったことが……。当時は、綿が縮むなんて思いもしなかった!」と飯野さん。長く愛用していくには日々のメンテナンスのちょっとした気遣いも大切です。
まず着用後は、ウール系のギャバジンの場合は馬毛ブラシなどを使ってブラッシングしてください。耐久性に優れた丈夫な生地なので、多少硬めのブラシを使っても生地を傷めることはありません。ただしコットン系のギャバジンの場合は、下手にブラッシングすると必要以上に毛羽立ち、擦れや破れの原因になりかねないため、ブラッシングは避けるか軽く留める、もしくは軽く叩くか固く絞ったおしぼり等で軽く水拭きする程度が無難です。
なお、ウール系であれコットン系であれ、クリーニング店に持って行く場合は、ドライとウェット双方を行う「ダブル洗い」をすることをおすすめします。
また、アイロンをかける際はテカリを防ぐため、必ず当て布を用いましょう。
バーバリーにアクアスキュータム、ギャバジンを使用したアイテム一覧
最後に、バーバリーのトレンチコートやアクアスキュータムのステンカラーコートなど、ギャバジンを使用したアイテムをご紹介します!
コットンギャバジンのトレンチコート/BURBERRY(バーバリー)
コットンギャバジンのトレンチコート/Aquascutum(アクアスキュータム)
コットンギャバジンのタイロッケンコート
コットンギャバジンのステンカラーコート/BURBERRY(バーバリー)
コットンギャバジンのステンカラーコート/Aquascutum(アクアスキュータム)
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服飾ジャーナリスト・飯野高広氏の著書、第二弾。飯野氏が6年もの歳月をかけて完成させたという本作は、スーツスタイルをはじめとしたフォーマルな装いについて、基本編から応用編に至るまで飯野氏の膨大な知識がギュギュギュっと凝縮された読み応えのある一冊。まずは自分の体(骨格)を知るところに始まり、スーツを更生するパーツ名称、素材、出来上がるまでの製法、スーツの歴史やお手入れの方法まで。文化的な内容から実用的な内容まで幅広く網羅しながらも、どのページも飯野氏による深い知識と見解が感じられる濃度の濃い仕上がり。紳士の装いを極めたいならば是非持っておきたい一冊だ。