「ツイード」の歴史と種類。奥深い服地の世界へ

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文/ミューゼオ・スクエア編集部

スーツ・ジャケットをオーダーする前に知っておきたいあれこれ。連載 服を仕立てる前に知りたい「生地」のことでは、服地一つ一つの起源や特徴、種類などを詳しくお届けします。

今回は、服地「ツイード」について。

ツイードとはどんな生地か?と問われれば、「秋冬の代表的な生地」「ジャケットやコートなどに使われている」「ハリスツイードのマーク」など、誰もが何かしらを思い浮かべることができると思います。そんな身近な存在の生地ながら、原料となる羊毛や産地、歴史などを調べていくと奥深い世界があるんです。

そもそもツイードってどんな生地?着るほど馴染むツイードの特徴

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ツイードは主にウール(羊毛)を用いたやや分厚い生地で、硬くザラッとした触り心地が特徴です。スコットランドの厳しい環境下に生息する羊たちの毛で作られているため、防風・防寒性が高く暖かい。

最も注目すべきは、耐久性に優れていることです。ヨーロッパでは、親子三代でツイードのジャケットを受け継いでいく家庭もあると言われるくらい、丈夫で長持ち。ガッチリしたツイードジャケットを着込み、自分の体にフィットさせていくのも楽しみの一つです。

また、経糸緯糸ともに紡毛の太い単糸で、綾織りまたは平織りされており、生地の表面に織り目がしっかりと見えるのもツイードの特徴です。

ツイードのルーツと語源。歴史から知る

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今日「ツイード」の名で親しまれている紡毛織物(ぼうもうおりもの)は、18世紀・英国スコットランドで誕生した「スコッチツイード」の総称でした。もともとはスコットランド地方において、自家で紡いだ糸で製織されたホームスパンのことだけを「ツイード」と呼んでいたのです。時代とともに量産されるようになり、今では手織りだけでなく機械で織られたものでも「ツイード」と称されています。

「ツイード」の語源は、2つの説があると言われています。1つ目は、スコットランド南東部のスコティッシュ・ボーダーズを流れる「ツイード川」流域で生産されていたことから、その川の名前をとってつけられたという説。2つ目は、19世紀半ば、ロンドンの商社で委託販売をする際、伝票に「Till:ツイル(綾織り)」と書くところを「Tweed:ツイード」と誤ったスペルで書いたことから「ツイード」と呼ばれるようになったという説があります。

産地から知るツイードの種類とそれぞれの特色

ツイードの種類とその特徴は、産地で分類することができます。ご存知「ハリスツイード」も、スコットランド西方のハリス島という産地名がつけられたもの。食材やワインの産地にこだわるように、ツイードも産地から生地の特徴を知っていく面白さがあります。

ツイード界の絶対王者!「ハリスツイード」

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「ハリスツイード」は、スコットランド西方のハリス島を中心とするアウターヘブリディーズ諸島産です。特徴は、ケンプ(死毛)と言われる粗い毛が入っていること。白髪のように見えるケンプが混じっていることで、素朴でラフな雰囲気が漂います。後述する「チェヴィオットツイード」では、ケンプの混入が禁止されているのですが、それとは対照的な生地です。

また、トレードマークのオーブ&クロスのラベルも、「ハリスツイード」の特徴の一つ。このラベルは「ハリスツイード協会」の品質認定の証で、これを用いるにはカーディング(繊維を一方向に揃える)工程のあと、すべて手づくりであることが条件となっています。さらに、アウターヘブリディーズ諸島の住民によって手織りされ、島内で整理加工をする必要があります。厳しい品質基準をクリアした「ハリスツイード」は、世界で最も品質がいいと言われているキングオブツイードなのです。

「ハリスツイード協会」ラベルポリシー

オーブマークのラベルを用いるには、ハリスツイード生地が商品外部表面積の50%以上を占めなければなりません。日本では、そのガイドラインを守らず、商品の一部だけに生地を使い、ラベルを貼り付けただけの安価なものが出回ってしまいました。

この事態を食い止めるため、2015年、ハリスツイード協会はこの「50%ルール」の徹底を各業者に通達。2016年には、日本語のガイドラインを作成するなど対策を講じてきましたが、いまだに基準を満たしていない製品が流通しています。

※ハリスツイードの使用割合が50% に満たない製品であっても、 ハリスツイード生地が含まれている、あるいはハリスツイード生地を使用している製品として紹介することはできます。
例:「ハリスツイード生地が含まれるジャケット」「ハリスツイード生地の装飾を特徴としたバッグ」

出典元:ハリスツイード協会

ボツボツ感が渋さを増す「ドニゴールツイード」

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「ドニゴールツイード(ドネガルツイードとも言われる)」は、アイルランド北西部のドニゴール州で産出されるアイリッシュツイードの代表的な存在。この地方で織られるツイードは、緯糸にカラー・ネップ(節)を使うため、表面に赤、青、黄色などのカラフルな斑点が散りばめられているのが特徴です。膨らみのあるつぶにより、ゴワゴワした独特な素材感。スーツとして着こなすには少しコツが入りそうですが、視野を広げてカジュアルに落とし込んでみるとグッと男前に着られるはず。

この柔らかさはかなり希少!「シェットランドツイード」

「シェットランドツイード」は、スコットランド北端にあるシェットランド島産。スポンジのように、ふんわり柔らかい肌触りが特徴です。この柔らかな羊毛は、織物よりもセーターとして使用されることが多く、ツイード織物としての「シェットランド」は稀有な存在。

また、ノルウェー山岳種の過酷な環境に暮らす羊の毛を使うことで、軽量かつ保温性に優れています。染色することなく羊毛の自然色をそのまま使用しているのも魅力で、ざっくりとしたナチュラルな風合いを楽しめます。

パキッとした色柄を楽しむなら「チェヴィオットツイード」

「チェヴィオットツイード」とは、イングランドとスコットランドの境、チェヴィオット・ヒル付近で産する「チェヴィオット・シープ・ウール」を原料とした生地。丘陵地帯に生息する羊はたくましく活発な性格で、その毛質は強く、生地表面にハリと光沢があるのが特徴です。他のツイードと比べると色彩がはっきりしており大胆な柄が多いので、色柄にこだわるなら「チェヴィオットツイード」がおすすめです。

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「スコティッシュツイード」について

シェットランド、チェヴィオットの2つは、いずれもスコットランド産で「スコティッシュツイード」と呼ばれています。
スコットランド製ツイードを使った有名な服地マーチャントに、「ポーター&ハーディング」があります。1947年、創業当時から同じ製法で織られている伝統的な生地で、特徴はとにかく頑丈であること。長く愛せるこのタフさが世界中で評価されています。

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ツイードは、厳しい自然条件で懸命に生きている羊たちからの贈りもの。一見、同じように見えて、産地や羊毛の違いでそれぞれの良さが見えてきます。

「このツイードは、どこの羊から贈られてきたのか?」そんなことを考えながらスーツ・ジャケットをオーダーするのも面白いかもしれません。

ーおわりー

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公開日:2019年9月3日

更新日:2022年5月2日

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ミューゼオ・スクエア編集部

モノが大好きなミューゼオ・スクエア編集部。革靴を300足所有する編集長を筆頭に、それぞれがモノへのこだわりを強く持っています。趣味の扉を開ける足がかりとなる初級者向けの記事から、「誰が読むの?」というようなマニアックな記事まで。好奇心をもとに、モノが持つ魅力を余すところなく伝えられるような記事を作成していきます。

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