コート解体新書:第一回「ステンカラーコート」当たり前にも色々ある

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文/飯野高広
写真/佐々木孝憲

元来私は寒がりなこともあって、夏よりも冬の方が正直苦手。でも、装いに関しては冬場の方が断然意欲が出てくる。

暑い時季には考えたくもない重ね着が愉しめるからで、中でも一番上に羽織ることになるコートについては、「今日は何を着ようか?」と一人でワクワクすることも多い(笑)。

ただし、地球温暖化による暖冬傾向や保温性の高い下着の進化もあってか、世間では以前に比べてコートへの関心が薄らいでいるような気がしてならない。

と同時に「???」と首をかしげたくなるような、トレンドのみを追っているような浅くて説得力に欠ける解説や情報も多く目にするようになっている。

今日一般的に身に着けている衣服の中では、コートほどその起源が形状や用いる生地にハッキリと残っているものはない。

なのにそれを無視してどうする…… と言いたくもなるのだが、現行の既製品のそれを見るにつけ、これは着る側ではなく作る側、つまりコートのブランドのデザイナーや企画者の知識がかつてほどはなくなっている点のほうにこそ問題の根幹があるのかな? とも感じる。

欧米諸国に比べコートが活躍できる季節が短いわが国では、特にメンズのものは1シーズンで処分されるものではなく、短くても10年長ければ次世代に引き継げるだけの使用に耐えうる堅牢さと普遍性の高さが求められるべきだ。

作る側がもはやその文法を理解できなくなっているとしたら、使う側が理論武装するしかそのようなコートを得られるチャンスは皆無になってしまうだろう。という事で、今回から数回に渡り代表的なコートについて
・起源
・大まかな形状とシルエット
・特徴的なディテール
・生地

などに焦点をあて解説することにしたい。まずは手始めに、日本では気候がら最もポピュラーなコットン系のコートについてお話ししよう!

MuuseoSquareイメージ

ステンカラーコートの「当たり前」にも色々とある

コットンのコート、と聞いてある程度以上の年齢の方ならまず思い浮かべるのは、いわゆる「ステンカラー」の類ではないだろうか。

一時期まではメンズのファッション誌に「最初に買うべきコート」として散々採り上げられていたし、昭和の頃まではサラリーマンや学生の通勤通学用に男性なら誰もが一枚持っていた記憶もはっきりとある、そんな当たり前・必需品的な存在だったから。

ただ、その「当たり前」もいざ細かくチェックしてゆくと、様々な工夫やディテールのブランド毎の微妙な違いに結構驚かされる。今回は近年あまり語られなくなってしまった「ステンカラー」のそれらについて、じっくり考察してみたい。

ステンカラーコート(Raincoat etc.)とは?

Aquascutum(アクアスキュータム)

Aquascutum(アクアスキュータム

ステンカラーは典型的な和製英語で、イギリスでは「スリップオン」「ウォーキング」「マック」或いは単に「レインコート」などと呼ばれる、膝上~膝下丈でシングルブレステッドのコート。

19世紀末頃にはイギリスで今日の原型が既に登場したと考えられ、以来街中で気軽に羽織るコートとして認知されている。

襟は台襟が首周りを後部から3/4程度覆うが喉元までには到達しない「バルマカーンカラー(★)」のものが主流だが、中には台襟が首を全周し喉元も覆う「スタンドフォールカラー」のものも存在し、後者が和製英語のもとになったとの説も。

バルマカーンカラーの中にはポロシャツの襟のように台襟の全く付かない一枚構造のものもあるが、製造時に首部の「クセ取り」が難しいため、実質的には生地がウール系のものにしか見られない。

また胸ボタンが直には見えないフライフロントと見えるボタンスルーフロント(通称:ブチ抜き)、肩もラグランスリーブと一般的なジャケットと同様のセットインスリーブの双方があるなど、バリエーションは豊富だ。

中には前身頃はセットイン・後身頃はラグランの併せ技=「スプリットラグランスリーブ」を採用するものもある。

生地はギャバジンやポプリンなどのコットン系やツイードやメルトンなどのウール系、それにカシミアやシルクなど用途に応じて様々なものが使われる。

良質なウールやカシミア無地のダークカラーであれば礼装にも活用可能。また表面をコットン系・裏面をウールツイードとしたリバーシブルコートもこの応用形であり、一枚あると非常に重宝する。

バーバリーとアクアスキュータムのステンカラーを比較する

ステンカラーコートのかつての2トップ、バーバリーとアクアスキュータムの違いを、それぞれのヴィンテージの大定番品でチェックしてみると、シンプルな構造のコートなのに様々な点で対照的な設計であるのに驚かされる。

BURBERRY(バーバリー)

BURBERRY(バーバリー)

Aquascutum(アクアスキュータム)

Aquascutum(アクアスキュータム)

全体のシルエットはバーバリーがボクシーなものであるのに対し、アクアスキュータムは綺麗なAラインを描く。どちらもフィット感は決してタイト過ぎはせず適度なゆとりがあるのは、雨天時の際の通気性を配慮してのこと。

バーバリーのものには襟元や腰ポケット、それにセンターヴェントにボタンが付くが、アクアスキュータムのものには全く付かない。

BURBERRY(バーバリー)

BURBERRY(バーバリー)

Aquascutum(アクアスキュータム)

Aquascutum(アクアスキュータム)

BURBERRY(バーバリー)

BURBERRY(バーバリー)

Aquascutum(アクアスキュータム)

Aquascutum(アクアスキュータム)

袖裾のカフストラップの形状もバーバリーの五角形に対してアクアスキュータムは台形で、前者には追加のアジャストボタンが付くが後者には付かない。

また腰ポケットはどちらも裏地側に貫通はするものの、バーバリーは大きな内ポケット(通称マガジンポケット)と共有である一方、アクアスキュータムのものはそれとは別々の代わりに起毛が軽く施されている。

BURBERRY(バーバリー)

BURBERRY(バーバリー)

Aquascutum(アクアスキュータム)

Aquascutum(アクアスキュータム)

BURBERRY(バーバリー)

BURBERRY(バーバリー)

Aquascutum(アクアスキュータム)

Aquascutum(アクアスキュータム)

総じてバーバリーのものは素朴でややカントリーな雰囲気で、アクアスキュータムのものは都会的で洗練された容姿と言え、両者の違いは単に裏地のチェック模様だけではない。

一着では絶対に済まなくなる、汎用性の高さ

いわゆるコットン系の「ステンカラー」の最大の特徴は、着る場と合わせる服をあまり選ばないこと。

冠婚葬祭の場だと流石に役不足の感は拭えないが、ビジネスシーンであればダークスーツに合わせても何ら問題はないし、もちろんカジュアルな服にだって違和感なく合わせられる。

更に言うと、日本では防寒具的に扱われることが多いものの、実は季節をそこまで問わずに着用できてしまうのも優れた点だろう。この生地のものは、もともとはレインコート的な役割を期待されて登場したものだからだ。

膝上丈のものを軽快に羽織るもよし、膝下丈のものをフワッと身に着けるもまたよし。一着は、いや生地の材質や厚み、それにシルエットや色の違いで複数用意しておく価値が確かにある「当たり前」なのである。

ーおわりー

クラシッククロージングを一層楽しむために。編集部おすすめの書籍

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File

コートの本

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公開日:2018年10月17日

更新日:2022年5月2日

Contributor Profile

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飯野 高広

ファッションジャーナリスト。大手鉄鋼メーカーで11年勤務した後、2002年に独立。紳士ファッション全般に詳しいが、靴への深い造詣と情熱が2015年民放テレビの番組でフィーチャーされ注目される。趣味は他に万年筆などの筆記具の書き味やデザインを比較分類すること。

終わりに

飯野 高広_image

とにかく多芸で色別・生地別で何枚でも欲しくなってしまうのが、いわゆるステンカラーコートの魅力というか魔力。特にコットンの薄い色のものはついつい重宝して使う頻度が上がりがちなので、汚れがこびりつかないよう着ない季節に都度クリーニングに出しておくのがお勧めだ。

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