春夏ジャケットの選択肢に「アイリッシュリネン」という贅沢を。特徴と種類、お手入れ方法を解説!

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取材・文/うえだ あやか
写真/新澤遥

スーツ・ジャケットをオーダーする前に知っておきたいあれこれ。連載 服を仕立てる前に知りたい「生地」のことでは、服地一つ一つの起源や特徴、お手入れ方法などを詳しくお届けします。

暑くなってくると気になる服地「リネン」。自然な風合いで、衣類だけでなく生活用品の中でも使われる親しみやすい生地の一つです。そんな身近な存在のリネンですが、産地によって様々な種類があり、その中でも最上級に君臨するアイリッシュリネンは「今でもかなりの高級品」なんだそう!

「最初は諸先輩と同じく映画から憧れました。使っていて気づいたのは夏でも熱を持たないこと。さらに使い続けていくと良い感じのシワ感と色落ち感。まさに良い意味での経年変化と言う感じ。通常のウールやコットン製品はあまり変化がなくある時を過ぎるとがくんと劣化しますが、リネンはその変化していく過程を楽しめるというか」とミューゼオ・スクエア編集長。
『炎のランナー』をはじめ、戦後さまざまな海外映画では、カンカン帽に開襟シャツ、くたっとした生成りのリネンジャケット姿を見ることができます。

高級生地と言われるアイリッシュリネンですが、実はシワになりやすい・色落ちしやすい・形崩れしやすいといった欠点も。そのため日々のお手入れが欠かせない、ちょっぴり世話のかかる贅沢品でもあるんです。

今回は、そんな面倒だけどなぜか惹かれるアイリッシュリネンを含む「リネン」について調べてみました。

リネンとは?まずは歴史と特徴をチェック!

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「リネン」とは、アマ科の一年草「亜麻(あま)」を原料とした糸や生地の総称です。繊維の状態や植物そのもののことを「フラックス」といい、冷寒地を中心に栽培されています。主な生産地はフランス北部、ベルギー、ロシア、東欧、中国など。またフランス語では「リンネル」とも呼ばれています。
その歴史は深く、古代エジプトでは神事に使われていたことなどから人類最古の天然繊維と言われており、日本でも綿が登場する以前から一般的な衣服に使用されている身近な繊維です。

ちなみに「リネン=麻」と考えられることが多いのですが、厳密にはリネンは麻の一種「亜麻」のこと。麻の種類は、リネンをはじめジュートやヘンプ、ラミーなど世界に20種類以上存在すると言われています。特に衣服に使用されることが多いのが前述の「亜麻(=リネン)」と「苧麻(ちよま=ラミー)」。光沢感があって柔らかく肌触りがいいこともあり、衣服の原料として適しています。
「苧麻」はラミーとも呼ばれ、リネンに比べて繊維が太く長いため毛羽立ちが多いのが特徴です。

※ラミーは、吸汗性、発散性が高いためメンズの夏物シャツや高級な下着の素材としても人気。天然繊維の中でも強度に優れているため洗濯にも強い。

リネンの魅力とおすすめの用途

アイリッシュリネン100%。アイルランドのミル「<a href="http://www.wmclark.co.uk/" target="_blank">William Clark</a>(ウィリアム クラーク)」製のアイリッシュリネンによるオーダー品。

アイリッシュリネン100%。アイルランドのミル「William Clark(ウィリアム クラーク)」製のアイリッシュリネンによるオーダー品。

アイリッシュリネン100%。イタリアのマーチャント「Caccioppoi(カチョッポリ)」のアイリッシュリネンコレクションによるオーダー品。

アイリッシュリネン100%。イタリアのマーチャント「Caccioppoi(カチョッポリ)」のアイリッシュリネンコレクションによるオーダー品。

リネンの魅力は、ズバリ通気性の良さと吸水・発散性に優れていること。毛羽が少なく空気を含まないので、しっかりとした肉厚生地でも熱がこもらず快適に過ごせます。糸から染める先染めや生地を織ってから染める後染め、型を使って模様をつけるなど、様々な染色方法がありカラーバリエーションが豊富に楽しめるので、春夏のジャケットやシャツにおすすめです。

またリネンには丈夫で汚れが落ちやすいという特性もあり、衣服としてだけではなく、ベッドシーツやテーブルクロス、タオルなど生活用品としても活躍しています。特にヨーロッパでは12世紀に中部で流通しはじめ「ホームリネン」や「テーブルリネン」、「キッチンリネン」など生活の中でも身近な素材として親しまれてきました。女の子が生まれると嫁入り道具にするため少しずつリネン製品を貯めておくなど、「リネン文化」が発達しているヨーロッパでは現在でも大切に使われています。
天然繊維の中でも特に丈夫で使い込むほどに風合いが変わるため長く愛用できるのも嬉しいポイント。

生産地から知るリネン生地の種類!

同じリネンの中でも生産地や混紡した素材によって種類が異なります。

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<アイリッシュリネン>

アイルランドで織られている上質な生地を「アイリッシュリネン」といい、熱がこもりにくく夏用の服地に重宝されています。滑らかな肌触りで光沢感があり、リネンの中でも最高品質と言われています。強いコシとハリが感じられるものが多く、立体的なスーツ・ジャケットに仕上がります。ヘビーウェイトでシンプルな生地が多く、美しい経年変化を楽しめるのも魅力。
また、衣服としてだけではなく、高級ホテルのベッドシーツやタオルとしても使われています。

<イタリアンリネン>

イタリアで紡績されたリネンを「イタリアンリネン」といいます。アイリッシュリネンと同様に高級生地とされ、テーラーでも多く扱われています。アイリッシュリネンのパリッとした重厚感と比べ、ソフトなものが多いこと、カラーや風合いのバリエーションが豊富なことも特徴です。生地が柔らかく軽いためはじめから着やすいという魅力もありますが、それが故にシワが入りやすく痛みが早いものも。

<フレンチリネン>

フランス北部で栽培された亜麻を使ったものを「フレンチリネン」と呼びます。北部は涼しく豊富な水に恵まれた環境で、上質な亜麻が育つのに適しています。フレンチリネンは、しなやかで柔らかい肌触りが特徴的。繊細で高品質のリネン素材です。

また、リネンは元々ストレッチ性が低いのですが、ポリウレタンなどを混紡し伸縮性をもたせた「ストレッチリネン」もあります。

縮みやすく色落ちしやすいリネンは、お手入れが大事!

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吸水速乾性に優れていたり夏場でも快適に過ごせるリネンですが、デメリットも知っておきましょう。丈夫でお手入れしやすい反面、シワができやすかったり色落ちしやすかったりと洗濯には注意が必要です。

家庭で洗濯する場合は、まず洗濯表示を確認しましょう。家庭で洗えるものであれば、下の注意点に気をつけながらお手入れしてください。

  • 色落ちしやすいため他の衣類と一緒に洗うのを避けましょう。
  • 畳んでネットに入れれば多少のシワは防げますが、気になる場合は手洗いがおすすめ。
  • 水に濡れると生地が縮みやすいため洗濯の際は、温度が高い水は避けぬるま湯を使うようにしましょう。
  • シワになりやすいため脱水のし過ぎには注意。干す際はしっかりと手で伸ばしながら風通しのいい日陰で干しましょう。
  • 色ムラの原因になるため、直射日光に当たらない様に日陰か部屋干しがおすすめです。
  • アイロンをかける場合は、完全に乾ききるとシワが取れないため半乾きの状態でかけるのがポイント。

欠点はあるけどなぜか惹かれる

長く使えば使うほど風合いが増し馴染んでくるリネン。

万能な生地ではないが故に日々のメンテナンスが欠かせないし、コスパがいいとも言えない……そんな厄介な生地だけど、自分のものに成長してくるといったイキな使い方を楽しんでみるのもいいかもしれません。

ーおわりー

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公開日:2020年4月30日

更新日:2022年5月2日

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うえだ あやか

販売員、企画&デザイン職を経てフリーライターに。 コスメが好きで日本化粧品検定2級を取得。 食べること、旅行、美容に貪欲。 周りの影響で地味に韓国に詳しい。

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